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パーム油の学習を通して社会的責任を考える
  web.03
(2012.6)
同志社香里中学校・高等学校 藤井 宏樹 先生

1.はじめに 

一般的には「環境に優しい」と言われる植物原料であるが、それを鵜呑みにしても良いのだろうか。

確かに、化石燃料等を燃やすことによって放出される温室効果ガスは地球温暖化の元凶と考えられているのに対して、サトウキビや大豆から作るバイオ燃料の場合は、光合成による二酸化炭素吸収量と相殺される(カーボンニュートラル)という点が「環境に優しい」の根拠の一つとなっている。

また、原油価格が高騰して世界経済に悪影響を及ぼしたり、やがて資源の枯渇という問題に直面したりするのに対して、太陽と水と大地があれば半永久的に再生産が可能であり、かつ安定供給ができるという点でも評価されている。

しかし、結論を見出すためにはもう一歩踏み込んで、「持続可能な開発」という視点に立って、原料生産地で起こっている現象にまで目を向ける必要があるのではないだろうか。

今回紹介させていただく授業プランは、「見えない油」と呼ばれるパーム油の事例を通して、開発か保護かという社会的ジレンマを提示し、私たち自身の生活を見直すとともに、関係する企業の社会的責任や、政治の働きなどについて考えるものである。

ところで、パーム油についてご存知だろうか。実は、インスタント食品やスナック菓子、冷凍食品の揚げ油、チョコレートやアイスクリーム、コーヒーフレッシュなどの加工食品に使われているほか、洗剤、化粧品、医薬品、その他工業用など、非食用でも大量に使われている。日本への輸入量を人口で割ると、一人あたり年間約4kg(植物油の35%程度)も消費していることになるが、ほとんどの生徒がパーム油を見たこともなければ聞いたこともないと言う。パーム油は18℃以下になると凝固してしまうため、菜種油やコーン油のように一般家庭で使われることがないからであろう。それ故、「見えない油」と言われているのである。

西アジア原産のアブラヤシの実を搾って作るパーム油は、2005年に大豆油を抜いて生産量第1位になり、今や植物油の約30%を占めるほどに急増した。現在はインドネシアとマレーシアの2ヵ国で90%近く生産されており、その多くが中国やインドなどアジア各国に輸出されている。そこで両国政府は外貨獲得のための重要な輸出産品として位置付けており、開発の遅れていたスマトラ島やボルネオ島(カリマンタン島)などでプランテーションの開発が続けられた。

その代償として、生物多様性の宝庫といわれている熱帯林が失われ、絶滅の危機に瀕している生物もいる。日本の里山と同じように人間の生活圏と接近することで軋轢が生じ、野生生物に危害を加えたり、不法に取引したりする人間も現れるようになった。

その一方で、傷ついた野生生物の救出に取り組んでいる人々や組織、マレーシアの開発・発展と自然環境保護のために活躍している日本人もいる。また、S社のように原料生産地に対する社会的責任から会社をあげて保全に取り組んだり、国際NGOなどの組織をバックアップしたりして積極的に活動している企業もある。そして、これらのことを知識として得たものの、実際に何らかの行動を起こすことが難しく、もどかしい思いをする生徒たちもいる。

このように、単なる事例紹介ではなく、生徒自身が直接関わっている社会的ジレンマの状況のなかで、社会的責任消費(SRC)を含めて自分に何ができるかを考えさせることができるものとしてパーム油の学習は有効である。

また、公民的資質の育成のために「考える」という思考の訓練を続けることは重要である。そのためには、ただ「考えよう」と言うばかりでなく、物事を考えたり、整理したりする際に使用するツールを紹介しておくことも必要である。今回使用したベン図、ランキング、ポジショニングマップ、KJ法、ウェビング等は、大学での研究や社会に出て働く際に身に付けておくべき発想法や整理法である。

さらに、実際に「社会的責任」を果たしている人物から直接話を聞く機会を設けることも重要である。企業活動に関して現地で起こっている現状を踏まえ、なぜ自分たちが活動しなければならないのか、何をどう考え、誰と連携して進める必要があるのか、世界ではどのような議論がなされているのか等々、課題も含めて率直に、かつ論理的に話せる人物を探すことが肝要である。これらのことを念頭において、体験的に学ぶことを本実践の目的とした。

2.学習活動の流れ

〈第1章〉クイズ (フォトランゲージ)

ねらい 熱帯雨林気候、イスラム教、マレーシアの生活、アブラヤシの実など、今後学習する分野のイメージを膨らませ、興味を持たせる。
(1) マレーシアに関係する写真(PDF)を見て、何の写真かを1人で考える。
(2) 1テーブル3〜4人ずつに分かれて、各自が考えたことを述べ合う。
(3) グループ内で議論したり、図書館の資料を用いて調べたりする。
(4) パワーポイントで投影した写真について調べたグループが内容を発表する。
(5) 発表にあわせて、教師が正解を示し解説する。
(6) 最後のアブラヤシの写真を見せて、次回までの宿題として「見えない油」といわれているパーム油が使われている製品を探してくるように指示する。

〈第2章〉マレーシアとアブラヤシに関する学習

ねらい マレーシアの民族、宗教、歴史、日本との関係、アブラヤシの特徴などを整理する。
(1) ワークシートを用いてマレーシアの民族や宗教、歴史について学ぶ。
(2) パワーポイントで作成したスライドを見て、要点を確認しながらアブラヤシとパーム油の特徴(PDF)について学ぶ。
(3) 『素敵な宇宙船地球号〜子ゾウの涙』を視聴して、内容をメモ(PDF)する。
(4) 番組が伝えたかったメッセージは何かを考える。
(5) 番組を見て感じたことや考えたこと、これまでの授業やビデオの内容に関して疑問に思ったことなどについて書く(時間が足りなかった生徒は宿題)。

〈第3章〉ボルネオ島の現状と自分たちの生活の関係について考える

ねらい パーム油やボルネオ島の現状と社会構造について学び、自分たちの生活との関係について起業家教育の手法を用いて考える。
(1) ビデオや授業で学んだことを踏まえて考えをまとめる。
  • WANT(したいと思うこと)、MUST(そのためにしなければならないこと)、CAN(今、自分にできること)の三つに分けて考える。
  • ベン図(大きな輪を三つ重ねた集合図)を描き、それぞれに当てはまるキーワードを書き入れて考えを整理する。
ベン図サンプル
(2) ランキングの手法を用いて考えをまとめる。
  • 12枚のカードから重要だと思うものを9枚選ぶ。(自分で足しても良い)
1.
家族や友人にパーム油のことを伝える
2.
パーム油について詳しく調べ、解決策を考える
3.
買い物をするときに、商品の表示を確認する
4.
パーム油を使用している商品を買わない
5.
スナック菓子やレトルト食品、インスタント食品の消費を控える
6.
熱帯林に暮らす人々や動物のことを常に心にとめて生活する
7.
生産者の労働や環境を考慮して買い付けるよう、企業に提案する
8.
テレビコマーシャルなどからのイメージを鵜呑みにしない
9.
ものを無駄にしないで、4Rを実行する
10.
環境保護団体などの活動に参加・支援する
11.
現地に行って実際の様子を見てくる
12.
[自分で考えた行動]
※4Rは、Reduce(減量)・Reuse(再使用)・Recycle(再資源化)・Refuse(拒否)のこと。
※他にRepair(直す)・Refine(分別)・Rethink(再考)・Rental(借りる)・Return(戻す)・ Reform(改良) Reconvert to Energy(再返還:燃やして熱を利用)などもある。
  • ダイヤモンドランキングで重要だと思うものから順に並べる。
  • 自分のランキングとグループメンバーのランキングを比較する。
  • グループで意見交換しながらダイヤモンドランキングを完成させる。
  • クラスで最も重要だと思うことがらを投票する。
(3) これまでの授業を踏まえて、再度現段階でのWANT、MUST、CANを考える。
(4) 文化祭で展示するメッセージボードの葉っぱに書く言葉を考える。
  • 切り取った葉っぱにメッセージを書く。
    ※ 文化祭の時期でない場合は、教室や廊下に掲示する。

〈第4章〉アブラヤシ・パーム油の落とし穴

ねらい ビデオを視聴してより理解を深めるとともに、人物や組織にはそれぞれの立場や考えがあることを理解する。
(1) 2本の番組(『素敵な宇宙船地球号〜子ゾウの涙PART2』と、『福留功男のジャングル紀行〜ボルネオ・緑の絆』を一部抜粋したもの)を視聴する。
(2) 番組に登場する人物や組織(PDF)の立場や考えに着目しながら内容をメモする。
(3) 番組に出て来なかった人物や組織等(PDF)もプリントや教師の解説で確認する。

〈第5章〉 自分とは違う立場に立って考える

ねらい 自分の考えではなく、割り当てられた人物や組織【第4章(2)(3)】の立場から考えたことを発表することでより理解を深めるとともに、多角的・多面的な視野で考える経験を積む。
(1) ポジショニングマップ(PDF)(縦軸は「開発−保護」、横軸は「近い−遠い」)を用いて、人物や組織の立場や関係を整理する。
(2) 模擬RSPO会議(持続可能なパームオイルのための円卓会議)
  • 一人一役になって、RSPOでの発言内容を考える。
    ※ ビデオ等の情報を元に、職業、役割、活動内容などの事実関係を踏まえたうえで、その人の立場になりきって考える。
  • 黒板に描いたポジショニングマップに、それぞれの立場(位置)を書いたうえで発表する。
(3) ポジショニングマップで整理した立場をもとに、9つのグループに分ける。
(4) 振り返りを行う。
  • 新たな視点を得られた発言や印象に残った発言などを発表し合うことで情報を共有する。
  • ゾウにアブラヤシを食べられたSさんはプランテーションのオーナーなので立場上「開発」を選ぶのが普通であるが、あえて「保護」の立場に立つとしたら、その理由と考えられることは何かを考える。
  • これまで授業を受けてきて、あなた自身は何をどうすれば良いと思ったか。自分のポジションを明らかにしたうえで、今考えていることや今後の具体的な行動について考える。
  • 何人かの生徒を指名し、考えたことを発表させる。

〈第6章〉講演

ねらい この問題の本質はどこにあるのか、また、「企業の社会的責任」について企業がどのように考え、実行しているのかを理解する。
(1) S社、広告宣伝部長の講演(PDF) 「企業の社会的責任について〜ボルネオ島の現状とS社の取り組み〜」

〈第7章〉 マレーシアと私たちの暮らしについて考える

(1) 関係するキーワードをあげて、KJ法により整理する。
(2) ウェビングを用いて関係をまとめる。

〈第8章〉まとめ

(1) 12歳のこどもにできること
  • 1992年の国連環境会議(地球サミット)で、カナダの小学生が行なったスピーチを視聴(印刷物あり)し、考えたことを書く。
(2) 企業の社会的責任について考える
  • 「企業の目的と役割って?」『ゲームで学ぶ経済のしくみ』篠原総一監修 第3巻『会社のしくみ』8-9頁、学研、2009年
  • 『もし高校野球のマネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』岩崎夏海、ダイヤモンド社
(3) 企業の存在意義について考え、議論する。

3.生徒の感想

  • 教科書を使用した通常の授業と違い、図書資料やビデオ、コンピュータを用いての映像資料などをたくさん用いたので分かり易かった。
  • ビデオに映し出される傷ついたゾウの映像はショッキングだった。
  • 知らずに使っていた「見えない油」パーム油のメリットをたくさん学んだ後に、熱帯林の破壊や野生生物の住みかが失われていること、それに対するマレーシアでの取り組み、そしてRSPOのような国際会議と、BCTのような環境保護団体の活動を知り、複雑だった。
  • 自分で考えたり発表したりする活動が多かったのでしんどかったが、ためになった。模擬RSPO会議が面白かった。
  • 早速母に「ヤシの実を原料とした洗剤」を勧めたが、「油汚れが落ちにくいから○○(合成洗剤)がいい」と言われた。人に伝えることはできるが、説得して行動を変えさせるのは難しい。
  • この授業でアイデアに対する思考力と経営の基礎が身に付いたと思う。今後はこの経験を生かし、さらにアイデアを熟考し、数多くの環境問題を解決するビジネスプランを作成したいと考えている。(私の「経営理念」は)環境にやさしい商品・サービスを提供することで地球に生きるすべての生き物との共生を目指す。また、貴重な資源を使わず持続的な発展を目指す。

4.おわりに

以前、「ダーウィンの悪魔」というドキュメンタリー映画を題材にした授業を実践したことがある。映画は、アフリカ大陸最大のビクトリア湖に放たれたナイルパーチという外来魚をめぐる利害関係者の思惑や社会の変化等を描いたものである。

また、巨大なナイルパーチは食欲旺盛で、希少な在来種をどんどん捕食するため、生態系を破壊する怖れがあると訴えている。実は、ナイルパーチの身は淡白でクセがないため、冷凍食品やファストフード、レストラン等で白身魚フライとして提供されることが多く、欧米諸国や日本にも輸出されている。だが、そのことを知っている消費者はほとんどいない。言うなれば、「見えない魚」なのである。つまり、ナイルパーチをめぐってビクトリア湖周辺で起きていることと、ボルネオ島のパームプランテーションに関する諸問題の基本構造は同じであることがわかる。

このように、世の中には思わぬところで自分の生活と結び付いている問題が数多くある。その大部分が、すぐに結論の出るような易しい問題ではなく、どれが正しいか、正しくないかという判断のつかない問題や、同じ人物でも立場や役割が変われば考え方も変わる可能性がある問題なのである。

このような「正解のない問題」に直面したときに必要なのは、現状把握や歴史的背景を理解する力と、目に見えないものへの想像力、論理的思考力、そして行動力である。

これらの力を身に付けさせるためには、自分の生活に深く関係しているにもかかわらず、現地のことはほとんど伝わってこないという題材を示し、自分自身の問題として深く考えさせる機会を与えることが重要であろう。そして、新たな事実を知ったり、考えたりしたあとは、自らの行動を変えたり、人に伝えたり、提案したりする活動に結びつかなければならない。

その点では、今回取り上げた「パーム油」は、スナック菓子など生徒の身近なところにも使われているので、考えるきっかけをつかみやすいといえる。しかし、生徒の感想にあったように、「伝える」ことはできても、相手の行動を変えるところまで説得することは難しい。自分だけでできることと、他を巻き込むこと。この二つには大きな違いがある。

他を巻き込むには相当大きなエネルギーが必要である。そのために会社組織で取り組み、広告宣伝のレベルではなく、専門の研究員を置いたり、環境NGOを作って活動をバックアップしたりすることで主体的に問題解決に努めている会社があるということを知ることで、会社という組織の存在を見る目も変わってくるであろう。

その点では、今回のように会社組織と国際環境NGOの両方に身を置き、それぞれ責任ある立場で活動されている方から最前線の話を聞くことができて大いに参考になったはずである。

一方、課題もいくつかある。生徒の興味関心を高め、理解を促すために写真や漫画その他の材料、テレビ番組、パワーポイント等の視聴覚教材をたくさん用いた。情報をたくさん提供できるメリットがある一方で、「消化不良」になってしまうおそれもあるので、実施学年や生徒の理解度等を判断して適切にフォローすることが必要であろう。

また、社会的な問題を分析したり考えを整理したりするために、開発教育や起業家教育で用いられる手法をいくつか取り入れたが、その説明に時間がかかってしまい作業時間が短くなったときもあった。もう少し時間に余裕があれば、生徒たちの理解も深まり、模擬RSPO会議でももっと白熱した議論ができたであろう。

最後に、本実践を構想するに当たっては、JICAの教師海外研修の経験がベースになっており、そこで得た情報や手法を大いに参考にさせていただいた。ご担当いただいた荒川共生さんにこの場をお借りしてお礼を述べたい。

<参考資料等>
京都自由学校調査研究入門講座編 『あるいて みて きいた モノのこし方・行く末』 京都自由学校、2001
坂内久・大江徹男編 『燃料か食料か−バイオエタノールの真実』 日本経済評論社、2008
特定非営利活動法人開発教育協会 『パーム油のはなし「地球にやさしい」ってなんだろう?』 DEAR、2002
特定非営利活動法人アジア太平洋資料センター編 『バイオ燃料《畑でつくるエネルギー》』(DVD) PARC、2007
事前・事後研修資料、現地施設のリーフレット、ボルネオ保全トラスト(BCT)のリーフレット
各ウェブサイト(日本植物油協会、BCT)等

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