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授業構想プラン(1)
「自動車保険」を通して、万が一の場合の備えを重視する心に迫る授業
web.02
(2015.5)
帝京大学教職大学院 澁澤 文隆 教授
 

1.はじめに

本報告は実践しておらず、高校生を対象にして構想した授業プランである。
自動車保険は経済単元の「金融」に関する項目で扱うことを想定した。
金融は、いわば“人のふんどしで相撲を取る”ような面があり、偏見のようなものがあって、今一つその役割や意義についての理解が進んでいないのが実態だ。

特に保険事業は“掛け捨て”の面が気になると、型通りの説明では偏見、誤解されたまま学習が終わってしまうきらいがある。そこで、しっかりとその意義や役割、存在価値を理解させることを狙って授業プランを構想した。
どこまで踏み込めば真の存在価値に触れることができるか、通り一遍の学習では偏見、誤解がつきまとってしまう、こんな課題意識だ。

この学習を通して、火災保険や生命保険などについても、自動車保険の延長線上で理解を促すことができると思う。また、保険だけでなく銀行、証券会社等が存在する意義や役割などに関しても中途半端な理解にとどめないでしっかり踏み込んだ理解をしようなどと呼びかけ、調べたり考えたりする契機にできると思う。

 

2.導入―日本の交通事情と任意自動車保険―

交通事故の死者数は、2011(平成23)年は4,612人であり、過去最悪の1970(昭和45)年の1万6,765人と比べると約3割に減少している。この背景には、自動車の安全面での性能アップやシートベルトの装着義務化などがある。

一方、事故発生件数及び負傷者数は、2011(平成23)年で69万1,937件及び85万4,493人となっており、過去最高の2004(平成16)年の95万2,191件、118万3,120人と比べると約7割の減少となっている。しかし、この数字は毎日、日本のどこかで1,896件の交通事故が発生し、それによって2,341人の負傷者が出ていることを意味している。

これは決して安全・安心な数字ではなく、むしろ日本の交通事情は常に事故の危険と隣り合っている状況にあるといえよう。そして、不幸にして死傷者を伴った交通事故を発生させてしまった場合、賠償金額は数千万円から数億円になる可能性が高いという。これほどの金額になると自賠責保険ではとても賄うことができず、任意の自動車保険に加入しておくことが必須といえる。

しかし、実際の自動車保険加入率(2012年)をみると、必須の対人・対物賠償の保険の加入率は73.1%であり、公道を走っている車の4台のうち1台は事故発生時に賠償金額が不足する可能性が高い車となっている。こうした未加入の車との事故に遭遇してしまうと、被害者は十分な補償が得られず泣き寝入りを余儀なくされることになる。

そして加害者も賠償金の支払いを生涯にわたって背負い続けることになる。なお、自動車保険のうち、オプションのような位置付けになっている搭乗者傷害保険の加入率は45.1%、車両保険の加入率は42.1%となっており、半分に達していない。

このように加入率が不十分な背景には、保険料が負担になるといった経済的な理由がある。その保険料は、運転者の年齢や補償内容等によって異なるが、20代の運転手だと10万円以上となるのが普通である。収入が少ない所有者にとってはかなり負担となる金額である。

自動車保険は等級があり、保険会社によって多少異なるが、基本的に初めて契約する場合は6等級から始まり、無事故ならば1年ごとに1等級ずつ上がり、それに準じて保険料も安くなる。一方、交通事故を起こし保険を使用した場合は事故の大小にかかわらず3等級下がるといった仕組みになっている。
無事故が継続し、20等級に達すると、保険料の割引率は60%になる。

したがって、無事故を継続している人ほど保険料は安くなる一方、免許を取得し新たに車を購入した若い運転手ほど負担は大きくなる。換言すれば、所得が比較的少ない若い時期ほど保険料が高く、家計に保険料が重くのしかかることになっている。

 

3.展開 ―ドライバーの相談に応える―

こうした日本の交通事情や自動車保険について説明した後に次の課題を提示する。

無事故歴14年の38歳の男性ドライバーが自動車保険の更新が迫ってきて悩んでいる。2人の子どもが学校に通い、教育費がかさんできており、奥さんからより一層の節約が求められている。その節約の対象候補に自動車保険が上がっている。無事故歴は継続して14年、この間に自動車保険料として約100万円を支払ってきた。

しかし、自動車保険は基本的に1年単位の掛け捨て保険のため、1円たりとも戻ってこない。15年目の保険料は約5万円(年間)。このため、モッタイナイということで自動車保険を止めるかどうか、悩んでいる。

このように、安全運転に心がけている、無事故歴14年の安全運転の実績十分の優良ドライバーであるが、いざ打ち切ろうとすると、どうしても万が一のことが頭に浮かび、その決断がつかない。でも、我が家の家計上、節約が求められている。そこで、どちらにするべきか、皆さんの意見を聞かせて欲しい、皆さんに相談に乗って欲しいとの要請があった。

こんな場面設定で、(1)あなただったらこの優良ドライバーにどんな視点からどのようなアドバイスをしますか。また、(2)もしあなた自身がこの立場に置かれたら、あなたは継続、打ち切りのどちらを選びますか。

判断のより所、理由をしっかり検討し、(1)に対するあなたのアドバイス、(2)に対するあなたの判断をまとめてください。

以上の問いかけ、課題を提示して、最初に自分なりのアドバイス、判断の内容を理由やより所とともに各自、文にまとめさせる。その上でグループ検討させる。その際、先ず各自がどんな理由、より所の下にどんな結論を出したかに着目しながら相互に報告し合うようにする。

次いで、各メンバーの報告内容を大切にしながらグループとしてのアドバイス、判断をまとめさせる。なお、そのような結論に至った理由やより所に関しては、単純明快さよりも多面的・多角的アプローチを重視し、「継続」「打ち切り」のどちらの判断であろうと5つ以上挙げるよう義務付ける。

なお、この課題については「継続」「打ち切り」のどちらの判断をした生徒が多いかを挙手させたり、どんな理由、より所が挙がったかを黒板に列挙する程度におさめたり(なお、板書は消さないでそのままにしておく。)、いわば中途半端な状態であっても、次の課題を投げ掛ける。

無事故歴の長いベテラン優良ドライバーであってもほとんど迷いなく「継続」しているドライバーもいれば、もうこれだけ無事故歴を重ねたら大丈夫ということで「打ち切り」を選ぶドライバーもいる。
若い新人ドライバーの中にも「加入」「未加入」に迷い、高額だし負担になるが「加入」は必須と判断するドライバーもいる一方で、高額な負担を忌避し「未加入」を選択するドライバーもいる。

なぜベテラン優良ドライバーの人でも判断が異なったり、若い新人ドライバーの中にも判断の違いがみられたりするのか?この違いを生み出すものは何か?
「継続」「打ち切り」「加入」「未加入」の判断の差の背景となっている思い、事情等について類推し、考えてみよう!と投げかける。

その上で、自動車保険に「未加入」のドライバーにみられるドライバーには、大きく2つの傾向性があることを紹介する。1つは、運転技能に自信というよりもむしろ過信、慢心があり、自分は絶対に事故を起こさない、起こさないはずと思い込んでいるタイプの人である。

他の1つは、事故発生をあまり真剣に想定できず、事故を起こしたらその時に考え、対処すればよい、なるようになるさ!といった感じで万が一の場合の用意をせず、むしろ悪い方に考えて備えをするなんて楽しくないし無駄だと思ってしまうような軽率、楽天的なタイプの人である。

そこで、では「継続」「加入」を選ぶ人はどんな人なのだろうか、どんな傾向がみられるのだろうか、と投げかける。
そして、実際には、収入が少なく保険料がかなり負担になっているドライバーでも自動車保険に加入しているし、日頃から安全運転に心がけ長い間無事故歴を誇っているドライバーでも保険加入を継続している人がかなり見られる。だから、収入の多少や運転に自信があるなしではない。この点を踏まえて考えさせる。

頃合いを見て、実はこのタイプのドライバーに共通するのは、『事故の可能性はすべてのドライバーにある。自分も例外ではない。だから万が一の場合に備えて加入するし継続する』という考え方である。

そこでさらに考えて欲しいことは“万が一の場合に備える”、この備えが必要なことは事故発生状況を踏まえれば誰でもわかるだろうが、この備えを軽くとらえたり聞き流してしまったりするドライバーと、それを重視して対応策を具体化するドライバーとがいるのが現実だが、なぜそのような違いが生じるのか、その違いを生み出す背景、心境の差にはどんな思いがあるのだろうかと問い、考えるよう促す。

その上で、“万が一の場合に備える”ことを重視し、実際に保険に「加入」「継続」するかしないかを判断するより所は、大切にしているものがあり、それを“守りたい”“失いたくない”と思っているものがあるかどうか、この違いに依拠していることを紹介する。

・愛する家族がおり、今の家族の生活を守っていきたいと考える人は、万が一の場合に備えがないと生活が破綻することを想定し、それだけは困るし避けたいということから保険に加入し続ける。
・自分の人生を大切にしており、やりたいことや願い、望みがあってそれを実現したり続けていくために鋭意努力している人は、多額の負債を抱えたのではそれが実現できないどころか台無しになることから、それを回避するためには備えが必要ということで加入し続ける。

そうした大切にしているものがあり、それを“守りたい”“失いたくない”と思っている人は、それが自分だけではなく相手にもあることを理解している。
だからもし多額の補償が生じて自分に支払い能力がなかったら、相手の家族、人生にも多大な迷惑をかけるし破綻させてしまうことになる。そうならないようにするためには万が一の場合の備えは必要不可欠と考えて加入し継続する。

 

4.まとめ―継続を選んだ相談者―

改めて板書に着目させて、最初の課題に立ち返る。そして、この無事故歴14年のドライバーは自動車保険を継続したか、打ち切ったか、実際にはどっちを選択しただろうか?と問い掛ける。
ちょっと間をおいてから、相談者の優良ドライバーは、一時的には迷ったり悩んだりはしたが、結果的には当然のごとく「継続」の方を選んだことを知らせる。

その理由は、言うまでもなく愛する子ども、愛する家族がおり、今の生活を大切に守りたいと思ったからである。
5万円という金額は貴重ではあるが、万が一の場合を想定すると、それよりも愛する家族と今の生活を守り育てたい!その保障費であり、安心して安全運転に心がけることができるのならば決して高くない。5万円の捻出は居酒屋に行く機会を減らして家で飲むなどのやりくりをして切り詰めれば何とかなると判断したからである。

そこで、改めて黒板に書かれている意見、理由に着目させ、これらをいわば“愛の心”“大切にしているもの”“守りたいもの”“失いたくないもの”といったフィルターをかけて、見直すよう促す。

そして、こうした点を踏まえると、若いドライバーに自動車保険未加入者が目立つことや、逆に就職、結婚、我が子の誕生などといった人生の節目に保険の見直しを図ったりする営みも頷けることを指摘する。

 

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