家族による生命保険の代理手続き ~元気なうちに考えておきたいこと~
生命保険文化センターでは、生命保険に関する相談事例について、全国の消費生活センターの方などと情報交換をする機会があるのですが、最近、話題に上ることが多いものとして、「高齢の親が加入している生命保険についての家族からの相談」があげられます。例えば、親が高齢になり手続きが困難な生命保険の給付金請求を子どもが行うにはどうすればよいか、あるいは親が認知症になる前に備えておくことはできないかといった相談です。
そこで、今回は、元気なうちに家族と考えておきたいことを紹介します。
判断能力低下に備えている人はどれくらい?
高齢化が進むにつれて認知症の人は増加しており、今後もますます増加することが予測されています。認知症になると判断能力が低下し、様々な契約の管理・手続きを自分でできなくなるなど、財産管理が困難となるケースが増えますが、そのような状況にどれくらいの人が備えているのでしょうか?
当センターが行った調査では、判断能力低下時への準備について「準備なし」と回答した人が半数を超えており、事前に備えている人はまだまだ少ないことが伺えます。
判断能力低下時への準備の有無(複数回答)
家族に自分の希望を伝えている |
34.4% |
ノート等での意思表示 |
13.0% |
銀行・保険会社・証券会社の代理手続制度に登録している |
4.7% |
認知症保険への加入 |
2.5% |
任意後見制度 |
1.4% |
信託制度 |
1.0% |
その他 |
0.2% |
特に準備はしていない |
55.8% |
無回答 |
0.6% |
<生命保険文化センター「ライフマネジメントに関する高年齢層の意識調査」(2023年度)>
判断能力低下時に生命保険の手続きで困ること
判断能力が低下した場合、家族を頼りにする方もいるかもしれませんが、財産管理については家族でも対応できないことが多いのが実情で、生命保険の手続きについても同様のことが言えます。例えば、医療保険や介護保険の給付金・保険金は通常、被保険者本人が請求します。また、住所変更や解約など、保険契約に関する手続きは契約者本人が行います。もし、被保険者や契約者本人が、判断能力の低下により自分の意思を伝えることができなくなった場合、家族では給付金・保険金の請求や保険契約に関する手続きを行うことができません。また、本人がどのような保険に加入していて、どのような契約内容なのかが分からなくなるケースも考えられますが、配偶者や子などの家族が生命保険会社に契約内容を問い合わせても、契約者本人以外には教えてもらえないことが一般的です。
事前に備えるための生命保険会社の制度とは
判断能力の低下などにより自分の意思を伝えることができなくなった場合に、あらかじめ備えておく代表的な制度に成年後見制度の任意後見制度がありますが、生命保険では各生命保険会社に事前に登録あるいは特約を付加することで利用できる次のような制度もあります。
指定代理請求制度(特約)
被保険者本人が認知症で意思表示できないなどの特別な事情がある場合に、契約者があらかじめ指定した代理人が被保険者に代わって保険金・給付金を請求できる制度です。
指定代理請求できる保険金・給付金の種類は生命保険会社によって異なりますが、例えば、被保険者が受取人になっている給付で、入院給付金や手術給付金、高度障害保険金、特定疾病保険金、リビング・ニーズ特約保険金、介護保険金・介護年金などがあります。
保険契約者代理制度(特約)
契約者に代わって契約に関する手続きが行える制度で、契約者が契約に関する手続きの意思表示ができない場合などに、あらかじめ指定された契約者代理人が住所変更、解約など所定の手続きを行うことができます。
家族(情報)登録制度
契約者が家族の連絡先を生命保険会社に登録しておく制度で、地震・台風などの災害時や、高齢の契約者に連絡が取れない場合などに、生命保険会社が登録されている家族へ契約者の連絡先などの確認をします。家族へ連絡がいくことで、保険金・給付金の請求漏れ防止などにつながります。生命保険会社によっては、登録された家族による契約内容の照会や給付金請求書などの書類を取り寄せられる場合もあります。
これらの制度・特約の取扱いの有無や内容は、生命保険会社や商品によって異なりますが、通常、特約保険料は不要です。自分や家族の加入している保険が対象になるか生命保険会社に確認してみると良いでしょう。また、利用する場合は、指定・登録する家族にその内容を伝えておくことで将来スムーズな手続きが可能になります。
おわりに
生命保険はいざというときに保険金・給付金を受け取るために契約するものです。いざ必要となったときに手続きができずに困ることのないよう、元気なうちに家族と話し合い、任意後見制度や、今回紹介した生命保険の制度を利用することを考えてみてはいかがでしょうか。