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労働法に学ぶ雇用問題
  web.10
(2009.1)
東京都立浅草高等学校 目﨑 昭年 先生

Ⅰ.はじめに

金融経済教育が叫ばれて、全国の高等学校で取り組みが進められている。昨年12月に発表された新学習指導要領の改訂案にも、法教育と並んではっきりと位置づけられている。しかし、裾野の広い分野だけに、何をどう指導するのかとなると意見が分かれている。

そこで、私の実践では現任校の生徒実態、すなわちアルバイトなどを通して「働く」経験を持っている生徒が90%を超えていることをふまえ、「労働」という身近なテーマをより深く、ほり下げて指導することにした。

Ⅱ.高等学校第1学年公民科現代社会での取り組み

本校では現代社会が1年生の必履修科目となっている。定時制課程なので1時間45分の授業であるが、教師主導による「知識を淡々と記憶する」授業をなるべく少なくし、「生徒を活動させる」授業を積極的に導入している。

今回の実践事例は「働くルールの理解」という観点で、労働基準法の最低賃金規定と超過勤務手当に関する規定について、生徒がアルバイト先で体験した例を応用してその規定を理解させるものである。以下に指導案とワークシートを提示する。

Ⅲ.指導案とワークシート

第1学年公民科(現代社会)学習指導案

平成20年11月○○日 第○校時
東京都立浅草高等学校 第1学年 計30名
指 導 者  目 ??  昭 年

1 単元名

高等学校学習指導要領 公民科(現代社会)
(2)現代の社会と人間の在り方生き方・(イ)現代の経済社会と経済活動の在り方
「労働問題〜働くルールの学習を中心に〜」

2 単元の目標

「現代社会の基本的な問題について主体的に考え公正に判断するとともに自ら人間としての在り方生き方について考える力の基礎を養い、良識ある公民として必要な能力と態度を育てる」 という学習指導要領の目標をふまえ、本単元では具体的な目標として、(1)現在の労働保護立法を正しく理解すること、(2)雇用に関する問題点を幅広く把握し、その解決の手だてを資料やさまざまな情報の活用を通して考察すること、の二点を目標とする。

3 単元の評価規準

  ア)関心・意欲・態度 イ)思考・判断 ウ)資料活用の技能・表現 エ)知識・理解
単元の
評価規準
現代の経済社会における雇用や労働問題について意欲的に追究しようとしているか 企業の雇用や個人の労働意識について多面的・多角的に考察しているか 労働法規など様々な資料を検索し、その資料を主体的に選択しているか 労働保護立法や雇用問題など、近年の動向を理解し、その知識を身につけているか
学習活動に即した具体的な評価規準
<評価方法>
労働法制や雇用問題について関心が高まっているか
<行動観察>
労働法制や雇用問題について幅広く考察しているか
<行動観察・ワークシート確認>
授業中のワークシートの記入、発問に対して適切に回答しているか
<ワークシート確認>
労働法制や雇用問題について正しく認識できたか
<行動観察・ワークシート確認>

4 単元の指導について

(1)単元について
学習指導要領解説では、「雇用と労働問題」については、労働保護立法の動向、中高年雇用とパートタイム雇用、雇用制度の変化というように、近年起こっている雇用・労働問題を経済情勢の変化と関連させながら、雇用の在り方や労働問題について国民福祉向上の観点か考えさせることが大切である、と示している。

同様の学習内容について、中学校学習指導要領社会科公民的分野では「社会生活における職業の意義と役割及び雇用と労働条件の改善について、勤労の権利と義務、労働組合の意義及び労働基準法の精神と関連付けて考えさせる」と示している。

本単元では、雇用条件と労働基準法の精神について、中学校の学習に関連させて、充実、 発展させた指導を行う。

(2)指導観について
昨今の雇用・労働問題では、特に企業の雇用の在り方の変化が進んで行く中で非正規雇用者も加速度的に増加していると考えられる。しかし、国民の立場からすれば、あまりの変化の速さに対応できず、また労働保護立法が十分に認知されていないことから、労働環境などの面で不利益な扱いを受けることも多いのが現状であると考える。

よって、上記をふまえて、本時では労働保護立法、特に労働基準法の精神や内容について具体的事例を用い、生徒の活動を積極的に促す指導を展開する。

事例検討では生徒同士のロールプレイングやシミュレーション活動を用い、教師が生徒の学習活動を支援する。また、教師と生徒の対話活動を重視し、「キャッチボール」的なコミュニケーションを図ることで、生徒が学ぶ意欲を高め、本教材の確実な理解を目指していく。

5 単元の指導計画と評価規準(3時間扱い)

生徒の学習活動 教師の指導・工夫 評価方法
( )内は評価規準
1 ・雇用問題について
終身雇用制や年功序列賃金 制の成り立ちや非正規雇用の増 大と課題について学習する。
・基礎的な内容をドリル形式の ワークシートを用い、板書を効 果的に使用する。 ・ワークシートの達成度をみる(知識・理解)
・授業の参加意欲をみる(関心・意欲・態度)
2



・働くルールを知ろう
労働基準法のうち
  (1)最低賃金
  (2)超過勤務手当
について、事例を用いて学習する。
・労働基準法のおおまかなしくみをつかませる。
・特に、超過勤務手当の作業には生徒の理解度を見ながら指導を行う。
・ロールプレイングではコミュニケーションが円滑になるよう、言葉がけやグルーピングを工夫する。
・ワークシートの達成度をみる(知識・理解)
・質問等、授業の参加意欲をみる(関心・意欲・態度)
・法規について、その背景を考えているかをみる(思考・判断)
・ワークシートの作業を着実に行っている(技能・表現)
3 ・労働問題のまとめ
前2時間の内容を総括し、小テスト形式の振り返りシート学習で基礎知識を再確認する。
・グループ同士で協力しながらシートを記入させる。
・ドリル形式の解答指導は丁寧に行う。
・振り返りシートをみる(関心・意欲・態度)
・ワークシートの達成度をみる(知識・理解)

6 本時(全3時間中の2時間目)

(1)本時の目標
・労働基準法についての学習を通して、労働保護立法が私たちの労働において重要な役割を果たしていることを理解する。
・ロールプレイング活動などにより、労働保護立法に対する興味・関心を高め、労働保護立法のねらいや問題点などについて考察する。

(2)本時の展開
  生徒の学習活動 教師の指導・留意点 評価方法
( )内は評価規準



(1)授業を受ける準備をする
(2)生徒アンケートの結果
「労働」に関する事前アンケートの結果を用い、今日の授業の流れを確認する
→いくつかのキーワードがあるということを認識する
・出欠確認
・授業の流れを提示する
「まず、働くということについて以前、アンケートを行いましたね。その結果を確認します(スライド提示)」
→ここで、時給と残業という本時のキーワードを押さえさせる。
・授業に向かうレディネスが最低限できている(関心・意欲・態度)
・傾聴ができている(関心・意欲・態度)



15
課題1 労働基準法を理解しよう(最低賃金)
(3)ケース1について、生徒が教師とロールプレイングを行う。
<ロールプレイングの内容はアルバイトの面接。最低賃金以下で雇用するという場面である>
ロールプレイング ケース1
「ケース1の会話を聞き、ワークシートの資料1を参考に、何が問題なのかを見つけ、ワークシートに書いて下さい」
ワークシート1
→ロールプレイングでは、ワークシートの資料に基づいて最低賃金以下である問題点に気づくように行う。
・ワークシートを見ながら、課題を見つけようとする(思考・判断)
(4)ロールプレイングから最低賃金のルールに反する雇用であることを知る。 発)今の会話で何が問題だと考えますか?
→数名の答えを聞く。
予想)賃金が基準以下、社長の言い方が高圧的など
・発問に対して、的確に答えられている(知識・理解)
(5)労働基準法の最低賃金規定についてまとめる。 「つまり、本来もらえる賃金以下で雇用することが問題なわけです。働く上で必要なルールがあることをまとめます」
→重要な法規の部分を確認しあいながらまとめていく。
・ワークシートにきちんと記入がなされている(関心・意欲・態度)



15
課題2 労働基準法を理解しよう(超過勤務手当)
(6)ケース2について、生徒同士でロールプレイングを行う。
<ロールプレイングの内容は深夜、休日をまたぐ残業で、ふだんの時給より高い賃金を支払うという場面である>
ロールプレイング ケース2
「ケース2の会話を聞いて下さい」
「このケースはいわゆる規定の労働時間より超えた分の賃金が問題です」
・傾聴ができている(関心・意欲・態度)
(7)グループで資料2を使いながら超過勤務手当を計算し、適切な金額かどうかを確かめる。 「さっそく、ワークシート2の資料2を使って、この残業代が適切かどうかを検証します。グループで協力し合って結果を出して下さい」
ワークシート2
→とまどっている生徒には計算の方法などの声がけを行い、学習支援に心がける
・グループで、超過勤務手当の算出ができている(技能・表現)
(8)検証した結果を発表する。
また、超過勤務手当のルールについて知る。
発)この残業代は適切でしたか?
→すべてのグループの答えを聞く
予想)(ほぼ全員が)適切ではない
→超過勤務手当のルールに反する雇用であることに気づかせる
・発問に対して、的確に答えられている(知識・理解)
(9)労働基準法の超過勤務手当の規定についてまとめる。 「つまり、本来もらえる賃金以下で雇用することが問題なわけです。働く上で必要なルールがあることをまとめます」
→重要な法規の部分を確認しあいながらまとめていく。
・ワークシートにきちんと記入がなされている(関心・意欲・態度)




(10)労働基準法のまとめをする。 「働く上でのルールがあるということがわかったと思います。最後に労働基準法の何が大事なのかをまとめます」 ・ワークシートにきちんと記入がなされている(関心・意欲・態度)
(11)本時をふりかえる。 「では、今日の授業の振り返りをワークシート3に記入して下さい。次回は今後の雇用のベターなあり方を考えていきます」
ワークシート3
・振り返りシートにきちんと記入がなされている(知識・理解)(関心・意欲・態度)

(3)授業観察の視点(本時の授業実践の視点)
・目標の設定は適切であったか。
・教員、生徒同士の対話活動、グループ活動は教材理解の方法として適切であったか。
・労働保護立法の重要性が認識できていたか。

<ワークシート、資料等>
ワークシート、資料等(別ウィンドウが開きます)

Ⅳ. 授業を受けての感想・意見

・時給や残業の時にもらえるお金ってルールがきちんと決まっているなんて知らなかった。
自分もアルバイトでいろんな経験をしたので、この授業で勉強したことをいかしていきたい。(高1・男)

・働くルールってこんなに私たちのことを考えてるんだなーと感じた。私はアルバイトの経験はないけれど、仕事をするときにルールのことも考えてきちんと働くって気持ちになった。(高1・女)

・お金が欲しくて働いているって思っていたけれど、ただ働くっていうことは考えていかなきゃって!と思った。ルールを知らないで働くってことが私たちの生活にとって不利なことになることがよーくわかった。働くことをもう一度考え直そうと感じた。(高1・女)

Ⅴ. おわりに

実際にこの指導を行っての生徒の反応は上々であった。「働く」ことはお金を得るだけという未熟な考え方をしている高校生がこの授業を通して「働く」ことイコールお金を得るという考え方が少しずつ改まって、「働くこと」の意味を真剣に考え始めてくれている。

卒業後、すぐに就職という生徒も少なくない中、ルールに基づいてよりよい生活をおくるということもキャリア教育の一つの考え方である。この指導もまだまだ改善の余地がたくさん残っている。今後とも、生徒の実態や新しい学習指導要領を見通した実践を積み重ねていきたい。

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