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主体的な経済分野の学びを実践する「現代社会」指導案に関する一考察
web.05
(2012.8)
東京都立小平高等学校 浅川 貴広 先生

1.はじめに

本稿は、今般の新学習指導要領において重視されている、言語活動の充実という観点を踏まえ、経済分野の学習における主体的な学びを提起するものである。

今般の新学習指導要領の中で、その柱の一つとして掲げられているのが、言語活動の充実である。この背景には、知識基盤社会において求められる能力の一つとして、言語活動を通じたコミュニケーション能力の育成が重要であるとの観点に立つものである。殊に公民科目では、ディベートやグループワークなど、言語活動を行う場は多く、言語活動の充実において、公民科目が担う役割は大きいものと考えられる。

本稿で提起する授業案(以下、「本指導案」とする)は、経済分野の現代の企業活動について、生徒が自ら企業の経営を考え、それを発表し、議論させることで、より主体的に経済分野の学習を行っているものである。本指導案のポイントは、以下の三点に集約される。

第一に、生徒に実際の企業(本指導案では近隣のスーパーマーケット)を用いた経営を考えさせることで、より実社会に即した学びを実現することができる。また、その過程で地域の企業などと連携することで、学校が地域との結びつきを生かした授業を行うことができる。

第二に、本指導案による授業では、単に企業経営を考えるだけでなく、企業の社会的責任(CSR)の観点を踏まえた提案をさせることで、生徒の将来的な進路を見据えた視点も育成することができる。昨今の日本でも、企業の在り方が問われるような不祥事も発生していることからも、重要な視点であると考えられる。

第三に、グループでのプレゼンテーションでは、プレゼンテーションにおいて重要な観点や、その難しさを学ばせることで、もって、表現力の育成につながるものと考えられる。また、プレゼンテーション後に、クラスで議論させることで、それらがより深まっていくであろう。

以上の点を踏まえ、本稿では主体的な経済分野の学びを実践する「現代社会」指導案を提起していく。

2.授業の位置付けとねらい

【対象学年】 高校3年生
【対象科目】 現代社会
【使用教科書】 実教出版『高校現代社会 新訂版』
【授業のねらい】 (1) 本時における課題解決学習を通じ、主体的に自らの考えを判断し、まとめ、表現する力を身につけさせる。
(2) 本時の学習内容に興味・関心を持たせることで、自ら積極的に追求していこうとする姿勢を身につけさせる。
【本単元の構成】
  学習活動・学習内容
第1時 日本の"カイシャ"の生きる道(今日の企業活動)
第2時 "スーパーA"は地域や社会を救えるか?(1)(グループワーク【1】)
第3時 "スーパーA"は地域や社会を救えるか?(2)(グループワーク【2】)
第4時(本時) "スーパーA"は地域や社会を救えるか?(3)(報告プレゼン【1】)
第5時 "スーパーA"は地域や社会を救えるか?(4)(報告プレゼン【2】)

本単元は、小平高校の近隣にある、スーパーA小平店にご協力をいただき、実際の店舗を舞台に、"あなたがもし、経営コンサルティング会社の社員として、スーパーA小平店に『経営提案』をするとしたら、どのような提案をするか"をテーマに、企業の利益とともに、地域や社会に貢献することを条件に、経営提案をグループ単位で考えさせ、発表するものである。

本単元は、第1時で今日の企業について学習し、第2時、第3時において、個人で考えさせた上で、グループで経営提案を考え、発表の準備をさせる。そして、第4時、第5時において、グループごとに発表を行い、投票により、最終的には最優秀経営提案を考えるものである。

3.授業展開例(1時間)

(※ ○:規律ある姿勢・態度 ●:学習事項 ☆:重点的指導事項)

時間 学習活動 指導上の留意点・配慮事項
導入(7分) 授業開始のあいさつ ○☆ 時間通りに開始し、しっかり挨拶をする。
本時のテーマ:"スーパーA"は地域や社会を救えるか?
〜企業の戦略的CSRを考える〜(報告プレゼン【1】)
(1) ワークシート読み込み
各発表班のワークシートを読み込む。
各発表班のワークシートを読み込む。
本論(40分) (2) 報告プレゼン、および評価
順番に報告プレゼンを行うとともに、各発表班の「報告プレゼン」を観ながら、ワークシートによる評価を行う。

※各班の発表ごとに、ワークシートを記入する時間を設け、記入させる。
●☆ 報告プレゼンを様々な観点から判断し、評価することで、企業の利益と、企業の社会的責任の両方から企業経営を考える際の基準などを気づかせる。
●☆ 企業の経営として、単なる利益追求だけでなく、企業の持つ役割に気づかせる。
●☆ 自班の報告プレゼントとともに、自分達の発表を、他の班の発表と比較することでも、表現力の向上を図る。
【各プロジェクトチーム(各班)による報告プレゼン実施について】
(ア) 各プロジェクトチーム(各班)による発表時間は3分〜5分を目安として、概ね5分経過した時点で終了とする。なお、過度に3分以下となる報告は「報告」と認めない。
(イ) すべてのプロジェクトチーム(班)が、構成員全員が前に出て、最初に各プロジェクトチームの「代表」が「班、会社名、メンバー」を紹介してから発表を始める。
(ウ) 発表の形式、プレゼン方法、使用機材などはすべて自由である。ただし、実際に企業の前で報告プレゼンを行わせるものとして、服装や言葉遣いなどには特に気をつけさせる。
(エ) 各プロジェクトチーム(各班)による発表終了後、(質問や意見が出なかった場合は)こちらが指名する生徒2名程度が、「質問」、もしくは「感想」を述べる。その他に意見や質問などがあれば発表させる。
(オ) 本時と次時で半分ずつ(5班ずつ)の発表予定であるが、進行状況によって、柔軟に対応する。
まとめ(3分) (3) まとめ
授業終了の挨拶
本時のまとめを行う。
○☆ 時間通りに終了し、しっかり挨拶をする。

4.本指導案実践の結果

本指導案の実践結果としては、概ね、意図していた目的は達成できたものと考えられる。生徒の取り組みの様子や、本指導案による授業を経ての様子は以下の通りである。

(1) 【経営提案】の作成のため、試行錯誤しながらも、様々な方法を用いて調査を行っていた。具体的には、スーパーA小平店への調査や、他店舗の調査、さらには小平市役所などの公的機関での調査などである。なお、調査に関する指導としては、店舗などの営業の妨げにならないようになどの、最低限の注意のみ行い、調査方法の具体的指導は行っていない。
(2) プレゼンテーションの方法について、模造紙を用いる班が多かった。一方で、情報の授業で習得したパワーポイントを用いる班も見られた。それ以外にも、例えば、小平市特産のブルーベリーを使ったお菓子を販売すると提案した班は、実際にお菓子を作ってくるなど、プレゼンテーションに高校生なりの創意工夫が見られた。
(3) プレゼンテーション後には、各クラスとも活発な議論が行われた。それらを通じ、企業経営の在り方だけでなく、生徒からは「発表の難しさや重要な視点がわかった」など、プレゼンテーションを行ったことで気づかされた点が数多く聞かれた。
(4) 各クラスでの投票結果により、クラス代表に選出された班に共通することは、プレゼンテーションの方法や、提示資料の構成の上手さはもちろんであるが、それ以上に、提案にしっかりとした裏づけがあるかという点である。
多くの班が提案したのが、配達制度の導入であり、ポイントカード制の導入である。しかし、提案は同じでも、その具体性や、提案背景には大きな差があった。
指導として、クラスで同じ提案になっても、それを敢えて、変更させなかった。それは、同じ提案であっても、上記で述べた「違い」が、どのような「差」を生み出すかを、生徒自身に感じさせるためである。

5.まとめ(本指導案実践における今後の課題)

本稿の最後に、本指導案の今後の課題を述べる。

第一に、本指導案では、あくまでも企業の経営者としての視点のみしか考えることができず、地域や消費者の視点に立った取り組みを行うことができない。それゆえ、クラスをいくつかの役割に分けるなどの改善が必要になるであろう。

第二に、本指導案は評価が非常に難しい。評価を行う点としては、生徒の取り組みの様子や、プレゼンテーションの内容、プレゼンテーション後の議論への参加、さらには評価用紙などがある。しかしながら、殊にこのような指導案では主観による評価が行われがちで、客観的な評価が難しい。この点も改善点となるであろう。

最後に、本指導案では、班を3〜4人の少人数構成にし、なおかつ、それぞれに役割を与えることで、全員が取り組めるように工夫をした。しかしながら、特にプレゼンテーションにおいては、特定の個人が発表する班も少なくなかった。もちろん、プレゼンテーションだけが授業ではなく、生徒の取り組みを多面的に評価する必要があるが、より多くの生徒が主体的に取り組める仕組みを考える必要がある。

以上を今後の自身にとっても、継続的に考えていく課題としたい。

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