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中学校技術・家庭科における消費者教育の授業づくり
− 主体的に考え、判断し意思決定できる生徒の育成 −
  web.11
(2011.2)
平塚市立金目中学校 柴﨑 厚子 先生

1.はじめに

平成16年、経済社会情勢が大きく変化する中で「消費者基本法」が改正され、制定された。その中で、消費者政策の基本理念として消費者の権利の尊重と消費者の自立の支援が明記され、消費者教育の充実に向け、国及び地方公共団体は必要な施策を講ずることと規定された。

また平成20年3月、中学校学習指導要領が改訂され、社会の変化に対応し、「D身近な消費生活と環境」においては、社会において主体的に生きる消費者をはぐくむ視点から、消費者の自覚や環境に配慮した生活の工夫などにかかわる学習について、中学生の消費生活の変化を踏まえた実践的な学習活動を重視して改善が図られた。

そこで、中学校技術・家庭科における消費者教育の指導の充実を図るために、基礎概念の一つである意思決定ができる生徒の育成を目指した研究を行った。

2.研究仮説

意思決定は日常生活のあらゆる場面で行われているが、判断基準が不明確ならば、単なる選択にすぎない。適切な意思決定とは、基礎的な知識・技術を身に付けた上で自己の価値観を形成し、それに基づいて判断し決定することと考える。
そこで、主体的に考え、判断し意思決定できる力をはぐくむためには、消費生活に必要な知識を習得した上で、意思決定プロセスの活動を繰り返し行うことが有効であると考え、次の研究仮説を立てた。

消費生活に関する基本的知識を踏まえた、意思決定プロセスの活動を授業で取り入れ、繰り返し実践させる。このことにより、生徒は適切な意思決定ができるようになり、主体的に行動する自立した消費者としての意識が高まる。

本研究では、生徒が自己の価値観を形成するための基本的な知識・技術を身に付けること、また適切な意思決定のために意思決定プロセスを活用することを重視して、検証授業を計画し実施した。

3.検証授業

(1)検証授業の概要

・実施期間 ・・・・ 平成21年9月9日〜11月5日
・対象生徒 ・・・・ 第1学年 3学級(99名)
・授業時数 ・・・・ 6時間
・題材名 ・・・・ わたしたちの消費と環境

(2)題材の設定

中学生に身近な題材を設定するために、所属校の生徒を対象に事前調査を行った。その結果、購入する商品は、衣類や食品、文房具などが多く、購入の際の判断基準となる条件項目では、「値段」、「デザイン」が多かった。また、6割の生徒に買い物の失敗経験があった。

その内容は、「買った商品が他店ではもっと安かった」、「サイズが合わなかった」、「すぐに壊れた」、「通販で買ったら想像していた物と違っていた」等であり、商品選択の技術が身に付いていないと考えられる。消費生活について考えていることは、「欲しい物があったらすぐ買ってしまうので直したい」、「良い物を選びたい」、「よく考えて、選ぶようにしている」等の回答が見られ、よりよい消費生活を望む様子がうかがえた。

一方、「即断即決」、「欲しくなったら買う」といった記述もあり、消費に対する考えが多様であることが分かった。これらの結果から、衣類、食品、文房具などの身近なもので、各自が欲しい物を適切に購入させたいと考えた。

そこで、中学生が身近な商品の購入を通して、消費者の基本的な権利と責任について理解を深めることと、物資・サービスの適切な選択、購入及び活用ができることをねらいとして、題材に「わたしたちの消費と環境」を設定した。

(3)指導の工夫

消費者の権利と責任についての理解
  消費者の権利と責任は、主体的な消費生活に必要な基本的知識であり、適切な意思決定とは、その知識に基づいたものと考える。しかし、消費者の権利と責任は、生徒が自分の消費生活と関連させて理解しにくいところである。そこで、実際の消費生活や最近のニュースなどとかかわらせたり、ロールプレイングなどの実践的・体験的な学習活動を取り入れたりして、身近なこととして考えさせる工夫をした。

具体的には、事前調査で生徒が記述した「買った物が、すぐに壊れてしまった」場合は、補償を受ける権利に基づき、事業者に補償を求めることができることに気付かせたり、食品偽装の新聞記事から批判的意識を持つ責任に気付かせたりするなどである。

悪質商法とその対応については、ロールプレイングを通して、事業者・消費者双方の問題点を具体的に考えさせた。そして、消費者には商品やサービスを選択する権利があることや批判的意識を持って行動する責任があることなどを理解させた。

また、生徒が意思決定プロセスに沿って考える際にも、安全を求める権利や環境への配慮をする責任などをポイントに挙げ、知識の理解を図った。
 
意思決定プロセスの体験
  商品を適切に選択、購入、活用するためには、消費者の権利と責任を踏まえて、情報収集、自らの価値観に基づいた比較や検討、判断等、意思決定プロセスを繰り返し実践していくことが重要である。
そこで、生徒が自らの意思決定プロセスを記入することができる表を開発した。

(4)題材の指導計画

指導計画は全6時間で、次の通りである。

題材の指導計画
指導項目 学習活動
自分や家族の消費生活への関心 ・消費生活に関する自由記述
・自分や家族の買い物調査
消費者の基本的な権利と責任 ・販売方法・支払方法の特徴の理解
・消費者の基本的な権利と責任の理解
消費者を取り巻く問題 ・悪質商法とその対策の理解
自立した消費者
物資・サービスの選択、購入及び活用
・意思決定プロセスの体験
(1)説明なし
(2)説明を受けての模擬体験
・意思決定プロセスに沿った買い物体験
・買い物体験発表
・再度、意思決定プロセスに沿った商品選択
・消費生活に関する自由記述

(5)検証授業の展開

【第1時】「自分や家族の消費生活への関心」
導入として、「私が目指す、○○な消費者とは」というテーマによる自由記述と自分や家族の被服関連品の買い物調査を実施し、消費生活の学習への関心を高める授業の展開や情報収集とその活用の重要性に気付かせた。
【第2時】「消費者の基本的な権利と責任」
事前調査の結果と関連させることにより商品の購入に対する関心を高め、生徒自身が商品を購入するときにも消費者の権利や責任が伴うことに気付かせた。また、それを踏まえて、主体的な消費者としてどのように行動していけばよいかを考えさせた。
【第3時】「消費者を取り巻く問題」
多様化、複雑化している悪質商法とその対策については、実践的・体験的な学習活動としてロールプレイングを行った。その後、生徒はワークシートに悪質商法とその対策をまとめた。

悪質商法 ロールプレイングの様子
悪質商法 ロールプレイングの様子

【第4・5・6時】「自立した消費者」「物資・サービスの選択、購入及び活用」
第4時の始めに、生徒が日常行っている商品選択を意思決定プロセス表に記入させた。その後、生徒はジュースの容器を用いて、情報収集の方法を考え、判断基準を設けて商品選択を行う模擬体験を、意思決定プロセス表に記入しながら行った。ジュースは、生徒が購入する身近な商品であり、食生活との関連を図ることができること、また、情報がパッケージに記載されており、生徒一人ひとりの判断基準で選択できることから教材に適していると考えた。生徒は、情報を確認し、果汁の割合、産地、値段、栄養成分、メーカーなどから判断して、ジュースを選択した。

第5時は、意思決定プロセスに沿った買い物体験を各自が家庭で実施し、その結果を表にまとめ、グループ内で発表した。家庭には、事前に学年便りで買い物体験について知らせ、協力をお願いした。生徒は、洋服、靴、かばん、文房具、菓子などを意思決定プロセスに従って、考えて購入していた。

第6時は、グループごとに買い物体験のクラス発表を行い、いろいろな商品の選択方法を学び合う機会とした。また、第4時と同じ商品を選択するときの意思決定プロセスを表に記入した後、まとめとして、「私が目指す、○○な消費者とは」というテーマで再度自由記述を実施した。

(6)検証授業の結果分析と考察

意思決定プロセスの条件項目数の変化
  主体的に考え、判断し意思決定する力がはぐくまれたかどうかを、意思決定に至るまでの条件項目数の変化から探った。条件項目数が増えるということは、不明確だった意思決定に至るまでの判断基準が明確になり、多角的に考え選択していることを示す、と考えたからである。

検証授業で4回行った意思決定プロセスにおける条件項目数の平均値の変化は、1回目2.55、2回目2.75、3回目2.92、4回目3.07であった。回を重ねるごとに条件項目数が増え、判断基準が明確になっていったことが分かる。学習で得られた消費者の権利と責任に関する知識をもとに、各自が収集した情報から判断基準を設けて意思決定する、といった変化がもたらされたと考えられる。
 
意思決定の質的な変化
  抽出生徒の意思決定プロセス表の1回目と4回目を比較し、その質的な変化を見た。
⇒ 生徒Aの意思決定プロセス1回目と4回目(PDF)
⇒ 生徒Bの意思決定プロセス1回目と4回目(PDF)
 
意思決定プロセスに沿った買い物体験をした生徒の感想
  意思決定プロセスに沿って買い物をすることで適切な商品選択ができたかどうかを生徒の感想から探った。その結果、約7割の生徒が肯定的な記述をしていた。次の文は、生徒が書いた感想の例である。注目した点には、下線を引いた。
商品を選ぶときにこんなにいろいろ考えたのは初めてです。安くてもデザインが悪いとか、高いけど履き心地が良いなどの物がありました。なかなか条件が一致しなかったけど、最後には、良い物が買えて良かったです。
デザイン・値段・サイズなどを確認して買ってみました。買った物が実際使ってみて壊れたりしないためにもじっくり選んでむだにならないように買い物したいです。
私は今まで買いたいと思った物はだいたい手にとっていつも買ってしまいました。でもこの授業を受けて本当に必要な物かということを考えるようになりました。これからも買い物体験でやったことをやっていきたいです。安全にも気を付けて買い物をしていきたいです。
これらの記述から、商品を選択するときに十分に情報を収集し、自らの価値観によって判断をしたことが分かる。意思決定プロセスを繰り返すことにより、商品購入の際に、様々なことを考えて選択する意識が育ってきたと思われる。また、安全を求める権利や環境への配慮をする責任、批判的意識を持つ責任など消費者の権利と責任を考えながら行動したことがうかがえた。
 
学習を通しての消費者意識の変化
  検証授業6時間で主体的に行動する消費者としての意識が高まったかを、第1時と第6時に行った「私が目指す、○○な消費者とは」の記述内容の変化から考察した。ここでは、生徒の記述を4種類に分類して、「考えた消費」、「情報の活用」、「環境への配慮」の3項目を消費者意識のプラス項目、「消極的消費」をマイナス項目ととらえた。

第1時に比べて、第6時ではプラス項目が増加し、マイナス項目が減少した。さらに、各項目を見ていくと、「考えた消費」に分類される記述が、第1時は29.9%だったが、第6時には51.1%に増加した。一方、「消極的消費」は、25.3%から12.5%に減少した。実践的・体験的な学習活動や意思決定プロセスに沿った商品選択の授業により主体的に考えようとする姿勢が育ち、消費生活に対する関心が高まったことを示していると考える。

次に、抽出生徒の記述から質的な変化を見た。次の記述は、生徒Cの第1時と第6時の比較である。注目した点には、下線を引いた。

第1時【環境に優しい・むだ遣いのない消費者】
買う物をなるべく環境に良い物を買うようにしたい。未来はどうなっているかわからないし温暖化も進み続けているから少しでも環境に優しくしたい。また、環境に優しい商品だけでなく必要な物以外は買いすぎないこともエコになると思うので、それもできたらいい。物資の部分だけでなく、サービスにおいても水道代や電気代の削減にもつながるし、エコにもなるのでむだ遣いしないようにしたい。

第6時【計画的な消費者】
買うとき・買う前に商品を見て自分の目的にあった選び方ができるようになりたい。意思決定プロセスなどを参考にして計画的な買い物ができたらいいなと思う。そうすることによってむだ遣いが減り、さらに自分の理想にあった商品を買うことができると思うからです。現在の私も気をつけなければいけないと思うし、将来の私もしっかり自分の目指す消費者になれていたらよいと思います。

第1時の記述では、環境への配慮を目指したものになっている。最初の授業で書かせたものであり、環境についての学習はまだ行っていないので、これまでの学習や生活経験に基づいて書いた内容と思われる。

第6時の記述では、計画的な消費者を目指しており、その方法として意思決定プロセスを利用すること、その理由として、むだ遣いが減ることや自分の理想にあった商品を選ぶことができると述べている。また、将来を見すえた消費者像についても記述している。
この学習を通して、主体的に考え、判断し意思決定できる力がはぐくまれ、これからの消費生活についても前向きに取り組もうとする意識が育ってきたことが分かる。

4.研究の成果と今後の課題

(1)研究の成果

本研究を通して、明らかになったことは次の二点である。

一つ目は、意思決定プロセスを活用し、繰り返し学習することにより、自らの価値観に基づき、主体的に考え、判断し意思決定する力がはぐくまれたことである。各自が課題を持ち、考えて買い物体験を行ったり、まとめとして意思決定プロセスを表に記したりしたことから、自分の考えを決定していく方法が分かってきたと考えられる。

二つ目は、消費者を取り巻く問題や消費者の権利と責任、適切な商品の選択などを実践的・体験的な学習活動を通して具体的に学習することにより、主体的に行動する消費者としての意識が高まったことである。ロールプレイングや意思決定プロセスに沿った買い物体験等により、消費生活に対する関心が高まるとともに理解も深まり、自分の生活に関連させて考えることが容易になった。これにより、消費生活をより良くしようとする態度がはぐくまれたと考えられる。

(2)今後の課題

研究を通して今後の課題となっているのは、次の三点である。

第一に、新学習指導要領移行後の年間指導計画についてである。中学生は、3年間で心身ともに大きく成長し、生活範囲も広がっていく時期である。その中で、どの学年でこの題材を学習するかは、判断が難しい。例えば、中学1年生での学習では、消費についての情報収集や価値判断が未熟であることが予想される。しかし、1年生で学んだことを2、3年生で再度、他の内容と関連させて扱うことで、消費生活への関心を高めることになるとも考えられる。

一方、中学3年生での学習では、それ以前に学習する衣食住の内容との関連を図ることが難しいという課題はあるが、精神的にも成長し、視野が広がり、より関心を持って学習に取り組むことができると考えられる。また、近年中学生の消費者トラブル、とりわけ通信手段を使ったトラブルが急増している。消費者トラブルを未然に防ぐためにも消費者意識を高めていくことが求められる。以上のことを考慮し、生徒の発達段階も考え、3年間を見通した年間指導計画を立てることが大切である。

第二に、「D身近な消費生活と環境」と家庭分野の他の内容とをかかわらせた授業展開についてである。
新学習指導要領解説では、「指導に当たっては,『A家族・家庭と子どもの成長』,『B食生活と自立』又は『C衣生活・住生活と自立』の学習との関連を図って適切な題材を設定し」と示されている。そこで、「D身近な消費生活と環境」と結び付けて指導する項目を次のように考えた。

A 家庭と家族関係
B 日常食の献立と食品の選び方
B 日常食の調理と地域の食文化
C 衣服の選択と手入れ

Aでは、家庭の基本的な機能とかかわらせて、日常生活では常に物資やサービスを消費していること、Bでは、食品の選択や消費を食の安全や食糧自給率などとかかわらせて適切に行うこと、Cでは、目的や表示などを考慮して衣服の選択や手入れを行うこと等が挙げられる。

「D身近な消費生活と環境」で学習したことを日常生活で実践するためには、授業の中に繰り返し消費生活とかかわらせた内容を盛り込んだり、家庭と連携して実践を行ったりすることが大切であり、このことが消費生活への関心をより高めることにつながると考えられる。また、衣食住生活の内容に関連する具体的な事例で意思決定プロセスの学習をすることにより、意思決定する力が更に高まると考えられる。

第三に、必要性が実感される消費者教育の展開についてである。生徒の生活は多様化しており、興味・関心も様々である。生徒の一部には、日常生活で本来自分が行うべきことや買い物などのほとんどを家族に任せ、消費生活への関心が高くない傾向も見受けられる。そういった生徒も意欲を持って主体的に取り組むような題材設定が必要となる。

本研究では、各自が欲しい物を購入するという体験をした。このように、目的の達成が自分自身の課題解決につながることにより、主体的に取り組む姿が見られた。今後も、例えば、部活動で必要な物品、修学旅行で準備する物、家庭で必要な物の購入等、生徒が関心を持って取り組むことができる教材開発が求められる。

5.おわりに

家庭科教育で「主体的に生きる消費者」を育てるにはどうしたらよいかを探りながら研究を行った。その結果、実践的・体験的な学習活動や意思決定できる力をはぐくむ授業が有効であり、消費生活への関心を高めることが明らかになった。生涯を通じて主体的に生活していくために、ライフステージに応じた消費者教育が推進されているが、徐々に大人に成長していく中学生に対して、自立の一歩となる授業を今後も考えていきたい。

参考文献

甲斐純子 他 2006 「適切な意思決定力をもった消費者を育てる家庭科学習の在り方」
(福岡市教育センター家庭,技術・家庭科研究室 『研究紀要』 第744号)
高橋恵美 2007 「技術・家庭科家庭分野における基礎的な知識と技術を習得させる学習指導に関する研究−消費生活学習の手引の作成とその活用をとおして−」
(岩手県立総合教育センター 科学産業教育室『2007平成19年度(第51回) 岩手県教育研究発表会発表資料』)

※神奈川県立総合教育センター長期研究員研究報告第8集からの抜粋

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