vol.10 相談者の思いを尊重しながら〜解決方法は人それぞれ〜 台東区消費者相談コーナー 消費生活相談員 伊藤 伸子
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「はい、○○○消費生活センターです。どうなさいましたか。」
「ネットの通販サイトからブランド腕時計を注文し現金を振り込んだが、デザインの違う商品が届いた」
「高齢の母が、損はさせないと勧誘され、家族が知らない内に途上国開発事業に500万円も投資してしまった」

消費生活センターには、トラブルに巻き込まれた住民から様々な相談が寄せられています。では、そのトラブルには、何か特別な原因があったのでしょうか。いいえ、そんなことはなく、ショッピング、外食、クレジットカード、SNSサイトの登録等、ごく普通に生活する中で、覚えのない金銭の要求を受けた、商品が届かない、必要のない契約をしてしまったなど、知識や経験の不足によるトラブルが起きているのです。

しかし、自分の抱えている問題をどこの窓口に相談したらよいかわからない人も多いので、相談迷子を出さないよう入口で交通整理を行っています。この相談は、消費生活センターで扱える、でもこちらの相談は弁護士相談が必要、国の機関や業界団体を紹介した方が適切等、どこに相談したら解決に結び付くかナビゲーションするのも消費生活センターの役割です。

私の勤務する消費生活センターは、高齢者からの相談が特に多い地域です。疑う事を知らない高齢者は、被害に遭っている事を自覚しにくく、被害回復を難しくします。そのため、家族や隣人、介護ヘルパーなどから「どうも様子がおかしい。何か被害に遭っているのではないか」という連絡で、初めて被害が発覚するケースが多々あります。

また、高齢者の中には、薄々騙されたかもしれないと思っていても、誰にも相談できない方もいます。家族に心配をかけたくない、あるいは、怒られる、騙されたことが恥ずかしいなどの強い思いが、相談することをためらわせているのです。

一方、数少ない人間関係が被害回復を難しくするケースもあります。
訪問販売で購入した11万円の靴の中敷に納得いかないと1人暮らしの高齢者から申し出があり、「購入を後悔されているならクーリング・オフしましょう。私からも販売店に連絡しますから」と何度も伝えても、躊躇されるのです。懇意にしている電器屋さんの紹介であり、今後も電器屋さんとのお付き合いが続くと思うと、クーリング・オフしたくないと言います。

11万円もする靴中敷など、とんでもない。すぐにクーリング・オフしましょう!と叫びたいところですが、「解約したい。でも、義理がありできない」という相談者の複雑な気持ちを考慮すると、単純に契約解除とはいかないジレンマがあり、決して金額の大きさでは計れません。また、相談員の思いを押しつけない、相談員の物差しで測らないという意識も必要です。

上記はほんの一例ですが、Aさんにとって納得のいく解決がBさんにも同じくベストな解決とは限りません。私たち相談員は、1件1件の相談を聴き取り、問題点を洗い出す中で、1人1人の相談者の思いを尊重しながら、少しでも経済的な負担と精神的な悩みを軽くできるよう支援に努めなければなりません。

さあ、今年も新たな一年が始まりました。一筋縄ではいかない相談の解決に向けて、挑戦していきたいと思います。

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伊藤 伸子(いとう のぶこ)

伊藤 伸子
(いとう のぶこ)


消費生活アドバイザー、消費生活専門相談員、消費生活コンサルタント。
生命保険会社に勤務経験あり。
平成19年より台東区消費者相談コーナーに勤務。

 
発行/(公財)生命保険文化センターWeb Design/Ideal Design Inc.