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ESSAY エッセイ
生活設計

家計簿の意味

岐阜大学副学長/教育学部教授 大藪 千穂

家計簿は必要?

皆さんは家計簿をつけていますか? 最近はアプリもたくさんあります。アプリの良さは、いつでも簡単につけられること、グラフ化などもすぐできること、レシートをかざすと、入力しなくても費目別に振り分けてくれるなど、とにかく家計簿をつけるハードルが低いのが特徴です。ただサービスが終了してしまったり、アップグレードするには費用が必要だったり、銀行とつながっているタイプはすべて情報が筒抜け、という問題点もあります。一方、記帳式を使い続けている人もいます。日記もつけられるものなら、後で見返す楽しみがあったり、見開きで確認できるので、流れが分かりやすかったり、何十年も使い続けることができるというメリットがあります。その代わり、自分で計算をする必要があります。どちらもメリットとデメリットがあるので、自分にどちらが合っているか考えて使うといいですね。

さて、その家計簿ですが、「単につけているだけ」という人が結構います。家計簿は1週間、1カ月、1年間と区切りごとに計算して見直し、計画を立て直す必要があります。貯蓄したい人は、「何のために、いつまでに、いくら」必要かを確認し、それを達成するためには、1年間、あるいは1カ月にいくら貯蓄する必要があるのかを計算します。そしてまずは1カ月間つけてみて、貯蓄に必要な金額が捻出できるのか、できないとしたらどこを削って捻出するかを考えます。1カ月後には予定通り貯蓄できたか、できなかったとしたら何が原因かを再度確認する必要があります。このような作業のために家計簿は必要なのです。最初は面倒と思うかもしれませんが、やり始めれば結構楽しいので、その域に達するまで続けましょう! 家計は季節変動するので、1年間つけ続けられれば、自分の家計の傾向が分かりますね。

家計簿であなたの人生、分かります?

学生に毎年、3カ月間、家計簿をつけて分析したレポート提出を課していますが、家計簿を見ればその人の生活・性格や価値観が分かります。これまで30年ほどやってきて、外見とはかなり違う場合もあることが分かっています。見た目は少しチャラチャラしている感じなのに、家計簿から見る生活はいたって真面目。外食は高いので、毎日自炊をして食事に工夫をしていたり、奨学金をもらい、バイトもして授業料を払い、自分の生活費をすべて自分で工面している学生もいます。反対に、家計簿(紙版)を提出してもらったら、お菓子の食べかすがボロボロと出てきたり、はたまた毎日パチンコに命をかけている・・・という学生もいます。人って分からないものですね。何がいいか、悪いかというのではなく、家計簿はその人の生活・性格・価値観が可視化できるものなのです。

お金を使いたくなくなる?

家計簿をつけ始めると、多くの学生は、使う罪悪感、でも使わないと家計簿に書くことがない・・・と悩むようです。使うこと自体、悪いことではありません。要は使い方が問題なのです。ただがむしゃらに減らせばいい訳ではありません。必要なものにはしっかり使うことが大事です。外食は悪! ではないのです。今や外食は娯楽の一部。外食をして気分転換ができて、またやる気が出るのであればある意味、必需品です(頻度と金額はチェックする必要がありますが・・・)。節約となるとすぐに食費に目がいくのは、毎日のことなので、一番削りやすいからです。外食、酒代の使い方で節約はできますが、日々の食費は減らしても微々たるもの。また食事は生活の基本なのでしっかり摂りましょう。それよりもスマホ等の通信費、保険は比較的節約規模が大きいものです。出費の最たるものは家賃ですが、これはなかなか変えられませんね。いずれにしても節約は、固定費から見直しましょう。

 

プロフィール

大藪 千穂(掲載用写真)

大藪 千穂

1962年京都市生まれ。京都ノートルダム女子大学文学部を卒業後、大阪市立大学生活科学大学院修士課程を経て博士課程単位取得修了(学術博士)。1994年より岐阜大学教育学部助教授(家政教育講座)を経て現在、岐阜大学教育学部教授(兵庫教育大学大学院 連合学校教育学研究科教授を兼任)。2021年より副学長(多様性・人権・図書館長)。日本消費者教育学会副会長。文部科学省消費者教育アドバイザー、金融広報アドバイザー(日本銀行)、京都銀行社外取締役、消費者ネットワーク岐阜代表。
専門は、家庭経済学(家計分析、消費者教育)、環境とライフスタイル論(アーミッシュ研究)。
主な著書に、「岐阜人の不思議」(岐阜新聞社)、「生活経済学」(放送大学)、「はじめての金融リテラシー」(昭和堂)、「お金と暮らしの生活術」(昭和堂)、「ちほ先生の家計簿診察室」(名古屋リビング新聞社)、「アーミッシュの謎」「アーミッシュの昨日・今日・明日」(論創社、訳書)など。