「働き方改革」に関する連載も今回で最終回となりました。「働き方改革」では、正規/非正規労働の均等待遇をめざす賃金原則として、「同一労働同一賃金」の実現を唱えています。今回は、「働き方改革」の重要な柱である「同一労働同一賃金」を中心に、確認してみましょう。

「同一労働同一賃金の実現」で非正規雇用者の処遇改善

政府の「働き方改革実現会議」にて決定された「働き方改革実行計画」では、労働生産性の向上を阻む問題の解決策として、正規/非正規(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者等)という2つの働き方の不合理な処遇の差、つまり雇用形態による理由なき格差を埋めていくことが必要であると強調されています。非正規労働は、低賃金による貧困と格差社会を生み出し、ワーキングプアと少子化の原因ともなっている最重要の社会問題です。

現在、日本の非正規雇用者は、全雇用者の約4割を占めています。特に女性は、出産、子育てなどライフイベントの事情から、非正規全体に占める女性の割合はどの年齢でも高くなっています※1。下のグラフは、2016年(平成28年)の男性と女性及び、正規と非正規労働の賃金の比較を表しています。

◆男性/女性、正規/非正規  賃金比較(単位:千円)

年齢とともに賃金が高まる「右肩上がり」の男性正社員と女性正社員との差、さらに正社員以外(非正規)の低い賃金額とカーブの格差は歴然としています。正社員は勤続年数が伸びると平均賃金が上がりますが、それ以外の労働者は平均賃金が上がらず、正社員とそれ以外の賃金差は勤続年数が伸びるに従い拡大していきます。特に、非正規労働の大半を占める女性非正規の賃金は非常に低く、年齢にかかわりなくフラットです。

また、フルタイム労働者に対するパートタイム労働者の賃金水準をみると、日本は6割弱と、諸外国と比較して大きな格差があります。これは賃金の決め方・基準が異なっていることが理由です。

◆諸外国のフルタイム労働者とパートタイム労働者の賃金水準

※1 厚生労働省 「平成27年国民生活基礎調査の概況」

『非正規』という言葉を一掃する

安倍首相は、2016年1月22日「一億総活躍社会」の実現に向けた施政方針演説にて、突如「同一労働同一賃金」の実現を表明し、雇用者の4割近くを占める非正規労働の賃金が低いことは経済にマイナス効果を及ぼしているため賃金格差の是正を目指すという姿勢を強調しました。

さらに、2016年6月2日に閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」においては、「非正規という言葉をなくす決意で挑む」と宣言しました。均等待遇原則を確立するために、労働契約法、パートタイム労働法及び労働者派遣法の一括法改正等をすると述べました。本来であれば、賃金をどのように、いくら支払うのかということは、原則、各企業・労使に委ねられた問題ですが、「同一労働同一賃金の実現」という国際基準への移行は政策手段として掲げられたのです。

「同一労働同一賃金」の原則とは

「同一労働同一賃金」の原則とは、「職務が同一なら同一の賃金額を支払う」という賃金原則※2です。「職務」とは、労働者の働く内容のことです。国際基準では「同一価値労働同一賃金」と表現され、ILO第100号条約(1951年)として国際的に明確にされています。「価値」とは、職務の内容を評価した結果のことで、この考え方は、女性が多い職務の低賃金を是正するためのものです※3。つまり「同一労働同一賃金」とは、「同一価値労働同一賃金」の一部とされます※4 。

「同一価値労働同一賃金」を実現している欧州の賃金は、従事する仕事の種類や難易度を基準にして決める職務給(仕事給)です。職務給とは、よく椅子に喩えられます。そこに座る人が、男性か女性か、年齢がどうか、フルタイムかパートタイムかなど属性は問われません。つまり、「同一価値労働同一賃金」の「労働」にあたるものが椅子ということになります。同じ椅子に座っているのに、賃金が違えば、差別となります。

※2 1970年以降、男女間の賃金差別是正の原理として着目されてきた。
※3 遠藤公嗣「同一<価値>労働同一賃金とは何か」 世界, 235-245頁 , 2015
※4 遠藤公嗣「社会経済からみた「同一(価値)労働同一賃金」と法律家の言説」季刊・労働者の権利 (315号), 32-41頁, 2016

日本の賃金

これに対し、日本の賃金制度を規定してきたのは、年齢・勤続年数を基本的な基準とする年功給と年功的な職能給です。この賃金の特色は、年齢や家族構成の変化に応じ生活に必要な収入を確保するという側面を持ちつつも、年齢や男女の差別があります。さらに賃金は企業ごとに決められ、賃金体系も各企業によってさまざまです。

「日本の年功賃金や職能給は、同一価値労働差別賃金を原則としているといってよいだろう。」※5 という評価のとおり、日本においては、同じ仕事をしているのに「正社員だから高く、パートは家計補助だから低い」とか、定年前の仕事と全く変わらない働き方をしているのに「再雇用や嘱託だから、賃金は半分」というような雇用身分間の賃金差別が存在しているのです。

「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」では、日本の賃金形態が欧州のように職務基準ではないことから、「日本にはなじまない」という意見がありました。日本の実態に見合った各企業の賃金体系に即した賃金のあり方は、労使協議と両者の合意により成し遂げられるべき課題であり、法的強制を行うべきではないという議論がなされました。確かに、それぞれの企業・労使で効率性や生産性を高めることができる賃金制度を検討・協議し、それを正規雇用者にも非正規雇用者にもきちんと説明していくことが重要なポイントでしょう。

※5 猿田正機『日本的労使関係と「福祉国家」』税務経理協会,336頁,2013

政府の同一労働同一賃金ガイドライン案

2016年12月20日「働き方改革実現会議」では、「同一労働同一賃金ガイドライン案」を発表しました。
中心となる内容は、同一企業内の雇用形態による、基本給や賞与、手当、教育訓練、そして食堂や休憩室の利用等福利厚生の待遇差に関するルールと、待遇差が「問題となる例」「問題とならない例」が具体的に列挙されています。

大きな特徴は、同一企業内に限った待遇差の是正を目指しているところです。もし他の企業に転職すれば、同じ仕事でも賃金水準が変わることになります。このようにガイドライン案は、企業の枠を越えて横断的に決まっている欧州の「同一(価値)労働同一賃金」の原則とは大いに異なるものとなります。しかし、現段階ではあくまで「案」であり、「法改正の立法作業を進め※6 、本ガイドライン案については、関係者の意見や改正法案についての国会審議を踏まえて、最終的に確定する」とされています。

※6 働き方改革実行計画のロードマップ(平成29年3月28日 働き方改革実現会議決定)では、2018年度以降に施行準備・改正法の施行が予定されている。(2017/5/29現在)

一億総労働参加と生産性

さて、「働き方改革」の目的とは何か、ということに戻ってみましょう。経済成長を目的とする「働き方改革実行計画」は、多様で柔軟な働き方を選択できる社会の実現と「生産性」の向上を冒頭に掲げています。少子高齢化により労働人口が減少する中、一億総活躍社会というスローガンから想定されるのは、女性も、高齢者も、障害のある方も、外国人の方も労働参加をすれば、労働力人口は増加し、少子化という課題を克服できるという狙いです。

そして、働き方改革・一億総活躍社会の重要なキーワードである「生産性」を高めるとは、より少ない労働力のインプットから、より多いアウトプットを得ることです。つまり、仕事の時間を短くして同じ成果をあげられるような働き方の変化を意味します。たとえば、無駄な会議や長時間残業を排除することで、これまで10時間かけていた仕事が8時間で終われば、企業は、残業代を払う必要はなく、「生産性」は向上します。AI技術やIoTにより第4次産業革命が進み、これまで8時間かかっていた仕事が、半分以下の時間で済むということになれば、さらに「生産性」は高まるといえるでしょう。

さいごに

現在(2017年5月)厚生労働省労働政策審議会にて、時間外労働の上限規制、同一労働同一賃金の法改正への検討が進んでいます。すでに、性別・年齢・雇用形態に関係なく、同一労働同一賃金の導入実現に向けた取り組みを行っている会社もあります。「同一(価値)労働同一賃金」は、職務内容を評価して賃金を決めますが、日本のビジネス界で実際に実施されている職務分析の事例報告もなされています※7 。

「働き方改革実行計画」では、長時間労働の是正と同一労働同一賃金の実現を含めて、全体で9つの分野の項目があり、テレワーク、副業・兼業、転職、人材育成等の項目が示されています。それらの項目には「ワークライフバランスを確保して」「柔軟な働き方がしやすい環境整備」「時間・場所・契約にとらわれない、柔軟な働き方」など、働き方について労働者にメリットがありそうな言葉が並んでいます。しかし、労働者にしてみると「生産性」向上によりこれまでの仕事が半分になってしまったら、収入も半分になり、会社からの収入で生計をたてていくことが困難になることが懸念されます。別の仕事もしたり(副業・兼業)、フルタイムが確保できる仕事に転職するなど、働き方を変えていく必要があるでしょう。関連して、インターネット仲介によるクラウドソーシングなどの「雇用契約によらない働き方」による仕事の機会も増えていますが、こうした新しい働き方は、労働法上の労働者性が認められないため、労災等の労働者保護に関する保障がなく、収入も安定しません。新しい働き方として「企業と個人の関係」が「相互に自律的なパートナーシップ」に変化していくというモデルが示されていますが、すべての人が企業と対等な立場で話し合いや交渉ができるほど強い労働者というわけではありません。働く市場の公正なルールが整備されるよう、今後も注目が必要です。

※7 遠藤公嗣「小特集に寄せて・同一価値労働同一賃金研究の新地平」社会政策学会誌『社会政策』9(1号), 77-79頁, 2017。大澤卓子「職務分析の実際と「同一価値労働同一賃金」職務評価の試み」『社会政策』9(1号)

プロフィール

小野 純

益田 淳子(ますだ じゅんこ)

特定社会保険労務士、行政書士、キャリアコンサルタント、ファイナンシャル・プランナー(CFP/1級ファイナンシャルプランニング技能士)。
Jマス行政書士事務所代表。
明治大学大学院経営学研究科修士(経営学)、法学研究科修士(法学)。専門は労使関係論・労働市場法。
専門学校講師を経て、人材ビジネス会社にて教育研修事業の企画運営、キャリア関連研修事業、官公庁就労支援事業に従事。
企業顧問として人材育成、組織再編、労務監査、賃金評価制度設計に関わる人事サポート相談、コンサルティング業務対応。
上記のほか労働関連の講演(労務管理、法改正、キャリア・ライフプラン等)のセミナー講師活動も展開。

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