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豊かさを分け合う「経済」を考える
  web.9
(2008.12)
東京都立桜修館中等教育学校 公民科 高橋 勝也 先生

1.はじめに

このために原稿に向かっている時期は、2008年10月。サブプライムローン問題が表面化し、米大手証券会社リーマン・ブラザーズの経営破綻がきっかけとなり、アメリカ発の金融危機がグローバル化した世界経済に波及している様子が連日報道されている。

ニューヨークや東京の株式市場の平均株価が過去最大の、過去何番目の下げ幅になった、上げ幅になったと騒がれている。ニューヨーク市場の原油価格は一時期1バレル=147ドルまで跳ね上がったものが、70ドルを割り切った。世界経済が迷子のように振り回されている感が否めない。

私は現在、中等教育学校に公民科教師として勤務している。前期過程の中学生と後期過程の高校生と同時に触れ合う機会があるが、前期過程の生徒と経済について語る機会は比較的多く、連日のニュースに関する質問を受けることは多い。

興味を抱いていることに感心しているが、前期課程の中学生へ簡単に説明することは難しく、生徒も腑に落ちていないこともあるようだ。

まったく経済について学校で学んだことのない中学生に「経済」というものは、どんなものか。それを考えて欲しいと思うようになったのはここ最近のことである。

基本的に家庭やマスコミ報道から情報を得ることしかできない中学生は「経済」=「株」や「お金」になってしまっているに違いない。その側面も大切ではあるが、それだけになっているのでは視野が狭く、教育的ではないと感じている。次の「経済に関するアンケート」を見れば、実証されるであろう。

古くから中国に伝わる「経世済民」の四字熟語を聞いて、若いころすばらしい言葉と感動したことがある。それについては「政治」分野に任せればいいという声も聞こえてきそうである。しかしながら、この側面を持っていることに気付かせながら、「経済」について考えてもらいたいと強く感じるようになった。今では公民科教諭としての使命とも感じている。

安易に金融教育や投資教育に走るなという意見も多いが、「株」=「ギャンブル」=「悪」という構図を成立させて、生徒に教えないこともいかがだろうか。安易でない計画的な教育をしていきたいものである。

また、市場経済に関しても、最近は格差社会などのデメリットが目立ってしまっているケースもあり、マイナスイメージが先行している見方もあるが、経済学者には、日本の経済に関する教科書において、市場経済のメリットをきちんと説明していないとする意見が少なくないと聞いている。

これは個人的なテーマになるが、経済教育に関して、筋道をたてて、論理的な進め方を意識したい。今回の授業案が筋道の入り口になれば幸いである。

2.授業展開について

ここでは、本校の前期課程2年生(中学校2年生)40名を対象に行った中学校社会科(公民的分野)の授業展開例を紹介する。
なお、授業に際しては、事前に「経済」に関するアンケートを実施し、授業を進める上での参考とした。

■「経済に関するアンケート」の内容と結果

アンケートの内容に関しては、あまりにも大雑把であり、強引さもあり、多くのクレームが想像できるが、そこはご容赦願いたい。あくまでも、生徒の実態を捉えた上で、経済教育の改善方向を見出すことが目的である。

まだ、本格的に経済の勉強に取り組んだことのない本校前期課程2年生(中学校2年生)がどの程度の知識と情報を持っているのか。その実態を把握した上で、どのような問いかけをしていくことが大切なのか。その資料としたい。

やはり、中学生の「経済」のイメージは株やお金のようである。これだけ中学生が株やお金が頭の中に染み込んでいるならば、世の親(保護者)は心配になることが想像できる。金融教育や投資教育も慎重に行っていかなければならない。
実施したアンケートと結果は以下の通りである。

経済教育アンケート 平成20年10月15日実施 中学校段階2年生全40名
(1) 「経済」と聞いて、どんなイメージがありますか?○をつける。
  良いイメージ   悪いイメージ   良くも悪くも感じない
   1人        14人          25人
(2) 良いイメージ、悪いイメージと選んだ人はどんな理由からですか?
  (良いイメージ)
・モノが活発に動いている(世界で流通している)というイメージ 1人
(悪いイメージ)
・ニュースで悪いようなことを言っているから 5人
・景気が悪化しているから 3人
・株価が下落しているから 3人
(3) 「経済」と聞いて、思いつくことは何ですか?(複数回答有)
  株 18人  お金 12人  円高 5人  難しい・バブル経済 3人  
日本経済新聞・政治・株価上昇 2人
国会・世界恐慌・高度経済成長・流通・ナスダック・日本・大人 1人
(4) 「経済」に関する、最近耳にしたニュースは何ですか?
  株価下落 20人  リーマン・ブラザーズ経営破綻 14人
円高・ドル安 6人  サブプライムローン問題・価格高騰 3人  
世界同時不況・ガソリン価格高騰 2人  不況 1人

■指導実践

(1)学習目標
・「経済」について興味・関心を高める。
・豊かさを分け合うことについて考える。
・「経世済民」の意味から「経済」を考える。

(2)実際
  学習活動 教師の指導と評価


5
●机をコの字型に移動する。
●クラスのアンケート結果を確認してみよう。
●「経済」とは何か、じっくり考えてみよう!
○指示する。
○アンケート結果を提示する。
○本日のテーマが「経済」であることを確認する。


(1)
15
●「二つの国があります。君たちはどちらの国に住みたいと思いますか。」 ○発問する。
・A国 : 国民の半分の人々が年収900万円で、残りの半分の人々が年収100万円である ○自由に発言させることをうながし、いろいろな意見を吸収する。
・B国 : 国民の半分の人々が年収400万円で、残りの半分の人々も年収400万円である
(予想される反応)
・B国のほうがいい
○現段階での自分の意見を持ち、全員に挙手で発表させる。
●「国全体で考えたら、どちらの国が豊かと考えますか。」
(予想される反応)
・全体でA国のほうが1000万円で、B国のほうが800万円だから、A国のほうがいい。
○発問する。
○自由に発言する雰囲気を保つ。
●「では、もう一度聞きます。君たちはどちらの国に住みたいと思いますか。」
(予想される反応)
・A国のほうがいいという生徒が若干増えてくるのではないか。
○発問する。
  積極的に発言できたか。
いろいろな意見を聞いて、深く考えようとしたか


(2)
15
●「では、A国について考えてみましょう。もし、900万円の年収の人が、100万円の収入の人に400万円を渡すことができたら、平均年収が500万円になり、B国より豊かな国になり、よりよい平等な社会にならないでしょうか。」
(予想される反応)
・その通りである
・900万円の年収の人が400万円をちゃんと渡さないのでは
・B国の年収で十分に豊かな生活ができるのでは
○自由に発言する雰囲気をつくる。
○このあたりから、いろいろな意見が出てくると考えられる。発表された意見やつぶやきを教師がうまく拾い上げ、すべての生徒の思考や判断力を揺さぶるようにする。
●「もう少し考えてみましょう。400万円でも十分に生活していけるかもしれませんね。そうするとB国で十分かもしれませんね。でも、もし、A国でもみんなが400万円で生活していけば、200万円が浮くことになりますね。そうしたら、その分を貧しい外国などに援助することができるかもしれませんね。そのように考えたら、どちらの国のほうがいいのでしょうか。」 ○ここは発問ではなく、生徒の思考をうながす問いかけとする。
○自主的な生徒の発言があったら、拾い上げる。
○どちらの国が良いという断定的な指導はしない。
●「現代社会で豊かさを分け合っているようなことはないでしょうか。あったら、発表してみてください。」
(予想される反応)
・生活保護
・社会保険(社会保障)
・累進課税制
・生命保険
○中学生にとっては難しい発問のため、様子を見ながらヒントなどを出していく。
○わからない生徒が多い場合は、簡単な説明を加える。
  豊かさを分け合うことについて考えることができたか



10
●今日の授業の感想を書こう。
●「経世済民」について説明を聞く。
○今日の授業の感想を書かせる。
「しっかり授業の感想が書けたか。」
「経済」について興味・関心を高めることができたか。

3.おわりに

今回の指導案における豊かさとは何か。今回はいわゆる経済的な豊かさのことを指している。それだけが豊かさであるかとご批判があるやもしれないが、今回はこの形で報告させていただく。もちろん現代社会でも取り上げられているように、福祉の面など豊かさを表すものは一言で言い表すことはできない。

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