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2013年度 夏季セミナー報告(基調講演/福岡)
消費者教育における「生活の管理と契約」
web.09
(2013.12)
大阪教育大学教育学部 大本 久美子 先生


2013年度 夏季セミナー報告(基調講演/福岡)

当生命保険文化センターと(社)日本損害保険協会の共催で、高等学校の先生や教育関係者の方を対象とした夏季セミナー「くらしとリスク管理」を東京・福岡・大阪の3カ所で行いました。
10月から5回にわたってセミナーの内容(「基調講演」、「授業実践報告(家庭科)」、「グループ形式による意見交換」)をご報告しています。

今回で3回目になりますが、福岡会場の「基調講演」の内容をご報告します。

INDEX

 

1. 消費者教育とは?

本日は、高校家庭科における生活設計の分野において「保険」をどう扱うかを考えるにあたり、私の専門分野である「消費者教育」の視点から、「生活の管理と契約」についてお話ししたいと思います。

まず、文部科学省の打ち出している「消費者教育の目的」は次の(1)〜(3)です。
「消費者教育の目的」(1)(PDF)
「消費者教育の目的」(2)(PDF)
「消費者教育の目的」(3)(PDF)

また、消費者庁の消費者教育推進会議では、消費者教育の理念・目的を次のように述べています。
「消費者教育の理念・目的」(PDF)

そして、私が所属する日本消費者教育学会の設立趣意書(1981年)には、「消費者が生活の価値を守り、生活の質を向上させるための自立人間能力を開発する」とあります。

日本消費者教育学会が2007年に発行した書籍『新消費者教育 Q&A』では、消費者教育とは「消費者が商品・サービスの購入などを通して消費生活の目標・目的を達成するために必要な知識や態度を習得し、消費者の権利と役割を自覚しながら、個人として、また社会の構成員として自己実現していく能力を開発する教育」と定義しています。

つまり、消費者教育とは、消費者被害にあわないための予防・知識的教育だけではなく、次のような内容を含む教育であることがわかります。

・自立した消費者の育成
・消費生活の安定と向上
・持続可能な社会を実現する主体の形成
・選択(意思決定)
・主体的な行動

 

2. 消費者市民、消費者市民社会とは?

北欧諸国の呼びかけで生まれたコンシューマー・シティズンシップ・ネットワーク(CCN)による、「消費者市民」の定義です。

消費者市民とは、倫理、社会、経済、環境面を考慮して選択を行う個人である。
消費者市民は、家族、国家、地球規模で思いやりと責任を持って行動を行うことで、公正で持続可能な発展の維持に貢献する。

これについては本日の配布資料『先生のための消費者市民教育ガイド』にも載っています。
この冊子は、今年6月に公益財団法人 消費者教育支援センターが発行したもので、発行後すぐに取り寄せの依頼をかけたにもかかわらず初版はすべてさばけてしまい、第2版が有償配布されているという人気の冊子です。

消費者市民教育についてたいへんわかりやすくまとめられており、先生方にもお勧めのガイドです(公益財団法人消費者教育支援センターのホームページから申し込むことができます)。

公益財団法人消費者教育支援センターのホームページ
http://www.consumer-education.jp/nice/publ/index.html

同冊子によると、消費者市民社会とは、「消費者が、個々の消費者の特性および消費生活の多様性を相互に尊重しつつ、自らの消費生活に関する行動が現在および将来の世代にわたって内外の社会経済情勢および地球環境に影響を及ぼしうるものであることを自覚して、公正かつ持続可能な社会の形成に積極的に参画する社会」と定義されています。

ご存じのように、2012年8月に「消費者教育の推進に関する法律」が制定され、12月に施行されました。この法律の基本理念は、次のように書かれています。

・消費生活に関する知識を習得し、これを適切な行動に結びつける実践的な能力を育む。
・消費者教育は消費者市民社会を構成する一員として主体的に消費者市民社会の形成に参画し、その発展に寄与するよう、その育成を積極的に支援することを旨として行わなければならない。

この法律を受けて閣議決定された基本方針には、「全ての国民は、消費者である。誰もがどこに住んでいても、生涯を通じて、様々な場で消費者教育を受けることができる機会を提供する」ことが示されています。

・基本方針概要
http://www.caa.go.jp/information/pdf/130628_gaiyou.pdf
・基本方針本文
http://www.caa.go.jp/information/pdf/130628_kyoiku_houshin3.pdf

 

3. 学校教育における消費者教育

今や、小さな子どもも、お金を持ってモノを買いに行くという行動が日常的に見られます。さらに、インターネットを介してクリック一つで欲しいモノが簡単に入手できるという方法も知っています。そのような状況をふまえ、健全で安心・安全な消費生活を営むことのできる実践力の育成は、学校・家庭双方においてとても重要です。

学校教育では、すべての子どもたちにある一定の学習機会が保障されています。とはいえ、社会状況の変化が著しい今日では、学校で教わったことだけで社会に出て様々な課題に対応して行くのは難しいことです。

生涯学習社会という言葉もあるように、いろいろなことにアンテナを張り巡らせ、自分に必要な情報を入手しながら日々の生活課題を解決していくことを、一生涯かけて学んでいくことになります。ですから、学校でしっかりと消費者教育を行って、課題解決の実践力や、学習意欲を育成しておくことは、社会に出てからも、自らの意思による学習を可能にする基盤を作っておくことにつながります。

学校における消費者教育のねらい
・消費者市民社会の構成員になることの意義を理解し、責任ある構成員となるための基本的姿勢を育てる。
・消費者を取り巻く環境が変化しても、消費者としての課題を自らの力で解決する実践力と意欲を身に付けさせる。

消費者市民として、社会への責任を自覚し、連帯感・共感性・自己有能感を持ってエンパワーメントする実践力を持った消費者を育てることは、消費者・生活者が本当に主役となる社会を実現するための一歩になります。

なぜなら、彼らが、企業人や行政マンとなり社会に出ることによって、初めて「事業者側」の人たちによる消費者の視点に立った商品開発や制度づくりができるようになるからです。

消費者側がいくら賢くなって自立したとしても、消費者を騙す悪徳企業がたくさん出てきてしまったら、消費者・生活者が主役となる社会は実現しません。消費者側・事業者側が車の両輪として、両者が消費者の視点に立つことが必要になるのです。

社会に出て行く前の若者にしっかりと消費者教育を行い、消費者の視点を活かせる企業人・行政マンを育てていきたい。そんな強い思いを持ちながら私は消費者教育に取り組んでいます。

 

4. 学習指導要領

現在の学習指導要領では、小学校・中学校・高等学校の家庭科・社会科で次のような内容が示されています。
「学習指導要領に見る消費者教育」(PDF)

消費者教育に関わる教科としてここでは、家庭科と社会科を挙げていますが、これらの教科を要として総合学習の時間や特別授業など、学校教育のあらゆる機会をとらえて学習を積み重ねることが大切です。家庭科は限られた時間の中で多くの学習内容を取り扱うため、これ以上新しいことに時間を割けないという先生方もたくさんいらっしゃるでしょう。

従来の学習内容に消費者市民の育成を意識した視点を盛り込んだり、「世の中で実際に起こっているリアルな消費生活問題」を活用したりして、授業を組み立てることも可能です。

 

5. 消費者教育の体系イメージマップ(消費者庁)

消費者教育推進会議では、これまでバラバラに行われていた消費者教育を体系化して整備するためのイメージマップを作成しました。
このマップでは、重点領域とされる次の4領域を縦軸に、横軸は幼児期から高齢者までのライフステージ別にそれぞれの特徴と、重点領域の中での目標が整理されています。

4つの重点領域
(1)消費者市民社会の構築
(2)商品等の安全
(3)生活の管理と契約
(4)情報とメディア

・「消費者教育の体系イメージマップとは」(消費者庁ホームページ>消費者教育ポータルサイト)
http://www.caa.go.jp/kportal/consumer/about.html

・「消費者教育の体系イメージマップ」(消費者庁)(PDF)
http://www.caa.go.jp/kportal/search/pdf/imagemap.pdf

(3)の「生活の管理と契約」は、体系化された消費者教育の柱の1本になっており、その内容は、
●トラブル対応能力
●選択し、契約することへの理解と考える態度
●生活を設計・管理する能力
の3つから成り、『生活設計、生活管理、契約』が重要なキーワードであることが確認できます。

生活を管理する能力を身に付けさせることは、従来から家庭科教育でも大切にしてきましたが、消費者教育の視点からも重点領域となっています。

 

6. 消費者教育の体系シート(神戸市)

一方、「主体的、社会的な消費行動がとれる『自立した消費者』をめざして」作成された神戸市の『消費者教育をめざす目標体系シート』では、消費者教育の体系化の軸として、6つ示されています。

(1)消費基本行動
(2)安全確保
(3)商品情報の理解
(4)選択
(5)被害救済
(6)環境及び社会的影響の理解

(1)の「消費基本行動」の具体的な内容として、
「家計に関係の深い市場経済などの動向について把握するとともに、自らの家計を適切に管理し、合理的な生活設計やお金の使い方ができる。大震災など非常時に備えた準備や対応に、平素から検討し、取り組むことができる。」と書かれ、「生活設計や家計管理」に触れています。

学習内容は、
・「契約・取引、消費者の権利と責任の理解」
・「預貯金やローン、保険の機能、株式などの商品特性について正しく理解する」
・「商品購入時に、『本来の必要性』を考える(必要なもの以外買わない、将来のために貯める)」
などがあります。ここで「保険」の機能を正しく理解することが明記されています。

 

7. 日本消費者教育学会 関西支部の取り組み

日本消費者教育学会 関西支部では、「関西発!消費者市民社会の担い手を育む」という冊子の制作に取り組んでいます(2013年9月発行予定)。

本冊子は、消費者市民をどのように育んでいくかを示した授業例や、学校教育を支援している関係団体の出前講座を掲載しています(2012年に開設された神戸消費者教育センターの取り組みも紹介しています)。

シミュレーションや人生すごろくを活用して生活設計やリスク管理を学べる全8時間の高校家庭科「生涯を見通した生活設計を考えよう」を以下にご紹介します。

本授業プランでは、1・2時間目にWeb教材「生活設計・マネープランゲーム(全国銀行協会)」を活用し、人生におけるライフイベントとそれにかかる費用を知ることで、計画性を持って生活していく必要性について学びます。

3・4時間目は「リスク管理と生活資源」の授業、5〜8時間目に人生すごろくの作成・発表を行います。

人生すごろくを使った授業実践はこれまでもさまざまな学校で行われていると思いますが、生徒の多くは将来を予想するのが難しく、単なるライフイベントの羅列に留まったり、ライフイベントが偏っていたり、「夢ばっかり」の現実離れしたものになりがちです。

そこで、本授業プランでは、起こり得るリスク、リスクによって失うもの、リスク対策などを考え、経済計画やリスク管理を学習した後に人生すごろくを作らせるという設定になっています。

 

8. 既存の教材における課題

現在、いろいろな教材がありますが、どれも一長一短あり、なかなか現場でうまく活用できないという声を聞きます。
たとえば、「生活設計・マネープランゲーム」には「退職金カード」がありますが、非正規雇用が4割という現状、明日・明後日にも仕事がなくなるかもしれない不安定な雇用のなか、「退職金」をもらえる人がどれだけいるのでしょうか。はたして今の子どもたちに「退職金」はリアリティーがあるのでしょうか。

既存の教材には、まだまだ一昔前の生活をモデルとするものが多い。そこに課題があると思います。先生方には、既存の教材を目の前の生徒の理解度や生活実態に沿ったものにアレンジしていただき、それを1年間の授業にどう組み込むかを考えていただく必要があります。

現代の社会は非正規雇用の若者が結婚して子どもを産み育てていく生活設計ができない状況にある、そのこと自体が問題なのだと気づかせるような教育、現実とリンクした教育が必要なのだと思います。

 

9. これからの消費者教育

これからの消費者教育の方向性として、今まで見てきた「将来を見通した生活設計、生活管理」に関する学習がベースになっていくだろうと思います。

たとえば従来の消費者教育は、「より安全でより良い商品を買いましょう」という教え方が主流でしたが、それはある程度のお金があることが前提になっていて、お金がなければ安いものしか選べませんから、そのような指導は意味を持ちません。

となると、やはり一定の収入を確保してそれなりの生活ができる状況にいないといけない、ということをまず教えなくてはならない。人生にはそれなりにお金がかかる、生きていくにはお金が必要、だから働かなければならないというキャリア教育、そして金銭(金融)教育を強化する必要があります。

それをせずにいくら「倫理、社会、経済、環境面を考慮して選択を行いましょう」という消費者教育をしても、選択の余地がなければ、机上の空論になって高校生には届かないでしょう。

そして、法教育。
たとえば消費者教育で扱う契約について、「未成年契約取り消し」の「未成年」とは、「婚姻している者を除く」とあります。つまり、未成年であっても結婚している人は成年と見なされ、契約の取り消しが適用されません。しかし、高校を退学して16歳や17歳で結婚する高校生に成年としての責任や能力があるかといえば、難しいところです。

今の法律や制度が現実に合っていないことをきちんと感じ、社会状況に合わせて変えていけるような力をつけるために、シティズンシップ教育や法教育をベースにしたリーガルリテラシーを育む消費者教育を推進していきたいと思っています。

行動力、実践力や基本的な生活習慣、あるいは基本的な消費者センス、バランス、自己の生活をコントロールできる力、倫理観、責任感。そして、これから注目して欲しい倫理的な消費者ということでエシカルコンシューマー、メディアリテラシー、金融リテラシーそしてリーガルリテラシー・・・・・・。このような、持続可能な社会のキーワードを意識した消費者教育が必要になってくるだろうと思います。

 

10. これからの家庭科教育

日本家政学会誌に掲載されている論文「持続可能な社会をつくる家庭科」(小澤紀美子、東京学芸大学名誉教授)から、今後望まれる家庭科教育について紹介させていただきます。




持続可能な発展とその指標
「環境の持続性」 「社会の持続性」 「文化の持続性」
日々の暮らしは「意思決定」の連続
個人が社会とつながっていることを意識させ、社会の仕組みをどうつくるか
現在の状態を知り、未来を展望し、ビジョンを構築する →生活をデザインすること
 
高校家庭科では、これまでも「生活を創造する」能力の育成を目指してきました。
同論文によると、生活を創造する力とは、
“人と社会、自然との「かかわり」「つながり」を認識できる学びを通して、真の豊かな「生活の質」が何かを探り、よりよい市民生活を醸成するための生活観を確立し、現代の生活の諸問題を引き起こしている諸要素の連関性を批判的に分析し、適切な消費の選択のための意思決定能力やライフスタイルを変革していくための市民的資質を自ら確立していく”力であると書かれています。

 

11. まとめ 〜何を教えるか、ではなく〜

高校家庭科では、現在および将来における自分の生活のどこに・どのようなリスクが存在するのかを把握し、その対処の仕方をしっかり学びとることが必要になります。
リスクマネジメントとは、想定されるリスクへの対策を立て、最小化や分散を行うプロセスといわれています。したがって、授業ではここで貯蓄、生命保険や損害保険について扱うのですが、教科書の記述は、たとえば次のようなものになっています。

予定していない生活上の危機への対応を考えるリスク管理も重要である。
(注)リスク:生活の中で起こるさまざまな事柄の不確実性のこと。リスク管理には、危機そのものを回避できるよう予め対策を講じておくことと、危機に遭遇した場合の被害を最小限に抑えるよう対応しておくことの2つがある。

さまざまなライフイベントや不測の事態の時に利用できる公的な制度を調べてみよう。
私的な経済準備としては、預貯金の他、生命保険や損害保険などの私的保険に加入して保障を購入する方法がある。

この内容を、限られた時間の中で、高校生が実感し自分のこととして考えられるように教えていくわけです。
文字を読むだけでは、まったく理解できないでしょう。そこで、シミュレーションやゲーム的要素を取り入れながら、実践や体験を伴う学習活動を展開することが重要になってきます。

また、保険の種類や名称を教えるだけの授業というのは、高校生にはあまり意味がありません。
もちろん、今どのような保険があるのか、その保険にはどのような意味があるのかを知らせることは必要ですが、現在ある保険の知識だけを教えても、その内容は、時代と共に変わっていくものでもあり、現実には保険が必要ない人(預貯金で備えられる人)もいます。

では、高校生はどんなことを知っておけばいいのか。多くの知識を詰め込むより、将来、必要なときに必要な情報が入手できる力を育てていかなければならないのです。

そのためには、リスク対策として貯蓄や保険など金銭で解決する方法だけでなく、社会保障制度や法律、地域社会とのつながり、人的なネットワーク、生活時間、技術、情報など、多様な生活資源の存在に気づかせ、有効に活用することについて考える学習が必要です。

これらは家庭科のすべての学習につながっていることに気づいていただけるかと思います。
当たり前の生活と改めて向きあい、気づき、考え、決断し行動する力を育成することは、これまでも家庭科で大事にしてきたことですが、それらは消費者教育のねらいと合致しています。

何を教えるか、ではなく、どんな力をつけさせて社会に送り出していくのか。このことを念頭において授業づくりをしていただくと、家庭科教育と消費者教育が融合した素晴しい授業になると思います。

先生方には、年間の学習を通じて、高校生が現在そして将来の生活をきちんと管理できる力を育んでいただきたいと思います。一つ一つの授業を積み重ね、どんな力を身につけなければいけないのかを生徒自身が感じ取れるような授業を組み立てていただけたらと思っています。

 

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