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「幸福のための社会保障制度」〜幸福を分かち合う社会を考える〜
web.02
(2014.5)
東京都立国際高等学校 宮崎 三喜男 先生

1.はじめに

社会保障は「国民相互の支え合い」と言われるが、新聞やテレビが報じるのは、「負担の押し付け合い」の話しばかりである。

「社会保障はほとんどが高齢者向けで、若者への支援は手薄。雇用不安で子どもを持つどころか結婚できるかどうかもわからない。そんな私たちに負担を押し付けるのは勘弁してください」、「世代間格差は歴然。あまりにも不公平だ」。

これは、授業中の生徒の発言であるが、同じように思う生徒は少なくないであろう。
それでは社会保障費を支払うのは損なのであろうか?また、いわゆる「低負担・低福祉」の政策を選択した場合、どのような社会になるのであろうか?

社会保障"制度"の理解ではなく、「幸せな社会」を実現させるための手段としての「社会保障制度」という観点から授業を実践したのを今回ここに報告させていただきたい。

 

2.授業の位置付けとねらい

◇対象科目 政治・経済(現代社会)
◇授業のねらい
・「支え合い」・「幸福」・「安心」の観点から社会保障制度を考える。
・これからの日本の社会のあり方を社会保障の観点から考える。
◇キーワード 「支え合い」・「幸福」・「安心」・「大きな政府」・「小さな政府」

 

3.授業展開

まず、以下のシートで「社会保障」の在り方を生徒に考えさせ、自分が思う場所にシールを貼ってもらった。ほとんどの生徒がシートの上の方、つまり「高サービス」を求める中、負担に関しては「低負担」と「高負担」の二つに意見が分かれた。

多くの生徒が「低負担の社会」・「高サービスの社会」を望むであろうと予想していたが、実際には桃源郷のような社会は存在しないことも理解しているようである。

ここで、教師から、「仮に社会保障費や租税を低負担に抑えた『低負担・低サービスの社会』を国民が選択した場合、福祉のニーズはどこで補うのであろうか?」と発問をすると、本授業の展開に深みが出てくる。

あなたが考える「社会保障制度」とは?

次に、社会保障制度の説明を以下のように行った。

望ましくないことが発生する可能性のことをリスクという。私たちの人生には、自分や家族の病気、障がい、失業、死亡など様々なリスクが潜んでおり、自立した生活が困難になるリスクはゼロではない。

また、健康で長生きすることは望ましいことであるが、誰にも自分の寿命はわからないため、老後の生活費が不足するリスクもある。このような、個人の力だけでは備えることに限界がある生活上のリスクに対して、社会全体でセーフティネットを作り、支えようとす る仕組みが社会保障制度である。

社会保障制度を授業として取り扱う場合、社会保障制度の歴史や用語の説明、または制度の解説に時間が取られてしまうことが多い。

しかしながら社会保障制度の核になる部分は、「支え合い」の仕組みを理解すること、また私たちが幸せな社会を築くことであるという授業を行い、「社会全体でセーフティネットを作り、支えようとする仕組み」という視点を強調した。

さらに本授業の中核部分に当たる、「これからの日本の社会のあり方を社会保障の観点から考える」という展開を行った。

「社会保障制度」

 

上記のプリントに書かれている「円」は、日本、スウェーデン、米国の福祉サービスの量を模式的に表したものである。どの国でも、子どもやお年寄りの面倒をみたり、病気を治療したりといったサービスは、何らかの形で確保されており、違うのは、そのニーズをどこで満たしているかという点である。

日本は伝統的に家族(F=ファミリー)、特に女性の無償労働に頼むところが大きく、社会進出を妨げてきた。そのかわり税などの国民負担は比較的低く抑えられてきた歴史がある。

スウェーデンなど北欧の国々では、政府(G=ガバメント)の役割が大きく、貧富にかかわらず誰もが比較的平等に福祉サービスが受けられる。ただし、国民負担は重い。

逆に国民負担が低い米国は、市場(M=マーケット)への依存度が高い。お金持ちだと「超豪華」なサービスを受けられるものの、生活に余裕がないと何も利用できないことがある。
政府の役割を削って税金を抑えれば、家庭や市場の役割が大きくなる。つまり、この分担割合は、人々がどんな社会にしたいかを映し出すことにつながっているのである。

「負担が少なく、サービスが良い」。このような夢物語な社会は存在しない。どのような形であっても、メリットとデメリットがあり、その両方をおさえた上で生徒たちにあるべき社会を考察させたいと授業者は考える。

 

4.まとめ(おわりに)

本授業で一番考えてもらいたいことは、社会保障制度は私たちが"どのような社会にしていきたいのかを映す鏡である"ということである。大切なのは「幸せな社会」をつくることであって、「支え合い」はその手段に過ぎないのである。

公民科の授業では「大きな政府と小さな政府」の考え方を対比して教える項目があり、社会保障の授業も「高負担・高福祉」か「低負担・低福祉」かの二項対立で考えさせることが多い。しかし、「低負担・低福祉」の社会を選択した場合の福祉のニーズはいったい誰が担うのかという側面を示さないのは、いささか問題があると考える。

公的年金も子が親を支える私的扶養を社会化して、さまざまな生活リスクをヘッジしたものである。もし公的年金がなくなる、もしくは支給額が低くなれば、それだけ私的扶養が増すだけである。

確かに世代間格差は大きな問題ではあるが、私的と公的の扶養を足した総額は制度があってもなくても同じであり、一面だけをとらえて不公平と言うのは難しい。

人間は、社会的な存在であり、私たちは、家族や学校、地域、会社など様々な"社会"に属している。そこで人々と関わり合う中で、お互いに助け合い、愛情や精神的安らぎを感じ、社会における自分の居場所と役割を見出すことで、豊かな社会生活を送ることができる。

社会保障制度は、全ての人々が人間らしく生きていくことができる社会を作るための一つの手段である。「これからの日本の望ましい社会のあり方は何か」、「そのためには社会保障にどのような役割を求めるのか」、一人ひとりが考えていく必要があるのではないか。

そして生徒に再び問うてみたい。「みんなは、どんな社会がいいと思う?」

 

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