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教育の現場から
No.04

高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」を軸に参考スライド集等を活用した授業実践報告

 生命保険文化センター

 

当センターでは、家庭科、社会科・公民科の先生方からご意見を収集して、「社会保険」や「生命保険」を取り扱った中学校向け・高校向けの冊子やスライドの副教材を提供しています。
今回は、将来のライフイベントにかかるお金や身の回りのリスクに備える方法について学ぶことができる、高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」を軸に、2024年度より公開している参考スライド集および高校公民科向け50分授業セット「自助・共助・公助について考えよう」からスライドを引用してカスタマイズした資料を使い、当センター職員が出前講座を行った際の授業展開例を紹介いたします。当日は、参考資料として冊子「君とみらいとライフプラン」も活用しました。
本講座で利用しているスライドならびに生徒用ワークシート、授業の参考として利用いただける授業展開案は、全て当センターホームページから無料でダウンロードいただけます。
⇒副教材のご案内・ダウンロードはこちらから

 授業風景1(岩田) 授業風景2(岩田)

授業概要

 ◇実施日

 ➀2024年12月11日(水)
 ②2024年12月12日(木)

 ◇実施校  大分県立大分雄城台高等学校
 ◇授業者  生命保険文化センター 講師 
 ◇学年  1学年(全6クラス、合計215名) 
 ◇教科  家庭科 
 ◇使用教材

 高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」(生命保険文化センター)

 高校公民科向け50分授業セット「自助・共助・公助について考えよう」(生命保険文化センター)

 参考スライド集「社会保障制度」に関する参考スライド集(生命保険文化センター)

 「君とみらいとライフプラン」(生命保険文化センター) 

ワークシート

要望にあわせて、高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」と高校公民科向け50分授業セット「自助・共助・公助について考えよう」の生徒用ワークシートをカスタマイズ

授業実践(ワークシート1)  

授業実践(ワークシート2)

ねらい

①人生には様々なライフイベントがあり、それぞれお金が必要であることを認識する。
②人生にはさまざまなリスクが潜在していることを知る。またリスクに備える方法について学ぶ。
③社会保障制度(社会保険)について学ぶ。
④自助の代表的な手段である預貯金と民間保険について、その仕組みと特徴を理解する。
⑤学んだ内容を振り返り、持続可能な社会保障制度を維持するためには、「自助・共助・公助」のどれが一番大切だと思うか、自分の考えをまとめる。

(受講した生徒の感想抜粋)

  • 自分のこれからかかる費用や起こるかもしれないリスクについて、学びが深まった。リスクに備えるための手段でもある社会保障制度や自分ができる備えについて理解が出来て良かった。
  • ライフイベントにはお金がたくさんかかるのは知っていたけど、思ったよりも高くてびっくりした。子供一人にかかる費用がこんなにもかかっていたなんて、親のありがたみがわかった。
  • 自助、共助、公助のすべてがちゃんと整っていたらより良い社会になるのではないかと思った。自分が知らない社会の仕組みがたくさん出てきたのでもっと知りたいと思った。
(講座を依頼いただいた先生より)

生徒たちは、自己の日常の中に、様々なリスクがあることに気づかされた様子でした。また、そのリスクを回避するための手段は、公的保障だけに頼るのではなく、私的保障についても同時に考え備えておくことの重要性、自助・共助・公助についても学びを深めることができました。ありがとうございました。

第1章 生活設計とお金  ~将来について考えてみよう~

時間

学習活動(授業の流れ)

その他の動き

10分

 今日は「生活設計とリスクへの備え」というテーマで、将来のことを考えつつ「リスクってなんだろう?」あるいは、「リスクに対してどう備えていけば良いのだろう?」ということを勉強していきたいと思います。

授業実践(岩田)3
(高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」スライド3)

皆さんは将来の目標を持っていますか?例えば、卒業後はどうしたい。どんな職業につきたい。などです。ここに出てくるのはあくまでも一例です。皆さんの中には、まだ将来の目標が決まっていないという人もいるかもしれません。既に将来について考えている人も、これから考える予定の人もぜひここからのお話を参考にしてもらえればと思います。

今日のテーマでもある、生活設計とは自分の将来について「具体的に考えること」を意味します。

授業実践(岩田)4
(高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」スライド4)

では、今お話しした「生活設計」という言葉がイメージしやすいようにこのような図を用意しました。左から右にかけて時間が流れていきます。

皆さんは今、一番左側の「高等学校」のステージにいます。

高校を卒業して進学をする人もいれば、高校を卒業して就職をするという人もいるかもしれません。また、結婚をして「親になる」というライフイベントを経験する人もいるかもしれませんね。そして、最後は皆共通で一番右側「老後」を迎えていくことになります。

この色がついている部分、人生の大きな出来事となる部分を「ライフイベント」と言います。そしてライフイベントを含めて自分で人生を選択していくこと、これを「ライフコース」と言います。人それぞれ将来の目標が違うように、このライフイベントやライフコースも人それぞれ変わっていきます。

では、次のスライドで代表的なライフイベントについてみていきましょう。

生活設計とリスクへの備え_スライド5
(高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」スライド5)

例えば、進学、独立(1人暮らし)、結婚、親になる、住宅購入など、皆さんはこれから色々なライフイベントが待ち受けていると思います。実はここに出てくるライフイベント、「ある共通点」があるのですが、皆さんはその共通点が何だかわかりますか?

ヒントは〇〇がかかる、です。

※生徒に質問

A.お金がかかる、ということです。

それでは、ライフイベントには具体的にどれくらいのお金が必要になるのか、代表的な3つのライフイベントの費用についてクイズ形式でみていきましょう。

授業実践(岩田)6 授業実践(岩田)7
(高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」スライド6~7)

【問題1】
まずは第1問「結婚」というライフイベントについてです。皆さんは結婚にかかる費用はどれくらいだと思いますか?今回は結納・婚約~新婚旅行までにかかった総額の平均額とします。A.約320万円、B.420万円、C.520万円の3択です。順番に聞いていきますので、これだと思う選択肢に手を挙げて回答してください。

*A⇒B⇒Cと順番に問いかけていく。

正解は、B.420万円です。平均で415.7万円かかるというデータがあります。

この金額はあくまでも平均の金額になります。この金額がないと絶対に結婚が出来ないというわけではありません。結婚式にどれくらいの人を呼ぶのか、新婚旅行は何処に行くのかによって金額が変わっていきます。

【問題2】
続いて第2問「住宅購入」というライフイベントについてです。新築の土地付き注文住宅を購入するのに必要な費用はどれくらいだと思いますか?今回は建設費・土地取得費の平均金額とします。それでは、こちらも正解だと思う選択肢に手を挙げて回答してください。

*A⇒B⇒Cと順番に問いかけていく。

正解は、B.4,700万円です。平均で4,694万円かかるというデータがあります。

ただし、こちらもあくまでも平均の金額になります。どのような地域に住むのか、どれくらいの広さのお家に家を建てるのかによって金額が変わっていきます。

【問題3】
それでは第3問、最後のクイズです。今度は「親になる」というライフイベントについてです。子ども1人にかかる教育費はどれくらいだと思いますか?今回は幼稚園~高校は公立、大学は私立文系・4年制の大学に通った場合とします。正解だと思う選択肢に手を挙げて回答してください。

*A⇒B⇒Cと順番に問いかけていく。

正解は、C.1,000万円です。平均で982万円かかるというデータがあります。

この金額もあくまでも平均の金額になります。子どもがどのような進路に進むのかによって金額がかわっていきます。左側の図は今まで皆さんがかかってきたであろう平均の金額、そして右側の図には皆さんがこれからかかるであろう、平均の金額が載っています。皆さんは今までお家の人にこれぐらいの金額を払ってもらっていたということです。皆さんが今度親になったときは、これぐらいの金額を今度は自分の子どもに払っていかなくてはいけないということになります。

授業実践(岩田)8
(高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」スライド8)

では、第1章のまとめです。

①   生活設計と資金計画は、セットで考える必要がある

生活設計をたてるには、自分のライフイベントやライフコースにどれくらいのお金がかかるのかを把握しておくことが大切です。自分にあった資金計画をたてることが大切ですが、資金計画をしっかりと立てていても自分が思い描いていた人生を送れない場合があります。それは一体どんなときでしょうか?

 

 

 

 














(赤字部分「具体的に考える」をワークシートに記入)


















































 

 

 

 

 

 

(ワークシートに自分の思う回答を記入させた後、A⇒B⇒Cと順番に聞いて手を挙げて回答させる)







































第2章 リスクへの備え ~3つの保障を理解しよう~

時間

学習活動(授業の流れ)

その他の動き

10分

それは、「リスク」が発生したときです。
ここからはリスクとは何か?そしてリスクが発生してしまった時の対処方法についてみていきましょう。

リスクとは、色んな意味を持っていますがここでは「起きてほしくないことで、起きるとお金がかかること」を指します。

ではここで、私達の身の回りにあるリスクを思いつく限り考えてみましょう。周りの人と相談しても結構です。少し時間を取ります。始めてください。(話し合い後、生徒数名に発表してもらう) 

授業実践(岩田)10 生徒からの発表内容(岩田)
(高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」スライド10) 

例えば交通事故・病気で入院・自転車の盗難・スマホの破損・財布を紛失してしまうなど、皆さんの身近にはさまざまなリスクが潜んでいます。

例えば交通事故でいうと、交通事故で車が壊れてしまったら、修理代や最悪の場合、車を買い替える費用もかかってきますし、交通事故でケガをしてしまったら、治療費もかかってきてしまいますよね?ここに掲載されているリスク、その大きさはさまざまですがどれも起きてほしくないことで起きるとお金がかかるリスクに該当することがわかります。では、これらのリスクが一体どれくらいの頻度で起こっているのかについて、次のスライドで確認していきましょう。

授業実践(岩田)11
(高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」スライド11)

ここでは、私達の生活に大きな影響を与えるリスクとして、代表的な3つについてみていきましょう。

まず「交通事故」のリスクについて、年間の交通事故発生件数は300,839件となっていますが、秒数に換算するとなんと約105秒に1件のペースで交通事故が起きている計算になります。

続いて真ん中の「病気で入院」するリスクですが、1日に新しく入院する患者の平均人数は1日あたり41,155人となっています。これは約2秒に1人のペースで入院している計算になります。交通事故よりも病気で入院するリスクの方が、より頻繁に起こっているということですね。

そして最後に「一家の働き手が亡くなるリスク」を表すデータとして、65歳までに亡くなる人の割合を掲載しています。こちらは男女で数値が異なり、男性は約10人に1人、女性は約18人に1人という結果になっています。日本の平均寿命は、男性が約81歳、女性が約87歳といわれています。女性の方が長生きする傾向があるので、65歳までに亡くなる確率でもその傾向が出ています。そしてここで注意をしてほしいのは、この赤い部分の数字については絶対に発生するというわけではありません。ここでは、こういったリスクが私達の生活に大きな影響を与えるということ。そして少なからず、こういったリスクが私達の身の回りで発生する可能性があるということを覚えておいてください。

授業実践(岩田)12
(高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」スライド12)

では、ここで皆さんと同じ高校生が実際にリスクに直面をしてしまったという事例をみていきたいと思います。これは本当に起こった事故です。普段自転車に乗る人はヒヤッとする事例だと思います。

男子高校生が交通ルールを守らず無理な自転車の運転をしたことで、男性会社員と衝突してしまい、男性会社員に重大な障害(言語機能の喪失)喋れなくなってしまったという事例になります。賠償額というのは、被害者の損害に対して加害者が支払わなければいけない金額ということです。ここでいうと、男子高校生が男性会社員に支払わなければいけない金額ということになります。皆さんどれくらいだと思いますか?
※生徒に投げかける

こちらなんと、9,266万円支払ってくださいという判決が出たものになります。この金額を聞いて皆さんどうですか?払ってくださいと言われたら払えますか?払うのが難しい金額ですよね。

このように全部が高額という事例ではありませんが、中にはこういった事例があるということも知っておいてください。そしてリスクと聞くと、どうしても被害者側をイメージしてしまいがちですが、この男子高校生のように、自分が加害者になるリスクがあるということも覚えておきましょう。

リスクというのは、ある程度自分の心がけで防ぐことが出来ます。ここでいうと男子高校生が交通ルールをしっかりと守っていれば、もしかしたらこのような事故は起きなかったかもしれません。ですが、今度は男性会社員側にたってみてください。男性会社員の人は、しっかりと交通ルールを守っていたにもかかわらずこのようなリスクに巻き込まれてしまいました。リスクというのは、全く起こらないようにするということはとても難しいことです。では、そういった避けられないリスクに対して私たちはどう備えていけば良いのでしょうか?

授業実践(岩田)13
(高校公民科向け50分授業セット「自助・共助・公助について考えよう」スライド9)

リスクが起きたときの備えとして3つの考え方があります。

1つ目が「自助」、2つ目が「共助」、3つ目が「公助」です。
後ほど、皆さんにはこの3つの中でどれが1番大切だと思うか、考えてもらう時間をとっていきますので、お話しをしっかりと聞いていてください。

1つ目の「自助」、これは、自分で自分を守ること。
2つ目の「共助」は、国民が共に支え合って備えること。代表的なものに、健康保険や年金などの「社会保険」がありますが、こちらは後ほど詳しく見ていきたいと思います。
3つ目の「公助」、これは公(おおやけ)と書いて、国などが私たち国民を守ってくれるものです。

そして、「共助」と「公助」をまとめて社会保障制度と呼びます。では、この社会保障制度とは一体どんな制度なのでしょうか?次の章で詳しく見ていきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





















それぞれ赤字部分「105秒」「2秒」「10人・18人」をワークシートに記入




































賠償額9,266万円の金額を表示する前に、生徒に「いくらだったか」を投げかける










 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれ「自助」「共助」「公助」をワークシートに記入

第3章 社会保障制度について

時間

学習活動(授業の流れ)

その他の動き

20分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


































10分

 
授業実践(岩田)15  授業実践(岩田)16
高校公民科向け50分授業セット「自助・共助・公助について考えよう」スライド10~11

社会保障制度は、社会保険、社会福祉、公的扶助、公衆衛生の4つの柱から成り立っています。社会保険は、国民で共に備える「共助」にあたります。残りの3つ社会福祉・公的扶助・公衆衛生については、生活などに困っている人を国などが守ってくれる「公助」にあたります。


では、「共助」と「公助」は一体どのように分けられているのでしょうか?
「共助」と「公助」は、財源が異なります。「共助」である社会保険は働いている人などから集められた社会保険料で運営され、「公助」は国民から集められる租税、つまり税金で運営されています。租税という言葉は聞きなれないと思いますので、近くに税金とメモしておきましょう。では、この社会保険の保険とは一体何か?こちらは次の章で詳しくお話しをしていきます。

授業実践(岩田)17 

 授業実践(岩田)18
高校公民科向け50分授業セット「自助・共助・公助について考えよう」スライド15~16

社会保障制度はみんなから集められたお金で運営されていましたよね?「社会保障給付費の推移」というスライドで、集められたお金が備えとしてどのようなことに使われているか見ていきましょう。集められたお金が、備えとして何にどれだけ国民に支払われているかを表したグラフが掲載されています。年月が進むにつれて金額がだんだんと増えていますよね?実は高齢化が進むと増える傾向にあります。なぜか?まだ先のことで、あくまでも予想の金額ですが、2040年のグラフを見てください。介護(グラフの緑色)や医療(グラフの赤色)、年金(グラフの青色)もそうですが、年齢が上がるにつれて利用する場面が多くなるので、金額が増えています。みなさん知っていると思いますが、日本では今少子化が進んでいます。お金を出し合う人が少なくなってくるということは、1人が負担する金額が多くなっていくということにも繋がっていきます。

もう一つ「日本の予算について」というスライドを見てください。1年間の日本の予算から支出されている社会保障の費用が掲載されています。国の予算全体の約3割を占めています。社会保障制度は、みんなから集められたお金だけではなく、国の予算として支出されるお金もあわせて運営されています。

授業実践(岩田)19
(高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」スライド16)

ここでは、「共助」にあたる社会保険について詳しく見ていきましょう。この社会保険は、社会保障制度の中心的な役割を担っていて、リスクが起きてしまったときに私たちを守ってくれる保険です。社会保険は全部で5つの保険から成り立っています。細かく見ていきましょう。 

1.公的医療保険は皆さんにとって最も身近なものではないでしょうか?病気やケガにかかる治療費を支えてくれる保険です。みなさんが病院に行くとき、何か持っていくものがありますよね?病院の受付で月が変わったので見せてくださいと言われたり、久しぶりの受診なので見せてくださいと言われるものです。
※生徒に質問
A.健康保険証
その健康保険証を病院の窓口で提示することによって、年齢によって異なりますが、多くの人たちは治療費の負担は3割となります。つまり、残りの7割はこの公的医療保険(健康保険)から支払われるということです。
例えば1,000円の治療費だった場合、300円を自分で負担して残りの7割700円は公的医療保険で賄われるという私たちにとってはとてもありがたい保険となっています。

2.公的年金保険とは、いわゆる原則65歳から受け取れる老後の年金のイメージが強いと思いますが、実は老後の生活費だけでなく、若い世代の方でもいざというときに受け取ることができる年金があります。
それは、障害状態になってしまった時に受け取ることが出来る「障害」年金、一家の働き手が亡くなってしまって残された家族、遺族に対して支払われる「遺族」年金というものです。年金=老後のためだけのものではない、ということはぜひ覚えておいてください。

3.公的介護保険は、訪問介護などの「介護サービス」にかかる費用を支えてくれます。こちらは40歳から加入する保険になります。

4.労働者災害補償保険は、労働者の「労」と災害の「災」という漢字を繋げて、「労災」と呼ばれている保険です。仕事中や通勤途中のケガなどの治療費を支えてくれます。

5.雇用保険は、会社が倒産をしてしまった、リストラにあってしまったといったような失業したときの生活費を保障してくれる保険になります。

このように、リスクに備えて国として色々な準備がされています。ですが、この各種保険を利用するには、私たちはタダで利用することはできません。国にお金を納める必要があります。

授業実践(君とみらい岩田) 

会社員や公務員の方等は、今お話しした社会保険の備えを受けるために、給与から「社会保険料」が差し引かれます。ここでいうと総支給額227,000円となっていますが、実際は総支給額から今お話しした部分、社会保険料や税金などが引かれるため、実際に手元に受け取る金額は、差引支給額の部分、182,338円となります。

ここで注目をして欲しい点が2つあります。1つ目は社会保険料についてです。先ほど社会保険には5つの保険があります、というお話しをしましたが、給与明細には4つの保険しか書かれていませんよね?先ほど4つ目にお話しした労働者災害補償保険が書かれていません。労働者災害補償保険の保険料は、勤務先が負担するものになるので、働いている人たちは負担しません。そして2つ目は、公的介護保険が「0」円となっている点です。こちらは先ほど、みなさんに40歳から加入するということでメモを取ってもらいましたが、給与明細の例は20歳代前半の人の例となっているので、加入していないことから、公的介護保険の負担は「0」円となっています。このように会社員や公務員の方などは、社会保険料や税金が給与から差し引かれるということも覚えておきましょう。

授業実践(岩田)21
(高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」スライド19)

自分で備える自助の代表的なものに「預貯金」と「民間保険」があります。まずはそれぞれの仕組みからみていきましょう。「預貯金」は、銀行などの金融機関にお金を預け、例えば旅行に行きたい、車を買いたい等、お金が必要になったときに自分の好きなタイミングで自由にお金を引き出すことができます。

「民間保険」は、保険会社と契約をして、保険料というお金を保険会社に支払うことで、何かリスク(交通事故でケガをしてしまった。病気で入院をしてしまった等)が発生したときに、保険会社から保険金としてお金を受け取ることができます。

授業実践(岩田)22
(高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」スライド20)

続いて、それぞれの特徴についてです。

「預貯金」の図は、例えば30歳から40歳の10年間、毎年100万円を貯めていき、最終的に1,000万円を準備するということを表しています。途中でお金の引き出しをしなければ、このように段々とお金が貯まっていきますよね?預貯金はこの図のように一般的に三角で表されます。特徴としては、「さまざまな目的のために利用できる」という点です。さまざまな目的というのは、例えば旅行に行きたい、車を買いたいといったこと等です。

「民間保険」の図は、例えば30歳から40歳の10年間、毎年約3万円という保険料を支払うことで、この緑色の横軸の期間、保険を契約している期間内であれば、契約した内容に基づき、リスクが起こることで、あらかじめ決められた金額、ここでいうと1,000万円を受け取ることができます。「預貯金」は三角ですが、「民間保険」は四角と言われています。

授業実践(岩田)23
(高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」スライド21)

続いて、この2つの方法のメリット・デメリットを比較してみましょう。

「預貯金」のメリットは、貯めたお金を自由に使うことができる等、自由度が高いという点です。一方、デメリットとして、途中で病気やケガ等、リスクが発生した場合に、必要な金額が貯まっているとは限らないという点があげられます。例えば前スライドの図でいえば、33歳のときに1,000万円必要なリスクが発生したとします。ですが、ここでいうと毎年100万円なので33歳のときには300万円しか貯まっていません。残りの700万円が足りないという状況です。このようにリスクが発生したタイミングによっては、必要な金額が貯まっているとは限らないという点です。

「民間保険」のメリットは、保険を契約している期間中に、いつでも病気やケガ等のリスクが発生した場合に、あらかじめ決められた金額を受け取ることができるという点があげられます。例えば前スライドの図でいえば、33歳のとき、あるいは38歳のときに何か特定のリスクが発生したとします。ですが、この四角の期間内であれば、あらかじめ決められた金額を受け取ることができます。一方で、保険の種類によっては解約しても支払った保険料の全額が戻ってこないという点がデメリットとしてあげられます。保険に加入した後、すぐに契約を解約してしまったとなると、ほとんどの場合、戻ってくるお金はないか、あってもごくわずかとなりますし、商品によっては契約期間経過後に1円もお金が戻ってこない商品もあります。

このように「預貯金」と「民間保険」にはどちらもメリットとデメリットがあります。どちらが良いとか、悪いという話しではなく、特徴を理解し、うまくバランスよく使い分けることが大切です。

授業実践(岩田)24   授業実践(岩田)25   授業実践(岩田)26
(高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」スライド22~24)

では、保険は一体どのような仕組みで成り立っているのでしょうか?今回は、100人の部員がいるサッカーチームを使って説明しますので、想像しながら聞いてください。

このサッカーチーム、実はとある問題を抱えています。毎年5人の部員が骨折をしてしまうということです。いくら練習前にストレッチ等の対策をしてもケガ人は一向に減りません。ここで保険の仕組みを使った対策を考えてみました。治療にかかる費用は1人10,000円です。

治療費があらかじめわかっているのであれば、その治療費を全員で準備すればいいのではないか?ということです。治療にかかる費用は全員分で10,000円×5人で50,000円。その50,000円を部員全員の100人で割ると1人500円を負担すれば治療費の50,000円を集めることができます。その集めた50,000円の中から骨折した生徒は10,000円を受け取り、治療費にあてることが出来ました。

つまりケガに備えるために、500円を部員全員の100人で負担し治療費の50,000円を集めます。その集めた50,000円の中から骨折した生徒は10,000円ずつ受取り、治療費を支払うことができました。
このように保険とは、たくさんの人から少しずつお金を集めて大きなお金を準備することができる仕組みとなっています。そして、何かリスクが発生した人が、その集めたお金からお金を受け取ることができます。「民間保険」は、保険会社と契約をした人たちがお金を出し合って大きなお金を用意し、「社会保険」は、国民がお金を出し合って大きなお金を用意します。

授業実践(岩田)27
(高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」スライド25)

「民間保険」は「生命保険」と「損害保険」という2つの種類に分けられます。違いは備える対象が違うということです。例えば、人が亡くなってしまった、人が病気やケガをしてしまったというように「人」を対象としたものが「生命保険」、交通事故で車が壊れてしまった、火事で家が燃えてしまったというように「モノ」を対象とするものが損害保険となります。

授業実践(岩田)28
(高校家庭科向け50分授業セット「生活設計とリスクへの備え」スライド26)

今お話しした民間保険もそうですが、リスクに備えるための計画は生活設計と一緒で、1度計画を立てたら終わりというわけではありません。このように年齢、家族構成、環境の変化に応じて見直しをする必要があります。例えば亡くなったときに必要な金額を備えていく場合、結婚や子どもが生まれたりすれば、残される家族のためにより大きな備え、金額が必要になってきます。子どもが独立をすれば、その分備えるべき金額は減少してくるかもしれません。そして、いずれは自分の老後や介護についても考えていかなければいけませんので、減少させた金額をそのとき必要とされる備えに回すことも考えていかなければなりません。

授業実践(岩田)30  授業実践(岩田)31
(高校公民科向け50分授業セット「自助・共助・公助について考えよう」スライド29~30)

では、今日の授業を踏まえて皆さんには意見をまとめてもらう時間をとっていきたいと思います。今日勉強した社会保障制度を持続可能なものにするためには、自助・共助・公助のうち、どれが大切だと思うか考えをまとめてみましょう。ちなみに参考ですが、色々な考え方がありますので、事例を紹介します。

「自助」重視型のAさん
老後に充実した生活を送るためには、「共助」や「公助」ばかりに頼らず、「自助」に重点をおいた方が良いよね。という考え方。

「共助」重視型のBさん
社会保険料が高くなってもいいから、公的年金等の「共助」を充実させた方が良いよね。という考え方。

「公助」重視型のCさん
老後に最低限の生活は保障されていて欲しいから、租税(税金)が高くなっても「公助」を充実させた方がいいよね。という考え方。

この3つの考え方も参考にしてみてください。
*生徒に質問。発表してくれた意見(例:自助の場合)以外(共助・公助)については、挙手をさせ全体でどれくらいの割合かを確認する。

 生徒からの発表内容(岩田)

授業実践(岩田)32
(「社会保障制度」に関する参考スライド6) 

ちなみに、海外の社会保障制度はどうなっているのか見ていきましょう。アメリカは低福祉・低負担といって税金や社会保険料の負担は少ないけれど、自分のことは自分で守るという考え方。一方、フランスなどのヨーロッパに多いのが、高福祉・高負担といって、税金や社会保険料の負担が大きいけれど、その分国が手厚く守ってくれるという考え方です。このように私たち1人1人の考え方が違うように、国によっても考え方が異なります。

これからの皆さんの長い人生、様々な出来事が待ち受けていると思います。ぜひ将来の夢や希望を叶えるために、リスクに備えることも考えてみてください。今日はありがとうございました。


















それぞれ赤字部分「社会保険料」「租税」をワークシートに記入








































 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれ赤字部分「病気・ケガ」「障害・遺族」「介護サービス」「仕事中」「失業」をワークシートに記入

 

 

 

 

 

 

 

 


介護サービスの近くに「40歳~」とワークシートにメモ

 

 

 

 

 

君とみらいとライフプラン冊子P5「給与明細の例(20歳代前半・独身)を開く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
「預貯金」「民間保険」をワークシート(自助)の下に記入

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれ赤字部分「さまざまな」「特定」をワークシートに記入

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれ赤字部分「必要な」「決められた」をワークシートに記入

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





それぞれ赤字部分「人」「モノ」をワークシートに記入

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


記入時間は2~3分程度。まずは自分で考えその後、周囲の人と意見共有でワークをさせる。記入後、生徒に答えを発表させる