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家庭基礎・授業カリキュラム案 『「お金」と向きあう』
―「消費生活」「生活設計」「社会保険制度」を取り入れて―
  web.01
(2009.4)
麻布中学校・高等学校 家庭科(高校1年生活総合) 齋藤 美重子 先生

1.はじめに ―題材設定の理由―

現在日本では電子マネー、クレジットカードなどさまざまなカードに囲まれて生活している。クレジットカード発行枚数は(社)日本クレジット産業協会によれば、平成19年には3億万枚を超え、一人当たり平均約3枚は持っている状況である。 民間最終消費支出の約25%が消費者信用(クレジット・キャッシング)である。

一方で、あちこちに債務を重ね借金の額が支払い能力を超えて返済不能な状態に陥る多重債務者も多い。確かに自己破産件数は2003年をピークに減っているが、任意整理や個人民事再生手続きなど他の方法で処理し、実質は減っていないのではないかと思われる。

また厚生労働省資料によると、非正規雇用者の割合は約3割、国民健康保険料滞納世帯数約480万世帯を超え、警視庁資料では年間自殺者数は3万人を超えており、日本社会は不安に包まれているといえる。

このような現状を批判的に分析・把握し、生涯を見通した生活を設計するとともに、主体的に家庭や地域社会を創造する能力と実践的態度を育てたいと思い、「お金」の役割(稼ぐ、使う、貯める、借りる、分け合う)に注目し、消費生活、社会保険制度、生活設計を取り入れたカリキュラム計画を練ってみた。

ところで現在はまだ稼ぎ手とはなっていない高校生でも、預金さえあればキャッシュカードを持つことができる。通学定期がチャージのできる電子マネーにもなっている。今でも本の購入などでインターネットショッピングをしている生徒はいる。

さらに、高校卒業後はクレジットカードを持ってネットショッピングでもしようかな、という生徒もいる。携帯電話に架空請求メールが届いたという生徒も少なからずおり、消費生活分野ではパソコンや携帯を利用することで起こる問題に対して関心が高い。

こうした状況をふまえて、キャッシュレス社会のメリット・デメリット、キャッシュレス社会の中で起こっているサイバー犯罪についても考察させ、批判的思考と問題解決能力の向上、さらには自律的で協同的な生活者の育成をめざしていきたい。

ここで、「 」をつけた「お金」は、単なる現金だけではなく、クレジットカードがプラスチックマネーと呼ばれるようにカードによる取引等を含むものとして「お金」と記述した。

日本社会を批判的に思考し、今後「お金」とどう向き合い、生活設計をしていくべきなのか、自分に引き寄せて省察させ、対話をとおして学び合うとともに、市民として行動へ結びつけることを目標とする。

2.授業の流れ(7時間)

具体的な授業の流れは以下の表のとおりであるが、おおまかには
(1) 授業の初めに、カード類を持っていると仮定して商品・サービス等を購入する(ワークシート)を生徒達に行わせ、気づいた点を述べ合う。カード発行枚数増加の要因についても考察させ、現代社会の問題点についても認識させる。(1時間)
(2) 金利と法律関連の講義とワークシートをする。(1時間)
(3) サイバー犯罪の現状(「NHKスペシャル 危機と闘うテクノクライシス あなたの預金が狙われる 国境を越えるサイバー犯罪」を視聴)とその問題点や対策を確認させる。(1時間30分)
(4) 「家庭経済クイズ」((財)生命保険文化センター「新しい「家庭経済」授業プランのパワーポイント」を導入とし、2007.3.25東京新聞の13面、『くらしの豆知識』、などから社会保険制度について理解させる。「シッコ(Sicko)」(マイケル・ムーア監督作品、発売・販売元:ギャガ・コミュニケーションズ)の一部を視聴し、公的保険制度の必要性についても学び合う。 (2時間30分)
(5) まとめとして、『東大で教えた社会人学 お金に学ぶ』草間俊介・畑村洋太郎(文藝春秋)からの抜粋を読み、「お金」とどう向き合っていけばいいのか学び合う。(1時間)
学習内容 生徒の学習活動 教師の指導内容
(1)導入
添付ワークシートを使用
ワークシート
・「僕の消費行動チェックシート」を記入し、さらにふり返り気づいたことや感じたことを記入する。 ・資料の概要について説明する。
(2)カードの種類・仕組み・支払い方法、多重債務に陥ったときの解決方法 ・カードのしくみ・種類について認識する。 ・カードの仕組みを説明する。
・「僕の消費行動チェックシート」のふり返り、対話することで、メリット・デメリットについて理解する。 ・生徒とともに対話をし、カードのメリット・デメリットについて理解させる。
・クレジットカード発行枚数のグラフと対話を参考にし、カード発行枚数の増加の要因について考察する。 ・カード発行枚数増加の要因について気づかせる。
(3)金利と法律 ・ワークシート(右記記載)を行う。
・利息制限法、出資法、貸金業法改正について、グラフを参考にして、自分の考えをプリントに記入する。
・100万円を借り5年間で返済すると仮定し、金利15%と29%のときの返済総額を計算させ、金利による違いを実感させる。
・多重債務の現状と解決方法について理解する。 ・多重債務の現状と解決方法について説明、理解させる。
(4)サイバー犯罪
「NHKスペシャル 危機と闘うテクノクライシス あなたの預金が狙われる 国境を越えるサイバー犯罪」視聴
・カードやインターネット等に関するサイバー犯罪の現状認識し、問題解決の方法を模索する。 ・サイバー犯罪の現状を認識させ、問題解決能力の向上を図る。
(5)お金とのつきあい方
―稼ぐ・借りる・使う・分け合う―

(財)生命保険文化センター発行「新しい「家庭経済」授業プラン」パワーポイントの「家庭経済クイズ」を使用。
「シッコ(Sicko)」(マイケル・ムーア監督作品、発売・販売元:ギャガ・コミュニケーションズ)の一部を視聴
・パワーポイントの「家庭経済クイズ」をみて答える。
・資料(2007.3.25東京新聞記事)を読んで、日本のセーフティネットのほころびについて理解する。
・「シッコ(Sicko)」(マイケル・ムーア監督作品)をみて、公的保険制度がないとどうなるか考える。
・資料概要について説明する。
・生徒に発表させ、対話し、生活設計について考察させる。
・社会保険制度について説明する。
・生徒同士、教師と生徒との対話を促し、公的保険制度の必要性について学びあうとともに、日本のセーフティネットのあり方、今後の打開策を練らせる。
(6)まとめ
『東大で教えた社会人学 お金に学ぶ』草間俊介・畑村洋太郎(文藝春秋)より抜粋を使用して
・資料(『お金に学ぶ』)を読んで、自分が将来稼ぐこと・使うこと・借りること・ためること・分け合うことについて見直す。
・(1)〜(5)の内容をふまえ学んだこと、これからの社会のあり方、自分の生活経済設計について記入する。
・(1)〜(5)の内容と関連させ、日本社会の問題点に気づかせる。
・(6)で記入したことを発表させ、生徒同士の考えを共有させる。

3.実践結果

生徒のワークシートをみると、「高額商品になると、無意識にクレジットカードを使っている。知らず知らず高額なモノはカードで、安いモノは現金で、と思いこんでいることに気づいた。」という感想や「消費者は自分自身の判断で選択をしてモノを購入していると思っているが、実は消費者は広告などの情報やカード社会の中で買わされているのではないだろうか。」といった記述がみられた。

ある生徒は、次のように記述している。「多重債務に陥るのは自分が悪い、自己責任だと思っていたが、そうとはいえない現実を知った。誰にでも起こりうることなのだ。社会全体でカバーしなければならないと思う。」というものだ。

このように、短時間の中で、生徒たちはカード社会の現状、消費者の心理などに理解を深め、社会の今後のあり方についても考察し、自分自身の生活を見直すきっかけにもなったようである。

4.終わりに

今回は生活設計、キャッシュレス社会、社会保険制度をミックスしたカリキュラムを計画した。まずはキャッシュレス社会から出発し、「お金」を使うこと・借りることに目を向けた。次に生徒たちは将来の給料明細票をみて、引かれる税金や保険料が高いという印象を抱く。

こうした不平等感はなぜ起こるのかを批判的に思考し、「お金」を稼ぐ・分け合う(シェアする)といった機能を理解した。日本の経済・社会の現状と自分たちの生活が深く関わっていることを実感したようだ。そして諸問題に向き合い解決していくためには生活者としてどうあるべきか、「お金」を貯める・使う・分け合う・借りる・稼ぐという様々な面から生涯の生活設計のためにどうしたらいいのか主体的に考えることができたと感じている。

高校卒業後は親元を離れ、一人暮らしをする生徒もおり、自立した生活をする日もそう遠い話ではない。そうであれば全く「お金」に向き合うことなく社会に出るよりも生徒自身が自分の生活設計を含めて見つめなおし、市民として批判的に考察し諸問題に立ち向かう問題解決能力を育み、生活を主体的に営む行動へと結びつけるきっかけとなってくれることを望む。

しかし、意識はできても実際にはまだ親元で生活し(自分で稼いでいるわけではなく)、親からの援助の下で生活していることもあり、行動に結びつけるまでにはいたらない。生活の中で行動へ結びつけられる力を育むということが今後の課題である。

また、消費生活、生活設計、社会保障制度それぞれの分野を独立させてカリキュラムを組んだ方が教育的効果が高いのか、総合的に組むべきかについても生徒達の興味・関心をふまえて今後の課題である。

さらに、生徒達の批判的思考や問題解決能力の向上のためには、教師自らの実践的認識の発達が必要であろう。自らの実践に対する反省と批評をし、生徒、教師、保護者のみならず、官公庁、民間企業、NPOなど様々な方々との交流をとおして学び、成長していかなければならないと思う。

<参考>使用した資料

本実践では、『ライフプランノート(家庭科学習ノート)」(財)全国高等学校長協会家庭部会、『高校家庭基礎教科書』(大修館書店)、『家庭総合サポートノート 教師用解答・解説書』(教育図書)、『アプローチ家庭科 資料&食品成分表』(一橋出版)、『生活学Navi資料&食品成分表』(実教出版)、『最新6訂版 生活ハンドブック 資料+成分表』(第1学習社)、『東大で教えた社会人学 お金に学ぶ』草間俊介・畑村洋太郎(文藝春秋)、『くらしの豆知識2009』(国民生活センター)、「セーフティーネットの検証 ほころぶ社会保障 弱者にしわ寄せ」(2007.3.25東京新聞朝刊13面)、「NHKスペシャル 危機と闘うテクノクライシス あなたの預金が狙われる 国境を越えるサイバー犯罪」(2006.7.9放映)、「新しい「家庭経済」授業プランのパワーポイント「家庭経済クイズ」」((財)生命保険文化センター)、「シッコ(Sicko)」(マイケル・ムーア監督作品、発売・販売元:ギャガ・コミュニケーションズ)、厚生労働省HP、警視庁HPなどを資料として活用した。

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