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中学校社会科公民的分野
「家計のシミュレーションゲームと模擬商談」
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(2007.6)
東京都目黒区立目黒中央中学校 三枝 利多先生
1.実施学年 実施学年・教科等
中学校第3学年 公民的分野 私たちの生活と経済(前半・家計)
2.ねらい 単元の目標
(1) 学習指導要領公民的分野における大項目(2)の中項目ア「私たちの生活と経済」の趣旨を生かしながら、経済で学ぶ大きな3つの内容である「家計」「企業」「財政」の導入単元として位置づけた。
(2) 導入単元として工夫することにより、その後の「企業」と「財政」の学習をより効果的にするねらいがある。
(3) 経済学習全体の導入単元として位置づけた単元であることから、生徒の興味・関心を高めるような学習活動の工夫が必要となり、家計のシミュレーションゲームを授業展開に取り入れることとした。実際に営む家計はそれほど単純なものではないが、家計のシミュレーションゲームを通して生徒自身が家計を擬似体験することによって、生徒自身が家計を自分に引きつけて感じたり、考えたりすることができると考えた。さらに、これによって、難しいと考えがちな経済の授業を、より身近で具体的・現実的な学習としてとらえることができると考えた。
(4) この家計のシミュレーションゲームを通して生徒自身が抱く様々な疑問や課題意識を出発点として、生徒自身の今後の経済学習への取り組みが、より主体的・意欲的になることを期待した。
(5) 家計のシミュレーションゲームを通して培われた生徒の疑問や課題意識をさらに高められるようにしていくため、実際の企業の方との模擬商談を授業にとり入れることとした。模擬商談という活動を通して、家計のシミュレーションゲーム以上に、価格によって消費行動が影響を受けることを実感させることによって、価格のはたらきを理解させることができる、ものやサービスの需要を生み出す家計や政府の関係など、これからの経済学習へ見方・考え方を広げることができると考えた。
(6) 家計のシミュレーションゲームと実際の企業の方との模擬商談を通して、経済の導入単元でもある「家計」の学習において、希少性と選択といった経済の基本的な考え方を、実感的につかませることによって、以後の「企業」や「財政」の学習において、繰り返し同様な判断の場面を設定し、経済主体がかわっても経済の基本的な考え方はかわらないということに、気付かせることができると考えた。
3.目標 学習の評価
(1) 経済の学習の導入として、生徒の関心・意欲を高める
(2) 身近な消費生活を通して経済活動の意義を理解する
(3) 消費生活などの経済活動が、様々な条件の中で価格を考慮しつつ、選択を通じて行われることに気づく
(4) 家計のシミュレーションゲームや模擬商談を通して、経済活動への様々な見方・考え方を広げることができるようにする。また、社会の中でお金が果たしている役割に気づき、お金の生かし方に対して関心を高める
4.単元の指導計画 1 単元の指導計画
学習課題 学習内容 学習活動
1 ○家計に関する基本的事項をつかもう
(課題設定の準備)
○一般に、家計は経済活動の小さな単位であり、収入と支出によって成り立っている。
○各支出項目の内訳は、それぞれの家庭の家族構成や状況により、様々である。
○家計のシミュレーションゲームを通じた授業展開の見通しについて、教師の説明を聞く。
○主にワークシートの作業を通じて、家計の基本的な事項を学ぶ。
2 ○家計のシミュレーションゲームの準備をしよう
(課題の設定)
○各支出項目の内訳は、それぞれの家庭の家族構成や状況によって決まっていくことを、具体的な条件で選択し決定していく過程の中で認識する。 ○個人で各支出項目の設定を行った後に、グループごとに個人が意見を出し合って話し合い、グループごとに各支出項目の条件を決定していく。
3 ○家計のシミュレーションゲームをしよう
(課題の追究)
○家計の具体的な条件の中でシミュレーションゲームを行うことを通して、経済活動が選択を通じて行われていることに気付く。 ○家計のシミュレーションゲームの進め方について、教師の説明を聞く。
○各グループが決めた条件で、家計のシミュレーションゲームを行う。
4~5 ○家計の見直しをしよう
(課題の追究)
○家計の支出項目を調査しよう
(課題の追究)
○ゲーム後の家計の見直しを通して、経済活動は人間が生活していく手段であり、家計の設計など経済的な選択は自己責任を伴うことを理解する。
○住宅や自動車の購入プランを、場所や種類による価格の違い等を調査することを通して考える。
○家計のシミュレーションゲームの結果について考察し、家計の見直しを行う。
○グループごとに住宅と自動車を選択し、資料を通して調査を行い、購入プランについて話し合い、模擬商談に備える。
※模擬商談の際に、折衝したい内容や質問したい内容も整理しておく。
6 ○経済活動の原則に気付こう
(課題の追究)
○家計の具体的な条件の中で模擬商談を行うことを通して、経済活動が所得や時間、場所などの限られた条件の下で、価格を考慮しつつ選択を通じて行われていることを認識する。 ○住宅と自動車の模擬商談の進め方について、教師の説明を聞く。
○グループごとに住宅と自動車の購入プランについて、実際に企業の営業の方と模擬商談を行う。
※模擬商談の際に生まれた疑問点なども、積極的に質疑応答する。
7 ○経済活動の原則を知ろう   
(課題のまとめ)
○経済活動が、一般的に個人や社会が必要とする商品やサービスを生産し、これらを消費することで生活を成り立たせている人間の活動であり、経済活動の意義とは、人間の生活の維持・向上にあり、経済は生活の手段にほかならないことを認識する。 ○模擬商談でわかったことを、グループごとに話し合ってまとめる。
○グループごとに、模擬商談の内容や模擬商談を通してわかったことについて発表し合う。
○家計のシミュレーションゲームと模擬商談を通して、経済活動の原則について、自己の考えをまとめる。
5.指導展開と指導の実際 2 指導展開と指導の実際
【 第1時 】
目標と学習内容 学習活動・形態 支援と留意点
☆単元の流れをつかむ。
○単元の学習の見通しをたてる
☆家計の概念を認識する。
○家計に関する基本的事項
○教師からこの単元の学習のねらいと進め方について聞く(一斉学習・講義)
○家計についての基本的事項を確認する。
(個別学習・作業、一斉学習・講義)
○学習の目当てがたてられるように、わかりやすく説明する。
○ワークシートを使って、能率良く基本的事項を押さえさせるようにする。
《 結果と考察 》1時
生涯にかかるお金の総額を想像させる導入作業から、家計の収入と支出、消費支出の項目など、教科書と使用している資料集の範囲で考えられるような内容を、ワークシート使って整理させ、講義を 加えて、家計についての基本的事項を確認させた。 1時間の範囲で基本的事項を押さえさせながら、生徒が、次時以降で作業的な学習活動や体験的な学習活動を通して学んでいく内容に踏み込み過ぎないように、教え込み過ぎないように注意した。
【 第2時 】
目標と学習内容 学習活動・形態 支援と留意点
☆話し合いによる、条件の選択・決定の過程を通して、シミュレーションゲームへの関心を高め、各自の参加意欲を高める。
☆話し合いによる、条件の選択・決定の過程を通して、経済活動の一つである消費活動が、様々な条件の中での選択を通じて行われることに気付く。
○シミュレーションゲームの準備
○自分たちが将来独立して家計を営むこと を想定した、シミュレーションを以下の条 件で行えるように、個人で条件を想定した 後、各グループごとに話し合って、条件を 決定していく。
☆条件
・家族構成は父、母、長男(中2)、長女 (小2)
・年収で840万円(5年間の平均・ボ ーナスも含む)年収の合計を12で均等に割り、月の収入は70万円
☆項目例
・住居費
Aコース:一戸建て
月のローン返済は20万円
Bコース:マンション
月のローン返済は12万円
Cコース:賃貸
月の家賃は8万円
・税金等:すべて月12万円
・預貯金:自由に設定できる。但し月の収入の総額を超えない
・その他:自由に設定できる。但し月の収入の総額を超えない
など
○各グループが決めた家計の支出の条件をワークシートに記入する。
○各グループが決めた条件で、5年間生活をすすめ、ワークシートに記入する。
(グループ学習・話し合い)
○グループでの条件決定をする際に、他者との違いに気付 くために、個人で条件を設定する際に自分の意思をはっきりさせておく
条件決定に向けて、グループごとの疑問点について、アドバイスを加える。但し、必要以上に説明を加えないように注意する。
○ワークシート(次時のシミュレーションゲームにおいても使用する家計簿)を使う。
《 結果と考察 》2時
第3時の「結果と考察」を参照。
*A・B・Cのコースから選択する消費支出の項目は、Aコースはお金を多くかけるコース(例えば、住居費では一戸建てを選択した場合など)、Bコースは中間的なコース、Cコースは節約したいコースという内容として設定させた。
【 第3時 】
目標と学習内容 学習活動・形態 支援と留意点
☆シミュレーションゲームの過程を通して、経済活動の一つである消費活動が、様々な条件の中での選択を通じて行われることに着目させる。
○シミュレーションゲームの実施
○家計のシミュレーションゲームの進め方について、教師から説明を受ける。
(一斉学習・講義)
○各グループが決めた条件で、家計の支出のシミュレーションゲームを行う。
(グループ学習・作業、話し合い)
○その際、起こりうる項目を教師が考えて用意しておく。
項目例
・外壁の塗り替えで200万円支払う。(住居費Aコース)
・水回りの修理をして、60万円支払う。(住居費Bコース)
・賃貸の更新契約があり、16万円支払う。(住居費Cコース)
など
《 結果と考察 》
[ 実際の生徒(グループ)の選択例 ]
{ 設計した家計 }
○住居費 Aコース:一戸建て 月のローン返済20万円
○食費 Bコース:月15万円
○衣料費 Bコース:月2万円
○水道・光熱費 Cコース:月1万円
○交通・通信費 Cコース:月2万円
○教育費 Bコース:月4万円
○教養・娯楽費 Cコース:月2万円
○自動車 Bコース:保有 月のローン返済2万円
○税金等 一律12万円
○保険 ・生命保険 月2万円
・自動車保険 月1万円
○預貯金 月2万円
○小遣い等 月4万円
○ペット等 月1万円
*合計 月70万円

{ シミュレーションゲームの結果 }
< シミュレーションゲーム開始時の預貯金 >
120万円(設計した家計の毎月の預貯金×5年間分)
< シミュレーションゲームでの進行上の支出 >
○住居費: 275万円(外壁の塗り替え等)
○食費 5万円(お祝い等)
○衣料費 5万円(お祝い等)
○水道・光熱費 1万円(猛暑の結果)
○教育費 170万円(兄の大学入試等)
○教養・娯楽費 10万円(国内旅行)
○自動車 120万円(新車に買い換え費用の一部)
< シミュレーションゲームでの進行上の収入 >
○税金等 22万円(減税等)
○預貯金 120万円(設計した家計の毎月の預貯金×5年間分)
< シミュレーションゲーム終了時の家計の収支 >
*−324万円
*住居で一戸建てを選択しながら、預貯金が少ないグループや、他の消費支出項目についてもAコースやBコース(比較的多くのお金をかけるコース)を選択しているグループは、5年間のシミュレーションゲーム終了時の家計の収支が赤字になったケースが多い。シミュレーションゲームを通して、住居や自動車は購入した後も維持費等がかかることや、家計においては臨時の出費も多いことなどに多くの生徒が気付くことができたと感じた。
【 第4時~第5時 】
目標と学習内容 学習活動・形態 支援と留意点
☆選択の妥当性について検討する。
○家計の見直し
○前時のシミュレーションゲームの結果から、自分たちが決めた条件について、家計の見直しを行い、良かった点や改善点を見つける。
(グループ学習・話し合い)
○家計成立させるために大切なことを考える。
(個別学習・作業)
○グループごとの家計の見直しを支援する。その際、シミュレーションゲームの家計簿などを使って、ゲームを振り返らせながら、考えさせる。
☆経済活動の意義と役割を一部理解する。
○経済活動の意義と問題
○ワークシートを活用して、経済活動がさまざな条件の中で行われていることに気付く。
(個別学習・作業)
○シミュレーションゲームを通して、家計に大きな影響を与えた住宅と自動車について、発展的に追究するため、項目と条件を選択し合う。
(グループ学習・話し合い)
○ワークシートの資料について、説明しておく。
☆選択の規準の一つとなる価格について考える
○現実の家計の支出項目の調査
○グループごとに自分たちが選択した項目と条件について、事前調査を行う。
(講師の先生と模擬商談を実施するための準備を行う。)
☆項目と条件の例
・住宅を購入(維持)するためには
A 一戸建て(6000万円)
B 新築マンション(4000万円)
C 賃貸(3LDK~4LDK)
・自動車を購入(維持)するためには
A 大型車(350万円~500万円)
B 普通車(200万円以内)
C 保有しない
☆講師(模擬商談相手)例
・住宅メーカーの営業担当の方
・自動車販売会社の営業担当の方
○この時間の前までに、テーマについて調査するための資料を一部(チラシ等)集めておく。できれば、講師の先生から資料の支援を受けたい。
○模擬商談の準備となる事前調査に対する支援を行う。
*資料提示・仕様の説明(条件:南向きリビングなど)
*消費者が条件を提示して、業者がそれに合う物件を紹介するのか。
*家族構成によって間取りをどうするか。
*ワゴンにするかスポーツカーにするか。
など
《 結果と考察 》 第4時~第5時
*ここでは第4時のワークシートの記述から、「授業への興味・関心・意欲」と「経済における選択の重要性に気付く」という観点についてあるクラスの生徒の様子を分析した結果を示す。
{ 評価の規準 }
〈 興味・関心・意欲に関する規準 〉
A…シュミレーションをやっておもしろかったなどという意見をはっきり書いている。もしくは、自分の生活に引きつけて意見を書いている。
B…学習に対して関心を持っていることがわかる。
C…学習に関して関心が見られない。
〈 選択の重要性に関する規準 〉
A…記述から選択について理解していることがわかる。
C…選択のことが書かれていない。
《あるクラスの例》
興味・関心・意欲 A…17名(男子8 女子9)
興味・関心・意欲 B…6名(男子6)
興味・関心・意欲 C…0名
選択の重要性 A…19名(男子11 女子8)
選択の重要性 C…4名(男子 3 女子1)
《ある生徒の例》
〔 生徒のワークシート例より  〕
Aさん
「家計については、自分と全く関係ないと思っていたので、家計のシミュレーションゲームをして、自分がどれだけ家計に関係しているか、よくわかることができたと思いました。経済には全く興味なかったけれど、これからは日本を支えていく側になるので、この授業をきっかけにもっといろいろなことを勉強して社会に役立てていきたいと、とても思いました。」
Bくん
「今回のシミュレーションゲームをやって、家計に対してのリアルな感覚をとても感じた。一戸建てなら、火災保険に入っていなければ大きなお金を払わなきゃならなかったり、自動車を買うなら、自動車保険に入っていないと、また大きなお金を失ってしまうことがある。」
*これらのワークシートの例ような記述が多く見られ、この学習に生徒は興味・関心を持ち、意欲的に学習に取り組んでいたことがわかった。特に、この授業をきっかけに勉強して社会に役立てていきたいというAさんのような生徒がいたことから、経済学習全体の導入単元として、このような学習活動が適切であったということがわかった。また、「経済における選択の重要性」、「可処分所得の限界性」に気付いた生徒も多く見られた。家計のシミュレーションゲームを経験したことにより、生徒一人一人が自らの生活に照らし合わせながら、経済活動における「選択の重要性」などに気付くことができたと考えられる。
【 第6時 】
目標と学習内容 学習活動・形態 支援と留意点
☆選択の規準の一つとなる価格について考えを深め、市場経済の基本的な考え方に気付く。
○現実の家計の支出項目の実態
○本時の進め方についての説明を聞く。
(一斉学習・講義)
○講師の先生方の自己紹介
(一斉学習・講義)
○グループごとに自分たちの選択したテーマについて、講師の先生とワークショップ形式の模擬商談を行う。
(グループ学習・話し合い)
○シミュレーションゲームを実施する前の、5年前に戻ったという設定で模擬商談を行い、自分たちの選択について検討する。
(グループ学習・話し合い)
○模擬商談の中で、限られた条件(収入、予算、場所、時期、家族構成、など)によって、さまざまな選択が考えられることに、気付かせる。
○模擬商談の中で現実の社会の経済のしくみに気付かせる。
○模擬商談の中で、価格の働きについて、触れてもらうようにする。→企業の学習につなげられるようにする
*講師の先生とのかかわりを通して、生徒に気付かせる。
(講師の先生と事前の打ち合わせを行う。)
【 第7時 】
目標と学習内容 学習活動・形態 支援と留意点
☆選択の規準の一つとなる価格について考えを深め、市場経済の基本的な考え方に気付く。 ○商談のシミュレーションでわかったこと(条件など)をまとめる。
(グループ学習・話し合い、作業)
○発表にふさわしい簡潔な資料をつくらせる。
○現実の家計の支出項目の実態 ○各グループごとに商談のシミュレーションでわかったこと(5年前の選択の妥当性など)を報告する。
(グループ学習・発表)
○時間を区切って、能率良く発表させる。
☆経済の導入項目として、経済活動の意義及び、市場経済の基本的な考え方をまとめる。
○家計を通した経済活動
○家計のシミュレーションゲームと商談のシミュレーションを経て、市場経済の基本的な考え方(消費生活などの経済活動が、様々な条件の中で、価格を考慮しつつ、選択を通じて行われること)について、自己の考えをまとめる。
(個別学習、作業)
○多面的に考えるように助言する。
《 結果と考察 》 第6時~第7時
*第7時のワークシートを分析した結果、模擬商談を行ったことにより、これからの経済学習につながる課題意識がいろいろ芽生えたことがわかった。例としては、「勤労の意義や重要性」に気付く生徒が見られ、「働いて収入を得ることが重要な経済活動である」ことを認識した生徒が見られた。また、「企業の消費者への配慮」に着目した生徒が見られたり、「家計と企業のつながり」やローンを組むことから「金融機関の役割」に気付く生徒も見られた。
 
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発行/(財)生命保険文化センター