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『わたしたちの暮らしと経済』 〜学区内にお店をつくろう〜
  web.09
(2010.12)
仙台市立三条中学校 赤岡 光騎 先生

1.はじめに

1-1. 教材について

本単元は、中学校新学習指導要領社会科公民的分野の内容「(2)私たちと経済 ア 市場の働きと経済」に基づき、「身近な消費生活を中心に経済活動の意義を理解させるとともに、価格の働きに着目させて市場経済の基本的な考え方について理解させる。また、現代の生産や金融などの仕組みや働きを理解させるとともに、社会における企業の役割と責任について考えさせる」ことをねらいとしている。 

現代社会では、景気の後退や、派遣切りをはじめとする雇用形態の多様化に伴う様々な問題、多くの企業の不祥事による「安全・安心」の問題など、生徒自身も遠からず直面するであろう諸問題が次々に起こっている。経済の様々な仕組みや、その役割と機能を理解させ、それらと現実の社会生活とのかかわりに気付かせた上で、今日の経済活動に関する諸課題について主体的に考えさせることには大きな意義がある。

資本主義経済においては、利潤を追求する企業による価格競争を通した効率的な経済活動が消費者の選択の自由を増加させ、社会を発展させてきた。一方で、結果や分配の公平が保障されず、公正という概念を導入することで社会的平等を実現しようとしてきた。企業は、これまでにもその利益の一部を企業文化活動(メセナ)として社会に還元したり、環境問題への社会全体の関心の高まりを受けて地球温暖化対策をはじめとする社会貢献活動へ投資したりしてきた。

しかし、近年では偽装問題や欠陥商品、株の不正取引など、信用という資本主義経済の根幹に関わる部分が崩壊しかねない問題が起こり、企業の社会的責任(CSR)への注目がこれまで以上に高まっている。

本単元で扱う「経済」は、我々の社会生活に密接にかかわりがあるものでありながら、中学生にとってはなじみが薄い。消費者として商品・サービスを購入するという消費活動に参加することはあっても、生産・企業側の立場を考慮する機会はほぼ皆無と言ってよいであろう。

本単元では、意欲的に学習課題に取り組ませるため、生徒たちにとって身近なショッピングセンターについて事前に学習した上で、学区内に起業するという具体的な場面を設定し、経済の仕組みを主体的・実践的に学習させたい。

さらに、それぞれの企業理念を表現するプレゼンテーションづくりと相互の批評を通して、利益の追求のみを目的とするのではなく、消費者、従業員、環境や地域社会、株主などに対する企業の社会的責任についても考えさせ、直接的には利益を追求することに結びつかない活動が実は企業存続の基盤となっていることや、地域に根ざし、持続可能な企業活動の在り方について考えようとする姿勢を育みたい。

こうした学習活動を展開することによって、多様な視点から経済の仕組みや働きについて考察することができ、自立した消費者として、また労働者として、現実の生活場面で企業を選択する際の判断基準を身に付けることができると考え、本実践を試みた。

なお、この実践は、仙台市中学校社会科研究会公民部会が共同研究として単元や授業の構想を練り、平成22年10月29日に行われた全国中学校社会科研究会仙台・宮城大会において、仙台市立三条中学校3年3組で授業実践したものをまとめたものである。

1-2. 単元の構成図

単元の構成図 単元の構成図 単元の構成図

1-3. 単元の指導計画(12時間扱い)

段 階 主な学習内容・学習活動 指導上の留意点 資料等
把握する 1 「起業」
お店を出そう。
  • 4〜5人グループで、どんなお店があったら地域の活性化につながるか、家人、地域の方などにインタビューした結果を発表し合う。
  • インタビューをもとに、こんな店があったら…、という店をオープンさせる、という仮定でお店をつくる。
  • (既習の)「荒巻セントラルプラザ」の様子など地域の状況を想起し、どんなお店があったら地域の活性化につながるか、家人などにインタビューした結果をもとに、人々の願いを実現できるお店を作らせる。
  • お店は以後の学習との関連から小売店とし、他班と出店場所、職種の両方が重ならないよう調整する。
  • お店を作るために必要なものを挙げさせ、以後の学習につなげる。
参考資料:「街のTシャツ屋さん」
三条中学校区に出すお店を考えよう
「生産のしくみ」
お店を作るには何が必要なのだろうか。
  • 経済活動の基礎となる生産の三要素について理解する。
  • 自分たちのお店を作るために必要な初期投資を考えることを通して市場経済の仕組みを指導する。
参考資料:「街のTシャツ屋さん:初期投資」
「市場経済のしくみ」
価格はどのように決まるのだろうか。
  • 野菜、電化製品の価格の決まり方を考える。
  • 販売価格を決める活動を通して、需要と供給のバランスによって価格が変動することについて考えさせる。
参考資料:「街のTシャツ屋さん:需要と供給」
「働く人たちの生活向上」
労働者の権利にはどんなものがあるのだろうか。
  • 労働者の権利を理解する。
  • 従業員を雇うことを前提に、労働者の権利について指導する。
  • どのような労働者を雇用するかについて考えさせる。
参考資料:「街のTシャツ屋さん:労働者の権利」
「市場と価格」
公正な競争とはどんなことなのだろうか。
  • 自由で公正な競争の意義や課題を理解する。
  • 競争に勝ち抜く方策を考える。
  • 他店との競争が生じることを想定し、自由競争、独占禁止法について指導する。
  • スクラップ&ビルドで新規に開店したスーパーやコンビニなど、価格と品質以外の視点も考えさせる。
参考資料:「街のTシャツ屋さん:自由競争」
「景気の変動・金融の働き」
不景気に対応するにはどうしたらよいのだろうか。
  • 景気の変動、金融の仕組み、株式会社の仕組みについて理解する。
  • 予想される来客数と収益を想定する活動を通して、景気の変動と金融の仕組みについて指導する。
参考資料:「街のTシャツ屋さん:景気変動、直接金融と間接金融」
「消費者の権利と企業の社会的責任」
企業は利潤を追求する以外にどのようなことをしているのだろうか。
  • 消費者保護の制度や、企業の社会的責任について理解する。
  • 消費者の主権について関心を持たせるとともに、実在する企業のメセナ活動や企業CMなどを通して、利潤追求に留まらない企業の社会的責任について考えさせる。
実在の企業CM、CSR報告書等
追究する 「経営理念」
経営理念をつくろう。
  • 出店場所、販売品目、社会的責任などを総合的に見直し、店の経営理念を考える。
  • これまでの学習内容を振り返らせ、改めて自分たちで起業した店の経営上の理念を話し合わせる。
  • 当初の計画に無理があれば新たに考え直してよいこととする。
実在の企業の経営理念の例


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「企業紹介」
プレゼンをつくろう。
  • 各自の店をPRする内容を制作する。
  • プレゼンテーションソフトを用いて、一定の書式のもとで各自の経営する店の経営理念がよく伝わるよう、より効果的な伝え方を考えさせる。
 
広げる

深める
11

12
「自分たちの考えた店をプレゼンしよう!」
三条中学校区に出すお店を考えよう。
  • 制作したPR内容を発表し、互いに質問し合い、最も成功できそうな店はどの班か話し合う。
  • 「よい店」を目指して互いに質問し合う活動を通して、会社側、消費者側、被雇用者側、地域など様々な立場からどんな店が望ましいか、根拠をもとに考えさせる。
  • 5年後・10年後の店の姿を想像させ、店を永続させるために必要なことを話し合わせる。
 

1-4. 本時の学習指導

  • 題材 三条中学校区に出すお店を決めよう
  • 本時のねらい
    (1) 各自の考えた店を紹介するプレゼンテーションを行うことができる。
    (2) 互いに質問し合う活動を通して望ましい企業の在り方について考えている。

2.生徒のようす(学習前後の変容)

単元の学習前に、学区内にある、近年はテナントの撤退が相次いでいるショッピングセンターについて調べ学習を行った。約30年前に開店し、一時は相当の賑わいを見せていたことに生徒たちは驚き、市街化地域の拡大や郊外型の大型ショッピングセンターの影響など、このような変化が起こった原因について疑問を持たせ、経済活動について関心を高めた上で、自分達で学区内に起業する、という設定で経済学習を行うこととした。

1時間目:起業
生徒たちが考えた「お店」は、ファミリーレストラン、文房具屋、ファーストフード店、駄菓子屋など、自分たちの生活経験に基づくものに偏る傾向が見られた。高齢化が進む地域の現状や大学の留学生会館があることに着目する生徒もいたが、班での話合いでは、明確な根拠を持つ意見より、先に具体的なイメージを説明できた生徒の発言が通る傾向が見られた。

2〜7時間目:教材「街のTシャツ屋さん」を用いた学習
需要と供給、市場価格など、経済学習のややもすると難しい概念も、自分達の考えたお店に引き合わせて考えることで、より身近な具体的な問題として考えることができた。 特に、企業の社会的責任や企業理念についての学習では、実在の大型店や上場企業の例を用い、生徒たちがよく利用するあのお店では…、と、具体的なイメージを持って学習することができた。

<生徒の感想>
  • 自分たちで店を出すのがここまで大変だとは思わなかった。それぞれの店にはいろいろな工夫がある、と思った。
  • 普段服を買いに行くお店も、安いのにちゃんと売れていてすごい、と思った。
  • 派遣社員の人は条件がきびしくて大変だな、と思った。自分も正社員として働きたい。
  • 不況はアイディアが試されることだ、と思った!
  • 企業は儲ける以外にもやらなければならないことがあるということを初めて知った。いろんな法律があって、それを全て守っていることはすごいと思った。
  • 競争に勝ち抜くためには安くしなければいけないが、安くしすぎると店側が赤字で大変になると考えると、大変だな、と思った。
  • 競争に勝つのは本当に難しいんだなぁ、と思いました。いろんなアイディアがあっておもしろかったです。消費者としてはもっと競争してほしいけど、生産者は大変なんだなぁ、と思いました。

9〜10時間目:プレゼンテーションづくり
学区内に今後も存続可能なお店、という条件でお店のPRプレゼンを制作することとした。これまでの学習から、1時間目に考えたお店では不十分だった点(他店との差別化、社会的責任等)を補い、企業CM風に概要を伝えることとした。
授業時数の制約から制作するプレゼンのページ(項目)は定型化したが、それぞれに他班を意識して要点を絞ったプレゼンテーションを行うことができた。

<生徒の感想>
  • やっぱり自分の利益だけを考えている会社はカッコ悪いなぁ、と思いました。やるんだったら、環境にやさしく、それでいて地域の人とか人とのつながりを大事にする会社にしたいです。
  • わかりやすく伝えるように考えるのが楽しかった。
  • それぞれのお店の特徴が出ていて、すごく楽しかった。だけど、やっぱり安く売りたいのは分かるけど、きちんとした構成のもとでやっていかないとダメなんだなぁ、と思いました。

11・12時間目:発表:話合い より望ましい企業のあり方を考える
前時までの学習から、利潤を追求し続けるためには社会的責任(CSR)活動は不可欠、という視点は十分に生徒たちに備わり、他店との差別化、CSR活動の充実を考えたお店が多くなった。しかし、かえって企業活動の根本である利潤追求のための努力が不十分となり、理念・理想先行型のお店となった班が多くなった。

中でも、地域により根ざした、伝統文化(祭り用具店)や外国人留学生が多い土地柄を反映させた店は、今回の実践にあたって事前に評価をお願いした流通大手の会社のCSR担当者の方と、市内で自転車店を経営されている方にそれぞれ高評価をいただいた。

<生徒の感想>
  • 自分は今までお客さんの立場からしかあまり見てなくて、安さなどにこだわってばっかりだったけど、この授業で、お店のことや、地域のこと、ほかにもいろいろ考えなきゃいけなかったんだとわかった。
  • 店側から考えるのではなく、お客や従業員、地域とのかかわりが大事なんだってことがわかった。
  • お店を出すのは楽じゃなく、すごくお金のかかることだということがわかった。いつも普通に行っているスーパーでも、裏で多くの人が苦労しているんだなぁ、と感じました。
  • ちゃんと利益が出て、お店がやっていけるように考え、いろいろと工夫した。また、それに合わせてターゲットも変えた。社会的責任として、環境問題や地域の活性化などについても考えるようになった!

3.おわりに

生徒たちは、制作したプレゼンを外部の方(経営関係者)に順位をつけていただいたことで、より一層意欲的に活動に取り組むことができた。
お二人とも、実社会でのご経験から、企業活動にCSR的な視点は不可欠であることは当然の前提として話されており、持続可能な企業経営のあり方を考えさせる授業づくりの上で大変参考になった。

本実践はあくまでも企業側(生産側)の視点に立った教材内容であったが、事後の感想等から、生徒たちは確実に消費者として企業を見る眼も進歩しており、消費者教育の一環としても一定の成果を挙げていると考えられる。

また、身近で具体的な場面設定によってある程度意欲的に学習に取り組ませることはできたが、一方で経営や経済に関する数字や概念など、具体化するほど実は難易度が上がる学習内容をどこまで扱うことができるか、課題が残った。

今回の実践では企業経営に関わる様々な数値的な指標を取り入れることは難しいと考えたが、より具体的な数字を用いたシミュレーションを行うことができれば、利潤追求とCSR活動を二律背反ではなく車の両輪として両立させることが、理想であっても現実にはいかに困難であるか、より実感させられたのではないかと考えている。

発達段階や生徒の実態、授業時数の制約等を総合的に考慮して、今後もさらに研究を続けていきたい。

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