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これからの学校教育と消費者教育
−「総合的な学習の時間」と消費者教育の推進−
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(2008.2)
日本大学 商学部 天井 勝海 先生
1.はじめに
 最近、全国の消費生活センターなどへの消費生活にかかわる相談件数が増加しています。とりわけ、高齢者や若者が悪質商法や商品事故などのトラブルに巻き込まれるといったケースが多くを占めています。私達消費者は、手軽で便利な商品・サービスを次々と手にいれる事が可能となる一方で、商品やサービスの選択、契約の重み、消費した後の製品の処分や廃棄といった事などについて、ややもすると十分な配慮に欠けていたといった傾向も見られます。今後もこれまで以上に消費生活をめぐる課題が複雑化し解決の困難な問題も増えることが予測されます。消費者はこれまで以上に、責任と自覚をもって商品やサービスを選択し、契約し、利用するといった「消費者力」を高めていく事が求められます。
2.消費者教育のねらいとその内容
学校における消費者教育は、児童生徒に基礎・基本を徹底し、「生きる力」を育むことを基本的なねらいとする現行学習指導要領の趣旨を踏まえ、自ら学び、自ら考え、自ら主体的に判断して行動することのできる消費者としての基本的な資質や能力及び実践的な態度の育成を図ることが必要です。そして、市民社会に生きる市民の一人として、自らの消費生活の向上と経済社会の発展に向けて、主体的に判断し行動することのできる、「賢い消費者」「自立した消費者」を育てることが重要なのです。
  消費者教育が対象とする学習内容には、自己の生活管理といった身近な課題から地球環境や人類の平和・福祉といったグローバルな課題まで、きわめて幅広い事柄が含まれます。消費者教育の対象や内容として、下記の表に示しましたが、金銭に関したことでは、商店などで商品を買うといったことのみならず現在はもとより将来にわたっての安全や安心を購入し、生活設計を行うといった生命保険などに関する学習も消費者教育に位置付けて行うことができるのです。
衣食住などの生活に関わる内容
品質表示マーク・クリーニング・食品添加物や農薬・遺伝子組替え食品・ 食品偽装・健康食品・欠陥住宅・不動産契約・敷金・化粧品やエステティ ック・アクセサリー・シックハウス・医療や薬品・健康器具など
家庭の経済生活に関わる内容
商品の品質や安全性・物価と価格・悪質商法(資格商法、内職商法、マルチやマルチまがい商法等)・通信販売やネット販売・販売戦略や広告・消 費者の権利と責務など
金融等に関わる内容
信用取引やローン・クレジットカード・消費者金融・金融商品、投資・外国為替・資産管理・生命保険・消費税・金銭の不当請求・子どものお小遣いとその管理など
文化や教育に関わる内容
学習塾や家庭教師派遣・英会話などの学習教材・知的財産権(偽ブランドや著作権など)・生活設計など
情報に関わる内容
電子商取引・携帯電話や国際電話・生活情報の活用・ダイレクトメール・個人情報の保護など
環境に関わる内容
ゴミ問題・リサイクル・環境にやさしい消費生活・エコクッキング・省資源や省エネルギー・地球温暖化などの地球環境問題・環境ホルモン・ISO・グリーンコンシューマー・各種のリサイクル法など
消費生活と法律に関わる内容
消費者基本法・製造物責任法・消費者契約法・特定商取引法・契約・多重債務・自己破産・悪質商法やクーリングオフ・消費生活センターの機能と役割など
高齢社会に関わる内容
シニアの生活設計・年金・介護保険・相続、贈与、遺言、葬式やお墓等の代金や契約など

出典:社会教育施設における消費者教育(消費者教育支援センター)などより作成

3.「総合的な学習の時間」の設置と消費者教育
 消費者教育の内容は、小学校では、社会、理科、生活、家庭、体育、特別活動などの、中学校では社会、理科、保健体育、技術・家庭、特別活動などの、また高等学校では公民、理科、保健体育、家庭、特別活動などの教科・科目等の学習内容と深く係わっています。このことは、消費者教育に関する学習内容が各教科・科目にまたがる横断的・総合的な内容を有していることを示しているとも言えるのです。このようなことを踏まえると、これまでの教科・科目の厚くて高い壁を薄くかつ低くしたり、教科・科目の壁を取り払ったりして、各教科・科目が横断的に連携し、新たに学習内容を総合化するなどして再編成し、総合的・学際的・広領域的で体系的・系統的な消費者教育に関する学習の推進が求められるのです。
  イギリスでは、ナショナルカリキュラムの実施に伴うカリキュラム改革が推進される中で、キャリア教育・健康教育・市民教育・環境教育・メディア教育・平和教育・人権教育など総合的・学際的・広領域的な課題の学習では、各教科・科目が連携したクロス・カリキュラムが各学校で開発され実施されています。我が国においても、21世紀を主体的に生きることのできる国民の育成を目指し、生きる力を育むことを重視し、自ら学び自ら考え、問題を解決する能力を育む教育を推進する事が重要です。そしてこのことを実現する学習の場として、現行学習指導要領に「総合的な学習の時間」が創設されたことを改めて認識する事が必要です。
「総合的な学習の時間」は、前述のクロス・カリキュラムの考え方とも共通するところも多く見られます。このことも踏まえ、これからの消費者教育は、各教科・科目の学習とともに、(図-1)に示されたように、「総合的な学習の時間」に位置づけ、総合的・学際的・広領域的な視点に立った学習を展開することが極めて有効であると考えます。
図−1 学習内容が総合化された「総合的な学習の時間」
4.「総合的な学習の時間」における消費者教育
(1) 「生きる力」と消費者教育
  「総合的な学習の時間」における消費者教育に関する学習では、これまでの各教科・科目における学習とは異なり、各教科・科目が連携し、総合的・学際的・広領域的な視点に立った学習内容が新たに構築されることになります。これまで各教科・科目での消費者教育に関する学習では、学習した内容の総合化は学習者である児童・生徒に委ねられていましたが、この学習では学習内容そのものが総合化されているため、多方面から消費者教育に関する学習を推進することが可能です。また、この学習では、体系化された知識を習得させることに重点を置くのではなく、基礎的・基本的な内容を理解させるとともに体験的・経験的な学習をとおして、消費生活に関する理解や関心を高めるとともに、自ら主体的に判断し行動することのできる実践的な態度を育てることが重要です。このことを踏まえると、消費者教育を通して育成される、主体的な判断力、意思決定能力、実践的な行動力などは、まさに「生きる力」なのです。そのため、消費者教育においては、消費者はもっぱら保護される客体としてとらえるのではなく、市民社会に生きる市民の一人として、自らの消費生活の向上と経済社会の発展に向けて、主体的に判断し行動することのできる実践的な態度〈生きる力〉を身につけた、「自立した消費者」・「賢い消費者」としての資質や能力を育成することが大切です。

(2) 学習内容の総合化とその指導
 「総合的な学習の時間」における消費者教育に関する学習の実施に当たっては、消費者教育に関する課題を設定するとともに、その内容と関係する各教科・科目が横断的に連携し、新たに学習内容を総合化するなどして再構築する必要があります。課題の設定に関しては学習指導要領において、「総合的な学習の時間」は、横断的・総合的な課題、児童・生徒の興味・関心に基づく課題、地域や学校の特色に応じた課題などについて、学校の実態に応じた学習活動を行うこととしています。消費者教育に関する課題を設定する場合もこのことを踏まえ、配当時間も含めて適切に設定することが必要です。
 課題が設定され、連携する教科・科目等が明らかになると新たに学習内容を構築することになります。例えば、(図−2)に示したように、地理歴史と公民と家庭が連携すると、それぞれの教科のクロス部分(図のDの部分は地理歴史と公民、Eの部分は地理歴史と家庭、Fの部分は公民と家庭、Gの部分は地理歴史と家庭と公民)がそれぞれ総合化された学習内容となります。
図−2 学習内容の総合化
(3) 児童・生徒主体の多様な学習活動の工夫
  「総合的な学習の時間」では、前述の消費者教育の学習のねらいを踏まえ、関心・意欲、思考力・判断力、技能・表現力、創造性そして実践力や行動力〈生きる力〉などを育むことが特に重要です。そのため、「総合的な学習の時間」における消費者教育に関する学習においては授業が画一的で硬直的な知識注入型の授業であるとの指摘のあるこれまでの授業方法を根本的に改善し、児童・生徒の主体性や自主性などが発揮される学習活動を展開する必要があるのです。
  学習方法や学習活動は、学習のねらいはもとより、児童・生徒の発達段階や学校や地域などの実態によっても異なりますが、これまで以上に生徒の主体性や自主性を重んじた観察、見学、実験・実習、討論・ディベート、シミュレーション、ケーススタディ、ブレーンストーミング、劇化・ロールプレイング(役割技法)、市場調査・アンケート調査などを導入し、多様な学習活動が展開されるように工夫されるべきです。また、コンピュータ・VTR・OHPなどの視聴覚機器や教材を活用したり、児童・生徒の身近な資料としての新聞やパンフレットなどを教材として積極的に活用したりして、多面的で合理的な指導方法の改善・工夫も必要です。なお、ロールプレイング等の参考事例を下に示しました。
参考事例 ロールプレイング(役割技法)等の授業実践

授業の実践例(1)「英会話テープのキャッチセールス」(ロールプレイング)

 Aさんは、駅前で突然「アンケートに答えてくれたら海外旅行無料ご招待の抽選券をあげるから、協力してくれませんかぁ」と親しげに声をかけられました。案内されたところは、教材販売店の営業所でした。コーヒーやジュースなどをいただきながら、アンケートの話は数分で終わりましが、その後は海外旅行や英会話の話題になり、
「ねぇ、海外旅行の経験は? 今どんなところへ行って見たい?」「我社の海外旅行は格安よ」「この価格、他社と比べてみて!かなりお買い得でしょ。」「A社は、売れっ子のBタレントなど使って宣伝していて良く知られているけど、とっても高い宣伝費が含まれているので結構割高になっているのよ。それに比べるとうちのは、その分安くなっているんだよね。」「それに我社でオリジナルに開発したこの英会話カセットを合わせて買うと、なんとこの格安航空券がさらに50%引き、半額になるんだよ。」「海外に行っても英会話ができるのとできないのとでは大きな違いだよね。」「このテープは少し高額だけどそれに見合う内容がしっかりと保障されているのよ。それにクレジットにすると負担は少なくて済むよ。」「これは、お客さんからのお手紙よ。テープを使って本当によかったって、すごい反響よ。」「2年契約で月々僅か1万円でいいのよ。英会話スクールに通ったら確実にこの3倍はかかるわよ。」「こんないい話は、あなたのように限られた人だけにしかお話しないのよ。」「月々1万円で英会話ができ、しかも格安料金のさらにその半額でハワイ旅行が実現するのよ。」「こんないい機会を見逃すなんて、本当いってもったいないと思うわよ。是非挑戦してみたら」
と一方的に話しまくられ、強く英会話テープの購入を勧められました。Aさんは、ハワイも行ってみたいし、確かに英会話も出来たらなぁーとも思っていたこともあって、話を聞いているうちに、徐々にお買い得かなとも思うようになり、契約書にサインをしました。そして持ち合わせの5千円を申込金として支払い、残りは月々均等払いのクレジットとしました。3日後に、クレジット会社から「クレジットの申込みに間違いないですか」との確認の電話があり、間違いありませんと答えました。それから3日後に、24本入りの英会話カセットテープが送られてきました。しかし、よく考えるとこの本数で、2年間で24万円のテープ代は高すぎると思い、一度も利用せずにそのままにしておきました。Aさんは、この契約を解除したいのですが、どうしたらよいのでしょうか。
〔事前の準備と当日の簡単な舞台づくり〕
・営業所や自宅の雰囲気を出す小道具(テーブル、椅子、電話等)・飲み物・航空券の見本・旅行パンフレット・契約書・電話・カセットテープ・台本・購入者からのたくさんの手紙・クーリングオフの手続き用紙(内容証明の用紙)
・前掲のロールプレイングのシナリオをもとに生徒に演じてもらうように事前にお願いしておく。
・演技が終了したら、下記の課題についてグループ別に討論し、結果を全体に発表する。
〔課題1〕
みなさんは、このような体験はありますか。「いつ、どこで、誰に、何を、どんなふうに」声をかけられたのかなどを、できるだけ具体的に出し合い、その時どのように対応したかを各グループで話し合おう。
〔課題2〕
Aさんの対応は、どこに問題があったのでしょうか。あなたからAさんへのアドバイスをしてあげる内容を各グループで話し合いまとめてみましよう。
〔課題3〕
この契約を解除するには、どうしたらよいのでしようか。
この事例をもとに、実際に書面を作成しクーリングオフの手続きをしてみよう。
〔課題4〕
悪質商法の被害にあわないようにする為の五か条を各グループで作成し、発表してみよう。多く出た場合には悪質商法の被害にあわないようにする為のクラス十か条を作成してみよう。

授業の実践事例(2)「カタログショッピング」(事例研究) 

 Aさんは、通信販売のカタログ雑誌を見て、気に入ったデザインのカーディガンがあったので注文しました。代金は先払いとあったので全額を指定された銀行口座に振り込みました。1週間後にカーディガンが届き、早速着てみるとゴワゴワしてソフトな感じがしない上に、カタログ雑誌に載っていたものとは色合いが違っていたのですぐに電話で返品を申し出ましたが、断られてしまいました。Aさんは困ってしまいました。どうしたらいいのでしょうか。
〔課題1〕
皆さんや皆さんの家庭では、カタログショッピングの経験はありますか。どのような商品の購入に利用しているのかを各グループで出し合ってみよう。
〔課題 2〕
Aさんの対応は、どこに問題があったのでしょうか。あなたからAさんへのアドバイスをしてあげる内容を各グループで話し合いまとめてみましよう。
〔課題3〕
この問題を解決するには、どうしたらよいのでしようか。
〔課題4〕
このようなカタログショッピングの問題に遭遇しないための五か条を各グループで作成し、発表してみよう。多く出た場合にカタログショッピングのトラブルにあわないようにする為のクラス十か条を作成してみよう。
5.最後に
 冒頭でも述べましたように、消費者教育に関する学習では、市民社会のルールを正しく理解させ、市民社会に生きる市民の一人として、自ら主体的に正しく判断し、行動することのできる実践的な態度を身に付けた、「自立した消費者」としての基本的な資質を育成するという学習のねらいを明確に位置付けて実施する事が必要です。また、消費者教育の学習の成果については、その学習活動が家庭や地域の人々の協力を得ながら推進されることが多いことを踏まえ、文化祭などの学校行事等で児童生徒は無論のこと、保護者や地域の方々などに対して発表する機会を設定するなどの工夫が必要です。このようにして、学校や児童生徒が、家庭や地域社会に対して情報を発信していく事は、今日求められている「開かれた学校づくり」を推進する上でも大きな成果があるといえます。
 
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