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先人の知恵を未来へつなぐ家庭科の授業
〜世界の豆食文化から〜
web.12
(2013.3)
広島大学附属中・高等学校
一ノ瀬 孝恵 先生
日浦 美智代 先生
 

1. はじめに

新学習指導要領では、家庭基礎において「生活と環境とのかかわりについて理解させ、持続可能な社会を目指してライフスタイルを工夫し、主体的に行動できるようにする」こと、食生活については「生涯を見通した食生活を営むことができるようにする」ことが挙げられている。

現在の私たちは、自然の恵みに生かされていることを思い出さなくても生きていける社会に暮らしているが、食のグローバル化とともに食生活は便利になる一方で、外食や中食への依存、偽装表示など食に関わる諸問題が多発し、私たちの健康や安心を脅かしている。

今こそ、先人たちにより、生命をつなぐために自然と共生し工夫しながら築き上げられてきた食文化が、現在の私たちの食卓とつながっていることを理解させ、さらには、今の自分たちの食生活が未来の食卓につながっていくことに気づかせ、未来のライフスタイルについて真剣に考えることのできる態度を養うことが大切であろう。

そこで、世界最古の薬学書「神農本草経」に記述され、薬効のある食材として広まった「小豆」をはじめとしたさまざまな豆を切り口に、自らの消費行動に目を向けさせ、人と自然との共生のあり方、未来の食卓のあり方を考えさせる授業実践を試みた。

 

2. 授業の位置付けと目標

【対象学年】 高等学校第1学年
【対象科目】 高等学校家庭科「家庭基礎」
【目標】 (1) 世界の食料事情を知り、40年後の食生活について考える。
(2) 小豆をはじめ、豆類の栄養的な特徴、歴史的な背景、栽培方法を理解する。
(3) 世界の豆食文化について理解するとともに、豆類を使った調理に興味・関心を持つ。
(4) 世界の豆料理から食品として豆の持つ可能性を考え、発信することができる。
(5) 食料の未来を確かなものとするために、消費者として取り組むべきことを考える。
【配当時間】 (1) 食と人間社会・・・・・・・・・・・・・・・・・・1時間
(2) 豆を知る(豆類の栄養的特徴と世界の豆食文化)・・・2時間
(3) 豆を極める(世界の豆料理と豆の持つ可能性)・・・・2時間
(4) 豆を活かす(未来の食卓)・・・・・・・・・・・・・1時間
  (計 6時間+課外)
 

3. 授業展開例1(1時間目)

本時の題目
「食と人間社会」

本時の目標
(1) 食にまつわる数字から消費生活と環境とのかかわりを理解する。
(2) 40年後の世界を予想し、食生活の変化を考える。
(3) 様々な豆を比較して、その特徴を捉えるとともに、豆類に関心を持つ。

本時の指導過程

学習内容 指導内容 ・ 学習活動 指導上の留意点・評価
導入 ○ワークシートを確認する。
○現在の食、未来の食について学習することを知る。
・ワークシート配布
・パワーポイント準備
展開
1.食にまつわる数字クイズ ○日本と世界の食料事情を知る。
・ワークシートに書かれた食にまつわる12の数字は何を表しているか考える。
・語群を参考にする。
・パワーポイントによる資料で正解を確認する。
世界の漁獲量、日本の食料自給率、世界の牛の飼育頭数、牛肉1kgを生産するのに必要な水、日本人が一生の間に食べる量、年間ひとりあたりの外食費、食料危機で緊急援助が必要な国の数、土1g中の細菌の数、日本の耕作放棄地の面積、日本の食品廃棄物の量、日本の農業就業人口の平均年齢、1粒の種から生まれるお米の数
・ワークシート1
・パワーポイント
・語群の確認
【問題にしっかり取り組んでいるか】
・正解の確認
【食料事情を理解できたか】
2.40年後の世界 ○ 数字を通して、予想される2050年の世界を知る。
世界人口、魚の需要、必要な穀物の量、肉の消費量
〇 未来の食を考える。
・40年後の食生活や消費生活を予想する。
・ワークシートに記入する。
・予想した内容を発表する。
○ 食生活について、今自分が取り組むべき課題は何かを考える。
・ワークシート2、パワーポイント
・未来の食生活、消費生活を予想させる【予想できたか】
・発表
・食の課題を見出すことができる【課題を見出したか】
3.豆の種類 ○農業は穀類と豆で始まったといわれることを知り、現在私たちの身近に存在する豆に注目する。
・知っている豆、初めて知る豆の確認をする。
・さまざまな豆の特徴を考える。
・さまざまな豆を見て、豆と私たちの食生活との関わりを考える
【豆に関心を持てたか】
まとめ ○次回、豆食文化について考えることを確認する。 ・豆を知る、極める授業の確認をする
【準備物・参考文献】
ワークシート、豆の実物(あずき、ささげ、大豆、インゲン豆など)、パワーポイント資料
 

4.授業展開例2(5時間目)

本時の題目
豆を極める〜世界の豆料理と豆の持つ可能性(2)〜

本時の目標
(1) 食文化が自然と共生し工夫しながら築き上げられてきたことに気づく。
(2) 世界の豆料理から豆の持つ可能性を考え、食生活に活かすことができる。
(3) 未来へつながる健康で豊かな食生活を送るために,消費者として取り組むべきことを考える。

本時の指導過程

学習内容 指導内容 ・ 学習活動 指導上の留意点・評価
導入 ○本時の学習内容を知る。
○さまざまな豆の種類を確認する。
・ワークシート配布
・各種豆類の提示
展開
1.豆の来た道と栽培方法 ○豆の歴史的背景を理解する。
○豆の栽培方法の一例を理解する。
・生徒代表者が説明する。
・人と豆の歴史的関係の確認
・生徒代表者による豆の栽培方法の説明
・栽培の楽しさに気づく。
2.Beans Dining訪問
世界の豆料理の知識交流
○Beans Diningを訪問し、世界の豆料理を知り、豆の持つ可能性を考える。
・6グループが調査した豆に関する情報の説明を聞く。
・自分のグループ以外を訪問し、説明を聞きながら見聞したことを書きとめる。
・各班の説明責任者は調査結果を分かりやすく説明する。
・Beans Diningの訪問方法の確認
・時間設定,見聞用紙の配布
・他グループの説明を聞き,食文化が自然と共生し工夫しながら築き上げられてきたことに気づく。
3.各種豆料理の試食 豆の調理方法を理解し、多様な豆料理の味を体験する。(試食)
・理解したことや感想を整理する。
・豆に関する知識の共有をする。
・調理説明責任者の家庭で調理した試食用の豆料理準備
4.豆の持つ可能性 ○食の諸問題と関連させ、豆の持つ可能性について各班の提案を聞く。 ・未来へつながる健康で豊かな食生活を送るために改善すべきことを考えることができる。
まとめ ○課題を確認する。
【準備物】
・東京新聞サンデー版No.616(世界の豆食文化 2004)40枚 ・豆各種・試食用豆料理
・豆の調理レシピ ・パワーポイント資料 ・ワークシート
調査対象にした豆は、1.大豆 2.小豆 3.ささげ 4.いんげんまめ 5.ひよこまめ 6.レンズ豆の6種類である。
6つのグループに分かれ、各グループで担当する豆を決めた後、3時間目、4時間目で豆の調査活動および、豆の調理レシピ作りを行った。豆の調理レシピを作るにあたり、担当の豆が一番よく利用されている国(地域)の豆料理を調べ、そのレシピを作ることにした。
生徒たちが作成した豆料理のレシピを持ち帰り、協力いただける家庭に世界の豆料理を作っていただいた。調理したのは、次の6種類である。
1.大豆 → かわり茶飯 2.小豆 → 赤飯
3.ささげ → アカラジェ 4.いんげんまめ → チリコンカン
5.ひよこ豆 → ひよこ豆のカレー 6.レンズ豆 → レンズ豆のコロッケ
5時間目の授業は、平成23(2011)年度広島大学附属中・高等学校教育研究大会で公開授業として行った。
 

5. 生徒の感想(5時間目終了後)

・どの豆も、長い歴史と、高い栄養があることがわかりました。ささげは乾燥に強いことがよくわかったのですが、他の豆はどうなのでしょうか。豆は、絶対緑化に役立つ、というか主役になると思います。 ・現在、豆は食料として軽視されている部分があると思う。しかし、豆はとても栄養価が高く、厳しい環境でも育ちやすく、他の作物が育つのにも役立つ。昔の人びとは、これを知っていて、うまく利用していた。だから、豆以外にももっと見直すべきものがあると思うので、存在が薄くなってきている食材も、もっと見直したいと思う。 ・世界にはまだまだ知らない豆もたくさんあって、食用にされていないものもあるらしいので、将来もっとたくさんの豆が食用として広まっていけばいいと思った。健康で豊かな食生活を送るためには、まずは自分たちがふだん口にしている食品についてよく知ることが大切だと感じた。 ・「地球を救える豆がある」と強く感じた。 ・豆が食卓から消えてきているのは悲しいです。こんなにもおいしく、栄養があるのに!!という豆の叫びが聞こえてくるようです。お正月のおせちは守りたいし、受けついでいきたいと思います。 ・私は今まで豆が嫌いでした。でも、それは豆が嫌いだったのではなく、どうやら料理的に嫌いだったようです。今日の豆料理はどれもおいしく、栄養素も思っていたよりかなり高く、ポリフェノールまで入っているなんてびっくりです。まさか豆でコロッケが作れるなんて考えもしませんでした。これからは今日のようなおいしい豆料理をつくって積極的に食べたいです。 ・食糧問題が深刻な今、栄養たっぷりでおいしくて、どんな所でも育ちやすい「豆」をもっと普及させていくべきだと考えた。 ・豆が注目されているということは、それだけ世界で砂漠化が進んでいるということ。だからもっと大切にご飯を食べたいと思う。 ・豆には様々な種類があって、料理の種類も多い。これからも食生活に豆を取り入れていきたい。大豆などはたんぱく質も多いので、動物を育てる手間を考えれば、作業が少なくてもたんぱく質をとれる便利な作物だと思う。いろいろな豆の栽培にも挑戦してみたい。 ・利用方法がたくさんあり、水が少なくても育つ豆は、これからどんどん世界に広がっていくと思います。この豆を、ジャガイモやお米と比べてみたいと思います。

 

6. 授業実践を終えて

今回切り口とした「豆」は、農業は穀類と豆から始まったといわれるほど、古より私たちの生活に関わりのある食材である。窒素を供給する作物として、豆は他の作物とともに植えられることが多く、救荒作物として有意義な一面を持つ。また、世界中で栽培されており、乾燥することで長期にわたり保存が可能となるなど、私たちの食生活に大きく関わってきた。

本実践では、まず、さまざまな数字を通して現在の実態を見つめさせた。これにより、生徒は食料問題と地球環境の関係を具体的に理解し、食の課題を見出し、近い未来の自分たちの生活を真剣に考えさせるきっかけを作ることができた。

また、1時間目の授業で、未来の食卓を考えていくための切り口として、5種類の豆の実物を提示し、生徒全員にしっかり観察させることにより、豆に興味を抱かせることができ、豆の利用に見る人間の知恵やこれからの豆の可能性を多角的に掘り下げていくための導入に役立った。

5時間目の授業では、豆を校内で栽培している生徒たちが栽培方法などを紹介することにより、他の生徒たちに豆の魅力をより実感的に伝えたり、家庭と連携して調理した6種類の世界の豆料理を、Beans Diningと題したコーナーで豆の特徴や歴史とともに紹介し、実際に試食したことで、食生活に豆がどのように利用され役立ってきたかをグローバルに実感できたことが生徒の感想からもうかがえる。

豆を上手に利用することが環境負荷を低減させることにつながると考え、豆の栽培をはじめようとする生徒や、消費者として自分が口にしている食品をよく知ることが大切だと思う生徒もでてきた。食料問題や地球環境問題を自分の生活と結びつけて考え、ライフスタイルを見直そうとしているといえるだろう。

今後、本実践ではあまり触れることのできなかった日本人と豆とのかかわりをより深く学ばせながら、未来の食を見つめさせ、地産地消と豆栽培、食用としての豆、エネルギーとしての豆など、持続可能な社会にむけて消費行動を考えさせる授業を構築していきたい。

【参考文献・参考資料・引用文献】
1)国分牧衛編「豆類の栽培と利用」朝倉書店、2011
2)山本良一監修「たべものがたり〜食と環境7の話」ダイヤモンド社、2009
3)吉田よし子「マメな豆の話〜世界の豆食文化をたずねて」平凡社新書、2009
4)生き物文化誌学会「人と豆の丸い関係」昭和堂、2008
5)菅原明子「ビーンズレシピ」オレンジページブックス、2004
6)辰巳芳子「ことことふっくら豆料理‐母の味・世界の味」農文協、1991
7)東京新聞サンデー版No.616「世界の豆食文化」2004
8)文部科学省「高等学校学習指導要領」平成21年3月

 

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