公益財団法人 生命保険文化センター

メニュー
閉じる

公益財団法人 生命保険文化センター

X youtube
ESSAY エッセイ
生活設計

家計の基礎的支出と選択的支出~貯蓄ができる黒字家計にするために~

神戸女子大学家政学部教授 ガンガ 伸子

お金に関することわざはたくさんありますが、「入るを量りて出ずるを為す(制す)」は家計管理の基本と言えるでしょう。収入をしっかりと計算し、それに応じた支出をするという意味です。これができていなければ、国や企業はもとより、家計であろうとお金が不足し赤字になってしまいます。「貯蓄から投資へ」の流れが進む中で、まずは、貯蓄ができる黒字家計にすることが大切だと思います。

長い人生の間には、誰しもが収入・所得の増減を経験することでしょう。収入の変化に応じて、消費支出(生活費)を調整していかなければなりません。消費支出の内訳には生活を支えるための財(商品)やサービスの項目(以下「支出項目」)がいろいろありますが、支出項目によって所得の変化に対する支出の変化の程度が異なります。経済学には「所得弾力性」という概念があり、所得が1%増加したときに、ある支出項目が何%増加するかを示したものです。所得の代わりに消費支出総額を用いることも多くあり、消費支出総額が1%変化したときに、ある支出項目の消費支出が何%変化するかを示した指標を「支出弾力性」と呼んでいます。

総務省統計局「家計調査」では、支出弾力性を用いて消費支出の内訳を必需品的な「基礎的支出」と贅沢品的な「選択的支出」に分類しています。支出弾力性が1.00未満の支出項目は、食料(外食を除く)、家賃、光熱費、保健医療サービスなどですが、これらは基礎的支出(必需品的なもの)とされます。また、1.00以上の支出項目は教育費、教養娯楽用耐久財(パソコンなど)、月謝類などですが、これらは選択的支出(贅沢品的なもの)とされます。

では、消費支出のうち、基礎的支出と選択的支出はいくらずつでしょうか。総務省の「家計調査」によると、2人以上の勤労者世帯1世帯あたりの1か月の消費支出は318,755円であり、そのうち基礎的支出は168,680円で消費支出全体の52.9%、選択的支出は150,075円で47.1%を占めています。昔と比べるとずいぶん豊かになった現代の消費生活では、生活を維持するために必需ではないけれども、便利で快適な生活のためや心を豊かにするサービスなどの選択的支出が、消費支出全体の半分近くを占めるようになりました。(図1)

 

 (図1)2人以上の勤労者世帯1世帯あたりの1か月の「基礎的支出」と「選択的支出」(2023年)

エッセイ2024.7月_2人以上の勤労者世帯1世帯あたりの1か月の「基礎的支出」と「選択的支出」

<総務省統計局「家計調査」(2023年)より作成>

 

家計の予算を立てる際、基礎的支出は生活を維持していくために不可欠なものなので、しっかり確保していく必要があるでしょう。そして、選択的支出と言っても、必ず子どもにかけてあげたい教育費や月謝など削減できないものもありますが、余暇や趣味にかかわる支出などは、工夫次第で節約することが可能でしょう。

家計管理や予算作成の際には、まず基礎的支出を優先し、次に選択的支出を検討していくことで、貯蓄ができる黒字家計にしていけるのではないでしょうか。

プロフィール

ガンガ 伸子(がんが のぶこ)

長崎大学教育学部教授を経て、2016年より神戸女子大学家政学部教授。
奈良女子大学大学院家政学研究科(修士課程)生活経営学専攻修了。博士(農学)。
専門は、食料経済学、生活経済学(家計費分析)。