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「累進課税制度」から考える公正な税制について
web.12
(2012.3)
東京都立蒲田高等学校 宮崎 三喜男 先生

1.はじめに

新しい学習指導要領では金融教育の充実が強く叫ばれている。しかしながらそれと同じくらい財政・租税教育も大きなテーマであると考える。財政問題が新聞やニュースで流れないことはない。今、この現状を高校生はどう感じているのであろうか。

限られた時間数の中で、どのように効率的に教えるのか。今まで私は、このような考えから財政の授業を行ってきたが、今回、この考え方を180度転換し、「高校生に財政について伝えたいことは何なのか」を中核に授業の見直しを図った。

その結果が、1つ目「なぜ税金は必要なのであろうか」、2つ目「公正な税制とはどのようなことであろうか」、そして3つ目「現在の日本の財政問題について考える」である。

今回、2つ目の「公正な税制とはどのようなことであろうか」の授業について提示させて頂くが、「税は公平に集める」という基本概念は実は簡単なようで簡単ではないということを生徒に学んで欲しいという思いからである。

累進課税制度は教科書的に書くのであれば「所得の再分配」であろう。しかし教師の説明だけで、生徒に深く理解させることはできるであろうか。

主体的な学びで累進課税制度の意義やあり方、またそのことだけにとどまらず、税制、財政のあり方、または「豊かさを分かち合う社会」について考えさせたいと考えている。

新しい学習指導要領の現代社会では「幸福・正義・公正」の考え方が新たに明記された。税制の授業で「真に公正とは何か」ということを生徒に考えさせたい。

2.授業の位置付けとねらい

◇対象学年 高校1年生
◇対象科目  現代社会
◇授業のねらい
・「公平な税制とは何か」を主体的な学びを通して考える。
・グループワークを通して、他者の意見を聞き、歩み寄ることで明日のあるべき社会を考える。

3.授業展開例(1時間)

過程 学習活動 予想される反応と指導上の留意点
導入 このクラスを「○○王国」と名づけます。皆さんは○○王国の国民です。さて今度、税金で橋を作ることになりました。橋を作るのには、1,800万円かかります。では、橋を作るために税金をどうやって集めたらいいのか、考えてみましょう。
○6つにグループ分けをし、「公平に集めたい」との指示だけ与え、ワーク1を考えさせる ○合計金額1,800万円を6グループで割り、各グループ300万円を納税する解答が出ると推測される。
●全グループが同じでも、その後に「公平の難しさ」が際立つので、あえて深入りする必要は無い。
<ワーク1>
すべての国民の所得は1,000万円です。なるべく「公平に集めたい」と思います。さて、いくらずつ集めればいいでしょうか?
展開(1) ○同じく「公平に集めたい」との指示だけ与え、所得が異なる設定のワーク2を実施させ、発表させる。 ○ワーク1の考えを適応すれば、各グループ300万円の納税が生じるが、5班は税金を払ってしまえば残りが0円に、6班に至っては税金のほうが所得より高いことになってしまい払うことができなくなる。
●不足している税金をどこで補うかを考えるように議論をさせる。
●発表させるときに「なぜそのように考えたのか」の根拠も発表させる。
<ワーク2>
では、国民の所得が違ったら、どうでしょうか?やはり、なるべく「公平に集めたい」と思います。さて、いくらずつ集めますか?各グループで話し合ってみよう。(1班:2,500万円、2班:1,500万円、3班:1,000万円、4班:500万円、5班:300万円、6班:200万円)
展開(2) ○最後に「生活をするのには最低200万円が必要である」という新たな指示がでているワーク3を行い、再度、税金の集め方について考え、発表させる。 ●なにをもって公正と考えたのかが重要であるため、その点はしっかりと考えさせたい。
<ワーク3>
では、同じ質問をします。なるべく公平に集めるためには、いくらずつ集めればいいでしょうか?ただし、実はこの○○王国で生活していくのには最低200万円は必要です。
まとめ ○「公平な税制のあり方」について論述させる。 ●「公正」というキーワードを必ず入れさせるような工夫があるとよい。

4.生徒の反応から見えてくること

ワーク1では全員の所得が同じであり、それに対しての課税であったため「公正」が成立する。しかしながらそのような社会は存在せず、所得が違う中でどのように公平さを求めていくかを考えるところがこの授業の肝である。

生徒の中には全体の所得に占める課税の割合が30%と言うことに気づき、各グループが所得の30%を税金として納める方法(比例課税)にするべきだとの意見が出てくる。

しかしながら最も現実社会に近いワーク3では、この考え方では乗り越えることができない。このときにあえて教師側から「6班は借金してでも税金を払うことはさせないの?」と投げかけるのもおもしろい。

経験的にワーク2で全班が同じ割合の比例課税制度が望ましいと考える場合が多く、さらに条件が加わったワーク3では所得の高い、1班・2班・3班が多くの税金を納めるべきであるというように変化していくことが多い。

その際、「なぜ1班・2班・3班なのか」、また「金額の設定の基準は」となると非常に曖昧な解答が多いのであるが、体感的に累進課税制度の意義を理解したようである。このような体験を通して累進課税制度の意義や役割について深く理解できるようになるのではないかと期待する。

さて過去に一度だけ、以下のような生徒の反応があったのでそれを紹介したい。その考え方とは1班が1,800万円、2班が800万円、3班が300万円の税金を納め、4班が200万円、5班が400万円、6班が500万円を逆に受け取るというものである。

おわかりの通り、この生徒は残金を基準に「公平」を考えたのである。この生徒の考え方は「公平」と言えるのであろうか。この考え方が示すように、人によって「公平」の考え方は異なる。この当たり前の事実を生徒に学ばせることは講義式の授業では限界があろう。「真に公正とは何か」を主体的な学びから導き出したい。

5.まとめ(おわりに)

財政危機が叫ばれて久しいが、教育現場において財政教育、租税教育はそれほど盛り上がらないのが現状である。生徒の立場に立っても税金は「とられるもの」であって、ネガティブな印象が強い。

そこで財政の授業の単元においては導入で「なぜ税金が必要なのであろうか」という柱でしっかりと租税の意義を学ばせたい。そしてその次のステップが本時である。

「公平」「公正」という考え方をしっかりと理解させ、租税の在り方について考えさせたい。この点が租税教育・財政教育の核となることを期待する。

なお、本授業は中学校段階でも活用が可能である。学校や生徒の実態に合わせ、様々なアレンジをして頂ければ幸いである。例えば、発展的な内容として、「分配」の観点からだけでなく、「成長」の見方を加え、収入を上げていく視点も持たせる授業も面白いであろう。

またそもそも橋を作ること(公共事業)の是非から、大きな政府、小さな政府と話しを広げることも可能である。その他、昨今話題のベーシック・インカム、フリーライダー問題、税及び社会保障負担の現役世代と将来世代について考えさせるなど幅広いテーマで話しが広がることもできるであろう。

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