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学校における金融教育の考え方と進め方
 
  web.06
(2010.9)
国士舘大学教授 北 俊夫 先生

1.はじめに

これまでの学校教育では、お金を預貯金することの大切さについては指導してきましたが、金融や証券や保険などお金の役割や活用の仕方については、必ずしも体系的な指導が行われてきたとは言えません。一部には、「お金」について話題にすることを躊躇する傾向さえ見られました。

近年、金融の分野において、さまざまな金融商品や新しいサービスが提供されるようになるなど、社会の金融環境が大きく変化しています。そこでは、私たちが自らの判断と責任で主体的に選択・決定することが求められます。こうした背景から、子どもたちにも学校教育において、経済の仕組みや取引のルールなど金融や経済に関する基礎的な知識を身につけることが必要になってきました。

学校ではこれまで「金銭教育」という課題に取り組んできました。これは「モノやお金を大切にすることを通じてお金や労働の価値を知り、感謝と自立の心を育てることによって人間形成の土台づくりを目指す幅広い教育」です。

「金融教育」とは、これらの内容に「経済の仕組みや個人としての生き方、実践的な消費者教育等」を盛り込んだものとして定義されています。これらについては、金融広報中央委員会発行の『金融教育ガイドブック』(平成17年3月)や『金融教育プログラム』(平成19年2月)などのなかで分かりやすく解説されています。

現在、学校教育の枠組みには、「金融」に関する教育を集中的、重点的に指導するための時間枠は、各学校が目標や内容、教材等を定める「総合的な学習の時間」を除いてありません。関連する教科や道徳などの時間のなかで指導することになります。

本稿では、こうした状況を踏まえて、学校における金融教育の考え方や進め方について考察するものです。

2.金融教育が目指していること

学校における金融教育は、「お金」につながる下記のようなさまざまな教育課題との関連を図りつつ、一人一人に現在及び将来における生き方を考えさせ、「生きる力」を育むことを目標にしています。

  • モノやお金を大切にすることを指導することにより、正しい金銭感覚を養います。このような教育は、従来から「金銭教育」として実践されてきました。
    ここで言うモノやお金を「大切に」とは、目的に応じて使う、計画的に使う、最後まで使う、再び使う、感謝の心をもって使うなど多様な内容を意味しています。
    また、お金を「使う」とは、消費する、預貯金する、投資する、借りたり貸したりする、募金や寄付をするなどの内容を含んでいます。

  • お金を使うときに、金融トラブルに巻き込まれないようにしたり、上手な買い物ができるようにしたりするなど、賢い消費者を育てることです。「消費者教育」のねらいや内容を含んでいます。

  • お金は基本的には、働くことによって得ることができるという、働くことの意味を理解させることです。そのうえで、将来の進路や職業を選択することについて考えさせます。
    これは、自分の将来を考えさせる「進路指導」や、勤労観や職業観をはぐくむ「キャリア教育」としての意味あいをもっています。
    例えば、将来、店を開くこと、企業を起こすことについて学びます。「起業家教育」ともかかわりがあります。夢や目標を実現するためには、お金が必要になることにも気づかせます。

  • 社会のなかでのお金の役割、経済の仕組みについての基礎的な知識を子どもの発達段階を踏まえ、系統的に指導します。これは「経済教育」とかかわりがあります。教科では、中学校の社会科(公民的分野)、高等学校の公民科、家庭科などが関連します。
    銀行などに預金したお金が、どのように活用されているかについて、「銀行の金庫にしまってある」と答えるなど、正しい知識をもっていない小学生が多いという調査結果も出ています。

  • お金を得たり使ったりする行為は、基本的に個人の責任において行われます。そこでは、例えば、通信販売等におけるクーリングオフのルール、お金を借りて期限が過ぎたときの違約金の支払いなど社会的なルールや契約にもとづいています。
    さまざまな法律によって規制されていることや保護されていることなど法律の趣旨を理解し、遵守する事の大切さを指導します。「法教育」という教育課題とも深くかかわっています。

  • モノを大切に使うことは、「省エネルギー教育」や「環境教育」など、エコな生活をすることにもつながります。例えば、エコ・クッキング、フード・マイレージ、地産地消などを金融教育と関連づけて取り上げることができます。

このように、金融教育はさまざまな課題を含んだ幅の広い概念です。金融教育がさまざまな教育課題とかかわり合っているということは、学校においてさまざまな視点からアプローチできることを意味しています。自校の課題を踏まえて、できるところから「はじめの一歩」を踏み出すことが大切です。

金融教育は、単にお金や金融についての知識を理解させることにとどまらず、それらをもとに子ども一人一人に社会のなかでの生き方を考えさせ、社会の一員として社会を生きぬいていく力を育てる教育であると言えます。
ここで改めて、金融教育で身につけさせたいことを整理します。基本的な要素(側面)は、次の三つに集約できます。

  • お金や金融の働き、働くことの個人的、社会的な役割、社会経済の仕組みなどの基礎的な知識を習得させること(知識習得の側面)。
  • モノやお金を有効に活用する実践的な態度、社会の形成に参画する態度などを養うこと(態度形成の側面)。
  • 計画的な実践力、企画力、自己管理能力、問題解決力、判断力、論理的思考力、コミュニケーション能力などをはぐくむこと(能力育成の側面)。
「生きる力」を育てることを究極的に目指している金融教育においては、知識と態度と能力の三つの要素を目標に位置づけて、一体的に指導することが求められます。

なお、『金融教育プログラム』(平成19年2月)には、「生活設計・家計管理」「経済・金融の仕組み」「消費生活・金融トラブル防止」「キャリア教育」の四つの分野から学校段階、学年段階の主な指導事項を示しています。これらは各学校において目標を設定し、系統的な指導を展開する際の参考になります。

3.小・中学校における金融教育の取り組み

ここでは、小・中学校ですでに実践された金融教育の先進的な取り組みについて、概要を紹介します。

(1)健全な金銭感覚を身につける

お金は、基本的に勤労の結果として得られるものです。日ごろ、親などからお小遣いをもらっている子どもにとって、このことを実感することは難しいようです。長野県のある小学校では次のような取り組みをしました。

60数名の6年生の子どもたちが夏休みを利用して、校庭に栽培園を作りました。事前に設計図を作成し、縁石や砂利などの資材は庭づくりの専門店から仕入れたと言います。スコップなどの道具は無償で借りました。午後3時間ほどかけて、1週間もかかったそうです。完成したときに子どもたちが喜んでいる笑顔が目に浮かびます。

このあとに、先生は造園店で作成してもらっていた、見積もりの「計算書」を子どもたちに提示しました。そこから資材など必要な経費を差し引き、残りの人件費をもとに、子ども一人当たりの金額を計算させました。すると、一人一日3時間働いて、100円だったそうです。がっかりしている子どもたちの声が聞こえてきそうです。

このあと、子どもたちは感想文を書きました。そのなかに「あんなに一生懸命に働いたのに、それがアイスクリーム一つの値段と同じだったとは知らなかった。お父さんは、毎日会社で働いて、たくさんの給料をもらってきてくれる。なんと大変なことだろう。」とありました。子どもたちは、働くことによってお金が得られること、100円を稼ぐのにいかに苦労がいることかを実感したに違いありません。
(「野外文化」青少年交友協会、平成8年12月)に紹介された児島邦宏氏のコラムを参考にしました。)

(2)見えない消費に気づかせる

これまでは、お金を直接手にして、物を買ったりサービスを得たりしていました。現代はカード社会といわれるように、毎日の社会生活のなかでお金がだんだん見えなくなってきています。買う、遊ぶ、乗るなどの場で、お金を直接やりとりする行為が少なくなってきました。このことから、お金を使うことに対する緊張感が薄らいできているように思われます。

東京都のある中学校1年での実践です。見えない消費に気づかせるために、電気の消費を取り上げて次のような指導を行いました。
もし電気が使えなくなったら、暮らしはどうなるかを考えさせたあとに、「電気と、お金や身の回りの物と比べて、無駄に使っていると感じるのはどっちですか。」と聞きました。すると、「電気は実際に減っているところが見えないから、あまり実感がない。」という答えが圧倒的に多かったそうです。これは生徒の実感でしょう。

そこで、次にこの中学校では、1日当たり一つの教室でどれくらいの電気代を使っているかを計算します。冷暖房やプールのポンプを使わない、平均的な月である4月を選びました。4月の電力使用量は6,461キロワット時、電気代は16万0,083円。登校日数は20日。教室の数は12です。計算すると、一つの教室当たり1日に使う電気代は約667円、1時間当たり約100円になりました。

電気という目に見えにくい消費が、電気量や電気代という実際の数字をもとに計算することによって、目に見えるようになります。このことによって、つい無駄にしがちな電気に対して、お金がかかっていることを実感し、貴重なエネルギーを大切にしようとする意識と態度が育っていきます。こうした実践に取り組んだ学校からは、「教室を空けるときには、蛍光灯のスイッチをこまめに切るようになった」という報告が聞かれます。

(3)銀行の役割を理解させる

お金は自分の生活を高め、豊かにするだけではありません。「お金は社会の血液」と言われるように、国や社会の発展のために生かされていることを理解させることはとても大切なことです。

ある銀行の支店次長さんから聞いた話です。小学校6年の子どもたちに「銀行に預けたお金はどうなると思いますか」と聞いたところ、ほとんどの子どもたちが「銀行の金庫にしまってある」と答えが返ってきたそうです。そこで次長さんは「みんなから銀行が預かった預金は、金庫のなかに全部あるわけではありません。企業や個人に貸し出しているんです。」と説明したところ、子どもたちから驚きの声があがったと言います。

小学生や中学生のなかには、預貯金することの意味を意外にも理解していない場合が少なくありません。それは正しい知識を与えていないからです。お金を預けると、利子が付くこと、お金を借りても利子がつくこと、こうした大人から見れば当たり前のことを知らないようです。銀行の働きや仕組みなどについて指導することは、お金に対する理解と感覚を育てるうえでとても大切なことだと言えます。

ある小学校5年生の女の子が、次のような作文を書きました。5年生であっても、教育によってここまで理解を深めさせることができます。
「お父さんは、私や妹の貯金もみんなが使う道路や公園、そして橋を作ったり、また学校、病院、工場、家を建てるためのお金に利用したり、外国の人にもかしてあげて、その国の人たちを助けてあげたりするのに使われていると言う話をしてくれました。
私たちが貯金することは自分のためでもあるし、またみんなの生活を楽しくしたり、便利にしたり、豊かな国にすることでもあると思います。そして世界中の人たちが助け合うことにもなると思います。」
(「小・中学生の貯蓄作文」『生活の設計』貯蓄広報中央委員会、1992年12月)

4.金融教育の進め方

学校は、あらゆる教育活動に対して、意図的、計画的、そして組織的に指導するところです。このことは金融教育を推進する場合にも、例外ではありません。金融教育には、ほかの教育課題と同様に、次のような特質があります。これらのことを実践に当たって留意したいものです。

(1)全教育活動を通して(どこでも)

お金や金融について直接指導する教科はありません。このことは、学校の全教育活動を通じて金融教育を進めることを意味しています。目標や内容の面で深くかかわっている教科等は、社会科や公民科、生活科、家庭科、技術・家庭科などの教科、道徳、特別活動、それに学校の判断によって目標や内容を決定する総合的な学習の時間です。これらの教科等については、学習指導要領や教科書、副読本の内容と金融教育の視点との関連を理解することが大切になります。

国語科、算数科、数学科、図画工作科、美術などは、お金や金融に関する内容を教材や題材の内容に位置づけることができます。特に、国語科、算数科、数学科は、「読み・書き・算」の力をつける基幹教科としての役割をもっています。言語力をはじめ、基礎的な計算力、数学的な思考力を育てることは、金融教育の基盤となる重要な基礎学力であると言えます。

お金や金融に関する教育の可能性は、学校教育のあらゆる場面にあります。授業者は、それぞれの教科等の指導内容を把握し、関連的に指導するようにします。

(2)幼稚園から高等学校まで(いつでも)

金融教育は、幼稚園から小学校、中学校、高等学校まで、いつでも取り組むことが求められている教育課題です。各学校(園)では、それぞれ教えるべきことを押さえ、確実に身につけることが求められます。校種間の関連性と系統性を重視します。

学校教育は、将来にわたってお金や金融に対して関心をもち、学びつづけようとする意欲と態度と能力の基礎づくりを行う場でもあります。金融に関する知識や情報は、時代とともに変化することがあります。その意味で、金融教育(金融学習)は、生涯学習としての性格を備えていると言えます。金融教育は、学校教育の場で完結するものではありません。

先に示した(1)の「どこでも」とは、教育活動のヨコ軸(教育の空間軸)を示しているのに対して、(2)の「いつでも」とはタテ軸(教育の時間軸)を表しています。

(3)全教職員で(みんなで)

全教育活動を通して金融教育を推進するということは、すなわち全教職員で行うということです。それぞれの教科等は、どのような内容が金融教育と関連しているのか。実践の可能性があるのかを検討します。学校給食や清掃の時間も、金融教育の視点に立って指導することができます。

校内で、お金や金融に関する教育の意義や必要性について協議し、校内の教職員が協力して、それぞれの立場で実践します。そのためには、学校としての考え方や実践場面について共通理解を図るための「全体計画」を策定することが求められます。「全体計画」の意義や構成する要素など、ほかの教育課題の場合と同じです。

なお、金融教育は学校だけでは十分な成果が期待できません。保護者の理解と協力が欠かせません。保護者に対しては、学校便りや、保護者会やPTAなどの会合の場で話題にし、時には保護者を教育したり、啓発したりすることも大切です。

教師は、必ずしも金融や経済についての知識を十分にもち得ていないことが多いことから、地域の専門家と連携し協力を得ながら、地域と一体に進めることが必要になります。「みんなで」とは、校内の教職員に留まりません。地域ぐるみで金融教育を推進することが期待されています。

「いつでも」「どこでも」「みんなで」で取り組むためには、金融教育の「全体計画」を学校として策定します。これは、学校としての統一性と一体感を維持し、発展させるために必要な計画です。実施に当たって基本計画としての性格をもっており、校内で共通理解を深めるための資料です。各教科等で金融教育を位置づけた指導計画(実施計画)を作成する際によりどころになるものです。

また、「全体計画」は、保護者や地域の関係者などに学校としての考え方などを説明する際の資料としても活用することができます。

5.おわりに

金融教育を学校として組織的に進めるためには、まず校内に、校長や教頭・副校長のリーダーシップのもとに、全教職員で取り組む体制をつくります。例えば金融教育推進委員会(仮称)といった組織を立ち上げ、校務分掌に位置づけます。社会科、家庭科、道徳などの担当者から構成します。そこでは、金融教育の全体計画の策定、授業研究の実施(教材の開発、指導方法の工夫など)、実施結果の検証と評価などを行います。

教師の多くは、金融や経済の専門家ではありません。地域に住む専門家、銀行や証券会社、保険会社などの協力を得ることによって指導の効果を上げることができます。そのためには、個々の教師が独自に当たるのではなく、学校としての窓口を明確にしておくことが重要です。前述した金融教育推進委員会のメンバーが地域とのコーディネーター役を果たすことも考えられます。

〔参考文献〕
学校において金融教育を進めるとき、下記の文献が参考になります。
いずれも金融広報中央委員会が編集し発行しているものです。
・『金融教育ガイドブック−学校における実践事例集−』(平成17年3月)
・『金融教育プログラム−社会の中で生きる力を育む授業とは−』(平成19年2月)
・『はじめての金融教育−ワークシート付き入門ガイドと実践事例集−』(平成21年3月)

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