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志望理由書を通して自分と向きあうキャリア教育
web.08
(2014.11)
山口県立下関南高等学校 松村 成通 先生

1. はじめに

高等学校等におけるキャリア教育の緊急課題は生徒の将来への不安解消、学習意欲の向上であり、それらの課題解決に向けては、まず、普段の授業でキャリア教育に関係する事柄を取り上げて理解させることが必要だと思う。

私も授業において公民的資質を養うことに加えてキャリア教育を関連づけながら実践していくことを意識しており、例えば、「政治・経済」「世界史」「地理」などにおいて、非正規雇用の実態などの労働環境、雇用環境やそのような状況を生み出した歴史的背景にも触れながら、世界の雇用状況や日本の労働慣行についての特殊性などについて理解させている。そして、これらを通して自己のキャリア設計について考えさせるように努めている。

さて、本校におけるキャリア教育の目標は校訓「日々に磨かん智と徳と」にもとづくキャリア教育の展開である。特に「日々に磨かん」を重視し、大学訪問、企業訪問、進路講演会など、様々な進路関係の行事に取り組んでいる。一方で生徒や保護者とのキャリアカウンセリングを重視した活動を展開している。

私は教員とは学校での保護者であり、生徒の大事な人生の一部を共有する人であると考えている。しかし、生徒は我々教員を取捨選択できないのでその中で生徒たちと信頼関係を築くにはまさに「日々に」生徒を目で観察し、声に耳を傾け、面談するしかないと考えている。

さらには、なぜ、進学するのか?なぜ、国公立大学なのか?何のために働くのか?教員は自分の言葉で説得力のある説明ができなければ生徒からの信頼は得られないとも考えている。そこで、相互の信頼関係を築くための取り組みの一つとして3学年「総合的な学習の時間」において志望理由書を書く授業を展開している。

2. 授業のねらい

(1)教材観
志望理由書は本来、推薦・AO入試において、その大学を志望した理由やそこで学びたいことなどを伝える提出書類として位置づけられているものだが、私は学部学科、大学研究の一部としてクラス全員に作成、提出を義務づける。

生徒はワークシートを作成した後、原稿用紙800字程度の志望理由書を書く。
そして、生徒が書いた側に保護者からコメントを書いてもらい、その後、何度となく行われる生徒とのキャリアカウンセリングや1学期末の生徒・保護者との三者面談でフル活用したいと考えている。

進路について三者が十分に共通理解をしておくことは、準備をすすめていく上で非常に重要であり、志望理由書がその時の有為な教材となることを期待している。

(2)生徒観
本校は明治38年創立の下関市立下関高等女学校に起源をもち、平成15年に共学となった単位制普通高校である。現在も女子の割合が多く、全校生徒477名のうち383名を女子が占めている。

進路については、生徒の約8割が国公立大学への進学を目指しており、昨年度の全卒業生数に占める国公立大学の合格者数の割合は34%であった。生徒の多くは真面目に学習に取り組む習慣が身についており、落ち着いた雰囲気で授業を行うことができる。

一方、文章の読解力はあるが、自ら考える習慣が不足している生徒が多い。そのため、授業に対する姿勢が受動的になりやすい。そして、間違いを恐れず自らの考えを述べるという積極性に欠けるため、発言時の声が小さくなり、文章表現の能力の高さを十分に発揮できていない。教科においても、因果関係や各事象の本質を理解しようとする姿勢がまだ不十分である。

また、本校はNIE(新聞を教材として活用すること)の実践指定校に認定されている。「新聞記事の優れた活字に触れることで現代社会に対する幅広い興味、関心を高めること」「新聞記事の要約をし、それに対する意見を書くなどして、読解力、論理性、表現力や主体的な学習態度を身につけること」を目的としてさまざまな実践を行っている。

例えば、地理の授業において、興味ある新聞記事を取り上げて要約と感想を述べる3分間スピーチを行っている。また、長期休業中には新聞記事の要約と感想を記述する課題も実施している。生徒はこれらを通じて、情報メディアとしての新聞の必要性、面白さを再認識し、また、読むことで自然と語彙力が身につき、考えを深めることを経験している。

(3)指導観
本校は女子生徒が多く、書くことに抵抗感をもっている生徒は少ないが、自分の言葉で説明することを苦手としている生徒が多い。そこで、志望理由書を活用してカウンセリングする時は、生徒に自分の言葉でしっかりと語らせ志望理由書の背景にある内容を十分に理解することを重視したい。

生徒の能力については自己評価よりも外部評価の方が的確であることが多い。外部評価をより正確に行うためにも生徒自身にしっかりと志望理由書の背景、根拠について語らせ、生徒が自分の言葉を自分の耳で聞くことにより様々なことに気づくように方向づけていきたい。

また、生徒の授業に対する姿勢が受身にならないようにするため、カウンセリングでの発問を十分に実施したい。以上の活動を通して、進学を明確にし、学部・学科研究のモチベーションの向上を図りたいと考える。

3. 授業の展開(50分×3コマ 150分授業)

過程 学習活動 指導上の留意点
導入 ○本字の目標を確認する。 ・説明は手短に行う
展開(1) ○ワークシート、志望理由書作成についての概要説明。  
・志望理由書とは何か説明する。
・教員や保護者との対話を通して進めていくことを確認する。
・金銭面での支援など保護者の協力が不可欠であることを十分に理解させる。
○ワークシートの作成
<記述内容>
・志望動機、志望理由について
・志望する学部・学科が求めている能力や資質、適性について。 ・その学部・学科で学んだことを将来どう生かしたいか、社会にどのように貢献したいかなどの展望について。 ・その進学先で何が学びたいか、何ができるかについて。
志望理由書研究ワークシート(PDF)

・志望動機は大学選びよりも学部学科選びに重点をおかせる。 ・自分の長所と結びつけるとよいのでしっかり自己分析をさせる。 ・自己分析について自分ではよくわからない時はクラスメイトに質問して書くように指示する。
展開(2) ○作成に向けて必要に応じて調べる。調べる必要がない生徒は志望理由書作成にとりかかる。 <調査内容>  
・アドミッションポリシーについて
・学部学科の特徴について
・教育課程、教員の研究内容について
・留学制度について
・サークル活動、ボランティア活動について
・卒業後の進路について
・わからないことは教員など周囲に質問や相談をしながら作成するように指示をする。 ・自分の情熱が伝わるように表現の工夫を促す。
○志望理由書が完成した生徒から進学にかかる費用など進学後の生活面について具体的に調べる。  
・進学にかかる費用について
・生活にかかる費用について
※参考教材
・『逆引き大学辞典』
・『蛍雪時代』
・ベネッセのサイト『マナビジョン』
・パスナビ→資格のとれる大学検索
・進学にかかる費用については情報メディアを活用して具体的に調べさせる。
・情報は重要だが情報に振り回されないように注意喚起する。
まとめ ○志望理由書を家庭に持ち帰り、保護者のコメントをもらうように指示する。
○本時の学習内容を確認する。
・保護者にコメントを書いてもらうだけでなく、対話をすることが重要であることを強調する。

4. 授業を終えて

先日引退したスケーターの高橋大輔選手が記者会見で「これからのことは、しっかり自分と向きあって決めていきたい」と語っていた。まさに、この発言こそがキャリア教育における原点だと思う。

今回の授業も大きな目標としては自分と向きあうように仕向けることであった。実際は生徒の進路学習に対する経験値や、進路や学習に対する意識も個人差があり同じ到達点を目指すのは困難である。しかし、進路の意識が上がり、学習意欲が高まれば、前のめりになりとてつもなく勉強する傾向が本校の生徒にもある。

そして、その瞬間から自分で論理的に物事を考えるようになるし、後はほったらかしにしても自分で勉強をする。いわゆる内発的動機の高まりである。つまり、生徒の学びの心に火をつけてやることが重要で、生徒の心を動かすためには、担任である私を始め、教科担当、進路指導担当との面談や保護者との対話とが大きな鍵となる。

今回も志望理由書が教材として大きな役割を果たしてくれたが、書かせるだけでは不十分であることを理解しなければいけない。繰り返しになるが生徒が語ることを中心に据えた面談が必要だ。私は「なぜか?」「例えば?」「つまり?」に少しコメントを付け加える程度しか話さないように心がけた。ただし、いつでも、何にでも答える準備はしておいた。

生徒は保護者の「協力します」「応援します」「夢が叶うように願っています」など多くの前向きなコメントに力づけられたように思う。この取り組みの結果として、生徒は納得できる進路が決まるまで粘り強く取り組み、例年以上の進路実績をあげることができた。

 

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