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「給与明細書から考える私たちの暮らしと経済」
  web.12
(2009.3)
千代田区立九段中等教育学校 小美野 清一 先生

1.はじめに

私は、数年民間企業で勤務したのちに教員の職についた。その民間企業での勤務経験を授業にいかに活かすかということを考えていたが、初任校ではやはり授業そのものに不慣れなために経験は単なる経験談として面白おかしく話すだけであった。
授業のスタイルを確立することで精一杯だったからだが、試行錯誤を繰り返し、自分の経験そのものを具体的に教材にしてしまうのが一番早いと考えた。
現職とは違う職業であるために見せられる本物の給与明細書や、転職の際の雇用保険受給資格者証などを提示することにしたのである。給与明細書にはいろいろなキーワードが載っている。「基本給」「住宅手当」「健康保険」「厚生年金」「所得税」「住民税」・・・などである。

高校生だとアルバイトでも給与明細書をもらうだろうがその明細内容をしっかり把握している生徒はどれくらいいるだろうか。また高校生は学校を卒業してそのまま就職という生徒も少なくない。私のねらいはそこにあった。就職して一ヶ月ほどでもらえる給与明細書をとおして自分自身のおかれている立場を客観的に把握できるようになってもらいたいということである。

このようなことを理解することで、まさに学習指導要領公民科の目標にある「在り方生き方についての自覚を育てる」ことにつながればと考えたのである。

本稿では給与明細書の提示を取り入れた授業展開の概要を紹介させていただくが、なにぶん経験不十分な教師の取り組んだ実践事例であるので、物足りない未熟な部分も多々あることをご理解してご覧になってもらえればと思う。

2.指導案

【補助説明】

(1) 授業対象者は都立工業高校の3年生である。多くの生徒の進路が就職で、また就職を間近に控えていることもあり、労働問題には少なからず興味・関心を持っている。
(2) 前時の授業において女性の労働問題について学習している。M字型就労パターンや男女雇用機会均等法とその改正に触れ、「夫は外で働き妻は家庭を守るべきである」という意見に賛成か反対かのアンケートを学年全クラスに実施。実際に世論調査で行われた内容と同様のもので、生徒のアンケート結果とともに世論調査の結果も本時で紹介している。
(3) 本時ではこの他、JリーグのCareer Support Center(退団・引退した選手の就職サポートを行っている)を紹介し、Jリーガーの登録抹消平均年齢が26歳と若いことにも触れている。
また「おまけ」で授業の最後に某頭髪ウィッグメーカーが行った「最大のストレスは?」というアンケート結果をクイズ形式で紹介した。
ちなみに男性の上位は「会社の上司」(37%)「仕事の取引先」(16%)、「会社の部下」(9%)と仕事関係が占めた。
一方、女性の上位は「だんな」(20%)、「会社の上司」(18%)、「子ども」(18%)であった。男女雇用機会均等法が成立して働く女性の地位が向上しながらも、まだまだ女性の労働環境が厳しい現実と、一方で女性の最大のストレスが「だんな」であるという少しコミカルなアンケート結果が、生徒にとっては意外ながらも興味深かったようである。
(4) 本時で提示する給与明細書は2種類ある。以前勤務していた会社が、途中で月給制から年俸制に変わっているからである。大きな違いは「基本給」「〜手当」がなくなっていることである。
このことなどから月給制と年俸制の給与明細書であることを推測させ、雇用形態の変化についての学習につなげている。また「源泉徴収票」も紹介し税金などが「天引き」されていることにも触れている。
(5) 本時のあとの授業では社会保障の分野や税金の学習に入る。すでに提示した給与明細書に「健康保険」「雇用保険」「所得税」というキーワードが出ているのでそこから授業を展開している。
また私が会社を辞めたときにハローワークで交付された「雇用保険受給資格者証」も紹介し、雇用保険のしくみ、雇用保険の受給方法についても実践的に!?説明した。
(6) 労働問題、社会保障、税金についてひと通り学習したあとに、給与明細書をもとにした一人暮らしシミュレーションを行っている。
ポイントを次のことに置いた。(1)実際の給与明細書で考える。(2)実際の住宅情報誌から学校近辺の部屋を複数切抜き、その中から賃貸計画を立てる。(3)家具や電化製品を実際の広告をみて購入計画を立てる。(4)全体を通し、実際の資料を利用するものの、生徒の能力をふまえた簡易なシミュレーションにする。
(7) 生徒の感想は、「こんなに給料から税金や保険が引かれるとは思わなかった。」(給与明細書をみて)、「雇用保険を会社も支払っているとは知らなかった。」、「一人暮らしはこんなにお金がかかるのだと実感した。」(シミュレーションを行って)など自分が生活する上では様々な費用がかかるといった疑似体験のようなものは、ある程度できたか思う。

《高等学校:「公民」》 「現代社会」

1.単元名      労働環境の整備

2.単元の目標   労働環境を改善するための課題について理解させる。

3.単元の評価基準及び学習活動に即した具体的な評価基準

  ア 関心・意欲・態度 イ 思考・判断 ウ 技能・表現 エ 知識・理解
単元の評価基準 ・労働者の権利と保護について関心を持っている。
・労働環境の問題点に興味・関心を持ち、進んで学ぼうとしている。
・労働環境の問題を身近なこととして捉えようとしている。
・労働環境の問題点を自分で考えている。
・労働環境の身近な影響を考えている。
・労働環境改善への対策を自分のこととして考えている。
・自分の考えを自分の言葉で表現している。
・グラフなどの資料からデータを読みとることができる。
・労働者の権利と保護について理解している。
・労働環境の問題にはどのようなものがあるか理解している。
・労働環境の現状と問題点、またその対策を理解している。
学習活動に即した
具体的な評価基準
(1)労働基本権・労働三法が身近な問題と関わっていることに関心を持っている。
(2)労働環境の問題にはどのようなものがあるか、自分の知識として得ようとしている。
(3)これまでの雇用形態・賃金体系が崩れ始めていることを、就職活動をひかえた自分に身近なこととして関心を持ち、どう関係しているのか探求しようとしている。
(1)自分自身の問題として労働条件の問題点を考えられるか。
(2)新しい雇用形態・賃金体系が労働者に与える影響を考えられるか。
(3)労働環境の改善と社会情勢の変化の関係に着目できるか。
(1)グラフなどの資料と具体的な労働問題とを結びつけて考えることができる。 (1)労働基本権・労働三法などの労働関係法について理解している。
(2)年功序列型賃金などこれまでの賃金体系が崩れ、能力給など新しい賃金体系が広がっていることを理解している。
(3)育児・介護休業法などの法整備と現実のギャップを理解している。
(4)今後の社会情勢の変化と労働環境への影響を理解している。
評価計画 観察 観察・ノート 観察 観察・ノート

4.本時の展開

本時の学習指導案
本時の目標  
  学習活動 評価の観点に基づく具体的な評価基準
「関心・意欲・態度」「思考・判断」「技能・表現」「知識・理解」
評価の具体的な場面・方法


10
前回の復習
・女性の労働問題をあげる。
・前回出した学年アンケート結果の確認
・世論調査結果を理解する。
発問
女性の労働問題にはどのような問題があるのか。(知識・理解)
・「夫は外で働き妻は家庭を守るべき」についてどう思うか。(思考・判断)(技能・表現)
・「夫は外で働き妻は家庭を守るべき」についての世論調査に関心を持てたか。(関心・意欲・態度)(技能・表現)



・前回の授業のノートを開かせて内容を点検し、発言を評価する。


35
日本の雇用関係の特色   プリントや資料集を開き考察する様子が見えたか確認する。
・ノートに重要語句を記述しているか確認する。
・ 発問に対して積極的に発言をしているか評価する。 (技能・表現)
・二つの給与明細書の違いを探す。
発問
二つの給与明細書の違いは。
年俸制と月給制の違いを考える。(思考・判断)
・終身雇用制・年功序列型賃金についての説明を聞き、理解する。
・能力給や年俸制の広がりを理解する。
・終身雇用制・年功序列型賃金制が一体であることを理解する。(知識・理解)
・就職を控えた自分自身の問題として捉えることができたか。(関心・意欲・態度)
バブル経済崩壊後の 雇用形態  
・「派遣」「パート」などの労働者の労働条件が変わりつつあることを理解する。 発問
企業はなぜ「派遣」や「パート」の採用を増やすのか。
・経済状況や企業の動向と「派遣」「パート」などの労働者の労働条件の変化との関係を考えられたか。(思考・判断)
労働条件改善のための法整備  
・育児介護休業法の目的を理解する。 ・導入部のアンケート結果と照らし合わせ、自分が実際に就職・結婚し子どもが生まれた時どのような問題が生じるか考えさせる。(思考・判断)(関心・意欲・態度)
・法の整備とその実現にはギャップがあること理解できたか。(知識・理解)




本時の内容の整理および 今後の展望
   
・現在の労働環境の問題とは何だったか。
・今後の社会情勢と労働環境の関係を考えさせる。
・重要事項の確認ができたか。(知識・理解)
・国際化・技術革新といった要因が日本の労働環境にどのような変化をもたらすか。(思考・判断)
・発言やノートの記述を点検し評価する。

3.おわりに

給与明細書や雇用保険受給資格者証、または源泉徴収票など実際の資料を利用して、そこから授業を始めていくねらいについてははじめに述べたとおりである。

ねらいではなくそれらの資料を利用する「理由」については、私自身がこれらの資料について「わからなかった」からである。つまり今はともかく、初めてこれらの資料を目にしたときは、生徒と同様に言葉一つひとつの意味を正確には理解していなかったのである。勉強不足で恥ずかしい限りである。

しかし私が授業を展開する上で意識していることは実はこのような素朴な疑問、根本的にはどういうことなのか、何が「わからない」ことなのか、ということなのである。ものごと、情報に触れたときの最初の印象や疑問を大切にして、さらに自分ならどうする?と生徒に問いかける授業を心がけたい。

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