消費者相談窓口にいる者として参考になり、相談員の研修テーマにどうだろうかと思ったものがある。商品等の選択に際し、合理的でない行動をとる理由を、人の判断の癖や傾向から説明する行動経済学のプロスペクト理論である。

事例:A社から「○○に投資しませんか、運用利益を年15%で毎月配当します、今どきの投資は…云々」との勧誘を受け契約を行い、100万円支払った。最初の一か月目は配当があったが翌月は無かった。不審に思いA会社に電話をしたがつながらず、その後も連絡が取れない。騙されたとあきらめていたところ、「○○の投資で損していませんか、当社(B社)に30万円支払ってもらえれば、100万円を取り戻します」との勧誘があった。30万円をB社に払っても、100万円が取り返せれば、差額70万円分損を取り戻せると思い契約し、30万円振り込んだ。しかし、その後B社も連絡が取れなくなってしまった…。

どうして簡単に追加で30万円を払ってしまうのか。前回怪しげな話に乗って損をして懲りないのか。テレビ等で投資関連トラブルが報道されるが、そういう報道は判断の材料にならないのだろうかと疑問を抱いていたが、行動経済学では生身の人間は、それぞれの価値観や感情で意思決定し、決して常に合理的に行動するわけではないと説明する。

行動経済学のプロスペクト理論では、非合理的な行動を二つの柱で説明している。一つは、決定の重みづけというもので、人が宝くじや株式の投資など不確実なリスクのある商品に対し過大な評価をし、期待するというものである。もう一つの柱は、人間は儲かったときの喜びよりも損をしたときの悲しみを大きく感じるというものである。10万円儲かった時の喜びよりも、10万円損をしたときの悲しみは、喜びの2~3倍になるのだという。これを事例に当てはめると、悪質な業者に有利な投資と勧誘され、よくチェックせずに評価して100万円投資したが、騙され100万円を失い、悲しい思いで悶々としていたところ、損を取り戻せると聞き大いに期待して30万円を払ってしまったということだ。

事例のような相談を受けたとき、行動経済学のこの理論を知っていれば、「なぜ契約したのか理解に苦しむ」「通常あり得ない利得に目がくらんだ消費者の責任だ」ではなく、「そのような気持ちになるのは、よくあることだ、損を認めたくないという行動パターンだ」と理解できる。不思議でもなくなる。契約に至る事情を客観的につぶさに話を聞くことができるし、被害者を気持ちの上である程度は救済することにつながるのではないか。

儲け話は、うまく儲かるかもしれない、損を認めたくないという人の心理を巧みに利用し、次々と契約させる二次被害にもつながる。この手の被害が起こらないように、消費者の方々に、この手口を見抜き、冷静に判断ができるよう効果的な情報提供はできないものだろうか。悪質商法被害防止のためのいわゆる消費者啓発講座のカリキュラムに、行動経済学の理論を取り入れてみるのはいかがだろう。悪質業者の情報、知識と同等のものを消費者にも提供し、格差を埋めることにつながるのではないだろうか。

プロフィール

佐藤 洋子

佐藤 洋子(さとう ようこ)

消費生活コンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、行政書士。
平成元年から現在まで、(一財)日本消費者協会、
埼玉県消費生活支援センター等で 消費生活相談員として消費者相談を受けている。

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