現在、政府により「働き方改革」が進められ、新聞を開けば、連日のように雇用労働についての記事を目にします。安倍首相が自ら議長となった「働き方改革実現会議」で打ち出されている改革案は、「同一労働同一賃金」や「労働時間制度」など多岐にわたっています。これらの雇用改革は私たちの生活にどのような変化と影響をもたらすのでしょうか。

一方で、ブラック企業による若者の使い捨て、非正規雇用の増加、過労死自殺など働く人の現場においては、多くの労働に関する問題が起きています。「働き方改革」ではこうした課題に対し、どのような議論をしているのでしょうか。

そこで、今回から3回にわたって、「働き方改革」についてのこれまでの経緯と中心となる内容について取り上げ、今後の働き方の変化に、私たちはどのように向きあっていけばよいのかを一緒に考えていきたいと思います。

「働き方改革」の背景と経緯

1 .労働人口の減少

政府の人口推計によると(i)、少子高齢化の進行に伴い、人口は今後減少していくとされています。経済・労働環境を考える上で問題となるのは、働き手となる生産年齢人口(15〜64歳人口)が少なくなってきていることです。2010年には生産労働人口約2.8人で高齢者1人を扶養する計算でしたが、2030年には約1.8人で1人を扶養することになると予測されています。つまり、年々、高齢者を支える現役世代の割合が減っていくことになります。こうした人口減少の影響は、高齢期を支える年金等社会保障のあり方に大きく関連しています。

また、働き手の減少は、GDP(国内総生産)の低下につながります。企業に及ぼす影響として、ヒト(=労働力)は、貴重な資源であり、競争力の源泉です。しかしながら昨今は売り手市場の採用難で、人材の獲得競争は、激しくなっていると、どの企業さんもおっしゃいます。

2 .多様な働き方の実現

 「子育て世代や若者も、そして高齢者も、女性も男性も、難病や障害のある方々も、誰もが活躍できる環境づくりを進めるためには、働き方改革の実行が不可欠」とは、一億総活躍国民会議(ii)における安倍首相の発言です。多様な人材の活用=ダイバシティマネジメントとは、性別や人種、国籍などの違いに関わらず優秀な人材を活用しようとする企業戦略で、グローバル化により、こうした新たな取り組みが奨励されていますが、労働力の確保のために、政府としても女性、高齢者、外国人などの多様な人材の活用を、促進すべきであると考えられるようになりました。

ところで、「働き方改革実現会議」では、一人一人の多様な働き方の実現のためには、従来からの日本の雇用慣行である男性正社員を中心とする働き方の特徴、つまり長期雇用保障のもとでの配置転換、出向や長時間残業にみられる滅私奉公的な働き方を全面的に修正する必要があると議論されています。

たとえば、長時間労働は、仕事と子育てなどの家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因や女性の活躍を阻む原因になっているといわれています。誰もが安心して子を産み、育て働き続ける、介護や病気になっても仕事と家庭を両立(ワーク・ライフ・バランス)させることのできる働き方の実現が求められているわけです。そのためにルールを見直しましょう、ということです。

働き方改革実現会議の「9つのテーマ」

働き方改革実現会議では、どのようなことが議論されているのでしょうか。
平成 28 年9月 27 日の第一回会合において、以下の9つのテーマが掲げられました。
 ‘碓賚働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
◆…其皸上げと労働生産性の向上
 罰則付き時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正
ぁ仝柩儺杣力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成
ァ.謄譽錙璽、副業・兼業といった柔軟な働き方
Α‘き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備
А々睥霄圓僚業促進
─”袖い亮N邸∋勸蕕董介護と仕事の両立
 外国人労働者受け入れ

働き方改革実現会議

日時 議事内容
第1回 平成28年9月27日 有識者議員等からの発言 内閣総理大臣挨拶
第2回 平成28年10月24日 柔軟な働き方(テレワーク、多様な就業形態、副業等)の在り方、多様な選考・採用機会の提供、病気治療と仕事の両立、障害者の就業環境整備の在り方、働き方に中立的な社会保障制度・税制の在り方、女性が活躍しやすい環境整備(リーダー育成など)
第3回 平成28年11月16日 雇用吸収力・生産性の高い産業への転職・再就職支援の在り方
格差を固定化させない教育(社会人学び直し、職業訓練、給付型奨学金の在り方)の在り方
労働者の人材育成の充実の在り方
春季労使交渉に向けた賃金引上げの方向性
第4回 平成28年11月29日 同一労働同一賃金などの非正規雇用の処遇改善
第5回 平成28年12月20日 同一労働同一賃金 政府のガイドライン案の提示
第6回 平成29年2月1日 同一労働同一賃金、長時間労働是正
第7回 平成29年2月14日 長時間労働是正、高齢者雇用
第8回 平成29年2月22日 これまでに取り上げていないテーマなど全般
第9回 平成29年3月17日 働き方改革実行計画について
第10回 平成29年3月28日 働き方改革実行計画について

上記項目のうち、 崙碓賚働同一賃金」(非正規雇用の処遇改善)と「長時間労働の是正」の法整備が、ほぼ議論の中心となっています。,砲弔い討蓮∈鯒12月20日に「同一労働同一賃金ガイドライン案」が示され、改正法案についての国会審議を踏まえて確定し、改正法が施行されることとなっています。それ以外の主要項目についても、3月に『働き方改革実行計画』がまとめられました。

以上のように「働き方改革」は、社会の人口動態の変化への対応など経済経営の面から必要であったことがわかります。

では、はたして「働き方改革」は、働く人の視点に立った内容なのでしょうか。次回は、私たちにとって最も大切な労働条件の改革となる労働時間改革や同一労働同一賃金の考え方について、一緒にみていきたいと思います。

(i) 平成72年(2060年)には総人口が9000万人を割り込み、高齢化率は40%近い水準になると推計されている。(総務省 平成26年度「人口推計」)
(ii) 平成28年2月23日 第5回一億総活躍国民会議

プロフィール

小野 純

益田 淳子(ますだ じゅんこ)

特定社会保険労務士、行政書士、キャリアコンサルタント、ファイナンシャル・プランナー(CFP/1級ファイナンシャルプランニング技能士)。
Jマス行政書士事務所代表。
明治大学大学院経営学研究科修士(経営学)、法学研究科修士(法学)。専門は労使関係論・労働市場法。
専門学校講師を経て、人材ビジネス会社にて教育研修事業の企画運営、キャリア関連研修事業、官公庁就労支援事業に従事。
企業顧問として人材育成、組織再編、労務監査、賃金評価制度設計に関わる人事サポート相談、コンサルティング業務対応。
上記のほか労働関連の講演(労務管理、法改正、キャリア・ライフプラン等)のセミナー講師活動も展開。

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