確定申告の留意点
確定申告の受付が始まり、私たち税理士もあわただしい日々を送っています。確定申告を「年に1度の大仕事」と感じていらっしゃる方も多いと思いますが、税理士にとってもこの時期限定の集中作業となります。そのため、税理士でも、確定申告期が始まる前に細かなポイントを集中的に再確認しています。今回は、確定申告で非常に勘違いが多いポイントのうち、家族の状況に応じた所得控除(人的控除)についていくつか紹介いたします。
(注)所得金額、控除額等は、令和1年分確定申告に適用される金額です。
1. 扶養控除
配偶者以外の親族等で、年間の合計所得金額38万円(給与収入のみの場合年収103万円)以下などの一定の要件を満たす場合、「控除対象扶養親族」として1人につき一定の所得控除を受けることができます。この扶養控除につき勘違いが多いポイントは次のとおりです。
(1)老人扶養親族分
一定の70歳以上の扶養親族が対象となりますが、控除額は「同居老親等:58万円」、「同居老親等以外の者:48万円」と異なっています。この、「同居老親等」について、納税者本人と別居していても「同居老親等」となるケースがあります。
① 納税者本人の配偶者が、親を介護等するため親と同居、納税者本人とは別居している事例。この事例で、納税者本人、配偶者、親が同一生計のときは、親は納税者本人とは別居の状態ですが、他の要件を満たせば「同居老親等」となります。「同居老親等」は、本人だけでなく、その配偶者との同居でもよいとされているからです。
② 同居していた親が、病気療養等のため病院に1年以上長期入院している事例。この事例も同居の状態にはありませんが、他の要件を満たせば「同居老親等」となります。ただし、老人ホーム等に入居した場合は「同居老親等」となりません。
(2)扶養親族の合計所得金額
親族等に上場株式などの配当金による所得が年間38万円以上ある場合では、他にパート収入等がなくても合計所得金額が38万円以上あるとして扶養控除の対象外としてしまう例がありますが、誤りです。確定申告しない上場株式等の配当は、合計所得金額に加算しないこととなっていますので、この事例では扶養控除の対象となります。なお、上場株式等の譲渡による所得が年間38万円以上ある場合で、源泉徴収ありの特定口座を利用し、確定申告しないときも同様です。
(3)外国に居住する親族等
外国に居住する親族等を扶養控除の対象とする場合、生活費等をその親族に送金したことを証明する書類が必要となりますが、この書類に勘違いが多くあります。例えば、外国に親と兄弟が同居している場合で、親あてに生活費等をまとめて送金したときの送金控は、原則として、親に送金した証明とはなりますが、兄弟に送金した証明とはなりません。送金費用は高額なケースが多いため、こうした事例はよくあると思いますが、注意が必要です。
2. その他の控除
(1)障害者控除
本人や扶養している配偶者、親族などが一定の障害者である場合に受けることができる所得控除です。控除額は、障害者:27万円、特別障害者:40万円、同居特別障害者:75万円となっています。
① 介護保険の要介護認定を受けている方について
「要介護認定を受けている」と障害者控除が受けられると思いがちですが、それだけでは適用を受けることができません。別途、市町村などにて「障害者控除対象者認定書」の交付を受けるなど対象者である旨認定等してもらう手続きが必要となりますので注意が必要です。
② 同居特別障害者分
特別障害者(親族、例えば父)とその者と同居の親族(例えば母)がいて、その親族(例えば父母)を本人の扶養親族としているが、本人は別居している事例。この事例では、特別障害者は本人と別居していますが、「同居特別障害者」となります。同居特別障害者は、特別障害者のうち、本人、その配偶者またはその親族と同居している方とされていますので、本人とは別居していても、「同居特別障害者」となるケースがあります。紹介例では、特別障害者(父)は、本人と同一生計の親族(母)と同居していますので、「同居特別障害者」となります。
(2)寡婦(寡夫)控除
配偶者と死別・離婚等した方で一定の方が対象となります。最近では、結婚せず出産・子育てをする「未婚のひとり親」も珍しくなくなりましたが、「未婚のひとり親」は、「離婚」も、「死別」もしていないので、令和1年分確定申告では寡婦(寡夫)控除の対象外です。なお、この点につき、不公平感の解消を図るため、令和2年度税制改正にて改正が行われ、令和2年分から一定の「未婚のひとり親」が寡婦(寡夫)控除の対象に追加される見込みです。
毎年、確定申告をする方の中には、稀に勘違いをしたままの申告を続けている方もいらっしゃいます。確定申告のこの時期に、今一度、ポイントを確認することをお勧めします。