文字サイズ変更
  • フォントサイズ大
  • フォントサイズ中
  • フォントサイズ小
生命保険文化センタートップページ>学校教育活動>教育の現場から>教育の現場からINDEX>web.01
自立と豊かな将来を願って
web.01
(2008.4)
東京都立五日市高等学校 家庭科 服部 綾子 先生

1.はじめに

家庭科の授業は、なによりも生徒の自立に役立つ存在でありたいと思う。そのために、実生活に最低限必要な知識や技術を教え、生活に関連したニュース等に興味を持たせ、ともすれば「学校の勉強なんて将来、なんの役にも立たないもん・・・」と言い出しかねない生徒たちに、「学んで良かった」と思わせようと、工夫しなくてはならない。

2.授業の概要

本校の家庭科は「家庭総合」4単位である。2単位を1〜2学年で履修しており、1週間に50分×2時間連続の授業を1回行っている。
家庭科の分野を4つに分け、それぞれの分野を半年かけて学んでいる。
  • 1年次・・・被服分野
  • 家庭経営分野(家族関係、将来設計、住生活、消費生活)
  • 2年次・・・食物分野
  • 保育分野
  • 3年次・・・フードデザイン(選択者のみ、3単位)
1クラスを2つに分け、15〜18名程度で授業を行っている。
実習では細かな指導が行き届きやすく、講義ではできるだけ一方通行にならないよう、生徒の発言機会が増え、考えながら授業に取り組めるように気をつけている。

3.教材(テキスト)の作成

私は半年分の授業プリントをシーズン始めに全部作っている。30枚ほどのプリントを製本し、一冊の「テキスト」として配布し、授業はそのテキストに書き込む形で進む。

生徒にとっては授業の見通しを立てやすく、授業内容を整理しやすく、試験前の復習をしやすい。

私にとってはこれに加え、基本的には毎授業ごとに回収し、生徒の書き込みをチェックすることで授業進度や理解度を推測でき、生徒のテキスト持参忘れを防げるので、ストレスなく授業に入れる。プリントの途中で授業が終わってしまいそうなときも、あわてずに授業をまとめ、次回はそのページの途中から始めればよい。割合に便利である。

また、特に家庭経営の分野は範囲が幅広いため、油断するとまとまりを欠き、単なる「雑学講座」になりかねない。毎シーズンごとにテキストを改訂する途中で、「授業で絶対に伝えたいこと」が自分の中ではっきり見えてくる、そんな効果もある。

4.家庭経営分野の授業スケジュール(28時間程度)

時間 主なテーマ 学習活動・留意点など
2 <家族キーワード>
〜いろいろな暮らし方と家族構成がある〜
現代の家族や人口構成の特徴をまとめる。
ニュース等でよく使われる家族に関する言葉を解説する。

1
<生活時間>
〜削れる時間と削れない時間〜
自分の1日のスケジュール表を作り、その特徴に気づかせる。
各種統計などを見て、現代の日本人が生活時間上、どんな問題を抱えているかを考える。
1 〜ワークライフバランス〜 近年いわれているワーク・ライフ・バランスの考え方を解説。実際にはその実現が難しいのだが、どうしてそうなのか・どんな制度があったら嬉しいかなどを考え、意見を出し合う。
1 〜余暇時間ってどうしたら増やせるんだろう〜 余暇は、自分が自分らしくいるための大事な時間。忙しい毎日の中で、どうしたらもっと増やせるのか、意見を出し合う。
2 <家事の特徴 >
〜家事は、単なる家庭内の仕事ではなく、家庭に関心を持つ気持ちの現れ〜
家事の特徴と分担の方法について考える。
共働きだったらどうしたらいいか考える。
共働きで、家事に非協力的な配偶者に対し、どう話しかけて協力体制を作っていくか、シナリオを作って発表する。
4 <将来設計 >
〜フリーターって本当にフリーなの?〜
本校の進路結果を数年分紹介する。
高卒すぐに正社員になった場合の給料を紹介す る。
フリーターの場合の月収を計算・比較する。
「時給いくら」の換算だけではなく、保険・年金の負担や有給休暇・退職金など、正社員とフ リーターの場合を比較する。
〜毎日、どれだけのお金がかかっているの?〜 今、自分が身につけているもの・毎日使っているもの・学校にかかるお金などを計算し、1日あたりいくらお金を使っているか計算する。
将来起こりそうなこと(進学、就職活動、結婚披露宴、新居を借りる、住宅ローン、出産、育 児、子どもの進学、介護、入院、お葬式など・・・)を挙げさせ、それにどのくらいお金がか かるものなのか紹介する。
将来起こりそうなことが、いつ起こると良いか、考えてみる。いつの時期に起きてもメリットと リスクがあるが、リスクを自分はどうカバーするか考えておくことの大切さに気づく。
2 <家族と法律 >
〜生活の中にも法律がある〜
実際の婚姻届を見せ、そのコピーに楽しんで書き込みながら、実は多くの法律が関係する重要な書類であることに気づく。
結婚、離婚、親子関係に関する身近な法律を紹介し、解説する。
4 <高齢化社会 >
〜みんな年をとる。誰もが暮ら しやすい社会って?〜
高齢者体験キット(インスタント・シニア)をつけ、身体のどんな部分に衰えが現れるか、高齢者に対してどのような配慮が必要か考える。
バリアフリーの必要性に気づき、その種類や例を紹介する。
現在の日本で起きている、高齢者や障害者に関する問題を解説する。
1 <住宅の機能>
〜快適に暮らせる住宅ってどんなの?〜
住宅の写真や模型を使い、住宅の機能を学ぶ。
3 <住まいを借りるには >
〜一人暮らししてみたい?
それじゃあ現実を知っておこ う〜
間取り図を提示し1人1人に発言させながら、 これがどんな部屋なのか、借りるのにどんなお金が必要なのかなどを読み解いていく。
賃貸住宅の契約に必要な手続き、お金、書類、 注意点などを解説する。
<生活を始めるには>
〜楽しみながらも用心深く〜
一人暮らしをする上で遭遇しそうな災難を挙げさせる。
それを回避する方法を考えさせる。
2 <契約とは >
〜契約書がなくても契約は成立 〜
契約とはどういうものなのかを解説する。
主な悪質商法の例を解説する。(ビデオも使用)
インターネットを利用した犯罪的手法も説明する。
契約する前に確認するべきことを考える。
1 <消費者被害>
〜だまされるな〜
〜泣き寝入りはするな〜
実際にクーリング・オフを求める手紙を書いて みる。
消費生活センターの役割を紹介する。
4 <消費生活キーワード >
〜消費者の自覚と行動は社会に 影響を与える〜
<授業で解説する主なキーワード>
販売方法の多様化
クレジットカードの仕組み
多重債務
消費者の権利と責任
地球温暖化と消費生活の関係

5.保育分野で扱う将来設計的内容

保育分野は主に、子どもがどのように育っていくかを知り、その手助けのあり方を考えるものであるが、「自分の代わりは他にはいない」「みんな大事な存在で、誰にでも将来がある」ということに気づくこともねらいにしている。同時に「親になる責任」について、多角的に学ぶことにもなる。

たとえば、以下のような内容について指導するとき、生徒の意見を出し合ったり書かせたりしながら、将来設計について考えさせている。
*自分にとって、子どもはどんな存在か
*子育てについての様々な考え方と、それに対する自分の意見
*親になるとして、どんな風に自分の生活は変わるだろう
*若くして親になった場合の良さと困難さを想像する
*高めの年齢で親になった場合の良さと困難さを想像する
*親になったとき、自分はどんな人でいたいか
*配偶者や家族とはどんなことを話し合っておきたいか
*児童虐待はどうして起きてしまうのか、予防はできないのか
*出産・子育てでかかるお金、国などからもらえるお金について
*少子化だとなにが良くないのか。どうして少子化が進んでいるのか
*世界で困難に直面している子どもたちについて、どんな問題があり、どんな解決策がとられているのか
*将来、自分の子どもに「自分はなぜ産まれたのか」と聞かれたら、なんと答えるか

6.終わりに

私は30代半ば、子育てを初めて3年目、1人の生活者としてはまだまだ成長の途中である。だから「生活していくのに本当に知っておくべきことって何だ!?」と、いつも自問している。

この数年の生活の中で、私が気づいたことがある。
自立とは、たとえば経済的・精神的・生活技術的に、人に頼らなくてもやっていける状態である・・・と定義づけるのは正しい。しかし実際の生活の中では、多くの人が、自分の苦手分野を人に助けてもらいながら、そして自分が得意なことは積極的にやりながら暮らしている。つまり、共生しているのだ。

当たり前のことを、なにを今更と思われるだろうか。
しかし、就職し、一人暮らしし、結婚し、出産し、とにかく走り続けてきた(と自分で思いこんでいる)私は、何でも1人でできるようにならなくては、とそればかり考えていた。それ自体は悪いことではないのだろうが、そのマイナス面が、育児休業中に現れた。子育てをはじめたばかりの頃、新米ママにありがちな「私がしっかりやらなくては」と自分を追いつめる状況に陥り、とても疲れていた。こうして少子化が進むんだな(みんな子育てに懲りるんだな・・・)とさえ、思った。家庭科の教師で「保育分野」も教えていながら、実際の子育てにはあわててばかりで情けなかった。

実は、人にはたいてい苦手分野があり、助け合いながら暮らしているし、苦手だったり辛かったりしたら、それを口にしてもいい。それは決して、「自立」から遠ざかることではない。

育児休業後の私は、授業で「自分自身が経済的・精神的・生活技術的にしっかりするのはとても大事。でも、本当に苦手なことは誰かの助けを借りることができるし、辛かったら休めばいい。たまにはあなたが誰かを助けるでしょう。そういうところをカバーしあえる人が身近にいて、大事にしていけるのが、本当に豊かな、自立した生活なんだと思うよ」と、生徒たちに話しかけるようになった。
生徒たちの自立した、豊かな生活を願っている。

教育の現場からINDEXへ戻る