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中学校社会科〔公民的分野〕学習指導案
-共創を育む公民的分野の授業づくり-
  web.06
(2009.10【1】)
名古屋市立城山中学校 森 健二 先生

1. はじめに

昨今、日本では年金や格差の問題が大きくクローズアップされている。少子高齢化や経済のグローバル化が進む中で、今後人々の生活や権利をどう維持・向上させていくのか、その方法がなかなか見つからない状況である。

また、世界に目を移せば、地球温暖化の問題が従来以上に深刻かつ身近な問題となってきた。日本としても、解決に向けて国際社会に対し早急に働きかけを行う必要があるが、どんな方法がよいのか模索しているところである。

このように現代社会では、対応が早急に迫られているものの、解決が困難な問題がいくつも起こっている。しかも、これらの社会問題は生徒自身が将来に向けて、真剣にその解決の道筋を考えなければならないものばかりである。

こうした時代に、公民的分野の学習でめざす共生社会とは、年金や資源エネルギー問題のように、だれもが解決の必要を認めながらも、立場の違いにより意見が対立している問題の解決に向けて、互いの主張に耳を傾け、それぞれの見方や考え方を持ち寄りながら解決に努力しようとする社会である。

そこで共生社会を実現するために、共創を育む公民的分野の授業づくりを以下のようにしたいと考えた。

(1)現代の社会問題について、何が問題解決を妨げているのかを各自で考えさせる。
(2)次に、それぞれの意見を出し合い、問題のとらえ方や解決の方策について異なる考えがあることをつかませる。
(3)さらに各立場の間で、どんな条件を出し合えば合意することができるのかを考えさせる。
(4)そして、将来にわたって人々が安心して生活できる社会制度・環境づくりをどのように構築していくとよいのかを模索させていく。

こうした考えに基づいた授業を繰り返し行うことによって、現代社会が抱える問題を自分の問題としてとらえ、見方や考え方の違いを乗り越え、共に生きる社会の実現に向け、社会の形成者として自分の生き方を問い続ける生徒が育成できると考える。

2.単元〔国民生活と福祉〕について

これまでわが国では、国民皆年金の制度や介護保険制度など、福祉の向上を図るための しくみが整えられてきた。これらの社会保障制度は、私たちが安心して生活を送るために重要な役割を果たしているにもかかわらず、問題点が大きく報道されてきたこともあり、制度自体を否定的に考える者も少なくない。

本単元では、年金問題を教材として取り上げ、様々な立場の声を聞きながらその改善策を追究させる。

この活動を通して、様々な資料を適切に収集、選択して事実を正確につかみ、財源の確保と配分など国や地方公共団体が果たしている経済的な役割をとらえる。さらに、少子高齢化を踏まえた今後の社会保障制度のあり方について、自らがかかわる問題として考えることができるようにする。

3.本単元で扱う教材

(1)教材
年金問題

(2)教材の意義
・年金制度の改正が大きく報道されるようになり、生徒の関心は高まっている。
・国民年金保険料の納付が20歳から始まるため、そのしくみを理解させることが急務である。
・年金問題がよく議論されるようになった現在、この問題は、生徒の見方や考え方、思いや願いがゆさぶられやすい教材として取り上げることができる。
・国民年金制度について、財源の確保という視点から考えるとともに、この制度の理念である相互扶助の考え方を学び、少子高齢化を踏まえ社会保障制度のあり方を考えることにより、個人と社会とのかかわりを理解することができる。
・共によりよく生きるための新たな方策を創り出すことにもつながり、人間の生き方を問い続ける上で意義深い。

4.目標

国民の生活と福祉の向上を図るために、国や地方公共団体が果たしている役割を理解することができる。(知識・理解)
国民年金制度のあり方について、他の考えと比較し、財源の確保や少子高齢化への対応という視点から考えることができる。(思考・判断)
わが国の社会保障制度のあり方について、だれもが安心して生活することができる社会を目指して、個人と社会とのかかわりを踏まえて考えることができる。 (思考・判断)

5.指導計画(全7時間)

主な学習活動 場面 指導上の留意点
〔第1時〕
(1)年金に関する問題を知る。
○映像資料から「消えた年金問題」について知り、年金で生活する高齢者の生活に関心をもつ。
○保険料納付率の資料から、国民年金の未納率の高さをとらえる。



・65歳になった時の自分の家族構成、就業状況を考え、収入・支出を予想させる。
・現在の 65歳以上の就業率の資料を提示する。
・現行の年金制度のあらましをとらえさせ、現役世代の納付を基に高齢者への年金が支払われているシステムに気付かせる。
〔第2時〕
(2)国民年金をはじめとしたわが国の社会保障制度や税のしくみをとらえる。
・憲法第25条の生存権を基に、社会保険・社会福祉・公的扶助・公衆衛生といった社会保障制度が整備されていることをつかませる。
〔第3時〕
(3)国民年金のしくみを知る。
○愛知社会保険事務局職員から現在の国民年金のしくみを聞く。


・国民年金のしくみの具体例をはじめ、世代間扶養の考え方などについてつかませる。
・諸外国の年金制度についても簡単に触れる。
〔第4時〕
(4)国民年金制度に対する高齢世代や現役世代の思いを知る。
○身近な高齢世代・現役世代に聞き取り調査を行う。
○聞き取り調査の内容を発表し合い、国民年金制度に対して様々な立場や考えがあることに気付く。
・現行の年金制度に対する考え、経済的不安、医療費や突然の出費など、高齢世代や現役世代の声を聞き取らせ、発表させる。
・ワーキングプアとよばれる人々の実態を提示し、保険料を払えない状況を理解させる。
・聞き取り調査の内容が偏っていた場合、様々な立場や考えをまとめた補充資料を配布する。
〔第5時〕
(5)高齢世代・現役世代の立場に分かれて、現在の国民年金制度について話し合う。
(6)各立場に立って国民年金制度の改善策を考える。



・同じ立場の生徒同士でグループ編成し、国民年金制度のメリット・デメリットについて話し合わせる。
・メリット・デメリットを踏まえ、国民年金制度の改善策を考えさせる。
〔第6時〕
(7)高齢世代・現役世代の各立場から国民年金制度の改善策を発表し、その内容について話し合う。
○同じ立場の生徒同士で考えた改善策を発表する。
○発表された改善策について、それぞれの立場から意見を出す。
・各立場のグループの代表者に国民年金制度の改善策を発表させ、立場による考えの違いを明らかにさせる。
・相手の立場の改善策を聞き、納得できる点、納得できない点を明らかにさせながら話し合わせる。
・立場は異なっていても、だれもが安心して生活できるように願っていることに気付かせる。
(8)国民年金制度に対する立場を越えた共通する思いと制度を維持・発展させるための課題を確認する。
○話し合いの中から立場を越えた共通する思いに気付き、課題を確認する。
(9)これまでの話し合いを踏まえ、課題をどのように解決すべきか話し合う。
・制度を維持・発展させるためには、財源の確保や少子高齢化への対応が大きな課題であることをとらえさせる。
・話し合うグループを変更することで、改善策に対する認識を深め、解決が簡単ではないことを理解させる。
〔第7時〕本時
(10)国民年金制度にこだわらない高齢者福祉のあり方を考える。
○諸外国の社会保障制度についてつかむ。
○日本で現状の国民年金制度がなかったとしたら、どんな方策が必要かを考える。



・アメリカの社会保障制度の背景や、皆年金ではないしくみのメリット・デメリットを考えさせる。
・諸外国の社会保障制度の資料から、すべての人が安心して生活できるために必要なしくみを考えさせる。
○日本で国民年金制度が始まった社会的背景を考える。 ・国民年金制度発足時の背景や高齢者の思いをとらえさせる。
(11)だれもが安心して生活できる社会をつくるためにどうすべきかを考える。 ・高齢者福祉の問題に対し、自分たちの将来にかかわる問題として目を向けさせる。

6.本時の指導(7/7時)

(1)目標

・国民の生活と福祉の向上を図るために、国や地方公共団体が果たしている役割を理解することができる。
・わが国の社会保障制度のあり方について、だれもが安心して生活することができる社会を目指して、個人と社会とのかかわりを踏まえて考えることができる。

(2)学習過程

時間
配分
学習活動 教師の活動
3分 1 これまでの学習を振り返る。 ・これまでの話し合いで、意見が分かれた点について確認させる。
  現在の国民年金制度の維持にこだわらない高齢者福祉のあり方を考えてみよう
12分 2 皆年金としての国民年金制度を今後も維持すべきか考える。
(1) ロールプレイングにより、アメリカの社会保障の概要について確認し、自己責任が重視されている現状をとらえる。
(2) 日本で皆年金のしくみがなかった場合、高齢者が困らないようにする方策を話し合う。
・2人で一つのグループを編成しておく。
・様々な国の社会保障に関する資料から、アメリカと日本の社会保障制度について比較し、そのメリット・デメリットを考えさせる。
・皆年金としての国民年金制度は本当に必要かどうかを考えさせ皆年金のしくみがない場合、どのような方策が必要かを、配布した資料を基にして話し合わせる。
  高齢者にとって安心して生活できる社会とは何だろう
20分 3 国民年金制度が始まった理由や時代背景を再確認し、高齢者にとって安心できる社会について考える。  
(1) 日本で国民年金制度が始まった経緯や国民皆年金とした理由を、資料で確認する。
(2) 高齢者の方のビデオレターから安心して生活できる社会に対する高齢者の思いを知る。
(3) 今後の日本が目指すべき高齢者が安心して生活できるしくみについて考える。
・ 1961年の国民年金制度実施時、1986年の20歳以上加入義務化時の社会情勢を確認させる。
・ 高齢者と現役世代の相互扶助の精神が制度の根幹として位置付けられてきたことを確認させる。
・ 高齢者が安心して生活していくために求めていることが、経済的な部分だけではないことに気付かせる。
・ 今後の国民年金制度のあり方を含め、高齢者が安心して生活できるようにするためにはどのような方策が必要かをまとめさせる。
・ 高齢者にとって安心できる社会制度を築くことは、すべての人たちの生活の安定にもつながることに気付かせる。
  だれもが安心して生活できる社会をつくるためにどうすべきかを考えよう
15分 4 だれもが安心して生活できる社会をつくるためにどうすべきかを考える。  
(1) 社会保障制度のあり方を考える場合、どのようなことについて考える必要があるかをまとめる。 ・これまでの授業から、社会保障制度のあり方を考える際に必要な視点を振り返らせる。
・生徒の考えを発表させ、高齢者にとって安心できる社会制度を築くことは、すべての人たちの生活の安定にもつながることを確認させる。
(2) だれもが安心して生活できる社会をつくるためにどうすべきかをまとめる。 ・だれもが安心して生活できるようにするための自分の役割を考えさせる。

(3)評価の観点と方法

評価の観点 評価の場面と方法 学習活動における評価規準
知識・理解 プリントへの記述、話し合いでの発言内容から分析 国民の生活と福祉の向上を図るために、国や地方公共団体が果たしている役割について理解することができる。
思考・判断 解決策の内容、話し合いでの発言内容から分析 わが国の社会保障制度のあり方について、だれもが安心して生活することのできる社会を目指して、個人と社会とのかかわりを踏まえて考えることができる。

7.資料

(1)アメリカ合衆国の社会保障制度

○概要
アメリカでは、原則として政府が個人の生活に干渉しないという自己責任(自助)の精神が尊重されており、わが国の生存権のような規定がないことから、先進国中唯一、国民全体を対象とする公的医療保障制度がなく、社会福祉・保健医療サービスの分野では、州政府が政策運営の中心的役割を果たすものが多い。

○社会保障制度
代表的な制度としては、4,000万人以上の国民の所得保障を行っている老齢・遺族・障害年金(OASDI)、老齢年金受給者、障害年金受給者及び慢性腎臓病患者を対象とするメディケア、公的扶助制度として老齢者及び障害者を対象とする補足的所得保障(SSI)及び児童を扶養する家庭を対象とした要扶養児童家庭扶助(AFDC)があり、公的扶助受給者等を対象にメディケイドとよばれる医療扶助制度が設けられている。

○問題点
アメリカにおける公的医療制度は、メディケアとメディケイドの2種類で、これらに該当しない一般の人々は、民間の保険会社より医療保険を商品として購入しなければならない。無保険者(約4,400万人)問題の解決に向けて、全国民対象の公的医療保険制度の成立が待たれている。また、老人介護問題の地域格差も問題となっている。
*参考文献「米国の社会保障制度」吉平龍司

(2)スウェーデンの社会保障制度

○児童・女性の生活保障
・就学前の子ども全員が入れる保育所が整備されている学童保育は小学校併設。
・育児休暇は480日間、うち390日間は給料の80%の手当金を支給。
・所得に関係なく、16歳まで月額12,000円(多子加算)の児童手当を支給。
・18歳まで住宅手当を支給。

○成人の生活保障
・年次有給休暇制度は5週間。年休1週間を5年間積み立てると10週間の休暇。
・医療制度は、税方式による公営サービスが中心。一部自己負担。

○高齢者の生活保障
・所得に比例して受給できる。国の税財源による保障年金制度もある。
・高齢者を寝たきりにさせない福祉サービス、ホームヘルパーが充実している。
・高齢者が地域で暮らせるために、在宅医療・在宅福祉が整備されている。
*参考文献「スウェーデンの家族と少子化対策への含意」内閣府経済社会総合研究所

8.おわりに

公民的分野における授業づくりにおいては、下記の要件を考慮した。

【要件1】自然や社会とのかかわりがとらえやすい
将来にわたって安心して生活できるための手だて・方策を考えながら、問題解決にあたって生徒が積極的にかかわろうとするような事象を教材化する。その中で、食料自給問題や年金問題など、自然環境や社会環境にかかわる、今日早急に解決が求められている問題を取り上げた。

【要件2】人間の生き方とのつながりが追究しやすい
解決を目指す人々の営み・苦労をつかみ、社会を構成する一人の人間としてどう生きるかを考えていくことができるような事象を教材化する。その中で、人権・環境など今日的な社会問題の解決に向けて取り組む人間の姿を取り上げた。

【要件3】見方や考え方、思いや願いがゆさぶられやすい
総論としては意見が一致していても、具体的な対応となると解決に向けて立場や考えの違いから合意するのが難しい事象を教材化する。その中で、資源エネルギー問題のように、これまでの今日的問題に対する自分の見方や考え方をゆさぶり、解決に向けたかかわり方を考えていくことができる事例を取り上げた。

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