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ESSAY エッセイ
消費生活相談

成年年齢引下げから1年が経った今、改めて必要な消費者教育とは?(3)

法政大学大学院政策創造研究科准教授  公益財団法人消費者教育支援センター理事・首席主任研究員 柿野 成美

このコラムは、2022年4月の成年年齢引下げから1年が経過したことを受け、3回シリーズで執筆をさせていただきました。
第1回目では、18歳-19歳の消費者トラブルの実態と18歳成人スタートに向けて実施されてきた消費者教育について紹介しました。トラブル件数としては際立って大きな変化はないこと、高校生の契約に関する理解度が高まっている様子をみました。 

また第2回目では、18歳で成人となる当事者がどのような意識を持っていたかを踏まえた上で、消費者教育の在り方について考察をしました。全国の高校生約3,000人に実施した調査結果では、成年年齢引下げについて「ネガティブ回答群と無関心群が約3分の1ずつと高い割合を示し、ポジティブにとらえている高校生は1割強」となり、18歳成人に対する考え方がかなり異なっており、その者たちに対して「恐怖心を煽る出前講座」を実施することの問題点について指摘しました。 

最後に、このコラムの主題である「改めて必要な消費者教育」について、考えてみたいと思います。今回、成年年齢引下げという約140年ぶりの民法改正にともない、国は当事者となる高校生を対象に、高校1、2年生の段階で家庭科や公民科の授業や特別活動等を通じて、知識理解度を高める取組みを集中的に進めました。

政策上は18歳になる直前の時期をターゲットとして、集中的に消費者教育を実施するのは効果的であるように思えます。民法改正が決まり、施行までの限られた期間であれば、それでも良かったのかもしれません。では長期的な視点で見た時、これからの日本社会を支える新成人の自立に向けた教育の在り方は、どうあるべきなのでしょうか。 

当然のことですが、高校生はある時突然に高校生になるわけではありません。生まれてから、幼児期、小学生期、中学生期と段階的に時間をかけて成長していきます。「改めて必要な消費者教育」を考える時、筆者は、高校に入るまでの教育が非常に重要ではないかと考えます。また、これは消費者教育だけの問題ではなく、子どもが成長する過程で、主権者教育、金融経済教育、法教育、国際理解教育等について体験を通じてバランスよく学び、公正で持続可能な社会を生き抜くための知恵や行動力を身に付ける必要があります。 

このように考えると、子どもの価値観に最も影響を与える家庭教育が第一に重要だということになるでしょう。換言すれば、これは大人自身がこの問題をどのように捉え、子どもに向き合うか、ということに他なりません。私たち大人世代は、このようなことを親や学校から学ぶ機会は限られていました。18歳成人という法改正をきっかけに、大人自身が社会の変化やそこで生じる課題について学習したり、対話したりする機会が増えることが今後一層期待されます。

またその一方で、やはり子どもたちが等しく学習機会を享受できる学校教育の役割も看過できません。特に、義務教育における取組みについては、小中学校の家庭科や社会科を中心に消費者の学習をしますが、それに限らず教育活動のなかに「消費者教育の視点」は点在しています。つまり、子どもに向き合う教員にその意識があれば、自立した消費者につながる学びを子どもたちに提供することができます。

これまで私たちは、滋賀県近江八幡市で小中学校を中心とした消費者教育の取組みを実践してきました。その成果を文部科学省消費者教育フェスタで取り上げ、参加者と共に議論する予定です。現地、オンラインいずれの参加も可能ですので、是非ご一緒にこれから必要な消費者教育について話し合いましょう。

プロフィール

法政大学大学院政策創造研究科准教授  公益財団法人消費者教育支援センター理事・首席主任研究員 柿野 成美(かきの しげみ)

法政大学大学院准教授、公益財団法人消費者教育支援センター理事・首席主任研究員。博士(政策学)。
消費者の行動で未来を変える消費者市民教育を推進するため、全国で講演を行う。
文部科学省消費者教育推進委員会委員、東京都消費生活対策審議会委員。
主な著書に『消費者教育の未来―分断を乗り越える実践コミュニティの可能性』法政大学出版局などがある。