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高等学校公民科における「実学」的な授業への取組み
web.12
(2014.3)
東京都立蒲田高等学校 浅川 貴広 先生

最近の活動 「金融教育への取組み」

金融教育に関する新たな取り組みを、東京都公民科・社会科教育研究会のメンバーを中心に始めています。金融教育というと、「金儲けを子供たちに教えるのか?」という風潮がありますが、子供たちに「正しい知識」をつけるにはどうしたらいいかという事を目標にしています。

今年は立ち上げたばかりなので、金融教育を行っている先生、金融の現場で活躍しているアナリストの方などの話をお伺いして、金融教育について考えていく場を設けています。

 

教育現場における「実学」の重要度

昔と比べてより現実社会に近い教育が求められているのだと考えます。例えば金融教育は、アメリカの高校生が教わっている「パーソナルファイナンス」という、これから将来生きていく上で「貯蓄のあり方」や、「投資のあり方」など教えて行こうという流れが、今はあります。

また、他の例としては税理士会が租税教室を行っていますし、消費者金融などもカードやローンに関するトラブルの対処の仕方など、生徒に対して色々な形で将来トラブルに合わないように教えるようになってきています。

一昔前は公民科というと、「政治で国会が・・・」「日本国憲法について・・・」等を主に教えていましたが、もちろん今も学習指導要領に定められており、それも大事ですが、それと共に、特に学力的に厳しい学校はより実社会に即したカタチで学ばせることが大事だと思っておりますし、数年後に改訂される学習指導要領にそのような教育を入れていこうという流れもあります。

実学系の授業を行う際の「ねらい」

広い意味で「これからの人生、損をしないように」と思っています。「損」というとネガティブなイメージで捉えがちですが、学力的に課題を抱えている生徒ですと、将来詐欺にあったり、社会保障に関しても、手続き知らないことで何もせず、結局将来受け取れずに困ってしまったりする可能性があります。

色々な意味で「知らないと困ってしまう事が多いと思います。失業保険や労災保険など、これからの人生で知っておけば「損」しないことを知っておいて、最終的に幸せになっていけたらという目標を持っています。

 

授業を構成するにあたっての注意点

政治・経済の授業全般に言えることですが、学力的に課題を抱えている生徒に授業を行う際に、いきなり本題の内容から入ってしまうと生徒にとってはハードルが高く、理解するのが難しい。なので、最初は導入として生徒が身体を動かしたり、色々な事を通じて考えられるような時間に持っていくようにしています。

理論的な話も大事になってきますが、それだけを教えるのではなく、例えば社会保障について教える際には、実際に人生を生きていく中で、この時期にはどういう事が起きるのか、その時に登場してくるのが「介護保険」だったり「遺族年金」であるとか、そういう自分たちの人生と関わらせて学ばせていく授業構成にすることを留意しています。

また、今の生徒は、将来自分が社会人になる事や、結婚して子供ができ、さらには高齢になって介護を受けることなどの先を予測したり、想像したりすることが苦手な部分があります。そのため、先の事や将来の事をいかに、今の時点で考えさせるかも留意しています。

 

授業での「プレゼンテーション」

国際的な学力調査の結果を見ても日本の高校生の「思考力」「判断力」「表現」が非常に低いということがあります。この結果をふまえて文科省のほうでも学習指導要領に「思考力」「判断力」「表現」をしっかり身につけさせることを定めてきています。

このように、生徒の「生きる力」を育成していく上で言語力育成というものが掲げられているところです。そのために言語活動、例えば「プレゼンテーション」や隣の人と話し合う「ペアワーク」を行い、意見を発表させる活動が増えてきています。

問題点としては、発表させることが目的化してしまい、とりあえず発表していればいいとか、グループワークを行えばOKというようなところがあります。そうではなく、何故グーループワークを行うのか?どうして発表させるのか、それがどのような教育方法と結びついていくのかがまだまだ難しいところではあります。

 

生徒に授業へ興味・関心を持たせるために

理想は、しっかりと学び、学んだことについて考えていくという事ですが、内容によっては全てを理解するのは難しくなってきます。生徒が理解できる容量の中で、何を生徒に理解させたらいいのかを取捨選択していくことが、現場では求められていると思います。

ここだけは解かって欲しい事、社会保障であれば例えば自助、共助、公助の考え方であったり、単にお金がもらえるという事ではなく、制度がある事での見えない安心感があるという事。そういう事を学ばせていくためにどのような仕掛けを作っていくかという事を考えています。

 

最近の授業で効果的だった事例

海外について全く知識のない生徒に対して、国際協力や国際関係を教える事は難しい現状があります。その国際協力についての授業を行った際には、まずは『僕たちは世界を変える事はできない』という映画を導入として見せました。この映画は主人公がたまたま見つけた"カンボジアに学校を建てよう"というパンフレットを見て、仲間とともに建設費用を集めていこうとします。

様々に葛藤しながらもカンボジアに学校を建てるというストーリーなのですが、「学校を建てる」という事はどういう事なのかについて考えさせました。
「学校を建てる」→「生活水準が上がる」→「良い仕事に就ける人が増える」そのようなミクロからマクロに考えて最終的には「国が発展していく」という風に、生徒に紙芝居形式に考えさせました。

それ以外にも、アパレル企業が、着なくなった衣類を回収してそれを発展途上国に届けているが、そういう取り組みがどうなるかを考えさせました。
「服を着る、服が増える」→「衛生状態が良くなる」という話から展開していき、発展途上国とのつながりを考えさせる授業を行いました。その授業では映画を見たのも効果的でしたし、自分と途上国との繋がりがわかったという感想が多くありました。難しいテーマであっても映像やドラマを使いながら進めていくとよいと思います。

国会や政治を学んだ際にも、主人公が総理大臣という政界を描いたドラマ「CHANGE」を使い、そのドラマの選挙のシーンで「何で今こういう選挙があったんだろうね」という問いかけをし、そこから選挙制度の解説をいれたりしました。

そのように映像とリンクさせたりすると、視覚的、聴覚的にもインパクトが残ることから、生徒も理解がしやすくなりますので、そのような取り組みを行っています。

 

生徒の関心・興味を引く授業を組み立てるための情報収集

公民科に関して言うと、街の中にある物全てが教材になり得ます。電車の車内広告であったり、週刊誌の中吊り広告であったり。たとえば、車内広告。隣合わせで並んでいるものも、それぞれテイストやアプローチの仕方が全く違います。

女優を起用しているものがある一方で、キャラクターを起用しているものがある。その訴求方法を考えること一つをとっても、教材になり得ます。普段からこれを使ってみよう、あれを使ってみようとアイディアをストックしていき、いざ授業となったら、じゃああれを使おうというふうに考えるようになりました。

 

次に授業で取り上げたい事例

例えば、来年度の授業で使ってみたいと考えているのが、昨年の夏頃に南浦和の駅でホームと電車の間に挟まった女性を皆で電車を押して救助した光景を捉えた写真です。それを生徒に見せて、「これは何だろうね?」という問題提起から授業を始めたいと思っています。

そこから、社会保障であれば共助の精神、江戸時代やもっと昔からお互いに助け合うという考え方が日本人にはあるということを教える、という風に展開していけると考えています。
この写真を見て皆はどう思う?と投げかけると、中には「ええ!すごい!」と答える生徒もいると思いますが、「その場にいたら皆どうする?」と聞くと「助ける」「一緒にやる」という答えが多いと思います。

日本では当たり前のように行われる行為が、実は世界的に見るとそれは全然当たり前じゃないというところから社会保障の話にも入っていけるでしょうし、そういった日々の色々な材料を使いながら本題になる部分を教えていくという事が公民科の面白いところであり、難しいところであると思います。

 

生徒を取り巻く環境の変化と授業の組み立て方、「きっかけ」をつくる

公民科、現代社会、政治経済は、その時々を反映して構成されます。昔で言うと消費者問題としては「アポイントセールス」であったり、「マルチ商法」であったり、今はネット上での取引が一番取り扱われます。ベースとなるのは教科書であり、学習指導要領であり、根幹は決まっていますが、色を付けていくのは現場の判断次第になります。

一年間の授業の中で色々な事を学ぶ中で、継続して危機感を持ち続ける事はまず難しいです。授業を受けて関心が高まり、それをさらに学習するために大学進学を志す生徒も中にはいますが、ほとんどの生徒が授業で習って理解し、テストに出るので勉強してというところで終わってしまいます。

それは、学校教育の中で公民科の課題であるとも考えます。ただ、将来的に国民年金に加入したり、医療保険についても数年のうちに大きな病気にかかる生徒もいるかもしれません。その時に少しでも授業の事を思い出してくれれば最低限には十分だと思います。

生徒全員が授業で学んだこと、例えば社会保障について課題意識を持って取り組んでいけば、日本は素晴らしい社会になると思うのですが、なかなかそうはいきません。しかし、高校卒業後、社会人になり実際に給与明細を見た際に、この金額はどういうことだろう?と疑問を持ち、社会保障について調べるかもしれない。

先々のことになってしまいますが、その「きっかけ」を与えるという事が、高校の授業には目的があると考えます。

 

授業について取り組んでいきたい事、今後の「課題」や「展望」

公民科の目的は最終的には「公民的資質をつける」というところにあります。「公民的資質」とは、社会保障であれば社会保障に、経済であれば経済に日々関心を持ち、色々な問題に関心を持ち、世の中のあり方について色々な事を考え、そして選挙であるとか自分の意見を伝える場で考えを伝えることですが、今の20代の若者に「公民的な資質」があるかというと、ほとんどの若者は持っていないと思います。

中には持っている若者もいると思いますが、どちらかというと日々の生活や、仕事に追われて、自分以外のことに手が回らない若者が多いのではないかと考えます。それが投票率の低さなどに現れていると思います。

選挙の結果を年代別に見ると20代から80代にかけて綺麗に増えている。それでは今後どんどん少子高齢化が進んでいきますので、ますます若者の声が届きにくい世の中になっていってしまうのではないかと思います。

最終的な目標としては、公民の授業を受けて色々な事に関心を持ち、そして行動の仕方は様々だと思いますが、NPOやNGOに参加するのも一つですし、国際理解を学んで青年海外協力隊に参加するのもいいでしょうし、いずれにしても生徒たちに行動を起こさせるという事が私の授業の目的であると考えています。

 
 

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