#消費生活相談

第3回:クーリング・オフ神話に
気をつけて

消費生活相談の現場から

公益社団法人
全国消費生活相談員協会
山本 加代子

「クーリング・オフできますか」ここから始まる相談は、きゅっと心が引き締まります。

クーリング・オフは、訪問販売や電話勧誘販売など不意打ち的な勧誘に対して冷静になって考える期間を定めています。販売方法によりますが契約書を受け取った日から8日以内であれば、無条件で契約を解除し、払ったお金も返してもらうことができます。事業者に比べ情報力や交渉力のない消費者を守ってくれるバリアーのような役目を果たしてくれます。しかし、どんなときでもクーリング・オフができるわけではありません。

ある日20歳を過ぎたばかりの女性から「クーリング・オフの方法を教えてください」と相談がありました。

マッチングサイトで出会った男性から「簡単にお金を増やす方法がある」と誘われ、喫茶店で投資情報が入ったUSBを100万円で買ったというのです。お金は消費者金融で借金をして払っていました。契約書は「親に知られたら大変だから預かるよ」と男性に言われ渡したと言います。

相談があったのは契約してから3日目。わかっているのは男性のLINE・IDだけでした。もちろんクーリング・オフはできます。しかし契約先がわからないうえに、男性と連絡も取れなかったため解決することができませんでした。

女性に「なぜ契約したの」と聴くと、「断ったら男性に悪いし、あとでクーリング・オフをすれば大丈夫だと思った・・・」と言って泣いていました。とても素直で礼儀正しい女性でした。

またあるとき60代の男性から強い口調で「クーリング・オフしたい」と電話がありました。こんなときは頭の中で赤信号がバッとつきます。

男性はテレビショッピングでゴルフシューズを購入しましたが、サイズがあわないため返品したいと通販会社に伝えました。しかし「電話でご注文を受ける前に返品ができないことを伝えています」と言われ、断られたそうです。

男性は「返品できなくても、クーリング・オフができるだろう」と相談してきました。

通信販売は突然勧誘されるのとは違い、自分でよく考えてから商品を購入することができるためクーリング・オフの適用がありません。

男性にそのことを伝えると「どんな商品か見なければわからないのに返品できないのはおかしい。どうにかしろ」と、怒りの矛先がこちらに向いてしまいました。

いつの日だったか80代の母親と離れて暮らす娘さんから「契約した日からずいぶん経っているようなのでクーリング・オフは無理ですよね」と、切ない声で相談がありました。

認知力が衰えた母親の家に「水道水の点検です」と尋ねてきた業者が「この水を飲むとガンになるから浄水器をつけたほうがいい」と言ったそうです。不安になった母親は業者から30万円の浄水器を買っていました。他にも久しぶりに訪ねた母親の家には、新しい布団や大量の健康食品が置いてあったそうです。こんな相談を受けたときはまず契約書を確認します。なぜなら・・・

クーリング・オフ期間は、法律で定められた内容が記載された契約書を受け取った日から始まります。そのため契約書を受け取っていない場合や必要な内容が記載されていない場合などは、契約日から8日以上経っていてもクーリング・オフができることがあるからです。

ときにクーリング・オフは被害にあった消費者のために絶大な効果を発揮してくれます。しかしクーリング・オフでは解決できないトラブルの方がずっと多いのです。

消費者トラブルに対して効果的なもの。それは、おかしいなと思ったらやめる勇気を持ち、困ったときはすぐに相談する。そんなアナログ的な思考を大事にすることではないでしょうか。

プロフィール

石田 緑

山本 加代子(やまもと かよこ)

公益社団法人 全国消費生活相談員協会
消費生活相談員

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