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ESSAY エッセイ
税金

相続対策に役立つ生命保険の機能

税理士法人 TOTAL代表社員 沓掛 伸幸

相続において、生命保険には特徴的な機能があります。しかし、実際にはその機能が十分に認識されていないケースが多く見受けられ、生命保険の機能を使えば、より良い相続対策が可能であった事例も散見されます。今回は、相続における生命保険の機能について、特に覚えておきたいポイントをご紹介します。

1.相続時のお金の「行き先」を決められる

生命保険では保険金受取人をあらかじめ指定します。これにより、相続時に誰にいくらお金を渡すかを決めておくことができます。

なお、相続時にお金の行き先を決める別の手段としては、「遺言」などが考えられます。遺言は、相続財産の全体像を把握し、それぞれについて誰に何を残すかを決めるケースが一般的です。しかし、誰に何を残すか決められない、相続について具体的に考えたくないなど、遺言はハードルが高いのが現実です。一方、生命保険では、相続財産の全体像を把握しなくとも、保険金の受取人や受取割合を決めればよいこととなります。また、気持ちの上でも「遺言」よりはハードルが低いと感じる方が多いです。

さらに、生命保険ではお金の行き先(受取人)の変更の手続きも簡単にできます。保険金受取人は、被保険者の死亡等、保険金支払事由が発生するまで、何度でも、無料で変更が可能です。遺言の場合は、お金の行き先変更は、原則として遺言の書き換えが必要となります。場合によっては追加費用が発生することもあります。

2.相続争いを防ぐ手立てが広がる

相続争いは、相続人同士、すなわち親族間の争いとなり、精神的な負担は想像以上に大きなものです。そのため、相続税を軽減する相続税対策より、円満な相続に導く相続対策の方が喜ばれることが多くあります。

そして、相続対策の中には、まとまったお金が必要なものがあります。例えば、代償分割です。代償分割とは、遺産の分割に当たって相続人などのうちの1人または数人が相続財産を現物で取得し、その現物を取得した人が現物を取得しない他の相続人などに対してお金(代償金)などを支払う方法で、不動産など分割が困難な場合に活用されます。相続財産の大半が不動産等で柔軟な分割が困難な場合、相続割合の調整が難しくなりますが、代償金に充てるお金があれば、代償分割の方法が選択肢となり比較的容易に調整が可能です。

この「代償金」を生命保険金で準備する方法があります。生命保険金は、原則として遺産分割協議の対象外となりますので、他の相続人の合意を得ることなく、保険金受取人が受け取ることができ、そのお金は受取人の自由に使うことができます。そのため、比較的容易に「代償金」に充てることができます。

また、遺留分侵害額請求があった場合にもお金が必要です。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められている最低限度の相続割合です。遺言や贈与が原因で、遺留分が確保されていないと考える相続人がいると、その不足額が請求される可能性があります。これを遺留分侵害額請求といいますが、民法改正により、2019(令和元)年7月から金銭により支払うこととされました。したがって、遺留分侵害額請求があった場合、お金が必要ということとなり、まとまったお金がなければ争いが長引くことにもなりかねません。生命保険金があれば、早期解決が期待できる可能性が高くなります。

3.相続発生後、すぐに使えるお金が用意できる

銀行預金は、本人の逝去により口座が凍結され、原則として相続人全員の合意がないと引出しができなくなります。逝去された方の口座で生活費を管理していた場合は、口座の残高があるにもかかわらず目先の生活費にも不自由するケースもあります。
一方、生命保険金の請求は、保険金受取人単独で手続きすることができ、通常数日で受取人に支払われます。そして、他の相続人の合意なく保険金受取人が自由に使うことができますので、例えば生活費の管理口座が凍結されたとしても、当座の生活費やお墓等の費用などに充てることができます。

なお、相続財産のうち銀行預金につき遺産分割前の払戻し制度が創設されていますが、払戻額は限定的ですので注意が必要です。

4.相続税の非課税枠がある

生命保険の契約者・被保険者が同一で、死亡保険金受取人が相続人だった場合には、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があります。相続税の課税対象となるのは、非課税枠を超えた部分です。

現預金のまま相続が発生してしまうとその全額が相続税の対象となりますが、生命保険に加入すると、現預金の一部が保険料として支払われ、相続発生時には死亡保険金として受け取ることとなりますので、いわば現預金の一部が非課税枠のある死亡保険金に置き換わる効果があります。

※法定相続人とは、相続する権利のある人(相続人になれる人)のことです。
 相続人は、実際に相続を受ける人のことで、相続放棄した人などは含みません。

 

プロフィール

沓掛伸幸

沓掛 伸幸(くつかけ のぶゆき)

税理士法人TOTAL代表社員(税理士・医療経営コンサルタント・CFP(R))
一橋大卒、生命保険会社を経て2007年税理士法人設立。税理士・司法書士・社会保険労務士等が属するTOTALグループ全15拠点、スタッフ400名にて、法人、医療機関、相続の三分野の総合サービスを展開。