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生命保険文化センタートップページ>学校教育活動>教育の現場から>教育の現場からINDEX>web.08
2012年度 夏季セミナー報告(基調講演)
公的年金制度の課題と今後の展望(後編)
web.08
(2012.11)
(公財)年金シニアプラン総合研究機構研究主幹
一橋大学経済研究所特任教授   高山 憲之 氏

当生命保険文化センターと(社)日本損害保険協会の共催で、高等学校の先生や教育関係者の方を対象とした夏季セミナー「くらしとリスク管理」を行いました。
前回に引き続き、セミナーの「基調講演」(後編)をご報告します。

公的年金制度の課題と今後の展望
高山憲之氏

INDEX

 

2. 年金制度の課題と展望 〜負担増を誰がいつどのように引き受けるのか〜

(1)「掛金建て」になった日本の年金

年金制度は大きく「給付建て」と「掛金建て」に分けられます。日本では「賦課方式か積み立て方式か」の議論はあっても、「給付建てか掛金建てか」という議論はほとんどありません。しかし、この2つには大きな違いがあります。

給付建てとは、年金制度を考えるときに、まず給付額を決め、その後、必要な財源をどうするかを決めるものです。一方、掛金建ては、まず掛金の金額を決めます。最初に負担を決め、それに合わせて給付を調整する制度です。

日本の年金は2017年以降、給付建てから掛金建てへ変更されます。それによって議論の中身が変わります。わが国の年金保険料は毎年、小刻みに引き上げることになっていて、厚生年金の場合、現在の16.4%から、2017年には18.3%になり、以降は変わりません。

年金財政が苦しくなったら、給付額を下げるか受給開始年齢を遅らせるしかないのです。給付建てから掛金建てに変えるということは、将来の調整項目が給付水準と受給開始年齢だけであることを宣言した、ということです。

 

(2)受給開始年齢の自動調整 〜デンマークの事例〜

問題は、増え続けている給付をどう抑制するかです。政治家は国民に不人気なことを決めた途端に選挙で落選するリスクを抱えているから、決めないで先送りしています。ただし、これは日本固有の問題ではなく、賦課方式の年金制度を持つ国共通の問題です。

世界の多くの国が悩み、議論を重ねて、たどり着いた1つの結論があります。それは「自動安定装置」です。「自動」とは、「法律改正なしに」ということを意味します。法案を出して不人気なことを決めるのは困難だから、1度だけルールを決め、その後はルールに従って自動調整できるようにするのです。

2004年に決めた「マクロ経済スライド」は、人口要因や平均余命の変化によって給付額を法改正なしにマイナス調整しようとするものでしたが、デフレ下では発動しないという条項が付いていたため実施されることはありませんでした。この条項を外すことが当面の課題になっています。

極めて不人気な「受給開始年齢の引き上げ」に各国が苦慮しているなか、デンマークは2006年に世界に先駆けて、ある決断をしました。もはや保険料引き上げの余地も、税金投入の余地もない、給付水準も下げられるだけ下げてしまった、残る調整手段は受給開始年齢だけという状況になり、「どの世代も年金の平均受給期間を同じにする」方法を選んだのです。

デンマークでは毎年、60歳の人があと何年生きるか(平均余命)を推定しています。デンマークの年金受給開始年齢は現在65歳ですが、平均余命が延びれば、従来ならば平均受給期間も延びることになります。

「どの世代も受給期間を同じにする」とは、例えば1975年に生まれた人が年金を平均20年間もらうとしたら、2000年に生まれた人も平均して20年もらえるようにする、ということです。したがって、平均余命が延びた場合、その分だけ年金受給開始年齢を引き上げます。これが一番、公平な考え方であると結論づけたのです。

デンマークの平均余命は、2006年から2010年にかけて約1年延びました。それにより、受給開始年齢は15年先の2025年に66歳になります。直近の予測では、2030年には68歳に、35年には69歳に、40年には70歳に、50年には70歳を超える数字が出ています。

決めたのは、「どの世代も平均受給期間を同じにする」というルールだけであり、それも2006年の法律改正時に1度だけです。あとはルールに従って法律改正なしに粛々と受給開始年齢を上げていく、デンマークはそういう選択をしたということです。

 

(3)日本人は、これからもっと長生きする

日本では、国立社会保障・人口問題研究所が将来の人口推計を出しています【図4】。

【図4】
厚生年金のバランスシート: 2010年3月末時点


それによると、65歳時点の平均余命は、2011年では男性19年、女性24年くらいですが、2060年には男女とも4年くらいさらに長生きするという計算です。受給開始年齢を調整しなければ、将来の世代はそれだけ受給期間が長くなり、年金財政に大きな負担をもたらします。

しかし、受給開始年齢の引き上げは、日本では非常に不人気です。昨年、厚生労働省の審議会でその検討資料が出された途端、反対の大合唱が起こりました。厚生労働大臣も直ちに撤退を余儀なくされ、今後2年間この議論はしないことになったのです。

日本の年金制度の受給開始年齢は55歳からスタートし、昭和29年の法律改正から約20年かけて60歳にまで引き上げました。現在の受給開始年齢は65歳です。最初に提案が出たのは昭和55年(1980年)の改正時でしたが、大もめして流れ、結局、最終的に決まったのは2000年でした。

現在も移行のプロセスは続いており、女性の厚生年金受給者の受給開始年齢が65歳になるのは2030年です。なんと50年もかけて実現しているのです。さらなる引き上げ議論に、また50年かけるのでしょうか。世界でいろいろな知恵が出てきている現在、日本はこんなことを繰り返していて大丈夫なのでしょうか。ルールを1回決めて、あとは議論せずに年金財政の安定を図る方法が採れるはずです。

受給開始年齢を引き上げないと、年金財政はパンクします。給付水準をさらに下げるとなると、これがまた問題になります。そうでなければ、保険料を上げるか、税金の投入を増やすかをもう一度議論することになります。

保険料を上げたら現役世代の生活はどうなるのでしょうか。給付水準を下げると、年金を頼りに最低限の生活を送ろうとしている世代はどうすればいいのでしょうか。何が選択肢として残るのか。外国の場合、唯一得られた合意は受給開始年齢の調整だったのです。日本でも、今後そういう議論になると私は予測しています。

 

(4)その他の課題

その他の課題として、まずパート労働者への年金適用の問題があります。これまで厚生年金に加入できるのは週30時間以上働くパート労働者という制限があり、多くの人が厚生年金適用とはなりませんでした。しかし、2016年からは、従業員500人超の企業で週の労働時間が20時間以上、月額賃金8万8千円以上、雇用1年以上、ただし学生は除外という条件でパート労働者の厚生年金加入の拡大が決定されました。

それでも、新たに加入者として見込まれる人の数は約25万人しかいません。今後は、大企業だけではなく中小企業にも拡大する、月額賃金の条件を下げるなどの議論がさらに必要になってくると思われます。

2つ目に、専業主婦、第3号被保険者の取り扱いの問題です。今や共働きするしかない、あるいはシングルでやっていくしかないという時代に変わってしまったわけで、専業主婦は貴族的な身分といわれ少数派になっています。そんな時代になぜ専業主婦を優遇するのかと、年収基準を現行の130万円から引き下げる検討がされています。しかし専業主婦の側にも言い分があり、双方譲ることなくいまだ合意に至っていません。

3つ目に、各職域の年金問題があります。これまでは、職域単位で作った企業年金などが公的年金に上乗せされていました。今後、公的年金の受給開始年齢は引き上げる方向で調整されるでしょうが、それに伴って定年を引き上げられるかというと、難しい問題です。そこで、企業年金は「上乗せ」から受給開始年齢に至るまでの「つなぎ」として主機能を変えていくところが増えてくるでしょう。

教職員のみなさんが加入されている共済年金は、2015年10月から厚生年金に吸収合併され一本化されます。これにより、いわゆる「3階部分」であった職域年金は廃止されることになりました。その代わりに、新しい職域年金を作ることが検討されています。これは掛金建てに近い年金で、退職一時金を減らしてその財源に充てるというものです。

 

(5)"政争の具"から"政策論争"へ

年金問題がうまくいかないのは、政治が不人気なことを避けたがり、役所に丸投げすることが多いからです。2004年の大改正のときも、法案の審議はそっちのけで、国会で争われていたのは「未納3兄弟」の追及でした。

「宙に浮いた年金記録」以降、政治は、年金を材料にして政権党を攻撃すれば選挙に勝てるという構造を作ってしまいました。年金制度の中身についての議論はほとんどされず、年金は攻撃材料に使われるだけなのです。こういうことをやっているうちは、年金の議論は進みません。

ここに、2つの「願い」があります。子どもは、年金受給者である親に品位のある生活をしてもらいたいと思っています。そして、自分が年金受給者になれば、子どもには働きに見合った賃金をもらってほしいと思います。

年金を自分の家庭に置き換えて考えてみれば、互いに譲り合う気持ちも生まれるのですが、国の制度になった途端、他人事になってしまいます。自分のことだけで「後は知らない」となってしまい、折り合いがつきません。しかし、問題の構造は非常に単純で、結局は、1つの財布を親子でどう分けるかです。そこにどういうルールを作るかというだけの話です。

時代に合わせたルール作りをすることが大切なのだと思います。親子で財布を分け合うだけでなく、財布のサイズが少しずつ大きくなっていけば、より簡単に譲り合えるようになるでしょう。そのためには、年金を"政争の具"にするのではなく、科学的・客観的なデータを根拠に議論を尽くし、折り合いを付けていかなければなりません。

証拠に基づかないというのは良くないことです。「子ども手当」はその典型で、誰も数字の根拠を説明できなかったし、本当にそれで子育て世帯が有利になるのかもわからないままでした。客観的な事実や証拠に基づく政策(evidence-basedpolicy)の重要性を訴えて、基調講演を終わりたいと思います。

 

質疑応答

Q1 今、政府で「40歳定年案」が浮上していますが、そうなると年金はどうなりますか。

A1 日本の労働市場は流動性に欠けています。そんななか、定年というのは法律違反を問われることなく首を切れる制度です。定年を40歳にする意味は、日本の労働市場をもっと流動化させたいということです。優秀な人材を中途でもっと採用しやすくすることを意図した提案だと私は理解しています。企業を超えて人の移動を促し、転職を一般化して、働きに見合った賃金体制に移行していこうという考え方です。

これと対になるのは、定年制度は良くないからやめようという、年齢による雇用差別を禁止する考え方です。アメリカをはじめ各国で採用されていますが、では、アメリカの人は60歳になってもみんな仕事をしているのかというと、やめているケースが少なくありません。

アメリカの企業は「60歳だからやめてくれ」とは言わず、「もし今やめてくれたら、今後も医療の保険料を会社が払い続けます(アメリカは医療保険料が高い)」あるいは「退職年金を積み増します」というオプションを出すのです。それを本人に選ばせ、自発的に退職する方向へ誘導しています。結果的に、アメリカの平均的な退職年齢は62歳(公的年金の繰り上げ受給開始年齢)くらいになっています。

企業にとって、組織の新陳代謝を図ることは非常に重要です。優れた人を採用し、組織の活性化を図るためには、どこかでやめてもらわなければならないわけです。しかし、日本で40歳定年というのはほとんどありえないと思います。

むしろ、年齢による雇用差別禁止の方向に行く可能性が高いでしょう。なぜなら、日本は中年の人たちが多数であり、物事は中年の世代が決めるからです。そうしたなかで実質的には、アメリカのようにいろいろなオプションをつけて退職を誘導する形になっていくのではないでしょうか。

 

Q2 就職したばかりの学生から「401Kにするかしないか選べ」と言われたと相談されました。どう答えたらいいでしょうか?

A2 401Kというのは、掛金建ての制度(確定拠出型年金)です。このプランを採用している企業では、新規就職の際に退職金の前渡しのような形になるオプションとして選ばせるのが普通です。しかし、高校や大学を出たばかりの人にその判断をさせるのは酷だと私は思います。長い人生、途中でどうなるかわかりません。若いときは自分の力で人生を仕切れると思いがちですが、歳をとるにつれて、思うようにはいかないことがわかってくる。

年金についても、若いときは「どうせもらえないんだから保険料を払いたくない」などと言う人が多いけれども、45歳を過ぎた頃から「年金というのはありがたいものだ、年金をもらえないと老後の生活が立ちゆかなくなる」と思うようになるわけです。考え方は年齢とともに変わるものですから、18歳や22歳で選べというのは酷な話なんです。

日本版401Kは、2001年にスタートしました。途中解約できない、年金給付しか認めないなど、いろいろな制約があります。また、しかるべき機関に運用を委託することになっていますので、委託手数料を取られます。運用に際してもいろいろと指図できますが、運用対象の変更にもお金がかかります。昨年10月に401Kの実績が出ましたが、なんと6割が元本割れでした。積み立てたお金を箪笥預金していたら、少なくともその額は残っていたはずです。

今の年金制度に対する不満の1つに、賦課方式は良くない、積み立てに変えるべきだという意見がありますが、積み立てに変えると、今の401Kのようなことが起こります。あるいは、AIJ事件のような被害が出ることもあります。

こうした現実を見ると、積み立てにも苦難が伴います。もともと、賦課方式から積み立て方式に変えるのは容易ではありません。切り替え時の現役世代は、親世代を助けつつ、自分の将来のための積み立てもするという2重の負担を抱えるからです。そんな制度に現役世代が賛成することはないでしょう。

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