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2013年度 夏季セミナー報告(基調講演/大阪)
生活設計とリスクマネジメント
web.10
(2014.1)
大阪教育大学教育学部 鈴木 真由子 先生


2013年度 夏季セミナー(基調講演/大阪)

当生命保険文化センターと(社)日本損害保険協会の共催で、高等学校の先生や教育関係者の方を対象とした夏季セミナー「くらしとリスク管理」を東京・福岡・大阪の3カ所で行いました。
10月から5回にわたってセミナーの内容(「基調講演」、「授業実践報告(家庭科)」、「グループ形式による意見交換」)をご報告しています。

第4回は、大阪会場の「基調講演」です。「生活資源」、「リスクマネジメント」、「生活設計」の3つのキーワードを中心にお話しいただきました。

INDEX

テーマは、生活設計とリスクマネジメントです。はじめに「生活資源」について確認し、それらをマネジメントする意味について述べます。また、生活設計の授業のポイントについて、具体的な方法を含めてお話します。

 

1. 生活資源とは?

はじめに、“生活資源”とは何か、確認しておきましょう。「資源」という言葉から教科書にあるような意味を想像させるのは難しいと思います。「資源」というと、どうしてもエネルギー資源や石油資源など、自然に近いものをイメージしてしまうからです。そこで、「生活資源」とは、「生きていく上で必要不可欠なものすべてである」と説明すると、わかりやすいのではないでしょうか。

生活資源について考えるにあたり、以前、小学校で家庭科授業をさせていただいた実践を紹介しましょう。5年生のはじめに行ったガイダンス的な内容の授業でした。

まず、「あなたの生活を支えているものは何ですか?」という質問をします。すると、子どもたちは柔らかい頭で素直にいろいろなことを考えてくれました。そこで挙がってくるのは、生活資源そのものです。

小学生の答えは、だいたい、「人・もの・こと」に収束していきます。
「人」は、たとえば、親、家族、先生、友だち、塾の先生など。
「もの」については、衣食住に関わるもののほか、通学のときの親の送り迎えの車など、もっと細かいレベルで出てきます。
「ことがら」は、「食事」や「睡眠」など、活動にも置き換えられます。
こうして出てきたものを黒板に貼っていき、分類しながら図にしていきます。分類という行為は、類似性と相違性を区別する作業です。

最後に、分類するのが難しいものが3つ残りました。「時間」、「お金」、「情報」です。
児童から、さまざまな意見が出ました。
「お金は『もの』でいいんじゃないか?」 「でも、『もの』以外のものにも替えられる。サービスとか」
最終的に、「時間」はどこにも属さないので中心に置き、「お金」と「情報」をどうするかということになりました。

すると、「一番外側に置いてください」という子がいました。お金と情報はすべてに関わるという意味かと思ったら、違うと。「循環させなければ意味がないものだから」と言うのです。
お金は、止めておいても意味がなくて、循環させてはじめて意味がある。情報も、自分が得るだけじゃなくて、誰かに伝えてはじめて使えたことになる。ぐるぐる回るから意味があるのだと。これは想定外の答えでした。

私が「今みんなが挙げてくれたもの、これらは全部、家庭科で学ぶことなんだよ」と言うと、子どもたちは「家庭科って、ご飯つくるだけじゃないの!?」と驚きました。

そして「ここにあるものは、みんな大事なものだよね。これらが減らないようにするためにはどうしたらいいのかな? 生きていく上で必要不可欠なものたちを、もっと増やすにはどうしたらいい?」と問いかけました。

今、自分が持っているものと持っていないものがあります。使えるもの、使えないものがあることもわかっています。これら生活資源を豊かに使いこなせるようになったら、きっと楽しい人生になるのではないか・・・・・・。そのような内容でした。

生活資源とは、生きていく上で必要不可欠なものです。
そして、人によって重要度が異なるものです。私にとって大事なものが、他の人にはそれほど大きな意味はないかもしれない。一律でもない。たくさんあればいいというものでもない。
また、生活資源は、増えるかもしれないし、減るかもしれないという要素も持っています。年齢を重ねることで健康状態などのリスクは大きくなるし、リタイアすれば収入は減ってしまいます。

 

2. 生活資源の管理(マネジメント)

では、今ある生活資源を増やすにはどうしたらいいか。減ってしまったらどうしたらいいか。最悪の場合、なくなってしまったらどうするか。それを考えるのが「マネジメント」です。

現状を維持するのも一つの考え方です。例えば健康の場合、年齢を重ねることでリスクは増えていきますから、今の状態がピークであれば、老化を遅らせるためにどうするかを考えることになります。

今、日本人の3人に1人は「がん」で亡くなっています。健康を維持するためには、適度な運動をする、栄養バランスのよい食事を摂る、十分な睡眠時間、ストレスの軽減などが考えられます。
でも、いくら予防をしていても、病気になったり、不慮の事故に遭ったりすることがあります。減ってしまったり、なくなってしまったりしたものをどう補うか。それがリスクマネジメントです。

 

3. リスクマネジメントとは

生活のリスクは不確実性を伴うものです。自然災害に遭ったり、事件に巻き込まれたり、事故に遭う可能性もある。事故を起こす側になる可能性もある。障がいを持つかもしれない。要介護の状態になることもある。失業や離婚など、望ましくない家族の変化ということもあります。仕事の都合による家族の別居も、生活上の大きなリスクになります。

こうした不確実性を伴うものに対して何を準備するかですが、これらが発生したときのインパクトと発生頻度を考慮して、合理的な方法を判断することがリスクマネジメントの基本になります。

自然災害など、多くの人が大きなダメージを受けるようなリスクに対しては、個人レベルではカバーしきれないため国や行政で対策を立てる必要があります。

一方、かぜをひくなど、小さいけれど頻繁に起こるリスクもあります。また、一家の働き手が死亡するといった、頻繁には起こらないが起こったら家族が大きなダメージを受けるリスクもあります。それを経済的にどうカバーするのか。何を優先し、取捨選択するかは、個人やケースによって異なります。

さまざまなことを想定しながら、どこにどれだけのエネルギーを使っていくかを考えて判断していかなければならないわけです。最小の犠牲・負担で、リスクを回避、分散、低減、コントロールすることがリスクマネジメントのポイントになってきます。

 

4. 経済的なリスク対応:貯蓄・保険

生活資源はお金だけではありませんが、経済的なダメージは大きなインパクトになります。ただし、予防できる可能性の高いリスクでもあります。
その手段としては、大きく「貯蓄」と「保険」が挙げられます。

貯蓄と保険は、年齢、家族など、ライフステージやライフスタイルによってそのニーズが異なります。何がどれだけ必要かというニーズが明確になると、いつ、何を、どこまで準備するかが逆算できます。

保険であれば、入院したとき、1日2万円の給付が必要と判断したら、保険料は高くても合理的な保険ということになります。保険にかけるお金は軽くして、何にでも使える貯蓄に回すという考え方もできます。

 

5. 貯蓄の目的、負債の目的

貯蓄や負債の目的は年齢によって異なる傾向があります。

あくまでも平均値ですが、貯蓄の目的の特徴は、次の通りです。
●病気・災害への備えは、年代とともに上昇します。
●老後の生活費は、50歳代以降に上昇し、70歳代では下降します。
●子どもの教育費は40歳代をピークに下降していきます。

基本的に、日本人はあまり明確な目的がなくても「とりあえず貯めておく」という傾向があります。これは欧米とは異なる特徴です。

一方、負債の目的の特徴は、次の通りです。
●住宅取得・増改築による負債が40歳代をピークに山形を形成します。
  30〜40歳代で持ち家を希望する人が増えるからです。
●耐久消費財に関しては、20歳代で少し上がり、そこから減っていきます。
  ここから、20歳代の収入・貯蓄だけではカバーできないということがわかります。
  この年代のあまりゆとりのない状況が見えてきます。
●子どもの教育費は、40歳代・50歳代では負債にもなっていきます。
  貯めているけれども、それではまかないきれない、日本は教育費の高い国であるということです。

 

6. 「生活設計」はつまらない?

ところで、皆さんの学校では、生徒さんたちは生活設計の授業が好きですか?
大学で学生たちに聞いてみると、よく覚えている学生もいましたが、「あまり記憶がない」、「すごくつまらなかった」という学生もいました。

生活設計が「つまらない」理由の多くは、以下のようなものです。
●リアリティがない。
●不確実性があるのに、やってどうなるんだろう?
●「平均値」は自分の生活と違う。
●プランを立てても、どうせ実現しない。やっても意味があるの?
●そもそも、先のことなんて考えられない。目の前の受験や部活で手一杯。
●考えても無駄。「どうせ・・・・・・」が正直な気持ち。

そして、
●「いざとなれば何とかなる」と思っている。

これはとても危うい考え方です。
また、マイナスのライフイベントを想定して考えるのは暗くなるしつらいから嫌だという子もいました。

「結婚しない」と思っている子は、ライフプランに書くことがありません。子どもも生まれないので、就職・退職で終わりです。だからつまらない。結婚願望のある子も、結婚できるかどうかはわからない、将来の自分が見えない、考えられない。高校生にとって先のことを見通すというのは、相当に厳しいハードルなんだろうと思います。

 

7. 生活設計の授業で何を学ぶのか?

生活設計の授業は、「プランを立てること」を学ぶのではありません。ライフプラン表の空欄をうめることがゴールではないのです。

身につけたいのは、計画を立てる力、先を見通す力、不測の事態に対応する力そのものであり、そのために学ぶのです。生活設計表は、そうした力をつけるための手段にすぎません。
そこに立ち返ってみると、あの表をうめさせる前に考えさせることがあります。
家庭科が大切にしている「自立」と「共生」です。

<生活設計の授業で何を学ぶのか?>

生活的・経済的・精神的自立、社会的自立、性的自立、ができる力を持つことの意味。
これについて学ぶことも家庭科の大きな目的です。では、それらの自立の力をなくしたとき、大切な生活資源が失われたときに、どうすればよいのでしょう。自立とは、何もかもすべてを自分の力だけで対応しなければならない、という意味ではないのです。

そんなとき、共生、つまり連帯や平等の考え方、福祉や社会保障などの制度が助けてくれるわけです。
自立と共生、この両方を学んで初めて計画を立てる力や先を見通す力の育成につながっていくわけです。この形が見えるように学習を組んでいくことが大事だと思っています。

 

8. 人生を最期まで見通す前に

いきなり人生の最期「自分が80歳で死ぬとして…」から始めるのではなく、もっと手前の、身近な生活資源の確認から始めてはどうでしょう。

■例1:キャンプでの夕食づくり
たとえばキャンプに行き、夕食を作るとします。

●使える生活資源は何か?
●そもそも、どこへ誰といくのか?
もちろん、お金さえ出せば何も持って行かなくてもキャンプやバーベキューができる施設もあります。
では、そういうところを選ぶのか?
●誰がどうやって準備するか?
●もし、それらが使えなかったらどうするか?
  たとえば、「雨で屋外のバーベキュー施設が使えなかったら?」など。
そして、
●最悪な事態を避けるにはどうするか?
  たとえば、食材担当の子が当日の朝、突然行けなくなったら?

これが不測の事態の想定です。
身近なことを例に、ゴールをどうするか、それはどうすれば可能になるか、今あるものでやるとしたらどうするか、足りないものがあればどうするか、これらを考えていくと、キャンプの夕食づくりがテーマでも、ライフプランやリスクマネジメントに関わる要素は盛りだくさんになります。

おそらく学校では、実際にキャンプをするとなると、先生がリスクマネジメントをされているのだと思います。事前に施設などに問い合わせたり、食材を忘れる子がいることを想定して先生が多めに用意したりしておくなど。

こうした先生の“配慮”によって、子どもたちはリスクマネジメントを学ぶ絶好の機会を逃している、という見方もできるわけです。

■例2:リアリティのある“私のプラン”を実現させる
また、夏休みの宿題に、次のようなテーマはいかがでしょうか。

●友達とテーマパークに行く
  誰と? どこへ? 交通手段は? 集合時間は? 現地ではどういうルートで回るか?
●夏休みの家族旅行
  日程は? 家族となると調整が必要ですね。 交通手段は? どんなルートで行くか。
  予約はどうするか。行きたい場所やしたいことが、家族の中で違っていたらどうするかも調整しなければいけません。

事前に情報を集めていても、行ってみたらお目当ての店や施設がやっていなかった、ということもあります。そのときどうするか。

私たちの暮らしはそういうことの繰り返しです。代替案を常に想定できる人、代替案のたくさんある人は、旅行先でとても豊かにその時間を過ごすことができるのではないでしょうか。

■例3:少し先の“夢”を具体化するプランを考える
これは大学の授業でも行った課題です、次のようなテーマのレポートを課しました。

●結婚式をプロデュースしてみる
●一人暮らしのシミュレーション

ほかにも、いくつか考えられるでしょう。
●海外留学
●キャリアデザイン

いずれのテーマも、「リアルなデータをたくさん出した人のほうが評価が高くなる」と最初に伝えます。
たとえば結婚式の場合、ホテルなどに行けば、さまざまなプランについて資料がもらえ、丁寧に説明もしてくれます。リアルなデータを集めると、「披露宴に30人呼ぶとこんなにお金がかかるのか!」ということが実感としてわかるようになります。

すると、「自分はここまでならやろう」というラインが見えてきて、ではそれをするためにはいくらお金がないと厳しい、ということもわかってきます。その中で、貯蓄や保険の意味も見えてくるのです。

■例4:「○年後の私」をイメージする
「何年後かの私」をイメージするワークも、先を見通すモチベーションの一つになるのではないかと思います。

●何をしている?(仕事・趣味・生きがい)
  仕事をしているか、していないか。趣味はあるか。生きがいは何か。
●どこに住んでいる?(地域・居住形態)
  国内か、国外か。どんな家に住んでいるか。
●誰と暮らしている?(家族)
  一人暮らしなのか、友達と暮らしているのか。パートナーはいるか、子どもはいるか。
●何を持っている?どんなファッション?
  どんなものを持っているか、どんなファッションをしているか。

これらについて、写真などの視覚的・具体的情報をインターネットや雑誌・広告などから集め、1枚のコラージュを作らせます。学生にとって楽しい作業であり、先を見通すモチベーションにつながっていきます。
そして、「これを実現させようと思ったら、今ある生活資源でいいか」を考えさせます。
このことが、「これから自分は何をしないといけないのか」という発想につながっていきます。

 

9. データを活用する

■リアリティのあるデータ(地域性・個別性)
やはり、現実味のあるデータは重要です。
たとえば就職を考えるなら、大阪市内の従業員何人規模の会社で、大卒営業職の初任給はいくら、というところからスタートさせます。

保育園に子どもを預ける場合、世帯年収300万円の場合の保育料はいくらか。住んでいる地域(行政区)が違えば保育料も変わってきます。
家賃を考えるなら、大阪環状線の駅から1キロ圏内の新築アパート1DKの家賃はいくらか、など、リアルな情報を持ってくると、イメージが大きく変わってきます。

■平均値(全体性・相対性)
しかし、平均値にも意味はあります。
個別のリアルなデータには生徒のモチベーションを上げたり目標を設定しやすくしたりする効果がありますが、それですべてを計算できるわけではありません。長期間にわたってざっくりと把握しようと思ったら、1年間の食費がこのくらい、10年間ではこのくらい、高齢期の夫婦2人で1か月の生活費はこのくらい、といった平均値のデータが意味を持ちます。

同じ条件で複数のケースを比較するときにも平均値は有効です。たとえば、子どもをどの学校に進学させるかを考えるとき、「幼稚園から大学まですべてを私立にした場合の学費」など、大きな目安の数字として出てくるからです。より具体的なプランを想定する前におおいに参考になります。

 

10. 情報を調べる・集める・比べる

■フリーペーパー・情報雑誌、ウェブサイト
フリーペーパーや情報誌は情報を調べる・集める・比べるうえでとても有効です。
たとえば就職・アルバイト情報誌。ここに書いてある情報だけで本当に就職できるのか、書かれていない大切な情報があることが学習の中で確認できます。
結婚情報誌は有料ですが、分厚くて情報満載でも300円程度と非常に廉価です。
なぜ安いのかも含めて、考えさせるいい教材になります。

ウェブサイトでもいろいろな見積やシミュレーションができます。
たとえば、住宅ローンの返済、結婚式・披露宴の見積、高齢者対象ケアハウスの入居などです。
情報誌と同様、生徒たちに「情報として使える要素がたくさんあるよ、でも実際は?」というふうに問いかけながら扱うのがいいかと思います。

 

11. おわりに

家庭科は実践し続ける教科だと思っています。
家庭科は毎日が実践の場であり、それが一生涯続いていきます。家庭科の内容は、暮らしの、人生のすべてに関わっています。
高校までに習ったことが、その後の人生にいかに大きなベースとなって皆さんを支えるか。それはきちんと伝えていきたいところです。

学習は、「何を(内容)・どうやって(方法)」で終わらずに、「なぜやるのか」を高校生が納得していることが重要です。
なぜやるのかが納得できていると、授業が楽しくなります。主体的に学ぼうとする自己教育力が高まり、自分で自分を励ましながら、「もっとやってみよう」というふうに広がっていくのではないでしょうか。

「時間が足りない」ことは、先生方の共通の悩みだと思います。
限られた時間ではありますが、ゴール(目標)をきちんと提示してあげてください。
「最終的に、あなたにはこういうことができるようになってほしい、そのために今これを学ぶんだよ」という“つながり”が見えるような授業の中で、生活設計を扱ってほしいと思います。

 

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