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ビジネスアイデアの提案を通じて企業の社会的責任について考える
〜「トレーナビリティ」から「トレーサビリティ」の時代へ〜
  web.11
(2010.2)
同志社香里中学校・高等学校 藤井 宏樹先生

1. はじめに 

2008年8月の「教育の現場から」に、「体験活動を伴う諸教育の効果に関する考察〜高3経済『宅配便から社会を見る』の実践を通して〜」を投稿させていただいた。今回はその続編である。

当時、米国でサブプライム・ローン問題が顕在化し、経済情勢はすでに不安定なものだったが、9月に発生したリーマン・ショックは世界金融危機に発展し、多くの国々が緊急対策を強いられた。

日本では、小泉構造改革以降、従来の枠組みが大きく変わってセイフティネットのほころびが目立つ一方、何事においても自己責任が問われるようになり、長引く不況によるリストラや派遣切り、非正規雇用の急増等によるワーキングプアの増加、就職難によるニート・フリーターの増加、若者の多重債務問題等が大きくクローズアップされるようになった。安定成長期からバブル経済崩壊までの「一億総中流」の時代とは打って変わって、「相対的貧困率」が15.7%(2007年度)と先進国の中で最も高い国になった。1)

それだけでなく、社会生活そのものや、子どもたちを取り巻く環境、教育においても格差が広がり、明るい未来をイメージできない人が増えてきた。2)このような社会背景を鑑みたとき、これからの日本を支えていく若者に必要な資質や技能が従来と異なることは明白であろう。そこで、本稿では、どのような資質や技能が求められているのか、また、そのために学校教育には何が求められているのかという点について考えてみたい。

それを紐解くヒントとして掲げた「『トレーナビリティ』から『トレーサビリティ』の時代へ」というサブタイトルについて説明しておこう。「トレーナビリティ」はスポーツ・トレーニングに関する用語で、「トレーニングによって伸びる体力、技術、精神力の可能性、つまり適応の限界」3)のことであり、一方の「トレーサビリティ」は、「生産、加工及び流通の特定の一つまたは複数の段階を通じて、食品の移動を把握できること」4)である。全く異なるこの2つの言葉を結びつけるものは何であろうか。

戦後の復興から高度経済成長期において、日本経済を発展させた要因の一つは、安価で優秀な労働力の存在である。「金の卵」や「モーレツ社員」など、当時の状況を表すことばも少なからず残っている。その背景には、日本型の雇用慣行、すなわち、終身雇用制と年功序列型賃金制を前提とした「会社」の存在があった。厳しい競争社会にあって、それぞれの会社が「優秀な人材」を求めるのは至極当然のことであり、今後も変わることはないであろう。

しかし、「優秀な人材」の意味するところは、時代とともに変化しているのである。大雑把過ぎるということを承知のうえで敢えて分けるとすれば、バブル経済が崩壊するまでは、多くの企業が新規学卒者を採用し、社内研修やOJTでそれぞれの企業風土にあった「社員」をつくることに注力していたといえよう。

新規学卒者に求められたのは、即戦力としての知識やノウハウ、あるいはさまざまな技術などよりも、教えられたことを吸収する力、いわゆる「地頭力」や、柔軟性、協調性などである。つまり、当時の日本企業はまさに、トレーニングによって「企業戦士」に育て上げることを前提にして、トレーナビリティ(訓練可能性)の高い若者を採用しようとしていたのである。企業が採用にあたって1つの指標として利用したのが学歴である。

すなわち、学校でなされる知識注入型の授業を大人しく聞き、課題やテストを既成のものとして受け入れ努力する生徒・学生であれば、会社に入ってからでも大丈夫という認識であろう。そこで企業は、出身校や偏差値を1つの判断基準として割り振りした。「学歴社会」や「受験地獄」という言葉が広まったのはこの頃である。

それゆえ、学校教育の活動内容そのものに対する期待はそれほど高いものではなく、むしろ、学校(教育の世界)と会社(経済界、一般社会)は別であるという認識のほうが強かったのではないだろうか。これは石油危機後の安定成長期からバブル経済崩壊直前まで、ほとんど変わることがなかったのである。

しかし、バブルがはじけ、業績不振に陥った企業は、新入社員の研修にかける費用や時間的余裕が無くなり5)、「能力開発は『従業員個人の責任』と考える企業の割合が増え」6)ている。一方、若者たちの会社や仕事に対する意識も変わり、「会社に対する帰属意識」7)や「職場に対する貢献意識」8)が低下している。また、新規学卒者の早期離職率が高まり、3年以内に離職する者が大卒者で34.7%、高卒者では48.6%となった9)

実際に、企業が従業員に対して行う職業教育訓練は、国民生活白書によると「バブル崩壊後の90年代に大きく実施率が低下している。また、費用面でも、企業の教育訓練に係る支出は減少する傾向にある。(中略)このように90年代から企業の職業教育訓練は縮小傾向にあり、これは企業がかつてのように長期的なつながりを前提とした人材育成を行わなくなってきたことを裏付ける結果となっている。」10)

このように「会社」と「社員」の関係はドラスティックに変化し、企業は即戦力を求めるようになった。今までと違い、何を学んできたかではなく、何ができるかを問うようになった。こうなると、「豊かな学び」や「輝くこども」など、学校現場で大切にしてきた理念やことばに理解を示さなくなり、より具体的な手立てを求めるようになった。

そこで、産業界の要請もあって、各省庁が「○○教育」を打ち出し、社会に出たらこういう力が必要になるので、このような教育を普及させましょうというキャンペーンを繰り広げた。それが「起業家教育」や「金融教育」、「経済教育」、「キャリア教育」、「シティズンシップ教育」等である。

しかし、各省庁には教育活動のノウハウがないため、モデル校を指定したり、モデル授業を行うよう要請した。こうしてそれぞれが目指す教育プログラムの開発を後押しし、その普及に努めたのである。

言うまでもないことであるが、教育効果はすぐに表れるものではなく、また、厳密に測定することも容易ではない。しかし、先述したように「豊かな学び」などの抽象的な表現だけでは、学校と社会(産業界)を有機的に結びつけて効果のある教育活動を行うことは困難である。そこで、学校と社会が共通のことばで語ることができ、その効果もある程度目に見えるように、いわゆる「見える化」することが必要になってきたのである。

すなわち、これは究極的には個々の生徒が受けてきた教育活動の内容を明らかにできるようにするということである。このことを食品の流通などで注目されている「トレーサビリティ(追跡可能性)」になぞられたというわけである。すなわち学校教育においても、「トレーナビリティ」だけでなく、「トレーサビリティ」が求められる時代になってきたということである。

しかし、但し書きに「あくまでも食品の追跡ができるようにしておくことであり、そのことで直ちに安全が確保されるものではない」11)と書かれているように、トレーサビリティできているので安全であると理解するのは間違いである。同様に、教育の世界でのトレーサビリティは、個々の生徒の「学力保証」を指しているのではない。
持続可能な社会の実現という目標に向けて、学校と社会が共通のことばで語り合い、手を携えて努力していくための前提となるべきことと理解していただきたい。

前回は、起業家教育などの体験活動を伴う諸教育の意義を明らかにするために、金融教育、経済教育、キャリア教育、シティズンシップ教育等の用語を整理し、21世紀を担う生徒たちにいかなる資質、意識、能力を身に付けさせれば良いか、という点を明らかにした。そのうえで、筆者が開発したプロジェクト型学習「宅配便から社会を見る」を実践し、どの程度効果があったかについて考察した。

参考資料1(PDF)

今回は、これらの資質や技能などを育成するのに、他にも有効な体験活動があるのではないかということを仮説とし、特定の資質や技能を育成するためには、いかなる活動が有効なのかについて考えたい。そこで、「ビジネスアイデア作成」のほか、一年間の学習活動全体の分析を通して、活動内容と資質や能力との相関関係を明らかにしたい。

1)〜11)についてはこちら

2.2008年度の実践

政権交代が決まった衆議院議員総選挙の翌々日、永田町の一角で消費者庁が発足した。
その背景には「顧客第一主義」や「企業の社会的責任(CSR)」が意識されるようになった昨今でも、偽装問題や悪質商法等の問題が頻発している現状がある。また、中高生をターゲットに派手な宣伝や複雑な割引制度等で早めに顧客を囲い込もうと躍起になっている企業に対して、あまりにも無防備な生徒が多い。
若者の多重債務等の問題も増加しており、消費者教育・経済教育等の重要性は日に日に増している。

しかし、個々に対処する力を身に付けさせるためには、消費に潜む危険性や悪質商法の例を細かく説明するだけで事足りるというものではない。そこで、商品やサービスを提供する企業の側に立って考える活動が有効であると考え、社会との関わりの中で学ぶプロジェクト型学習に取り組んできた。

今回、ビジネスアイデアの作成をメインに据えたのは、「CSR」を抜きにビジネスは成功しないということを理解させたかったからである。
そのためには消費者の視点が重要であること、マーケットリサーチやモニタリングを通して得た情報を的確に分析し、新商品やサービスの開発につなげていかなければならないということ等を理解させる必要がある。また、メディアリテラシーと知的財産権教育を兼ねてテレビコマーシャル用絵コンテの作成を課題とした。

生産者の立場でコマーシャルの原案を作成することで、誇大広告を見抜く力や、宣伝等によって不必要な商品を買ってしまう依存効果に陥らないように注意することができるようになると考えたからである。

(年間活動概要)
1学期前半:経済の基礎概念
1学期後半:「宅配便から社会を見る」 詳細はこちら
夏休みの課題:「ビジネスアイデア」作成、小論文作成等
  (1) 社会に貢献できる新商品や新サービスを考え、企画書を作成する。
  (2) 国税庁の「税の作文」、JICAのエッセイコンテスト、金融広報中央委員会「『金融と経済の明日』小論文コンクール」、野村総合研究所「NRI学生小論文コンテスト」のいずれかに応募する。
2学期前半:「ビジネスアイデア」の評価と再検討、コンテストへの応募
2学期中盤:「企業の社会的責任を考える」
  単なるCSRの事例紹介ではなく、生徒自身が関わっている社会的ジレンマの状況のなかで、社会的責任消費(SRC)を含めて自分に何ができるか、何をしなければならないかということを考えさせることができるものとしてパーム油を取り上げた。
2学期後半〜3学期:ケーススタディ、税の学習、ゲーム理論・シミュレーション・企業家精神
  (1) ケーススタディ :経営コンサルタントになったつもりで改善策を提案する。
  (2) 税に関する学習 :枚方税務署総務課藤本氏のご講演 「日本の財政と税の役割」
  (3) ゲーム理論(囚人のジレンマ等)を学ぶ。
  (4) シミュレーション教材を用いて学ぶ。 :「やってみ店長!」(株式会社アントルビーンズ)等
  (5) 企業家精神を学ぶ :大阪企業家ミュージアムで企業家を調べ、企業家精神について考える。
1年間を通して
  株式学習ゲームや日経ストックリーグに参加する。
参考資料2(PDF)

3.ビジネスアイデア

< 企画書(アイデアシート)の項目 >
(A) 商品の概要と開発コンセプト
  (1)提案する商品・サービスの名称
  (2) セールスポイント、従来品との違い
  (3) 商品・サービスの説明+イメージ図
  (4) 開発コンセプト
  (5) アイデアを思いついたきっかけ
  (6) 解決できる問題
  (7) 主なターゲット
  (8) 予定販売価格
(B) 現状分析と将来予測
  (1) 社会の現状・変化・将来予測
  (2) 同種・競合・関連商品の売れ行き等
  (3) 消費者のニーズ
(C) 実現に向けて
  (1) 同種・競合・関連商品との差別化
  (2) 開発にあたってクリアすべき問題
  (3) 原材料および製造コスト(概算)
(D) 自己評価のポイント(5点満点)
  (1) アイデアの独自性・新規性・インパクトは
  (2) 思い付きでなく、現状分析はできているか
  (3) 開発コンセプトやターゲットは的確か
  (4) 顧客満足度や社会貢献度はどうか
  (5) 実現可能性はどうか
  (6) 総合的に判断するとどの程度か
< ビジネスアイデアの相互評価 >
夏休みの課題として作成してきた各自のビジネスアイデアを、以下の10項目について5点満点で評価し、コメントを書く。10〜15分で順次交換し、3人の生徒から評価を受けた後、本人が自己評価を行う。
  (1) アイデアの着眼点・発想力、新規性・ユニーク性
  (2) 資金面での現実性・実現可能性
  (3) 知識・技術面(研究開発など)での現実性・実現可能性
  (4) 法律面(許認可・合法性など)での現実性・実現可能性
  (5)公共性・社会貢献の度合い
  (6)マーケットリサーチ … 現状分析・ターゲット顧客・規模・価格・売上目標
  (7)競争相手に勝つための戦略、販売戦略等
  (8)課題に取り組む意欲・態度は?
  (9)記述や図はわかりやすかったか?
  (10)総合的な判断 … 企画が成功する可能性
   
< プレゼンテーション大会 >
  (1)1分間プレゼンの原稿を書く前の材料探しとして、相互評価で気付いたことや企画作成でこだわったこと、プレゼンテーションで強調したいことを書き出す。
  (2)1分間プレゼンの原稿(400字)作成
  (3)クラスごとにプレゼンテーション大会を行う。1人1分ずつプレゼンを行う。
  (4)相互評価を行う。
他の生徒はビジネスアイデアの内容とプレゼンそのものの出来具合をそれぞれ10点満点で評価し、コメントを書く。
   
< テレビコマーシャル用絵コンテ作成 >
  (1)自分のアイデアを売り込むために、テレビコマーシャルのアイデアを考える。
  (2)15秒分のストーリーと場面展開を5コマの絵で表現する。
  (3)使用する音楽、字幕、登場人物に語らせる台詞やナレーション等についても指定する。
  (4)生徒の作品は、有限会社カヤ代表取締役平井良信様(映像プロデューサー)に審査していただく。
  (5)上位5作品には、実際に映像化する場合にどれくらいの経費がかかるかを記した本物の見積書を作成していただく。
  (6)見積書を印刷して全員に配布し、どのような項目があるのか、また著作物に対する知的財産権にどの程度の経費が必要なのかという点を確認する。
   
< コンサルテーションとコンテストへの応募 >
  (1)武田経営研究所の武田秀一様(経営コンサルタント)からアドバイスをいただく。 ビジネスアイデアの内容に対するブラッシュ・アップのほか、コンテスト応募用紙の書き方等について授業していただく。特に、大学生や一般を対象にしたコンテストは「ビジネスプラン」として、資金繰りや収支の見積もり等も含めた3年間分のバランスシートの提出が義務付けられているので、この点について教えていただくことが中心となっている。
  (2)大阪商業大学や帝塚山大学が主催している高校生対象のビジネスアイデアコンテスト、同志社大学のビジネスプランコンテスト(大学生対象)、横浜ビジネスグランプリ(一般)等に応募する。
   
< 講演 >
  学生時代に起業された株式会社旅のお手伝い 楽楽 代表取締役 佐野恵一様に、「起業したきっかけとビジネスアイデアについて」というテーマで講演していただいた。ご講演の要旨は以下の通りである。

足が不自由になられた祖母と一緒に家族で温泉旅行に行った。わざわざ「バリアフリー」を売り(セールスポイント)にしている宿を選んだのだが、スロープや手すり等はついているものの、本当に必要な入浴の介助をお願いしたところ断られた。仕方なく母が1人で祖母を介助しながら入浴した。普段、介護で疲れている母のためにと思って行った旅先で、余計疲れさせてしまうという出来事を経験し、このように必要とされているサービスがないのであれば、自分が提供する側になろうと決めた。そのアイデアをビジネスプランに高め、同志社大学のコンテストに応募したところ、運よく優勝した。

その後、いくつかのコンテストで優勝し、その賞金等を元手に3回生のときに今の会社を興した。地道なフィールドワークや営業活動のほか、何度もマスコミで取り上げられたこともあって、協力を申し出てくれる企業、旅館やホテル、レストランや土産物店なども増え、京都の旅も充実してきた。「行けるところではなく、行きたいところに」をコンセプトとして、必要であれば介護士や看護師も同行するオンリーワンの旅を提供している。

ただ、本当のバリアフリーを提供している旅館等の情報を発信したり、旅行プランを作成してお客様によろこんでいただくだけではなく、このような不便さが残る世の中、特にネックになっている介護保険制度の改正に向けて活動していく必要性を痛感し、現在は会社経営の傍ら、大学院生として研究活動にも励んでいる。

4. 成果と今後の課題  ※下線は筆者によるもの

<  「ビジネスアイデア作成」に対する生徒の感想 >
ビジネスアイデアを考えることは、問題を見つけるだけでなく、便利にしようという社会貢献にもなると思った。(女子MK)
ビジネスアイデアを考えることで、今の社会の現状や不便さなどを一度見直して発見できました。いつもと違う見方で自分の周りを観察していくのは良いことだと思いました。ビジネスプランを考えたことによって、「社会を良く見る力」というものが鍛えられたと思います。今、現代社会は何が必要だろう。今、消費者である私たちは何を求めているだろう、と周りを見ながら探しました。自らのアイデアを吟味し、勧めていくことがとても難しいことがわかりました。これから大学生、社会人になって行く中で自らの考えをまとめ、主張していく難しさと大切さを知ることができました。(女子KT)
この授業でアイデアに対する思考力と経営の基礎が身に付いたと思う。今後はこの経験を生かし、さらにアイデアを熟考し、数多くの環境問題を解決するビジネスプランを作成したいと考えている。(私の「経営理念」は)環境にやさしい商品・サービスを提供することで地球に生きるすべての生き物との共生を目指す。また、貴重な資源を使わず持続的な発展を目指す。(男子YK)
具体的なプランニング、金額を記していくと思った以上に利益を上げるということの難しさが分かってきた。詳しく数値目標を決めるということが大切であるのでこれからの生活にも生かしたい。(男子KU)
現存する商品・サービスでも足りない点や問題点があり、そこをどのように解決するかによって新しいモノが生まれるということを学んだ。その問題点などを見つけたときにどのようにすれば解決するかを考えることが大切だとわかったので、社会に出たときにじっくり考えることをしていこうと思う。(男子DI)
今回のビジネスプランでいろいろなことを一から調べていき、アイデアを組み立てていった経験は後に生かしていけるものだと思う。注意せずに見れば商品価値のないものでも、見る人が見ればそれはビッグビジネスに繋がるものになる。そのような目を持つ人になりたい。(男子TO)
普段あるいは何かしたときのちょっと不便だと思ったことが、違う点から見たら、ビジネスにつながることもあるんだなあと思いました。まず、自分が動いてよい方向に向かって行くように努力しないといけないんだなあと思いました。(女子SH)
   
< プレゼンテーション大会に対する生徒の感想 >
1分という短い枠の中で自分が表現できる最大の事を紙に書いたはずなのに、前に出ると「もっと良く伝えたい」との気持ちが出てきた結果、急に付け加えることになり、構成が少し思い通りにいかず、文章の順がバラバラになり未熟さを感じました。また、他の人のアイデアにはクリエイティブなものが多い中で、既存のものをどうレベルアップさせるかと考えたので制約もあり、キツイ面もありました。(男子SY)
伝えることの難しさを改めて実感しました。1分間という時間の中で、どこを見てもらいたいか、何を感じ取ってほしいか。それを伝えるにはまだまだ練習が必要だなと思いました。やはりうまい人の話を聞いていると、何だか楽しくなりました。(女子YY)
   
< 「講演」に対する生徒の感想 >
「会社は世の中をHappyにするためにある」この言葉は本当に素晴らしい言葉だと思います。将来、この言葉を言える人間になりたいなあと思いました。(女子KO)
人の役に立つために立ち上げた仕事なのでとても尊敬します。お金儲けをしたい、金持ちになりたいという邪心があると駄目だということに気づきました。この世の中をもっと便利にしたいです。(男子HN)
私が話を聞いた中で一番印象を受けた言葉は「やってみるから全てが始まる」でした。佐野さんが初めてその言葉を聞かれたとき、素直にその言葉に従って行動に移してみるところが素晴らしいと思いました。私ならきっと失敗がとても怖くて、やろうと思っても実際に行動に移す勇気はないと思います。それと、私はビジネスはお金を儲けるためにためにあるものだと思っていました。しかし、それは違っていて、1番に考えなければならないことは、ビジネスで私たちの社会の中のどのような「不」を取り除くことができるのかだということに気付かされました。(女子SK)
すごい偶然が重なり合って成功しているんだなと思いました。人のことを考える気持ちだけで本当に起業して成功することができるんだ!!と驚きました。お金よりもアイデアとか気持ちとか行動力とか見えないものが大切なんだと思いました。(女子MK)
なぜ”学生の特権を生かすべきなのか”、学生の特権が何なのか、今までよくわからなかったのですが、具体的にお話の中で教わってすごい特権を持っているんだとわかりました。同時に、本当に大学の4年間で何をするべきかをしっかり考えることがとても大事なんだと気づきました。佐野さんのように、人のために働いて会社を起業するということができるのは、社会において一番の理想の形だと思います。(女子SN)
会社を立ち上げることは難しいと思っていたが、話を聞いて少し実現しそうだと思った。ふと思っていることが、行動すればビジネスになることがわかった。(女子SI)
この授業を通して、日頃の不便を便利にできたらという視点で物事を見るようになり、想像力が少し身に付いたと思う。新サービスは世の中の不を解消することがモットーだと感じた。(男子HM)

< 資質や技能に関するアンケートより > 
授業を受けた生徒自身が、どの程度資質や能力を身につけることができたと実感できたか、ということを明らかにするためにアンケートを実施した。 取り上げた資質や技能は、体験活動を伴う起業家教育、消費者教育、金融・経済教育、キャリア教育等を推進する団体の目標に掲げられているもので84項目ある。

まず、「(1) 社会に出る段階で、どの程度身に付けておくべきだと思うか」を10段階で評価させた。「行動力、実行力」が平均で9.1ポイント(以下、数値のみ)、「コミュニケーション力」、「自己責任」、「決断力」、「忍耐力、最後まであきらめない力」の4項目が8.9、次いで「責任感」が8.8であった。自分が激動の社会で生きていくために必要な「力」をかなり重視しているといえよう。一方、「共感」が6.6、「感動する心」、「ボランティア精神」、「世論形成、政策決定」、「WIN-WIN思考」が7.1と低かった。これらは社会を豊かにする考え方という見方ができるものである。

次に、「(2) あなた自身は現在どの程度身に付いていると思うか」というアンケートでは、「感謝する心」が7.5で最も高く、次いで「物やお金を大切にする心」が7.0だった。低かったのは「政治への参画」が4.6、「社会に参画し変容する力」、「紛争を解決する力」が4.8と、いずれも政治に関するものであった。

「宅配便から社会を見る」の授業終了後、「(3) 授業を終えた今、あなた自身はどの程度身に付いていると思うか」というアンケートをとり、プログラム実施前後の差を比較した。一番高かったのが「学習意欲」の0.62、次いで「自主・自立心、自己責任意識」の0.56、「労働意欲」の0.47で、「自己に関する意識」であった。
また、「社会に関与し貢献しようとする意識」(0.54)、「仕事上の役割、仕組みや進め方を理解する」(0.46)等、「仕事や社会に対する意識」に関する項目でも高い値が出た。「自己…」、「仕事…」とも13項目ずつ、計26項目あるが、全84項目中変化(身に付いたと自覚できた度合い)が大きい20項目のうち、15項目がこれらのジャンルであったということを記しておきたい。

< 資質や技能の育成と活動内容との関連 >
育成すべき資質や技能と諸活動との関連を明らかにするために、前述の84項目に関して、「これらを身に付けるのに最も効果があったと思う活動を1つ選びなさい。」というアンケートをとった。

活動内容は前回報告し「宅配便から社会を見る」が11種、ビジネスアイデア関係が7種、他にケーススタディ、株式学習ゲーム、シミュレーション教材、その他の授業等、23種に分けた。 アンケート結果はこちら(PDF)
その結果、ビジネスアイデアの企画書作成が19項目で1位になった。特に、「考える力」に関する13項目のうち9項目で1位となり、そのなかでも、「想像力」、「発想力」、「創造力」の3項目は50%以上の者が1位に選んだ。他に「知的好奇心、探究心」、「知識を生かす知恵」、「向上心」、「労働意欲」等「自己に関する意識や資質」でも4項目が1位となった。

一方、「株式学習ゲーム」が16項目、「その他の授業」が15項目、「1人プレゼン大会」は9項目で1位になった。「株式学習ゲーム」はグループ活動であったこともあって、「他者への意識や資質」と「行動する力」に関する項目での評価が高かった。

生徒の感想と重ね合わせると、「多様性・多文化の尊重」や「異質な他者への敬意と尊敬」、「政治への参画」等の評価が高かったのは『CSR(企業の社会的責任)を考える』が、「経済的な見方・考え方」、「情況把握力、関係性を理解する力」、「紛争を解決する力」、「リスクマネジメント」等に関しては、シミュレーションやゲーム理論の授業が有効だったのではないかと推測できる。

最後に、「社会に関与し貢献しようとする意識」では、19%の生徒が「講演」を、15%が「ビジネスアイデアの企画書作成」を1番効果的であるとした。

< 成果と今後の課題 >
以上により、一連の学習活動が生徒の資質や技能の育成に関して一定の効果があったということはできよう。
また、「資質や技能の育成と活動内容との関連」で考察したように、特定の資質や技能を育成するにあたって、他よりも効果的な活動内容があるということも明らかにすることができた。特に「社会に関与し貢献しようとする意識」について、「ビジネスアイデアの企画書作成」が効果的であったという回答が得られたことは明記しておきたい。

このようにアンケート結果からは比較的肯定的な回答が得られた。しかし、「1.はじめに」でも指摘したように、これらは短時間の活動のみで育成されるものではない。あわせて、このような体験活動を伴う授業に対する評価規準と方法についても十分研究されてきたわけではない。今後の課題としたい。

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