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マイクロファイナンスを素材とする金融・キャリア教育
※マイクロファイナンスとは、貧困者向けの小口金融の総称。
  web.01
(2011.4)
東京都立戸山高等学校 高橋 朝子 先生

1.はじめに 

2006年のノーベル賞受賞者であるムハマド・ユヌス氏が始めたマイクロクレジット(マイクロファイナンス)は、いまや世界的な広がりを見せ、一部の「政治・経済」の資料集でも紹介されるほど、有名になった。

私は、同年にユヌス氏の講演を聞く機会をえて、彼がノーベル経済学賞ではなく、ノーベル平和賞を受賞した理由を理解するとともに、彼の社会的起業家としての信念に感動した。

そこで、経済格差が解消できない世界の中で、貧困状態にある人々に対する融資という経済的意味の理解だけでなく、新しいシステムを構築していくという起業家精神を学ぶ素材として、マイクロファイナンスを紹介したいと思い、教材化することにした。

2.授業の位置づけとねらい

国際経済の中の、南北問題のところのまとめの素材としてつかい、国際経済における日本の役割につなげる。南北問題という現状を理解し、課題解決のために何ができるのかを主体的に考え、金融の重要性を学ぶとともに、社会的活動について関心を持たせることを目標とする。

3.授業展開例(2時間)

対象学年:1年生 対象科目:現代社会

  学習内容 生徒の学習活動 指導の留意点
1限導入10分 南北問題を知る ・「世界がもし100人の村だったら」に則り、教室の前後に動く。
・貧困ライン(1日1.25ドル)以下で働いている人々の多さに気づく。
・特定の生徒が少数派にならないように注意する。
・国連機関の最新データで補足する。
展開30分 南北問題解決のための方法を考える ・先進国グループでは「何ができるか」考えて、書き出す。
・途上国グループでは「何が必要か、何をしてもらいたいか」考えて、書き出す。
・簡単なロールプレイング形式をとって討論してもよい。
・グループ毎発表する。 ・発表されたアイデアを分類しながら板書する。
まとめ10分 金融の重要性と、持続可能性の大切さを知る ・分類の基準を考察する。
・金融と持続可能性に気づく。
・貿易については、学習済みなので簡単にその重要性を説明するにとどめる。
・次回の予告として、ムハマド・ユヌス氏の写真を提示する。
2限導入15分 日常生活と金融 ・「今、宝くじで1億円あたったらどうするか」自由に考える。
・「今、緊急に、家族の医療費のため200万円必要だったら、どうするか」自由に考える。
・金融の意義、利子について理解する。
・自分のこととして考えさせられるよう、質問例を工夫する。
展開20分 マイクロファイナンスを知る ・ムハマド・ユヌス氏の始めたグラミン銀行について理解する。
・援助が自立支援につながっていることを理解する。
・ファイナンスである以上、返済できず経済状況が悪化してしまうケースもあるなど、課題にも触れる。
まとめ15分 私たちにできること ・ソーシャルビジネスについて知る。
・日本においても貧困あるいは経済格差が社会問題化している中で、ソーシャルビジネスの大切さを考える。
・ユヌス氏の言葉(*)をきっかけとして、自分のキャリアを考える。
・グラミンファミリーの活動(**)を紹介し、社会的起業に対する関心を高める。
(*) 「知らないから、調べる。調べれば、発見できる。」
「新しい発想をするには、知ること、心を問うこと、自分の目標をはっきりさせることが必要である。」
「社会的利潤を増やすには、自分なら何ができるか考えてほしい。」
(**) ・グラミンシャクティ・・・再生可能なエネルギーへのアクセスを提供する。具体的には、ソーラーパネルの設置など。
・グラミンヴェオリア・・・安全な水を提供する。具体的には、地下水の浄化など。
・グラミンフォン・・・農村部において携帯電話サービスを展開する。  など

4.生徒の反応

生徒たちは興味・関心を持って、自由な雰囲気の中、積極的に意見交換を行っていた。

5.終わりに

「お金に働いてもらう」という言い方があるが、それが社会的利潤を増やすために活き、さらにはお金を提供した人がそのことを実感できればよい。その意味で、グラミン銀行の取り組みは成功している例といえよう。

社会意識に関する世論調査では、社会の一員として何か社会のために役立ちたいと思っている20代の若者の割合は約60%で、他の年齢層よりも低い。また、自分の職業を通して貢献したいと思っているのは、約35%だった(平成22年1月実施 社会意識に関する世論調査(内閣府大臣官房政府広報室))。

理想を抱きながらも実際はどんな仕事があるか、どんなことがビジネスになるかがわからない生徒にとって、具体的なソーシャルビジネスの経営モデルを知ることは、キャリア教育としても意味があるのではないかと思う。

この授業のまとめは南北問題から離れてしまい、散逸的な感はあるが、次の単元の「国際社会における日本の役割」の導入時に、様々なレベルの協力・自立支援があるが、国家として期待されていることに焦点をあてて考察していこうとして、本題に戻していくことが必要である。

「金融の役割」は国民経済分野で学習するところであるが、グローバル化が進んでいる現在、国際経済にあってもその重要性は強調されるべきところである。また、「内向きの若者」という言葉がマスコミを賑わしている今、国際社会のなかで金融や自立支援を考え、さらには自己のキャリアを考える一助となることを期待した授業である。

キャリア教育は、ことさらそれに特化せずとも、様々な教科教育の中で素地を育成することが可能ではないかと考える。

6.参考

池田香代子「世界がもし100人の村だったら」マガジンハウス(2001)
続編として、「(2)100人の村の現状報告」(2002) 「(3)たべもの編」(2004)  「(4)子ども編」(2006) 「完結編」(2008)
ムハマド・ユヌス「ムハマド・ユヌス自伝―貧困なき世界をめざす銀行家」早川書房(1998)
ムハマド・ユヌス「貧困のない世界を創る」早川書房(2008)
菅正広「マイクロファイナンス―貧困と闘う「驚異の金融」」中央公論新社(2009)
シルヴァン・ダニエル、マチュー・ルルー「未来を変える80人―僕らが出会った社会起業家」日経BP社(2006)
社会意識に関する世論調査 http://www8.cao.go.jp/survey/h21/h21-shakai/index.html

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