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ESSAY エッセイ
消費生活相談

思わぬサブスクのトラブル~ダークパターンに気をつけて~

公益社団法人 全国消費生活相談員協会 竹谷 啓子

「クレジットカードに身に覚えのない請求がある」との相談を受けました。調べてみると、無料と思い登録した有料サイトのサブスクリプション(月額や年額などを定額払いするサービス)の利用料金でした。他にも、「単月の契約のはずが年契約になっていた」など、意図せぬサブスクリプションに関する相談が多く寄せられますが、その背景にはダークパターンの存在があるようです。

ダークパターンとは、消費者が本来ならするはずのない不必要な契約や不利益な選択を、サイト上のトリッキーな表示やデザインによって誘導する手法で、最近、メディアにも取り上げられるようになりました。

ダークパターンの画一的な定義はなく、分類方法も諸説ありますが、2022(令和4)年にOECD(経済協力開発機構)がまとめたレポートによれば、次のようなものがあります。

 1.強制(Forced Action)

 2.インターフェース干渉(Interface Interference)

 3.執拗な繰り返し(Nagging)

 4.妨害(Obstructing)

 5.こっそり(Sneaking)

 6.社会的証明(Social Proof)

 7.緊急性(Urgency)

例えば、「無料」と強調しつつも、試用期間後に自動的に定期購入に移行することが明記されていないものや、「お試し500円」としながら定期購入が条件であることが離れたところに小さく書かれているなど、サブスクリプションをそっと忍ばせるパターンは「5.こっそり」の典型例です。

また、「お買い得キャンペーン終了まであと30分」などの言葉とともにカウントダウンタイマーが動き、消費者を焦らせる表示は、「7.緊急性」にあたります。時間だけでなく、「残りわずか」「今10人の人が見ています」など数量的な表示もあります。

その他、「4.妨害」の例としては「解約しようと、手順に従い操作したが完了ボタンが押せない」「電話で解約とあるが、何度かけても繋がらない」といったものがあげられます。始めるときは簡単に契約できても、解約するときにはその何倍もの時間や労力がかかることから、一度入ったら逃げ出せない罠とも呼ばれています。

他にも、「はい」「いいえ」の選択肢において「事業者側に都合の良い方のアイコンが強調されている」「根拠もないのに多くの口コミが高評価になっている」「サイトを閲覧中に何度も会員登録を要求される」など、ダークパターンと考えられる例はたくさんあります。

これまでにも「今だけ」「あなただけ」「〇〇さんイチオシ」などと言った勧誘手法はありましたが、ダークパターンはネット上で試行錯誤を何度も繰り返しながら洗練され、より巧妙になっています。また、個々の消費者の閲覧履歴などの情報を収集・分析し、その消費者が陥りやすいダークパターンが使われている可能性もあります。

現在日本にはダークパターンを規制する包括的な法律はなく、特定商取引法や景品表示法など個々の法律で規制することとなりますが、全てが対象となるわけではありません。また、契約先が海外事業者の場合、解決が更に難しくなる傾向があります。このため、消費者自身がダークパターンに操られないよう心掛けることが大切となります。

孫子の兵法に「己を知り、相手を知れば、百戦危うからず」という言葉がありますが、普段からダークパターンを意識するとともに自身がどのパターンに弱いのか知っておきましょう。また、決済情報の入力前や注文確定前に一旦立ち止まり、契約先や契約条件を確認しましょう。衝動的な購入を防ぐためにも、「ショッピングカートに一晩おいてから購入する」「他のサイトも見てから購入する」など、自分に合ったルーティーンを決めておくことも一つの方法です。

 

<参考文献> 

・消費者庁「消費者白書」(令和6年版)
 P66-69「OECDにおけるダーク・コマーシャル・パターンの分類と消費者の意思決定に与える影響」

・OECD(2022),“Dark Commercial Patterns”OECD Digital Economy Papers/ 26 October 2022

プロフィール

竹谷 啓子(たけや ひろこ)

公益社団法人 全国消費生活相談員協会
関東支部