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持続可能な社会を目指したライフスタイル
−これからの消費行動を育成する授業の構築−
  web.06
(2011.9)
広島大学附属中・高等学校 日浦 美智代先生・一ノ瀬 孝恵先生

はじめに

学習指導要領の改訂にあたり、具体的な改善の一つとして、新学習指導要領、家庭基礎、内容(2)オ「ライフスタイルと環境」では、「生活と環境との関わりについて理解させ、持続可能な社会を目指してライフスタイルを工夫し、主体的に行動できるようにする」とある。1)また、その内容の扱いについて、「環境負荷の少ない衣食住の生活の工夫に重点を置くこと」とある。

また、新学習指導要領が提唱する共生社会実現の視点から、国際的な視野で我々の日々の食生活を支えている食材や食文化を考え、歴史的に深く追究することが大切であると考えた。家庭科の中で価値観とライフスタイルの見直しを行い、一人ひとりの暮らしを大切にし、持続可能な社会を目指した消費行動を育成する授業を構築することとした。

Ⅰ 授業の実際(対象学年:高等学校1年生)

1.目  標

(1)共生社会実現の視点から、世界と私たちの消費生活のつながりを知る。
(2)どのような消費行動が必要とされているか考えることができる。

2.時間配当

第1次  食生活と食料資源問題「食料自給率・フードマイレージ」  ・・・・・・・・・・・・・・2時間
第2次  地域の食材とその調理「地域の食文化」 ・・・・・・・・・・・・・・2時間
第3次  持続可能なライフスタイルを考える ・・・・・・・・・・・・・・1時間
第4次  未来の生活に向けて「チョコレートから見えるもの」 ・・・・・・・・・・・・・・1時間

3.題材について

私たちの食生活は時代背景や社会の影響を受けながら変容し、一見豊かで便利になってきた。しかし、豊かな食品・情報に囲まれ、手軽にいつでもどこでも食べたいものを食べたいだけ食べることができるという「利便性」が人々に恩恵をもたらすものばかりではないことが、指摘されはじめている。

「利便性」追求の一つの象徴としてのコンビニエンスストアの存在が、「孤食」の問題、現代人のライフスタイルの変化、栄養バランスの問題、環境問題、食の大量生産がもたらした食品偽装などの食の安全性を脅かす問題などと関連づけて論じられるようになってきている。

食材が生産、加工、流通、販売されてきた過程はさまざまであり、また、生産や加工の多くを海外に頼り、石油などのエネルギーを大量に使っている。

私たちが購入している商品の背景に何が起こっているのか知ること、そして、大量に食べ物を輸入している現在の日本の現状を知り、これからどのようなことが必要とされているかを考え、行動するきっかけにつなげたい。
ここでは第1次と第4次の授業案を提案する。

4. 実践例 第1次 食生活と食料資源問題「食料自給率・フードマイレージ」の授業について

(1)授業のねらい
食料自給率が低下してきた原因と現在の食事内容を結びつけて考える。また、私たちの食べ物は半分以上を輸入に頼っている一方で、食料を輸入に頼りながら食料の多くを廃棄していることなど世界レベルで食糧問題について考える。

食料の輸入が多いことが環境へ及ぼす影響、さらには食料生産国へ及ぼす影響、飢餓に苦しむ国がある一方で、飽食の果てに食料を大量に捨てている実態など多角的に学ぶ。

私たちの食糧問題だけでなく豊かな食の裏側に潜んでいるさまざまな問題、我々と開発途上国の人々との関わりを考えさせたい。世界と自分とのつながりを見直し、主体的な行動を促すきっかけとし、ひいてはこれからの日常生活につながっていくことを期待する。

(2)目  標
 (ア)私たちが食べているものがどのように生産されているのか理解し、世界と私たちの食生活がつながっていることを知る。  (イ)食料を輸入に頼りながら食料の多くを廃棄していることなど世界レベルで食糧問題について考える。  (ウ)食料の輸入が多いことが環境へ与える影響、どのような消費行動が必要とされているか考える。
(3)第1次の学習過程

学習内容 学習活動 支援と指導上の留意点◎評価
導 入
食べ物はどこで作られているのか
○自由献立で調理実習を行った弁当のメニューについて振り返り、私たちが食べている食べ物がどのようにして届けられているのか、さまざまな暮らしに関心を持つ。 ◎私たちが食べている食べ物がどのようにして届けられているのか、学習内容に関心を持つ。
調理実習で作った料理の写真を提示する。
展 開
食料自給率と食料輸入
食料自給率と食生活の変化
○調理実習「お弁当」にどのような食材を使用したか思い出す。
○食料自給率とは何かを知る。
○お弁当調理で使われていた食材の自給率を知る。
○日本の食料自給率の現状を知る。
◎食料自給率の資料を見て、日本の食料自給率の現状を考えることができる。
食料自給率低下の原因 ○1965年の食生活と比較することで、食料自給率が低下した原因を食生活の変化とともに考える。 ◎我々の食事と食料自給率の関係について考えることができる。
海外からの食料輸入増加が引き起こす問題 ○食料自給率が低いことの問題点を考える。
○食料の輸入が大きいことが環境へどのような影響を及ぼすか考える。
◎日本のおかれている現状を理解し、問題点に気づく。
フードマイレージ ○フードマイレージについて知る。
○各国のフードマイレージについて知る。
VTR視聴
「地球環境2008より編集」
・日本のフードマイレージが第1位であることを知る。
・フードマイレージカードの食品の中からフードマイレージの高い食材ベスト5を予想する。
調理とフードマイレージ ○フードマイレージの高い食材について知る。 ・身近な献立を例にフードマイレージを計算する。
終 結
豊かな食の裏側に潜むさまざまな問題
○フードマイレージが高いことが環境へ及ぼす影響について考える。
○豊かな食の裏側に潜んでいるさまざまな問題、我々と開発途上国の人々との関わりを考え、プリントにまとめる。
◎今後、何ができるか考えることができる。
教科書「家庭総合」大修館書店、白地図プリント、フードマイレージカード(筆者自作)、映像資料「地球環境2008」、ワークシート

(4) ワークシート <第1次の映像資料の内容(視聴メモ用紙の内容の一部)>

コンビニ弁当から見るフードマイレージ(番組用に作成した弁当)
(ア)弁当の中身は
国内産 米、卵、大根、サツマイモ、こんにゃく
外国産 鮭、えび、鶏肉、レタス、にんじん、小松菜、れんこん、しいたけ、インゲン、ごま、きゅうり、里芋、白インゲン豆、油揚げ
(イ)次の食品はどこからやってくる?
     鮭( フェロー諸島 )より 移動距離 22,000km
     鶏( ブラジル )より 移動距離 23,700km
     レタス( サリナス )より 空輸→ 飛行機が出すCO2は船の( 37 )倍
     インゲン( オマーン )より 移動距離7,800km
          お弁当すべての食材の移動距離  →  地球( 4 )周分
(ウ)日本の食料輸入に伴うCO2排出量は?
          ( 16.9 )百万t  →  一世帯当たり年間約 ( 380 )kg
(エ)日本の食料廃棄の現状
(オ)世界の食糧不足の状況

5.実践例  第4次:未来の生活に向けて「チョコレートから見えるもの」について

(1)授業のねらい
最近、食品の製造工程を知ることの出来るテレビ番組を視聴する機会が多くなった。そこでは、工場の中で原材料が商品になるまでの製造行程を詳細に映像にしていることで、身近に私たちが食べている食べものがどのように加工されているのか知ることができ、興味がわいてくるものである。

しかしながら、収穫時の様子、収穫現場で行われている現実と我々の生活がどのように結びついているか、原料がどのように収穫されてきているかについて学ぶ機会は多くはなかった。そのような中、2006年放送された「もしも世界が100人の村だったら検廚任蓮▲船腑灰譟璽箸慮粁舛任△襯カオの収穫場面において児童労働が行われていることが放送された。

教材としての「チョコレート」は、私たちに身近な食べ物である。「チョコレート」の原料であるカカオはその発見から、栽培までの歴史的背景などさまざまな視点からアプローチの可能性がひろがる。

家庭科ならではのアプローチとして私たちの消費行動から見直すことがあるのではないかと考え、身近な食べ物である「チョコレート」を切り口として、「利便性」先行の風潮について世界レベルで食について再考を促すことを意図した授業を試みた。地球規模的な諸問題に積極的に取り組む意欲や能力を育成する新しい題材開発を提案したい。

(2)指導目標
 (ア)私たちが食べているものがどのように生産されているのか理解し、世界と私たちの食生活がつながっていることを知る。  (イ)カカオ農園で働く子どもたちを取り巻く状況を理解し、児童労働が行われていることを知る。  (ウ)開発途上国の生活改善に必要とされていること、何ができるのか考えることができる。
(3)第4次の学習過程

学習内容 指導内容 ・ 学習活動 指導上の留意点・◎評価
導 入
チョコレートの原材料
○チョコレートの原材料は何?
○チョコレートの原材料はどこからやってくる?
◎私たちが食べている食べ物がどのようにして届けられているのか、さまざまな暮らしに関心を持つ。
展 開
チョコレートとわたしたちのかかわり
○チョコレートの生産量と消費量を理解する。
○世界におけるカカオの生産量を理解する。
○チョコレートの原料であるカカオの産地「ガーナ」を知る。
○世界のチョコレートの生産量・消費量の資料を見て考える。
○チョコレートの原料「カカオ」の生産国とチョコレートの消費国の関係について考える。
開発途上国の現状と課題 ○VTR視聴
「世界がもしも100人の村だったら4」
 
児童労働 ○VTRから収穫現場「カカオ農園」での児童労働の実態を知る。
○飢えや貧しさの現実を理解する。
○世界におきている児童労働について考える。
○途上国の人たちの貧困の原因を知る。(資料1)
◎開発途上国のおかれている現状を理解し、問題点に気づく。(資料2)
フェアトレード ○私たちに何ができるか考える。
○フェアトレードについて理解する。
○フェアトレードの取り組みは、途上国の人々の人権や伝統、環境などを守りながら経済的自立を支援することが可能であることを知る。
終 結
これから必要とされていること
○開発途上国において必要とされている生活改善にはどのようなことがあるだろうか、何ができるかプリントにまとめる。 ◎今後、何ができるか考えることができる。
世界地図、白地図、フェアトレードチョコレート、映像資料「世界がもしも100人の村だったら4」2006年6月

Ⅱ 資料について

(資料1)「世界がもしも100人の村だったら4−チョコレートがどんな食べ物かも知らず、カカオ農園で働く兄弟-」
            2006年6月放送の一部を編集して視聴した内容の要約

西アフリカのガーナでは劣悪な環境の中、学校へ行けず朝から晩までカカオの実をとっている子どもたちがいる。ガーナの首都アクラから車でおよそ5時間の村に住むアペティーくん(11歳)とコフィー(6歳)の兄弟。子どもたちはチョコレートの原料となるカカオを収穫するが、チョコレートがどんな食べ物かも知らない。彼らはカカオ農園に出稼ぎに来ている。

カカオの収穫のほか、毎日水汲みの仕事もしている。家から歩いて20分のところにある水汲み場から、水を運び、3往復くらいしなくてはならない。その後、35度を超える気温の中、カカオの収穫をする。

日本が輸入するカカオの約7割がガーナ産と言われている。

(資料2)「世界がもしも100人の村だったら4−チョコレートがどんな食べ物かも知らず、カカオ農園で働く兄弟-」
            視聴後の生徒の感想

○自分の収穫するカカオが何に加工されているのかも知らないまま子どものうちから働かされているのが先進国では普通に食べられているもので、その産地として「ガーナ」というのも世界的に有名だから地元ではもっと盛んに食べられているのかと思ったら、実は原料を輸出するために現地の人々(こどもたち)はそんな「チョコレートの国」のイメージとはかけはなれた生活をしているのを初めて知った。
○希望の職につくために学校に行きたい。勉強が楽しみなど、途上国のドキュメント番組などで報道されるこどもたちは、今の日本の学生とはおよそ正反対の前向きな望みを持っているなと感じる。先進国の義務教育のように、何かを強要されると人間として反発的になるのは仕方ないこととは思うけど、それでもビデオに出てきた彼らのことを考えると、自分たちがいかにいろいろな意味で「豊か」で「満たされた」生活をしているのかを考えさせられた。
○私たちが普段よく口にすることのあるチョコレートがわたしたちより幼い子どもたちの労働によって得られるものだというのはショックだった。
○遊ぶことも勉強をすることもなく、友達と出会うこともない生活しか出来ないのでは日本でいう「人間らしい生活」と憲法に記載されているような生活は出来ていないことになる。日本では義務教育であり、権利であって当然のことが彼らには出来ない、社会の問題を感じる。

私自身、これよりも悲惨な現状をバングラデシュに行って見てきた。バングラデシュは世界有数の貧しい国である。そこで感じたのは、日本のこどもたちに働く姿を見せてあげたいと、親に依存しきった日本の子どもは子どもが持つべき純粋さを欠いている。また、教育を受けられるということに感謝しなければならない。

彼らの目の輝きは今でも忘れられない。私たちの価値観を彼らに押しつけることは、彼らのためにならない。では、彼らのために何ができるか。お金を送る?これは実際彼ら(子どもたち)にちゃんと給与される場合はほとんどないといっていいのではないか。教育をする人の派遣やフェアトレードなど少しでも自分たちに出来ることはあると思う。

Ⅲ 授業実践を終えて

本校の高校1年生(2008年)を対象として、授業前に学習状況調査を行なった。現在、日本では我々の食卓に並ぶ多くの食料の大半を他国に依存しているにもかかわらず、その結果は、フェアトレードを理解している生徒16%、フードマイレージを理解している生徒18%、食料自給率を正しく答えることができた生徒29%にとどまっていた。

これは現在の食生活が地球全体の資源や環境に深刻な影響や負荷を与えていることをほとんど意識していないことのあらわれであろう。世界からあらゆる物を調達しているが、日本で暮らしているとその関係が見えにくくなり、気付かないことがたくさんある。

一連の授業では、食卓の食べ物を誰がどこでどのように収穫し、どのように運ばれてきたかを知ることができた。そして、食材を大切にする気持ちも生まれてきたようである。

おわりに

私たちが住んでいる地球を持続可能なものにするための様々な施策が進展している中、共生社会実現の視点から世界的視野で考えること、貧困にあえいでいる国の人々のことを私たちはもっともっと知ることが大切である。

この実践は、我々の「食べ物」が「世界の環境問題」「児童労働」と深いつながりがあること、普段の食生活では気付かないことを気付かせてくれ、今世界で起きている現実について生徒へ問いかけ、問題を投げかけ考えさせることが出来る教材であろう。

生徒が自分の生活に引き寄せて考え、普段の生活の中では見えないものを現実の生活につなげ、生活者としての視点を持ちながら理解を深めることができる展開となったと考える。

持続可能な社会を目指すライフスタイルを意識するためには、まず、私たちの消費生活の背景に何が起きているのか知ること、児童労働は国際社会の大きな課題であり、まずその現状を知ることが大切である。そして、身近なところから地産地消に取り組む、フードマイレージ、フェアトレードについて考えるなど世界で起きている現実と我々の食生活を結び付けて考え、その見直しを図るなど他者とのかかわりを意識することである。

生徒たちは、自分とは全く異なる厳しい環境の中で生活している子どもたちの現状を知り、他者とのかかわりや自分にできることを考えようとする気持ちが芽生えてきている。世界とわれわれの生活とのつながりを見直し、主体的な行動を促すきっかけとし、ひいてはこれからの消費行動につながっていくことを期待する。

附 記

本稿の一部は、「持続可能なライフスタイルを考える家庭科教材開発 −チョコレートから見えてきたもの−」広島大学附属中・高等学校、中等教育研究紀要第56号の研究成果をまとめたものである。

引用文献

1) 文部科学省「高等学校学習指導要領」平成21年3月 2) 日浦美智代、一ノ瀬孝恵「持続可能なライフスタイルを考える家庭科教材開発 −チョコレートから見えてきたもの−」、広島大学附属中・高等学校、中等教育研究紀要56号、2009

参考文献

1) 日本チョコレートカカオ協会統計資料 2) 映像資料「地球環境2008」2008年 3) 映像資料「世界がもしも100人の村だったら検2006年 4) 農林水産省「食糧需給表」 5) 農林水産省「食料自給率の部屋」 6) 一ノ瀬孝恵、高林賢治、平松敦史、藤原隆範「コラボレートによるESD(持続発展教育)の授業の創造」、広島大学附属中・高等学校、中等教育研究紀要55号、2008

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