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経済理論を使って現代的課題を考察する〜農業政策〜
  web.12
(2011.3)
群馬県立高崎東高等学校 政治・経済 阿左見 充良 先生

1.はじめに

まず本サイトの「実学」という観点に大変共感し、寄稿させていただく。

私個人の授業実践の中心には、常に社会の中で役に立つ知識・力を身につけさせたいという想いが存在する。その点で、高校の段階で「政治・経済」という科目を教えることの意味は大きいと考える。

本校においても多くの生徒は上級学校に進学するが、一部の生徒は高校を卒業すると同時に社会へでていく。その社会で、逞しくしなやかに生き抜いていく素養を科目の中ではぐくむことの重要性を感じている。特に一公民として、ものごとを多角的に判断し、自分の力で考え行動する力をつけさせたいと考え授業構成をしている。

そのため高校の授業では、いかに理論的な考えを現実社会に反映させるかを常に考えている。求人票を活用した労働における授業や折り紙を活用した世界貿易の授業などは典型的なものとして、最近では「社会人講師の活用」や課題追求型の授業を中心に授業研究をし実践している。

今回はその中から、経済の基本である需要・供給の概念を現実社会の事象に当てはめて考えた事例を紹介する。

2.活用にあたって

授業の素材は、できるかぎり生徒の興味関心の持ちやすい身近なものや時事的なものが効果的であると考える。

需要と供給という概念は経済理論の古典でありながら、今の社会の中においても通用する理論である。以前、スーパーの閉店間際での「値引き」での事例などについても授業をしたが、今回は農業製品の価格変化を通じて、現在のTPP交渉や日本で行われた洞爺湖サミットの中心議題になっている「農業政策」について考察させた。

また発展的な学習として新聞資料などを活用し、農業における保護政策と自由貿易という視点を加え、「TPP」の現代的な議論につなげた。

需要と供給という考え方と比較生産における自由貿易や保護貿易の考え方を学んだ上で、現代的な答えの出ていない課題に目を向けさせる良い材料になるかと思う。

3.授業実践  公民科 現代社会(2単位)

(1)単元 第3章 現代の経済社会と私たちの生活

(2)考察

(ア)生徒の実態  1年2組40名 (男子16名、女子24名)
学習時間は、平日71分と学習に対する姿勢は前向きである。しかしながら、既存の理解を社会に照らし合わせ、課題を捉える力は弱い。1学期に行った授業評価から、授業に対する姿勢は概ね良好である。授業内容の理解に対しては81%が理解できたと回答している。授業に興味をもった生徒は78%であった。

課題としてはケーススタディといった課題解決的な学習に対しては、理解の程度が59%と減少する。ここから、生徒個人が思考・判断し、課題を解決するような主体的活動に対しては、工夫・改善の余地がある。現代社会の特質として、明確な解答のない課題を扱いながら、個人の自己課題に置き換えて、思考させる必要がある。その面において、本授業では、思考の道筋を示すことによって、生徒が主体的に思考し、判断する力を養いたいと考える。

(イ)教材観
市場経済における価格や取引量の決定のしくみを理解させ、価格の働きによって供給が需要に適応して調整され、資本や労働力の移動を通じて生産要素などの資源が適切に配分されることを理解する。この基礎的な経済理論を、理論の理解だけで留めることなく、現代的課題の特質へと発展させる。

自由競争の社会においては、一定の例外はみとめられるが、基本的には需要と供給の関係において価格が決定される。それが、国内的な要因だけで変動していた時代から、現代のグローバル化した国際情勢の中では、様々な要因から価格は変動する。今回は、昨年の洞爺湖サミットの中心議題であり、現在において継続している課題の穀物価格の高騰を扱い、その背景を需要・供給の基礎理論を土台とし、理解させたい。

但し、石油価格の高騰・穀物価格の高騰のいずれにも、投機的要素が近年影響する面が増大してきている点に留意する。確かに大量の投機資金が動くことによって市場価格が大きく変動する。しかし、投機資金は市場における商品の先行きの需給見通しや市場の歪みによる利ざやを判断して動くので、基本的には商品市場での需要と供給のバランスが価格の決定要因と言える。

投機資金が価格変動を増幅させるとしても、商品価格自体は本来需給によって変動するものなので、本授業での構造的な価格高騰の背景を理解させる授業では、二次的要因として扱う。よって、「なぜ、穀物の価格が高騰しているのか」という問いが基本であり、それを構造的に理解させることが中心となる。

その理解する過程において、既存の知識を使い、複数の資料を読み取り、考察することによってさらに高度の理解へと発展できると考える。そこで、農林水産省データなどを用い、データを読み取る活動を通して、前時に学習した「需要と供給」の概念を踏まえながら、穀物価格の高騰を理解することによって現代的課題の特質の一つである農業政策ついて考えさせる。

(3)単元目標

  • 市場経済における市場とは何かを理解させる
  • 自由競争がおこなわれるとき、市場における商品の需要と供給を何が調節し、資源をどのように配分するかを理解させる
  • 既存の知識を土台とし、複数の資料を活用することによって現代的課題の特質を探究させる

(4)評価規準

  • 現代的な特質について、興味関心を持ち、主体的に関わろうとする(関心・意欲・態度)
  • 複数のデータを多角的に判断し、思考できる(思考・判断)
  • 複数のデータを使い、現代的特質について表現できる(技能・表現)
  • 需要と供給の基本的理論を踏まえ、現代的特質(穀物価格の高騰の背景)を理解できる(知識・理解)

(5)指導の方針と指導の工夫

  • 視聴覚資料の活用をすることによって、興味関心を引き出すとともに、イメージを掴みやすくする
  • 複数のデータを用いることによって、現象にある複数の要因を掴ませる

(6)指導計画 現代の経済社会と私たちの生活

指導内容 時数 中心となる評価規準
現代社会と経済体制 現代経済の基本的なしくみを理解する
現代の企業 経済主体の関係について理解する
市場経済のしくみ(1) 市場のしくみについて理解する
市場経済のしくみ(2)本時 現代的特質について探究する
経済成長と景気変動 経済成長と生活の変化について考察する
政府の経済的役割と租税の意義 税の仕組みを理解し、課題を考察する
金融機関のはたらき 金融の仕組みを理解し、課題を考察する
戦後の日本経済の動き 日本経済の特質について考察する
産業構造の変化 産業の高度化を理解し、課題を考察する
雇用と労働問題 雇用の現状を理解し、課題を考察する
公害の防止と環境保全 環境問題の現状を理解し、課題を考察する
消費者保護と契約 消費生活について理解し、課題を考察する
社会保障と国民福祉 社会保障のしくみを理解し、課題を考察する

(7)本時の展開

【ねらい】多角的な視点から具体的なデータを読み取る活動を通して、現代的課題をつかませる
【準備】教科書「高等学校改訂版 現代社会」第一学習社・ノート・資料データ・パソコン・プロジェクター・模造紙

過程 主な学習活動 支援及び留意点 時間 評価項目・方法
導入
  • 新聞発表
  • 前時の復習(価格)
  • 授業の学習課題を知る
発問「なぜ、価格は上がっているのだろう」
  • 興味関心を持てるように講評を行う
  • 需要と供給の関係を復習させる
  • 「穀物価格の変動」を提示する(1)
10分  
展開
  • 穀物の価格高騰の理由を知る
35分
  • 複数の資料を活用し、穀物価格の高騰の背景を考察することができる
    (思考・判断)
    (発表・ワークシート)
(需要)
・世界の人口増加
・中国などの途上国の発展による食糧需要増大
・バイオ燃料による需要増大
・世界金融危機

・世界の人口(2)
・中国の発展(3)
・中国消費の増大(3)
・バイオ燃料(4) (スライド)
・自動車(スライド)
※長期的に需要原因は増加傾向にあることを意識させる
(供給)
・穀物の供給量
・南米での干ばつ
・天候不順
・地球規模の気候変動

・穀物の供給(5)
・異常気象(スライド)
※供給は、天候などに左右され、不安定なものであることを意識させる
  • 複数の資料を活用し、自国の課題を捉えることができる
    (知識・理解)
    (ワークシート)
・穀物の供給背景
・輸出量の少なさに注目させる(6)
・輸出国は、少数の国であり、限定的であることを理解させる
・農作物の輸出規制 ・絶対量が少ない場合は、自国優先になることを意識させる(7)
  • 需要と供給まとめ
価格高騰の原因
  • グラフを作図させることによって既存の知識と結びつけさせる(8)
※作図の際は、2008年に限定して実施させる。 需要は増加傾向(赤線)・供給は輸出規制などによって減少(青線)・価格は上昇
 
  • 価格高騰による自国の影響を知る
 
まとめ
  • 価格高騰の原因を確認する
  • 価格高騰による日本の現代的課題ついて確認する
  • まとめに記述させる
  • 資料3)を提示する。
    2〜3人を指名し、発言させる
5分
  • 複数の立場から考察することができる
    (思考・判断)
    (ワークシート)

※ (1)〜(8)はワークシートにある番号である
※ 基本的な思考の流れは、農林水産省資料をもとに構成

4.生徒の感想・主なもの

  • 私たちが、食べているものが外国に頼っているので農業をもっと大切にしなければならないとおもう。(保護政策的な考え方)
  • 日本は、多くの食糧を海外に依存しているので、今回(ワークシート(7)「農作物の輸出規制」)のようなことがあると大変・・・。
  • 日本は、積極的に海外に依存して貿易の仲間を作っていかないといけない。
  • 日本は、ものを売ってばかりで買わないと批判されているのだから、農業を保護するのは海外は認めてくれない・・・。

5.終わりに

同様の授業展開を考え、実践されている先生方も多いことと思う。しかし、私の身の回りでは、経済(金融)に関連した「実学的な」授業実践をされている方は極めて少ないと感じている。しかし、世界の動きや政治の背景には経済が必ず存在する。政治というバランスを考えるものに中心がおかれてしまうと「普遍の部分」を見失ってしまう。

経済教育と政治教育が、ともに充実して初めて公民教育の「政治・経済」となる。ぜひ、積極的に経済や金融教育の実践をしよう。

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