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為替相場の変動のメカニズムを理解する
―頭を動かす授業を目指して―
  web.04
(2011.7)
山口県立下関南高等学校 林 克佳 先生

1.はじめに 

経済学は論理的な学問であり、さまざまな経済的な事象が数式などを用いて論理的に説明されているところに、その面白さがあると考えている。しかし、公民科目は多くの高校生にとって「暗記科目」であると認識されており、その面白さは十分に浸透していない。

高校での授業実践で、経済学の本格的な理論に触れることは難しいが、さまざまな経済的な事象について自らの頭で論理的に考える姿勢を養うことは、大切にしたいと考えている。理論を教える際には、どうしても教師からの説明量が多くなってしまいがちであるが、その面白さを実感させるためには、生徒自身に考えさせることが重要である。

以上のことを課題として、授業実践を日々行っている。

2.授業のねらい

教材観

経済についてもグローバル化が進行していくなかで、今後もますます為替相場の変動が国民生活に大きな影響を及ぼしていくと考えられる。これらの影響については、新聞やニュースでも日々報道されているところであり、為替相場の変動が企業や家計に及ぼす影響についてしっかりと理解をさせておくことは、生徒の公民的資質を養うために重要である。

また、為替相場の変動には、財やサービス、資本の出入や物価水準、金利差などさまざまな要因が影響している。それぞれの要因と為替変動の関係を一つ一つ暗記するだけでは、為替相場の変動の仕組みについての本質の理解にはつながらない。

為替相場はその通貨に対する需要と供給の関係で決まる。この関係をしっかりと理解させた上で、それぞれの要因の変化が通貨の需給バランスをどのように変化させるかを、生徒自身に考えさせることは、為替相場の変動だけではなく、金融等の他の経済分野への理解をも深めることにつながると期待できる。

生徒観

本校は明治38年創立の下関市立下関高等女学校に起源をもち、男女共学となる平成15年以前は女子校であった。現在も女子の割合が多く、全校生徒477名のうち397名を女子が占めている(男子は80名)。文化祭や体育大会での生徒中心の発表の完成度は高く、学校行事等では活き活きとした活動が見られる。

生徒の約8割が国公立大学への進学を目指しており、昨年度の全卒業生数に占める国公立大学の合格者数の割合は33%であった。

生徒の多くは真面目に学習に取り組む習慣が身についており、落ち着いた雰囲気で授業を行うことができる。また、文章の読解力もある。しかし、自ら考える習慣が不足している。 そのため、授業に対する姿勢が受動的になりやすい。そして、間違いを恐れず自らの考えを述べるという積極性に欠けるため、発言時の声が小さくなり、文章表現の能力の高さを十分に発揮できていない。

また、現代社会を暗記科目であるととらえている生徒も多く、因果関係や各事象の本質を理解しようとする姿勢がまだ不十分である。

本校は昨年度よりNIE(Newspaper in Education:新聞を教材にして勉強する学習)の実践指定校に認定されている。
「新聞記事の優れた活字に触れることで現代社会に対する幅広い興味、関心を高めること」「新聞記事の要約をし、それに対する意見を書くなどして、読解力、論理性、表現力や主体的な学習態度を身につけること」を目的としてさまざまな実践を行っている。

2学年の生徒は、昨年度の現代社会の授業において、興味ある新聞記事を取り上げて要約と感想を述べる3分間スピーチを行った。また、長期の休み期間中には新聞記事の要約と感想を記述する課題も実施した。生徒はこれらを通じて、新聞の面白さを再認識し、また、読むことで自然と語彙力が身につき、考えを深めることを経験している。昨年度に培われたものをさらに育てていくため、新聞を活用した授業を展開していきたい。

指導観

まず、為替相場の変動が企業や家計に及ぼす影響について、新聞記事を用いながら確認する。新聞記事を通して、身近な事例に触れることで、学習する社会的事象について興味や関心を高めさせるとともに、事象に対する具体的なイメージを持たせるようにしたい。

為替を変動させるさまざまな要因と為替変動の関係については、まず、外貨から円へ交換する需要が高まると円高になることをおさえる。そのうえで、各要因によって円への交換需要が高まるかどうかを生徒自身の頭で考えさせる。生徒の授業に対する姿勢が受身にならないようにするため、発問を効果的に行いたい。

この分野については、暗記ではなく、仕組みをきちんと理解することが特に求められる。授業中に生徒に対してそのことを何度も指摘し、生徒の意識の喚起に努めたい。また、仕組みをきちんと理解することで、さまざまな要因と為替変動の関係について容易に説明できるようになることを実感させ、学ぶ喜びを感じられる授業としたい。

3.授業の展開

過程 学習活動 指導の留意点
導入 円高・円安について
「1ドル=100円が1ドル=120円になれば、それは円高ドル安か、円安ドル高か」
すぐに「分かりません」と答える生徒が出た場合、直感的に答えを求めようとするのではなく、自らの頭を動かして考えるように働きかける。
展開(1) 為替相場変動の影響
  1. 「円高が進行していることに、日本の経済界が懸念を示している」という内容の新聞記事を示す。
    • 記事の内容を要約する。
    • 円高の進行が日本の輸出産業に打撃を与える理由について、発問を交えながら説明していく。
  2. 「円高の進行で、日本からの海外旅行が安くなっている」という内容の新聞記事を示す。
    • 記事の内容を要約する。
    • 円高の進行によって、海外旅行が割安となる理由について、発問を交えながら説明していく。

各自で通読する時間を確保し、その後に記事の内容を要約させる。

記事の中の重要な部分を、個人、またはグループで音読させる。

テンポよく数多くの生徒に発言させるようにする。
展開(2) 為替相場変動の要因
  1. 「日本国内に資本(お金)が流入したり、外国為替市場でのドル売り・円買いが行われると、円高ドル安が進行する」ことを確認する。
  2. 具体的な例を挙げていき、それぞれの場合に「日本国内に資本が流入すること」を自らの頭で考えさせる。
    • 日本から輸出が行われたとき
    • 日本への海外投資が行われたとき
    • 日本への外国人旅行者数が増加したとき
    • 日本の金利が上昇したとき

板書しておき、この後の授業でその都度確認できるようにする。

「金利」などの高校生の日常生活で使い慣れない言葉が出てくると、途端に集中力を失ってしまう生徒が見受けられる。「金利」を「利子」と言い換えたうえで、「日本の金利が上昇すれば、日本の銀行にお金を預けようとする人は増えるか」と発問し、生徒が自らの頭で考えるよう働きかける。
まとめ 本時の学習内容を確認する。


演習プリントを配布する。
原因と結果を暗記しようとするのではなく、「どうしてそうなるのか」を理解することが重要であることを、再度伝える。
学習内容を確認する演習プリントを配布して、復習をさせる。

4.授業を終えて

授業実践直後に、「分かりやすかった」という感想を述べてくれる生徒は多くいるが、次の時間に発問して確認してみると、定着率がそれほど高くないことがわかる。授業の場では生徒は理解できた気になっているが、知識の定着というところまではなかなかいかない。

まずは、きちんと復習をする習慣を身につけさせることが重要で、演習プリントの内容も改善する必要があると考えている。また、1度で知識を定着させるのは難しく、今後の授業のなかで何度も確認をすることで定着していくものであると考える。過年度生で実践した際には、復習を繰り返すことによって、この為替相場の分野を得意分野とすることができた。

また、夏休み中に1カ月間、毎日の為替相場を新聞からチェックさせる課題を出すことを考えている。毎日、為替相場の変動をチェックすることで、新聞のどこに為替相場が書かれているかが分かるだけではなく、自然に為替相場に対する興味も高まってくると考えている。

あわせて為替相場の変動がもたらす影響についての記事を取り上げ、記事の要約と感想を書かせることも考えている。授業で学んだことと、社会で実際に起こっている事象とが頭の中で結びつき、「知が結びつく喜び」を感じてくれたとき、現代社会に対する興味も高まってくるのではないかと期待している。

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