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宿泊体験研修からキャリア教育を考える
  web.02
(2009.5)
東京都立蒲田高等学校 宮崎 三喜男 先生

1. はじめに

キャリア教育の必要性が叫ばれてから、数多くの提言がなされ問題提起されてきた。しかしながら「早期離職」「ニート」「フリーター」の問題は以前解決せず、ますますキャリア教育の重要性が増すばかりである。

1999(平成11)年12月の中教審答申から様々な報告書や実践事例が出されているが、実は「キャリア教育」というものはもっと身近で、些細なことから始められるのではないかと感じることが多い。 それは「キャリア教育」そのものが生きていくためのスキルであるが故、「時間を守る」「挨拶をする」「家族や地域の人と話す」などといった基本的なことが重要であると考えるからである。

そのような観点から、現任校で実施している「宿泊体験研修」からキャリア教育を考えてみたいと思う。

2.3つの側面から見た「キャリア教育」

現任校では「キャリア教育」を大きく分けて3つの側面から考えている。それは「個人的・社会的発達」「学びの発達」「キャリア発達」である。

(1) 「個人的・社会的発達」とは、生徒に今現在の自分自身を見つめ、自分自身と対面させる事を目的とし、それらを通して、生徒自身がどのように生きてきて、どのようにこれから生きていくのかということを考えさせる。つまり「生きること」である。
(2) 「学びの発達」とは、机に向かって学習すると言うことだけでなく、夢に向かって何を学べばよいのか、実際に活用させる機会を設けることを目的とする。つまり「学ぶこと」である。
(3) 「キャリア発達」とは、どんな仕事があり、自分は仕事で役に立てるのかを考えさせ、実際に学校外で体感させることを目的とする。つまり「働くこと」である。

つまり狭義のキャリア教育ではなく、広義のキャリア教育を視点に置いた教育活動を行うことが大切ではないかと考えている。

3.青森宿泊体験研修

そこで現任校が実施している「宿泊体験研修」を紹介したい。1年生の6月及び2年生の10月の2回、全生徒が青森県で実施する。内容は農家52戸に分宿・宿泊し、農作業体験いわゆるファームステイを行うことになっている。農作業体験のみを行うのではなく、朝早く起きてから、夜の就寝まで、全て農家の方と行動を一緒にし、丸ごとふれあう本格的な体験である。

農家での生徒の様子を見て回ったが、初日の夕食時、男子生徒3人がお世話になっている農家へ伺ったところ、丁度食事の支度にかかっていた。台所を見せてもらったが、農家の方と一緒になってウドとアスパラの天ぷらを揚げていた。素材は畑でつい先ほど採ってきたものと聞いた。

このエピソードだけでも、いかに宿泊体験研修が生徒の実際生活に役に立つかが分かることであろう。そして農家の方々との生活は第一産業に携わるだけでなく、「挨拶をする」「時間を守る」「農家の方と話をする」という最も基本的なことが24時間繰り返され、職業観・勤労観の育成と共に根本的な「キャリア」を学ぶことが出来るのである。

宿泊体験研修の目的
(1) 体験の学習を通して、自分自身を見つめ、可能性を高め、自分の能力を鍛え、伸ばす
(2) 農業体験を通して、勤労観、職業観を育成し生きる意味を考えさせる
(3) 社会性を身に付け、その中で自主性を育み、社会貢献する心を学ぶ

この宿泊体験研修はそれだけでも広義のキャリア教育にあたるが、さらにより深く生徒に根付かせるために以下のような事前・事後指導を行った。

事前学習
農家の方々との写真・手紙の交換
農家の方へのインタビュー
農業に関しての新聞作り

現地での学習
青森県の方言の学習
両親に向けての手紙
5年後の自分への手紙(タイムカプセル)

実際の手紙はこちら

4.宿泊体験研修とキャリア教育の相関

(1) 個人的・社会的発達として
個人的・社会的発達として、過去・現実を十分に見つめることが重要である。青森宿泊体験研修では、生徒が民泊先での様々な人々とコミュニケーションを通して、自分自身を見つめる良い機会を作るようにしている。また自分自身を見つめる良い機会を作るために、生徒の携帯電話を民泊中預かることにした。あえて他とのつながりを断ち切ることで、意識を自分へ向けさせるようにしている。
(2) 学びの発達として
青森宿泊体験研修では生徒が普段の学校生活で身に付けた基礎学力を活用して、実際に民泊先の農家の方々や自分の両親とコミュニケーションをとり、よりよいコミュニケーションを求めるようにしている。良好な人間関係を形成し、協力し、共同することを通して、人間関係形成能力を育成することが出来ると考えられる。
(3) キャリア発達として
青森宿泊体験研修では学校を飛び出し、青森で第一次産業に携わり、実際に体を動かし、自分がどのように社会とかかわっていけるかを生徒に実感させることである。働くという活動に実際に携わり、働くことの大変さ楽しさというものに直に触れるという経験は生徒にとって大きな財産となることであろう。

5.まとめ

宿泊体験研修とキャリア教育が根本でどのように結びつくのか。それは本校の宿泊体験研修が単発的な活動ではなく、小・中・高の12年間を見通した教育活動にあると言うことである。

「蒲田A地区 小・中・高連携で育む職業観・勤労観の学習プログラム」というものを作成し、その中の「人間関係形成能力」の領域に位置づけられている分野で宿泊体験研修を行っているのである。

つまり地域の協力や青森の農家の方との共同による「横のつながり」と小・中学校のキャリア教育を踏まえ、1年次そして2年次と2年にわたって体験する「縦のつながり」から生まれる、生徒の「心の広がり」を大切にして職業観・勤労観そして「生きる力」を養おうとするものである。

最後に、今回生徒たちはリンゴの木の下に「5年後の自分への手紙」をタイムカプセルとして埋めてきた。この手紙が自分の手元に届く時は20歳になっている。この手紙が届いたとき、彼らは何を思い出すのであろうか?その時が楽しみである。

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