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職場体験で学んだ内容を社会科の授業として構成する授業構想
  web.03
(2013.6)
宇部市立西岐波中学校 大迫 宣之 先生

1.はじめに

「全国の公立中学校で94.5%の実施状況(平成21年度)」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。この数字は、本稿の表題から推察されるように、「職場体験」の実施率である。

国立教育政策研究所生徒指導センターの「平成21年度職場体験・インターンシップ実施状況等調査結果(概要)」によれば、「公立中学校における職場体験の実施状況は9,970校中9,424校と94.5%であり、実施率は昨年度より2.0ポイント下回った(新型インフルエンザによる影響が大きいとの報告が多かった)」とあり、ほぼ全国的に実施されているといっても過言ではない。

さらに、近年は、実施期間が長期化する傾向が見られ、職場体験を行う期間が5日の学校については、全国平均では18.6%であるものの、100%の実施率の地域もあり、都道府県により大きく異なっている。

一方、社会科は、その名の示す通り、「社会」を扱っている。極言すれば、何を扱っても社会を構成する諸要素の一つともいえる。また、後述するように、「作業的、体験的な学習」が重視されるものの、実態としては十分とは言えない。

そこで、本稿では職場体験で得た「生きた情報」をもとに、社会科の授業としていかに構成できるのかについて考察したい。

2.職場体験の成果と課題

文部科学省によれば、「職場体験とは、生徒が事業所などの職場で働くことを通じて、職業や仕事の実際について体験したり、働く人々と接したりする学習活動」であり、職場体験の必要性として「職場体験には、生徒が直接働く人と接することにより、また、実際的な知識や技術・技能に触れることを通して、学ぶことの意義や働くことの意義を理解し、生きることの尊さを実感させることが求められ」、また、「生徒が主体的に進路を選択決定する態度や意志、意欲など培うことのできる教育活動として、重要な意味を持っている」とされる(平成17年11月 中学校職場体験ガイド)。

このような職業にかかわる体験は、ともすれば「働くこと」と疎遠になりがちであった学校教育の在り方を見直し、今、教育に求められている学ぶことや働くこと、生きることの尊さを実感させる具体的な実践の場として期待されている。

一方で、「現在、各中学校では生徒の発達段階、地域性、各学校の実態等に合わせて、それぞれの創意工夫により特色ある職場体験が実践され、生徒の勤労観、職業観の育成、進路への意識や意欲の向上等に大きな成果を上げている。しかしながら、職場体験の実践が体験のみに終わってしまい、本来の教育的機能を十分に発揮できていない傾向も見られる」(同上)とも指摘されている。

3.社会科における作業的、体験的な学習

この実感を伴う作業的、体験的な学習を重視する姿勢は、学習指導要領においても述べられており、例えば、次のように示されている。⇒学習指導要領(PDF)

分野の性格により、若干の表現の差異はあるものの、今回の改訂においても、「作業的・体験的な活動」を重視していることは明らかである。これは、自らの直接的な活動を通して社会的事象をとらえ、認識を深めることへの期待の表れととらえることができる。

また、学習指導要領からは、「作業的・体験的な活動」の目的の一つとして「主体的な学習」の保障が明示されていることも読み取れる。つまり、単なる「体験」としての活動では不十分なのである。

以上のように、社会科における作業的・体験的な活動の意義を確認したものの、現実の学校現場では積極的に実施されている印象をもたない。これは、次のような背景を指摘することができる。

〇授業時数や授業内容との兼ね合い
〇生徒指導上の困難さ

やはり、学校現場で指摘されるのは、学習内容に対する「授業時数の足りなさ」である。社会科は、人物・事象名から概念まで幅広い内容を扱う。そのため、内容過多に陥りやすく、校外での活動の余裕はないと感じている教員は多い。

また、仮に時数が足りたとしても、校外で学習することに魅力を感じていなかったり、新たな学習材の発掘に負担感を感じたりする者も多いのではないだろうか。また、学校によっては、生徒指導上、校外の活動が難しいという声もよく聞かれる。

そこで、多くの学校で実施されている職場体験を社会科の授業として整理し、実践することで複数の課題を解決する糸口になればと考えた。

4.実践例

(1)単元名

「市場の働きと経済」

(2)単元設定の意図

本単元は、「価格はどのようにして決まるのか」を学習課題として設定し、職場体験で得た情報をもとに、経済学習を行うことをねらいとした。

そもそも、「価格の決定」を学ぶためとして体験学習を設定することは難しい。しかしながら、生徒を教室から出し、経済活動が実際に行われている現場に立たせ、その活動の様子を見学させたり、一部分を体験させたりすることで、「価格の決定」に結びつくようなことを学ばせることは可能である。

そのような学校外での体験から得たものを用いて、教室の中での学習を通して、「価格の決定」についての知識を形成させていくのである。

生徒にとっての経済活動は、その多くが消費活動であり、生産に関わる経験はない。だからこそ、生徒にそれらの活動を職場体験学習で体験させる。職場体験によって、生徒が「価格の決定」に直接携わることはないが、体験を通して実に多くのことを学ぶことができる。

例えば、スーパーにおいては、自らが作った惣菜を陳列し、売れ行きを心配したり、農家においては、収穫した農作物を丁寧に箱詰めしたりすることで、生産者の利益を確保したい強い思いを学ぶであろう。また、ガソリンスタンドでは、大きな声でのあいさつを行うことで、商品を売ること以外での努力の必要性を学ぶであろう。

教室では、生徒にそれぞれの事業所での体験を振り返らせ、「価格の決定」にかかわる情報を集約させる。そこから、価格を決定する社会の構造や関係、あるいは価値観や認識を見出させていくことをねらいとした。

(3)単元構成表

⇒単元構成表(PDF)

(4)本時案

(ア) 題材 「需要と供給」

(イ) 本時設定の意図
生徒は、これまで「価格はどのようにして決まるのか」という課題を追究してきた。職場体験と社会科で扱う内容とを関連付けることで、経済の三主体の存在を知るとともに、それぞれの立場によって価格に対するとらえ方が異なり、単純に価格が決められているわけではないことに気付いている。

そこで、本時では、生鮮食品が日によって価格が異なる点に注目させることで、年間を通した入荷量の変化に気付き、そこから価格が上下するメカニズムを理解することができる。また、消費者の行動や意識の変化によって価格が変動することで適正な価格が維持されていることに気付くことをねらいとした。

授業の前半では、具体的な商品を例にして、次のような学習活動を設定した。

○価格の変化する時期を調べる。
○生鮮食品の入荷量や流通経路を調べる。

この時点では、価格の設定について、主に小売店や生産者の立場で考える生徒が多いと予想される。そこで、この価格の変化に対する消費者の反応を示すことで、価格の設定に消費者の存在が大きく関わっていることに気付かせたいと考えた。

さらに、授業の後半では、企業と消費者にわけて、価格設定への影響の大きさについて検討し、整理することで、両者の関係について考察させる。また、価格は、商品の価値を測るものであり、さらには企業の信用度を測る役割を果たしていることにも気付かせたい。

(ウ) 主眼
スーパーマーケットでの価格の変化をもとに、商品の需要量や供給量の変化が価格に与える影響について考察することができる。

(エ) 学習過程

⇒学習過程(PDF)

(5)考察

職場体験学習では、下表のような情報を見出すことができる。しかし、これらはあくまで職場体験学習の中で、獲得された情報であり、まだ社会科の学習を通して獲得された知識や概念の形成には至っていない。そこで、間をつなぐために、「社会の構造や関係、価値観や認識を見出させる授業」が必要となってくるのである。

【体験から得られた情報を整理する段階】
・「こんな考えをもって仕事をされているんだな」…経営者や従業員の考え
・「お客さんはこんなサービスを求めているんだな」…客の購買に対する考え
・「陳列する品数は、時期や天候によって違うんだな」…入荷量の動き
・「商品はこうやって運ばれてくるんだな」…仕入先と流通経路
・「商品を売るために、こうした努力をしているんだな」…販売促進の努力
・「価格を決めるときに、他店のことは考えるだろうな」…他店との競争
・「水道などの料金って、他の商品と同じように決まるんだろうか」…公共事業の意義

【「価格の変化」に関わる社会の構造や関係を考察し、概念を形成する段階】
・「価格の決定」と利潤の追求との関係  ・「価格の決定」と企業間の競争との関係
・「価格の決定」と消費者の意識との関係  ・「価格の決定」と公共性との関係
・「価格の決定」と生産・流通コストの削減との関係

【形成された概念】
・需要と供給とは  ・自由競争とは  ・生産や流通とは
・公共料金とは  ・企業のしくみとは

5.おわりに

周知のとおり、職場体験を通して、真剣に働く大人と接することは、生徒に勤労観や職業観、将来の進路への目標をもたせることにつながる。

その一方で、未分化な情報を整理し、社会の授業として構成することは、社会科の学習をよりリアルなものにしていく効果が期待できる。もちろん、企業が、価格決定の内実を生徒に語らないことは当然であるし、職種によって情報に偏りがあるのも当然である。

しかし、個々の情報を個々のレポートにまとめる作業のみでは、事後の学習において、体験したこと以上の広がりは生まれにくい。事後に新たな学習を構想することは、職場における質問内容や体験活動の幅が広がる可能性をもっている。

また、職場体験学習を2年生で実施する学校が多く、一方で公民的分野の学習は3年生で行うため、職場体験で得た情報をすぐに社会科の授業として使うことができるかどうかは、カリキュラムを作る上で難しさがある。そうした意味において、本稿は一つの考え方を示したにすぎず、現実のものにしていくためには、さらに工夫が必要となる。

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