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生命保険文化センタートップページ>学校教育活動>教育の現場から>教育の現場からINDEX>web.07
2013年度 夏季セミナー報告(基調講演/東京)
「生活資源と社会志向社会」
web.07
(2013.10)
宇都宮大学教育学部 赤塚 朋子 先生


赤塚 朋子 先生

当生命保険文化センターと(社)日本損害保険協会の共催で、高等学校の先生や教育関係者の方を対象とした夏季セミナー「くらしとリスク管理」を東京・福岡・大阪の3カ所で行いました。 今回から、セミナーの内容(「基調講演」、「授業実践報告(家庭科)」、「グループ形式による意見交換」)を5回に渡ってご報告します。まず、初めに東京の「基調講演」の内容をご報告します。

INDEX

 

1. はじめに

高等学校の学習指導要領によると、家庭科の目標には、自分自身の家庭生活の創造だけでなく、地域生活の創造までが入っています。自分の生涯を見通した生活設計をするとともに、持続可能な社会を構築するための力までが求められています。

また、生活資源や生活活動などを生涯の生活設計やキャリアプランニングなどと関連付けて取り扱うことが重要とされています。

今回はこの「生活資源」にこだわって、生活資源についてのさまざまな視点や考え方をご紹介しながら、"こんな切り口でも授業ができるかも"というお話をしてみたいと思います。

 

2. 生活するってどういうこと?

生活資源についてお話をする前に、「生活する」ということを具体的な行動で考えてみます。

資料は総務省「社会生活基本調査」の生活行動区分表です。生活が多様化・複雑化しているといわれる現在、今の高校生では、ここに挙げられていないようなことも入ってくるかもしれません。

生活時間を「生涯生活時間」でみた場合、たとえば一生の3分の1くらいは睡眠時間になります。休息時間も合わせると、寝たり休んだりしている時間が一生の半分くらいで、働いたり学んだりする時間は少ししかありません。

このように、生活行動について生涯を通して見たり、高校3年間で考えてみるなど、いろいろな見方をすることによって、さまざまな観点から生活をとらえることができます。生活時間や生活行動分類を一つの材料に、生活とは何なのかを考えてみるのもいいと思います。

また、私たちは憲法第25条でうたわれている「生活を営む権利」が保障されていることや、社会福祉、社会保障および公衆衛生については国が責任をもっていることなどを、授業できちんとおさえることが重要だと考えています。

憲法第25条は、法律的には生存権保障ですが、私は「生活権保障」と考えたい。「生活を営む権利の保障」とはどういうことなのかを考えたうえで、生活を創造する力をつけてもらいたいと心から思っています。

 

3. 生活をするのに必要なものって何?

では次に、「生活資源」についていろいろな角度から見ていきたいと思います。

「生活資源」のイメージ

みなさんは「生活資源」と聞いて何を思い浮かべますか? 学生に質問すると、「資源」という言葉が影響するのか、水、石油、エネルギーなどの答えが返ってきます。また、「食糧資源という言葉は聞いたことがある」、「ものの原材料のことじゃないか」と言う人もいます。「資源に乏しい日本」などのワードも出てきます。

資料は1999年に資源協会が発行した冊子にある生活資源の分類です。これによると、生活資源には、学生たちがイメージした物質資源、空気や土壌などの環境資源、さらに情報資源のほか、時間も生活資源の一つとされています。このような分類の仕方もあるということです。

生命保険文化センター発行の「新・ライフプランガイドブック」の中にも生活資源は出てきます。ここで生活資源は目標(希望・夢)を実現するうえでの基本的な要素とされ、次のように分類されています。

・[能力・技術・人脈] ・[家族・家庭・親類]
・[友人・知人・地域社会] ・[趣味・健康・生きがい]

「ICT」に留意

今年5月、「ICT生活資源対策会議」報告書が公表されました。この会議は、総務省が世界的な人口増加、新興国・途上国の経済成長などを背景とした「国民の暮らしに不可欠な資源をめぐるさまざまな課題の解決」に向けて、ICT(Information & Communication Technology)を活用してどのように貢献できるかを検討するために立ち上げたものです。

この報告書には「『便利で安心な暮らし』を創る!〜世界最高水準の効率性による持続可能な社会の実現〜」をミッションとして掲げ、「鉱物・エネルギー」、「水」、「農業(食料)」、「社会インフラ」の4つの重点分野を中心に、ICTを活用した生活資源対策として推進すべき具体的なプロジェクトなどを盛り込んだ」とあります。

ここで留意したいのは、「ICTを活用した生活資源対策」に取り組むような社会背景があるということです。

<図 SNSやミニブログの利用者>
<生活経営の枠組>出典:「消費行動におけるソーシャルメディアの影響調査」

今、SNSは急速に広まっています。2011年に電通が実施した「消費行動におけるソーシャルメディアの影響調査」によると、10代女性の87.1%が利用しており、これらに影響されている可能性があるということです。

今年8月の厚生労働省の発表では、ネット依存の中高生は全国で約51万人いるという調査報告がありました。

インターネットに関するトラブルに巻き込まれる中高生も多い昨今、情報ネットワークを正しく利用する力をどのようにつけていくかについても留意する必要があると思います。ネットリテラシーなどの能力も生活資源の一部であるという考えから、この資料を紹介させていただきました。

生活資源の定義

ここで、大雑把ではありますが生活資源の定義をさせていただきます。

・「よりよい生活の実現を目指して展開される、人間の諸活動」に有用な機能をもつ源泉、手段
・生活を営むにあたり、すべての役立つもの

「なんでもあり」という感じですが、生活の創造に欠かせないものであると考えていただけたらと思っています。

<生活資源の種類と分類>
<生活資源の種類と分類>

これは赤塚による生活資源の種類と分類です。

私は、自分自身が持っているものや自分の生活拠点の中にあるものと、その外側にあるものという「内と外」の概念にこだわり、双方の関係性を探ることも大切ではないかと思っています。自分が持っているものや生活範囲が広がるほど、生活資源の範囲も広がっていくと考えられます。

成人に必要な技能・能力

OECDのDeSeCo("Definition and Selection of Competencies:Theoretical and Conceptual Foundations", 2003)は、「成人に必要な技能・能力」としてこのようにまとめています。

<社会の多用な集団との交流>
・対人関係能力
・協調性
・問題解決能力

<自立的な行動>
・社会全体での立場を認識する能力
・人生設計能力
・権利、利益、限界、ニーズを守り主張する能力

<対話的手段の活用>
・言語、シンボル、文章を対話的に活用する能力
・知識や情報を対話的に活用する能力
・新しいテクノロジーを対話的に活用する能力

家庭科は、問題を発見し解決するプロセスを常に大切にしています。そのプロセスには、ここに書かれていることがいくつも出てくるかと思います。家庭科では、まさに成人になるための基礎的な技能・能力を創っていっているんだなと意識しています。

「社会力」

門脇厚司氏は著書の中で「社会力」という言葉を使っています(『子どもの社会力』岩波新書、1999年)。

社会力とは、「社会を作り、社会をよりよく運営し、さらにはいまある社会を改良し、場合によっては既存の社会を大きく変革していく意欲と能力」のこと。家庭科ともおおいに関わっており、私は生活資源の一つであると考えています。

社会力の形成過程には3段階あるということです。

・第一段階「社会的原基の形成」:0〜3歳、人に対する関心・愛着・信頼をもつこと。
・第二段階「社会的要素の共有」:4〜25歳頃、社会的位置と役割を認識し、多様な他者との相互行為の積み重ね。
・第三段階「社会的行為の日常化」:20代後半〜60歳頃、社会的な活動に参加。

「社会の一員として」ということは意識して伝えていかないと伝わらないし、生活を創造するうえで、社会力のような力はとても大事であると考えています。

生活経営の枠組

これは放送大学・松村祥子教授による「生活経営の枠組」です。個人・生活経営主体がさまざまなものと関係性を持ち、生活経営の枠組を形成しています。

<生活経営の枠組>
<生活経営の枠組>

「ガバナンス」とは参画するという意味です。自分の生活は他人のそれとは代えられませんし、生活は連続していてやめることができません。生活のイメージ、人生のイメージをどう描いているかですが、どんな図になるでしょうか?

千葉大学の廣井良典教授はこのようなことを言っています。

普通、人は生まれてから死ぬまでの生涯を時間軸でとらえ、成長・発達していく右肩上がりのイメージを描いています。そして体力や気力が弱まったり、病気になったりすると減速していき、死はすとんと落ちるイメージです。

でも、本来、人生のイメージは円環型で考えるといいのではないか。円環型では、生と死は隣り合わせにあります。そして、子どもの時期や自分の老後が円環の中で常に登場してくる。過去を思い出しながら、未来を想定しながら人生のイメージを考えていく、こういう考え方に立って生と死を考えるべきではないか、と。

生活の質──生活資源の内容

アメリカの人事コンサルタント会社マーサーは、毎年「クオリティ・オブ・リビング調査」を公表しています。この調査は「生活の質が高い都市ランキング」としても知られているもので、評価基準を10のカテゴリと39の指標に分類し、世界221の都市がランク付けされています。ちなみに1位はオーストリアのウイーン、日本の都市は44位に東京が登場します。

生活資源の具体的な中身として、こういう切り口で考えることもできるんじゃないかと思います。

生活をとらえることは、実にいろいろな角度からさまざまなことが言えるので、「これだ」という答えはありません。自分は何を持つべきなのか、生活のために何を有用な資源とするのかは、その人がどう生きようとするのかに非常に深く関わっています。

住居、食べ物、考え方、周りの影響、いろいろなことが絡みあい、たとえ同じものを持っていても使い方は違います。そうしたことが、人生がそれぞれ違うことにつながる面白さなのでしょう。生涯を見通して生活を設計するときに、どんな力が必要なのか、いろいろな角度からアプローチをしていくことを考えていただけたらと思います。

福島・仮設住宅の現実

福島の仮設住宅の現実から、私たちは生活するうえで何が必要なのかを切実に考えさせられます。私はこのことも一緒に考えなければと思っています。家庭科では、平和、命の大切さなどのテーマから生涯を考え、安全に、安心して生活するとはどういうことなのかを考えることも重要です。家庭科は、授業を通して本当に多くのメッセージを生徒たちに伝えることができる教科だと思います。

<写真 福島・仮設住宅の現実>
<写真 福島・仮設住宅の現実>

 

4.生活をするのに要らないものって何?

前半でお話した「生活行動として具体的にどんなことをしているのか」「それをするうえでどんなものが必要になるか」に続き、ここからは「実際に生活をしている人はどんなことを考えているのか」についてお話します。

生活不安=生活リスク

内閣府の「国民生活に関する世論調査」によると、日常生活に「悩みや不安を感じている」人は増加傾向にあり、2011年では67.1%と3分の2の人が何らかの悩みや不安を抱えています。

その内容は、第1位は「老後の生活設計について」54.6%で、5割以上の人が悩みや不安を持っています。第2位は「自分の健康について」49.2%、第3位に「今後の収入や資産の見通しについて」41.8%と続きます。

また、生命保険文化センターの2010年「生活保障に関する調査」によると、老後生活に対して85.8%の人が不安感を持っていることがわかりました。

「不安」を解消できれば、自分を取り戻し、何かができるのではないか。私はこのように考え、「生活不安=生活リスク」ととらえてみました。

 

5. 満足な生活を手に入れるためにはどうすればいいの?

生涯を通じて生活を設計するとは

『死の瞬間』の著者エリザベス・キューブラー・ロスは、『ライフ・レッスン』の中で「今の人生とおなじ人生は二度と手にすることができない。この人生で果たしてきた役割をもう一度演じることも、もう一度これまでと同じように人生を経験することも、決してできない」と述べています。

生涯を通じて生活を設計するとき、絵空事ではなく、自分のこととして現実的に考えてもらうためには、「人生は二度とないんだ」ということを強調していいと思います。他の人と代わることはできない、あなただけの人生をどう生きるのかなんだよ、ということです。

生徒たちに、自らの存在意義をどのようにしていこうと思っているのかを考えさせること。しかも、生涯を通じた生活設計について、自分の思い描くようにデザインできる力をつけること。これらが家庭科の目標にはあります。

こんなふうに人生をサポートする教科はなかなかないし、それこそが醍醐味だとも思います。個々の子どもたちの人生と関わりつつ、力をつけるために何が必要かを一緒に考えるということを、重く考えるのではなく、楽しみながら家庭科の授業を通してやっていけたらと思います。

そのためには、先生方が自分自身の人生についてどうお考えになるかも問われます。映画や文章から始めてもいいし、自らの人生語りでもかまいません。生徒たちは先生の人生に関心をもっているので、そこから始めてもいいと思います。

国民の意識の流れ

三浦展氏は著書の中で、個人志向から社会志向へ、私有主義からシェア志向へ、ものからサービスへというように、国民の意識が個人重視から社会重視へと変わってきていると言っています(『第四の消費』朝日新書、2012年)。

本当にそうなのでしょうか。世論調査を見てみると、やはり社会志向の人が増えてきていました。
「社会意識に関する世論調査(平成25年2月)」では、社会志向が53.3%、個人志向が34.2%、一概にいえないが11.6%となっています。

また、社会への貢献意識も、かなりの人が持っていることがわかりました。
社会貢献意識を持っている人は66.7%、あまり考えていないは30.9%でした。

では、どんなことをしたいと思っているのか。社会貢献の内容は、「社会福祉に関する活動」が36.9%、「地町内会などの域活動」35.1%、「自然・環境保護に関する活動」33.3%など、生きることに関わっていることに非常に関心を持っていることがわかりました。

さらに、国民全体の利益と個人の利益のどちらを大切にするべきかという問いにも、国民全体の利益を重視すべきだという人が多くなっています。
「国民全体の利益を大切にすべき」は53.5%、「個人の利益を大切にすべき」は28.2%、「一概にいえない」は16.5%となっています。

また、「震災後、強く意識するようになったこと」については、家族や親戚とのつながりや地域のつながりを大切に思うなど、人との関係を強く意識するようになったという回答が多数を占めています。

一方、マーケティングの世界での社会志向とは、消費者ニーズ、消費者の利益、企業の利益、社会の利益の4つを調和させるようなコンセプトであると捉えています。

社会志向社会とは 〜保険のとらえ方

以上のことから、社会志向社会をまとめると次のようになります。

・社会に貢献したい。
・人や地域とのつながりが大切だ。
・社会全体として助け合うことが重要。
・NPOやNGOに参加する。
・消費の場面では、消費者のニーズ、消費者の利益、企業の利益、社会の利益の4つを調和させること。

しかし、身近なところで、みんなが既に参加しているしくみがあります。それが、保険です。

保険は自分のためという印象が強いと思いますが、私はどちらかというと、みんなのためという捉え方をしています。みんなのためにしていたことが自分を救うという観点で保険を考えたら、家庭科の授業にも組み込みやすいのではと思います。

生活資源と社会志向社会(まとめにかえて)

私たちはさまざまな生活資源を持っていますが、個々のライフスタイルによって生活資源の使われ方や量・質は違います。そして、同じ生活資源を持っていても、ライフスタイルは違ってきます。

日本は申請主義ですから、情報を得て自分で申請しないといろいろな権利を得ることができないということがあります。このため、ある生活資源を持っていても、そのことに気づきもしない場合もあるということです。

また、複雑で多様な社会にあって、不安(リスク)は増大しています。しかし、その不安に備えるしくみとして、既に保険があります。保険は社会志向社会における生活資源の典型といえるのではないでしょうか。

社会志向社会における生活資源の創造力と生活経営力をどう身につけるのかが家庭科教育への期待であり、それはとても大きいものだといえます。

具体的な生活行動から、何が必要かを考えること。また、これからは一人世帯が全世代に広まると言われており、家族中心から個人が中心になる社会になっていくなかで、社会と関係性を持つことを意識しながらライフスタイルを創っていくこと。これらを常に高校生にも言っていただきたいと思います。

あなたたちは、まさにこれからの社会を創っていく人たちであり、あなたたちがどうしたいかで社会は大きく変わるということをぜひ伝えていただきたいと思います。

 

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