高齢者の消費者被害を社会からなくすためには
狙われる高齢者
このエッセイを執筆している今日は、敬老の日。この日にあわせて、総務省は日本の高齢化率が29.1%(65歳以上の高齢者の推計人口が総人口に占める割合)だと発表しました。2005年以降、世界一の高齢社会となった我が国ですが、高齢者人口が増加することにより一層深刻化している問題の一つが、高齢者の消費者被害です。
私はいつも、高齢者の消費者被害を語るとき、「高齢者を騙す側」が存在し続けることに強い憤りを感じます。問題が複雑なのは、騙す側は巧妙であるため、高齢者自身が騙されていると気づきづらく、問題の表面化が遅れたりすることです。また、完全に詐欺行為を行っている者も排除しきれず、敬老どころか、高齢者からお金を騙し取る、倫理観のかけらも見られない者がこの国には一定数存在しているのです。今もどこかで騙されている高齢者がいると思うと、許せない気持ちでいっぱいになります。
ではどのようにしたら、高齢者を消費者被害から守ることができるのでしょうか。具体事例をみてみましょう。
山形県米沢市の事例:消費者見守りサポーターによる地域の見守り
米沢市では、消費者教育推進の一環として、高齢者の消費者被害を防ぐ取組をどのように進めていったらよいかを検討するためにワークショップを開催し、それをきっかけに「消費者見守りサポーター」の養成を開始しました。当時のワークショップのメンバーは、市高齢福祉課、地域包括支援センター、社会福祉協議会、介護事業者、ケアマネジャー等、つねに高齢者の周りにいる方々で、目の前で起きている消費者被害の現状を非常に深刻に考えておられました。
そこで発案された「消費者見守りサポーター」の養成は、第一段階として講師役を養成し、第二段階として養成された講師が講座を開催して、受講者を消費者見守りサポーターとして養成することで、見守りの意識を市内に広げるものでした。オレンジ色のリングを普及する認知症サポーターと基本的には同じ枠組みですが、消費者見守りサポーターには、ミドリ色のリング「みどりんぐ」を広げ、市内に悪質事業者が入り込まないようにしようと考えられました。
サポーターの役割は、高齢者の様子がおかしいなという異変に「気づき」、気づいた時には「声をかけ」、適切な相談窓口に「つなげる」ことです。より多くの市民がこの問題に関心を持ち、講座を受講してもらうため、PR用のポスターや動画も作成して広報をしています※1。現在はこの仕組みを発展させて、「消費者安全確保地域協議会」としていかに機能させていくのか真剣に議論を行っています。
高齢者の消費者被害のない社会をめざして
高齢者の被害に「気づき」「声をかけ」「相談窓口につなぐ」という見守りの取組は、高齢者ご本人を消費者被害から救済することになりますが、効果はそこにとどまりません。
高齢者の被害情報が消費生活センターの相談窓口につながると、その情報は全国の消費生活センターの情報ネットワーク(PIO-NET)に登録されます。その結果、同種の被害が拡大していることを知るシグナルになったり、行政処分や法改正等のエビデンスにもなったりするため、結果的に社会全体から消費者被害をなくすことにつながるのです。
被害に遭った高齢者の中には、「相談はしたくない」という方もいるかもしれません。そんな時には、ご本人の気持ちを大切にしつつ、情報提供をするつもりで身近な消費生活センターに電話をしてみてはどうでしょうか。全国共通番号は「188」※2。相談は無料です。
消費者被害のない社会をつくる一歩は、私たちの身近なところにあるはずです。読者の皆さんも是非、身近な親族や地域の高齢者の異変に気づくことができる「消費者見守りサポーター」になったつもりで日々を過ごし、誰もが高齢になっても安心して暮らせる社会づくりに参画していただければと思います。
※1 ポスターの他にPR動画も公開されています。
https://www.youtube.com/watch?v=AKJ0dmaxn6I
※2 消費者庁「消費者ホットライン」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/local_cooperation/local_consumer_administration/hotline/