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「産業社会と人間」
−総合学科で行われているキャリア教育の取り組み−
杉森共和 先生
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(2008.3)
東京都立葛飾総合高等学校 主幹・キャリアカウンセラー 杉森 共和 先生
1. 新しい学力

最近になって、「仕事力」や「リーダーシップ力」など、様々なところで「○○力」といういい方がされています。これは、産業構造の変化に伴って、これまでの学力とは違った新しい力が社会で必要とされ始めたことの表れです。

産業界が近代の大量生産・大量消費的な手法を脱し、個別化に対応していくと、そこで働く人も、顧客一人一人に柔軟に対応できるような力が必要になります。また、少子化の影響もあって教育の現場でも、大量の生徒を相手に大量の知識を詰め込むのではなく、一人一人に応じたきめ細かい教育が必要になってきています。そこで、これまでとは違うやり方で新しい力を身につけさせる教育が行われ始めています。では、この新しい力とはどんなものでしょうか。

我が国では平成15年に『若者自立・挑戦プラン』が、自立し社会貢献する人材、基礎学力と実践力をあわせて創造できる人材を若年者の目指すべき人材像として挙げ、社会を牽引できるような高度な専門性をも求めました。

これを受けて例えば内閣府では「人間力」、経済産業省では「社会人基礎力」、厚生労働省では「若年者就職基礎能力」、文部科学省では「キャリア教育の4つの能力」というように各省庁が新しい時代に必要な力を提唱しました。いずれも、これまでのように数値で測れるような学力や知識量でなく、対人関係の力や工夫したり応用したりする力、自発的に行動する力などを言っています。

同じころ、OECD(経済協力開発機構)の「DeSeCo(能力の定義と選択)プロジェクト」も、人生の成功と社会の発展のための鍵となる能力として、ツールの相互的な活用能力、異質な集団での関係能力、自主的な行動能力という3つの「キーコンピテンシー」を提唱しています。OECDの生徒の学習到達度調査(PISA)でも、思考プロセスの習得、概念の理解、及び様々な状況でそれらを生かす力といった力が重視されています。

ちなみに、文部科学省は、平成20年1月17日の学習指導要領等の改善についての中央教育審議会答申を受けて、幼稚園教育要領と小中学校の学習指導要領の改訂案を公表しました。

新しい学習指導要領では、昨年12月に公表されたPISA2006年調査の結果を踏まえ、現行の学習要領の理念である「生きる力」の理念の共有がより一層必要であることが鮮明に打ち出されています。「生きる力」は、実は先述の論議の先駆けだったのですが、現在でも、主体性や問題解決能力や人間性などの能力の獲得を目指す、時代の変化にあわせた新しい学びの方法論であるわけです。

2. キャリア教育とは
 

この新しい時代に必要な力を身につけさせる教育の一つがキャリア教育です。キャリアというとどうしても職業のことと誤解されがちですが、本来はライフキャリアのことで、人生で起きる継続的な出来事やその時の様々な役割のことを言います。つまりキャリアとは人生そのもののことだ、と言ってもよいのです。ですから、キャリア教育は、その人生そのものをいかに生きるかを考えさせ、実際に生き抜く力を身につけさせる教育だと言ってよいでしょう。

この時に身につけさせる能力は、人間関係能力、情報活用能力、将来設計能力、意思決定能力の4つの能力です。まさに、新しい時代に必要な力となっています。

さて、このキャリア教育を具体的にどのように進めればいいかというと、高等学校で言えば、学習指導要領の第4章特別活動第2のAの(3)ホームルーム活動で取り上げるべきことの「学業生活の充実、将来の生き方と進路の適切な選択決定に関すること」の例示部分に書かれています。この部分は、学習指導要領の中でキャリア教育の具体的な学習項目として挙げられている大切な部分なので、「学び」と「仕事」の視点で次の表のようにまとめておきます。

これはキャリアカウンセリングの基礎的な理論でもあります。つまり、自分のことをよく知り、参入する集団のことをよく知り、計画を立て、意思決定をし、適応していくということです。学校のキャリア教育はこの表に従って、組織的に、かつ計画的に行われなくてはなりません。

領域 将来の生き方と進路の適切な選択決定
学業生活の充実(学び) (仕事)
自己理解 進路適性の理解
情報活用 進路情報の活用
学校図書館の利用  
価値観形成 学ぶことの意義の理解 望ましい職業観・勤労観の確立
将来設計 将来設計
選択決定 主体的な進路の選択決定
教科・科目の適切な選択  
適応 主体的な学習態度の確立  
3. 総合学科高校の学び
 

1990年代に時代の変化にあわせた新しい学びを具現化するために、普通科や専門学科といった旧来の高等学校ではない「第三の」学科として総合学科高校が登場しました。総合学科の大きな特色は、生徒一人一人の能力・適性等に基づいた学びを選択し、主体的に学習することで、学ぶことの楽しさや成就感を体得し、学習の意欲を形成することです。

私は総合学科高校で身につける学びは「基礎学力」と「総合的学力」と「専門志向」だと考えています。
基礎学力とは、文章や事象を読み取る力、理科や数学を活用する力、表現したりものを作ったりする力のことです。主として1年次に学び、これらの能力を駆使して、今後の学びの基礎とします。

総合的学力は、これからの社会で求められる新しい能力です。この能力はさらに、3つに分けられます。1つめは対人能力です。つまり、コミュニケーション能力や、TPOをわきまえる力、プレゼンテーション能力などの能力です。2つめは、意欲です。自分から動こうとする能動性や主体性、実行力、多様さに対応できる柔軟性、責任感など前に進もうとする力です。3つめは、総合思考です。思考するプロセス自体もそうですが、論理的思考や創造的思考も総合思考です。また、様々な知識やかけ離れた2つ以上のものを総合させて活用する応用力も総合思考と考えていいでしょう。

専門志向は、将来の専門性に結びつく高校時点での志向性です。つまり、卒業後に上級学校等でさらに専門性を深めていくための高校段階での学びです。総合学科にはたくさんの系列がありますが、この系列を指針として専門的に学ぶことが、将来の専門性につながる専門志向を育てることになるのです。

図−1 総合学科高校の学び
4. キャリアを学ぶ「産業社会と人間」
 

キャリアとは仕事・学び・家庭・遊び・ボランティアなど人生の様々な場面でのその人の役割です。ですから、大人になると、仕事のキャリアだけでなく、自治会の役員だとか、家事だとか、ボランティアの仕事だとかたくさんのキャリアを抱えて生きていくようになります。,

その、たくさんあるキャリアの核がキャリアコアです。キャリアコアは、その人がその人であることをもっともよく表していて、その人にとっては生き甲斐そのものなのです。

総合学科高校では、生徒が将来すばらしいキャリアコアをもてるように、3年間一貫してキャリアのことを学ぶ時間を設けています。1年次は「産業社会と人間」、2,3年次で「総合的な学習の時間」を使った課題研究を行うのが標準です。

この時間で学ぶことは、自分を探究し、キャリアについて理解を深め、自分のキャリアデザインをすることです。そして、自分の学びを深め、自分のコアを作り、セールスポイントを作っていくのです。また、グループセッションやプレゼンテーションを通して調査研究の方法を学び、プロジェクトの企画と実践をし、自分で課題を設定して解決していきます。このような具体的な学習活動を通して、「総合的学力」をしっかり身につけるのです。

それでは、総合学科高校の1年次に行われる「産業社会と人間」の授業として、本校の取り組みをご紹介します。「産業社会と人間」は総合学科高校の必履修科目です。全ての総合学科高校の1年次生が、キャリアデザインと選択科目の履修のために、学んでいます。

本校では、入学後すぐに、キャリア教育の出発点として宿泊行事を行いました。葛飾総合でアントレプレナーシップ(起業家精神)を養うきっかけにするので「葛飾アントレ」と名付けられています。

この宿泊行事は2泊3日のプログラムです。これから3年間の高校生活で自分が何をすべきか考えます。まず、KJ法とピラミッドプリンシプルを使ってグループセッションをし、仮説をまとめました。

次にホスピスで末期医療を行っている医師の講演を聴いたり、近辺の事業所に分担して職業人の取材をしたりして情報を集めました。宿泊先は山中湖で、近辺の大手企業をはじめ、役場やNPO、農家など10あまりの事業所にご協力をいただきました。そして、自分たちの仮説を検証し、意見をまとめ直し、まずクラス内で、次いで代表が全体の前で発表をしました。

日程

入学直後の宿泊学習で、高校で学ぶ意義を考えた生徒は、その後、前期では、学びとは仕事とは何かを理解し、自己理解を進めました。夏期休業中には、職業インタビューを行い、生徒たちは地元の企業の方をはじめ、動物園飼育係や雑誌編集者、保育士などさまざまな職業人のお話を伺っています。そして休業明けにパソコンを使ってまとめ、各クラスの代表者が文化祭で発表しました。

後期に入り、生徒は科目研究や学問研究・大学体験を通して学びのことを考え、科目登録を行いました。1年の最後には自分のキャリアをデザインする学習を行った後、1年間の成長をプレゼンテーションしました。今後、2年次では、研究スキルを学び、研究課題を決定し、修学旅行で実地調査を行い、3年次では総合選択科目の学びと総合させて、課題研究を完成させ、それぞれのキャリアコアを形作ることになります。

「産業社会と人間」学習内容
前期
(1)前期ガイダンス
(2)葛飾アントレ(準備、実施、振り返り)
(3)価値観形成(学ぶことの意義の理解、勤労観・職業観の育成)
(4)自己の適性理解・職業レディネステスト
(5)科目登録予備調査ガイダンス
(6)職業インタビュー(準備、実施、発表会)

後 期
(1)後期ガイダンス
(2)情報活用(講演会、職業調べ、学部学科研究、入試研究)
(3)科目登録(準備、登録)
(7)大学授業体験(準備、体験、発表)
(8)キャリアデザイン
(9)1年間の学び(社会人トーク、年表作成、発表、2年次に向けて)
(10)研究発表会(全体発表)

本校を始めとする総合学科高校ではこのように、自分たちで企画・運営し実践を行ったり、様々な人と交流し合ったりする動的なプログラムが随所に計画的にちりばめられています。

これによって、思考プロセスを習得し、概念を理解し、様々な状況でそれらを活かす能力が身につき、また、数学や科学のリテラシー・文章読解力などを、実生活の様々な場面で活用できる問題解決能力が高まるなど、新しい時代に必要な力が身につくのだと考えています。

 
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