2025(令和7)年度税制改正の方向性
税制改正は、例年3月末までに改正法案が成立し、4月以降施行されます。
2025(令和7)年度税制改正は、その方向性を示す与党の「令和7年度税制改正大綱」において、基礎控除・給与所得控除を合わせて原則123万円への引上げが示される一方、基本的な考え方として『いわゆる「103万円の壁」は国民民主党の主張する178万円を目指して来年(2025(令和7)年)から引き上げる。』との記述もあり、改正内容につき予断を許さない状況です(2025年2月初旬時点)。国会審議により、税制改正の内容が修正される可能性もありますが、今回は、「令和7年度税制改正大綱」より個人の所得税に関わる現時点での主な方向性をご紹介します。
1.「103万円の壁」への対応
基礎控除は定額であるため、物価が上がると実質的な税負担が増えてしまいますが、日本の経済状況が長きにわたりデフレの状態であったことにより、この課題点は見過ごされてきました。しかし、近年、物価が上昇傾向にあり、課題点が顕在化しつつあります。また、給与所得控除は、物価が上昇し賃金が上昇すれば、控除額も増加する仕組みですが、最低保障額が適用される収入の場合、収入が増えても控除額は増加しません。したがって、その場合は、基礎控除と同様の課題があります。
さらに、就業調整への対応があります。特に、昨今の厳しい人手不足の状況において、大学生世代のアルバイトの就業調整は、税制が一因となっている点も指摘されていました。こうした背景を踏まえ、次の方向性が示されています。
(1)所得税の控除額引上げ
①基礎控除額の引上げ
合計所得2,350万円以下の個人について、基礎控除額が48万円から58万円に引き上げられます。なお、住民税の改正は実施されない予定です。
②給与所得控除の引上げ
給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられます。給与所得者は、収入に応じて自動的に給与所得控除額が増加しますが、最低保障額の引上げにより、給与所得控除額が全体として底上げされ、幅広い層で所得税の負担軽減が図られる見込みです。
(2)大学生世代(19歳以上23歳未満の扶養親族)の年収の壁の緩和
現状、19歳以上23歳未満の扶養親族については、親(扶養している方)に特定扶養控除として63万円の所得控除が適用されますが、対象の親族(扶養されている方)がアルバイト等で年収要件を超えると控除の対象外となり、比較的大きな額の控除が一気に受けられなくなります。そのため、就業調整が行われやすい点が指摘されていました。そこで、年収要件の引上げとともに、年収要件を超えても段階的に控除額が減少する仕組みが創設されることとなりました。概要は次のとおりです。
①特定扶養控除の年収要件の引上げ
所得税の控除額引上げに合わせ、年収123万円まで、特定扶養控除(63万円)の対象となります。
②特定親族特別控除(仮称)の新設
対象となる親族等の収入が増加した場合でも、段階的に控除額が減る仕組みです。
・年収123万円超150万円以下(合計所得金額58万円超85万円以下):控除額63万円(特定扶養控除と同額の控除額)
・年収150万円超188万円以下(合計所得金額85万円超123万円以下):控除額61万円から3万円まで(年収に応じて控除額が減額)
2.子育て世帯の生命保険料控除の拡充
23歳未満の扶養親族がいる場合、新生命保険料控除(一般枠)の最高限度額が4万円から6万円に引き上げられます。これは、子育て世帯の経済的負担を軽減するための措置です。
ただし、全体の控除額の上限は変更なく、一般生命保険料控除、介護医療保険料控除、個人年金保険料控除を合わせて、年間12万円までの控除となります。なお、この改正は、2026(令和8)年分の所得税に適用され、詳細な控除額は次のとおりです。
①23歳未満の扶養親族がいる場合
年間の支払保険料等 |
一般生命保険料控除の控除額 |
3万円以下 |
支払保険料等の全額 |
3万円超6万円以下 |
支払保険料×1/2+1万5,000円 |
6万円超12万円以下 |
支払保険料×1/4+3万円 |
12万円超 |
6万円 |
※旧生命保険料及び上記の適用がある新生命保険料を支払った場合、適用限度額は6万円となります。
②上記以外の場合(23歳未満の扶養親族がいない場合)
年間の支払保険料等 |
一般生命保険料控除の控除額 |
2万円以下 |
支払保険料等の全額 |
2万円超4万円以下 |
支払保険料×1/2+1万円 |
4万円超8万円以下 |
支払保険料×1/4+2万円 |
8万円超 |
4万円 |
このほか、個人の所得税関連では、「確定拠出年金制度等の拡充」「退職所得控除の調整規定の見直し」、「住宅ローン減税の改正」などが予定されています。
2025(令和7)年度の税制改正の目玉は、103万円の壁への対応ですが、税制改正大綱に沿った改正が行われれば、最低保障額が適用される方だけでなく、給与所得者の幅広い層が恩恵を受けることとなります。今後の税制改正の動向に注目しましょう。