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高等学校家庭科教材キット−新しい「家庭経済」授業プラン−を活用して
  web.05
(2009.8)
東京都立忍岡高等学校 荒井 きよみ 先生

実践教科:家庭科(家庭総合)
使用教科書:東京書籍「家庭総合 自立・共生・創造」
実施日:2009年5月29日(金)
時間数:2時間
対象学年:生活科学科1年
対象人数:19名(1クラス2展開)

1. はじめに―題材設定の理由―

家庭科が学習対象とする生活は、衣・食・住といった各領域の生活事象が独立してではなく、複合的に相互関連しながら営まれている。食生活と消費生活を関連させたり、家族と経済を関連させたりと学習内容の融合をはかり総合的に問題を追求することで、高校生の日常生活に結びつく実践的な能力や態度が育まれると考える。

また、生活にかかわる知識や技術を習得する際にも、自分の生活を見つめ、自身の生活と社会の出来事がどのように関連していくのか、自分を社会の中に位置づけ、家庭生活から社会とのつながりを意識した視点を持つことが必要である。

エリクソンやハヴィガーストによれば、人は生涯を通して達成すべき課題があるとされる。 本実践では人はライフステージごとに発達課題と向き合い、生涯にわたって発達するという観点から、「金銭」という生活資源を手がかりとして「家庭経済」と「人の一生」を関連させて家庭生活を主体的に営む能力と態度を育むことを目標とする。

時間や金銭、人・モノ・社会の関連について科学的に認識し、疑問や関心を明確にしたうえで発達課題を分析的に考えることで、生活を創造する視点が培われると考える。

指導計画(全8時間) 「家庭経済」と「人の一生」(青年期・壮年期・老年期)

タイトル キーワード 時間数
1 きみたちはリッチだ 平均寿命  高齢化  死亡原因  死亡場所
平均初婚年齢  晩婚化  合計特殊出生率  少子化
DINKS  DEWKS  家事労働  核家族  拡大家族
教育費  ライフイベントの経済課題
3(本時)
2 リスクに備える 人口ピラミッド  高齢社会  老老介護  認知症
独居老人  社会保障制度  年金保険  介護保険
2
3 子ども以上大人未満 生涯賃金  納税率  経済的自立  フリーター  NEET  アイデンティティ 3

2. 本実践の授業の流れ


前述の「家庭経済」と「人の一生」(青年期・壮年期・老年期)を題材とした授業(全8時間)の中から、【新しい「家庭経済」授業プラン】を活用した実践について報告する。

※ 【新しい「家庭経済」授業プラン】は生命保険文化センターが作成したパワーポイント教材です。
当サイトから自由にダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
パワーポイント教材【新しい「家庭経済」授業プラン】はこちらから
教師用手引書、ワークシートはこちらから

学習内容 学習活動 教師の支援・留意点
※ ( )の中はスライド番号
ライフコースの作成
  • 平均寿命を知り、その長さのライフコースを作成する。視覚的に人生の長さと自分の現在の位置を知る。
  • 現在までの自分を振り返り、出来事を記入する。
  • プリント1配布
  • 平均寿命(2009年度版世界保健統計)提示
  • 30年後の生活を記入する。
  • 86歳までのさまざまなライフイベントを記入する。
  • 平均初婚年齢の上昇、男女差の縮小の背景について考える。
  • 特殊合計出生率の減少傾向について、その背景について考える。
  • 死亡場所の推移を知り、その背景を考える。
パワーポイント【基本編】(2)(3)
  • プリント2配布
  • プリント1にライフイベントをできるだけ詳細に記入するように指示
  • 平均初婚年齢、合計特殊出生率、死亡原因、死亡場所(人口動態統計)提示
  • 私のライフコースを発表する。
パワーポイント【基本編】(4)
  photo
家族・家庭の機能と
家事労働
  • 「就職」「結婚」「出産」というライフイベントから核家族、拡大家族、DINKS、DEWKSを考える。それぞれの意味を知り、それぞれの利点・欠点を考える。
  • 家族・家庭の機能および家事労働から家庭生活を男女が協力して営む意義について考える。
  • 生徒の発表したライフスコースを題材にし、核家族、拡大家族、DINKS、DEWKSについて説明
  • 家事労働の資料を提示 「ステーション管制官山崎大地」「マラソンランナー赤羽有紀子」
  • パパの育児休業体験記(内閣府)
  • 「タレント土田正行」
ライフステージと
経済計画
    • 生涯を発達段階によって6つに区分することができることを知る。
    • それぞれに発達課題があることを知る。
    • 自分が高校生になるまでの教育費と、さらにこれからの教育費を知る。
    • 自分の一生を「金銭」で捉えなおす。
  • 人生の発達段階及びエリクソンの発達課題の一部を提示
パワーポイント【基本編】(14)(15)教育費
パワーポイント【基本編】(17)ライフイベントの経済課題
ライフステージとリスク 人生におこりうる経済的リスクを知る。 パワーポイント【基本編】(18)(19)
  • リスクをカバーする社会的な制度について次時に学ぶことについて連絡

3. 実践結果


平均寿命までのライフコースを作成することで、生徒は「今まで生きてきた時間は一生のなかではほんの少し」と気づき、現在から将来に向けて、見つめる未来の長さを伸ばしている感想が見られた。

「普段は気にしていなかったお金のことや自分の将来について考える機会が持ててよかったです。」
「人生お金がかかるんだなと思った。その分価値ある生き方しないとなーと思った。」
「生きていく中でのお金のサイクルも知ることができ、とてもためになりました。」
「人生なにが起きるか全く予想できないし、理想が現実になるとは限らない。けれど、少しでも理想に近づけるようにしたいなと思った。」

また、感想が示すように、時間と金銭という生活資源を一つの尺度として人生を捉え直すことができ、イメージしにくいはずの遠い将来の自己像を描きやすくなったといえる。

「自分だけでなく、誰かのためにも保険などはしっかり納める必要があると思いました。」
といった他者との関係の中から自分の生活課題を捉えていたものもいた。

現在の家事労働については、全く担っていないと答えたものが、約4割であった。
その一方で、「6人家族で親が共働きなので大変。洗濯・風呂掃除・食器洗いなど私がやるが、うざい。だるい。家に帰りたくないときもあるくらい」大変なこととすでに実感している声も上がった。

しかし、担っていると答えた生徒の多くは頼まれたら、あるいは気が向いたときに「手伝う」程度という実態である。

授業後の感想では
「家事労働は本当に大変なのにあまり手伝っていなかった自分が情けないと思いました。」
「家族みんなで分担しようと思った。」といった、家事労働が現在の自分の振り返りになるとともに、
「(現在は)ママに頼りすぎていると思う。(将来は)夫も自分も一緒に家事したい。」
といった、家事労働が将来の自己像を描く一つの指標となっていると考えられる。

授業の冒頭で、一人ひとりが立てたライフコースでは、将来結婚を選択するものは約8割で、そのすべてが出産を希望していた。 それに加えて、資料として「男性の育児休業制度」を扱ったためか、家事労働の中で育児に重きをおいた感想も目立った。

「二人の愛情を子どもに捧げるには、協力が必要。」
「夫婦の会話にもつながるし、家族全員で家事労働をやれば、子どもが将来大人になったとき、苦労しないし、家族の絆も深まる。」
「考え方とか違うのでいろんな知識・感性を教えるためにも夫婦の協力は必要。」
「二人でやればすぐ終わるし。時間に余裕ができる。」
といった時間の価値からの認識もあった。

家事労働を「生きていくために最低限必要なこと」「生活するためには必要なこと」としてとらえ、
家族で分担することで「皿洗いや洗濯の仕方を覚える」ことが、「コミュケーションを広げ、絆を深める」
とした他者との関係を意識していた意見が多数であった。

4. おわりに


本校は普通科4学級、生活科学科2学級を併設する全日制単位制高校である。2期制のため、4単位の家庭総合は前期に週6時間、後期に週2時間の授業を実施している。前期における2時間連続の授業は曜日によって学ぶ領域が異なり複数の教師で担当するため、領域は細分化される。

本実践は、家族・高齢者の領域という限られた中での報告である。食や衣のように実習・実験といった方法で体験的に学ぶとことよりも、「生活の科学的認識」や「生活の価値認識」を深めていく授業になることが多い領域である。

現在の生活とは時間的に離れたこれらの領域に、「家庭経済」の領域をくわえることで「金銭」という生活資源を手がかりとし、生徒はイメージしにくい概念を具体的に自分の生活に引き寄せて比較検討できた。その結果、時間や金銭、人・モノ・社会といった概念を構造化したり、それらの関連について概念の構築を促すことができた。

生活はひとりで営むことは不可能であり、その時代の社会との関係によって影響を受ける。一方、日々の生活における意思決定の積み重ねが生活を創造するなかで大きな比重を占め、個人の生活を形作る。したがって、主体的に生活を創造していくためには、意思決定能力を育むことが重要である。

授業で培われた「生活の科学的認識」や「生活の価値認識」を土台に、現在の生活における課題解決への実践に展開させるには、他者とのかかわりだけでなく、社会とのつながりを自覚させる学習内容を取り上げる必要がある。

今後は家事労働の金銭的価値や女子のM字型労働曲線についての資料などを用いることで、社会問題としての関係を認識させる展開を試みることで、生活を創造する視点が育まれていくのではないかと考える。

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